銀河彼方での物語   作:秋鹿

48 / 58
<後編>
第7話 元弟子と弟子


微かな灯りが壁を照らし、それは少しずつ移動していった。

オビ=ワンは曲がり角で立ち止まり、壁に背をつけると体を乗り出し、前方の様子を静かに窺いつつフォースを伸ばした。

人の気配はない。

少年は灯りを一番小さく絞った照明棒(グロー・ロッド)を通路の先に向けた。

暗い通路がしばらく真っすぐ続き、その先には同じく暗い入り口が開いている。

唾を呑みこみ呼吸を整えると、彼は歩行を開始した。

 

あの男が持ってきた夕飯。

それが彼に行動を起こさせるキッカケを作った。

夕食、つまり今が夜だということが重要だった。

夜ならば朝が来るまでに充分時間がある。そして、彼が逃げ出しても気づかれない可能性もある。

しかし、ダークサイドのフォースの使い手だ。いずれはバレるかもしれない。だが、もしかしたら逃げおおせることもできるかもしれない。

オビ=ワンはその僅かな可能性に賭けた。

何時までも相手の思い通りにはさせない ――

相手、そう相手。

男は自分を雇った相手の名前は知らないと言っていた。ただ若い男だ、とだけ。

ダークサイドのフォースを操る若い男。

少年の背筋に震えが走る。

(まさか、そんなはずはない。・・・まさか)

彼は思いっきり頭を横に振ると前方の闇を見つめた。

(今は、この一瞬に集中しよう)

 

彼がいた地下から1階に通じる階段を見つけた時は心が踊ったものだった。しかし、天井を塞ぐ扉を上に開け1階に顔を出した時には思わず落胆した。

何処も彼処も真っ暗な闇。照明棒(グロー・ロッド)を男から"借りて"きて正解だった。

そして、至る所に漂う怒りや恐怖の暗きフォース。オビ=ワンは息を吐き出し気持ちを切り替えると、フォースを呼び起こし精神を保護した。

彼は脱出へ、光へと向かって歩み出した。

 

ややあって暗き入り口に辿りつく。

中をおずおずと窺った。暗闇。この館はどうしてこう、暗黒に覆われているのだろうか。

オビ=ワンは溜め息を漏らしフォースで内部を探る。人はいないようだ。

照明棒(グロー・ロッド)を強く握り締めると、少年は内部に踏み込んだ。

小さな部屋だった。彼が囚われていた部屋よりは大きいが。

そして、全く何もない。何も ―― いや。

何かが床の上に光った。照明棒(グロー・ロッド)の灯りに照らされて。

彼は近づき驚愕の余り息を飲んだ。

ライトセーバー。

この持ち主は一人しかいなかった。彼の師。クワイ=ガン・ジン。

しばらく動けなかった。心臓までもが止まってしまったようだった。

(マスターのライトセーバーが何故ここに!?マスターは決してセーバーを手放す人じゃない。それなのにここにある・・・マスターはここに来た?そして・・・マスターの身に何かあった・・・?)

鼓動が激しく打つ。

少年はよろめくようにセーバーまで歩くと震える手で拾い上げた。

彼のより大きい指に合うように造られた太いグリップ。

(マスター・・・)

目をぎゅっと瞑り内心呟く。ややあってゆっくりと目を開いた。

深い深い溜め息を一つ大きく吐くと、彼は辺りを見渡した。何かマスターに通じる手がかりがあることを期待して。

しかし、彼の意に反し、何も見出すことができなかった。床にも。壁にも。天井にも。うまく隠されているのかもしれない。スイッチやアクセス・パネルといった機器さえも見つけ出すことはできなかった。

オビ=ワンは諦めきれず長い間小部屋を探索していたが、唇を噛み締めると、この部屋から通じる、もう一つの入り口へやむなく向かった。

 

この入り口の向こうも闇だった。

気の焦りを表情に浮かべ精神の集中を欠いたまま中に入った途端、部屋の灯りが一斉についた。

突然、照らされて眩しさの余り両目を腕で覆う。

「思ったより元気そうじゃないか」

嘲るような声が辺りに響いた。

オビ=ワンはこの声の持ち主が誰かわかっていた。わかっていたが認めたくはなかった。絶対に。

しかし、口から言葉は出た。それは悲鳴に近かった。

「ザナトス・・・っ」

 

_感情を恐れず心を平穏に保ち、自分の本質を見極める

口から飛び出そうな心臓を抑え、オビ=ワンは師の教えを繰り返した。

徐々に彼は心の奥底に静寂を見つ出す。

_もし、暗く悪しき心がお前と向き合ったとしても、光は決して消されることはないだろう

その言葉は、彼に勇気を、そして、暖かさを与えるには十分なものだった。

オビ=ワンは力強く顔を上げ、澄んだ瞳で声の主を直視した。目が次第に灯りに慣れ、周囲の輪郭がはっきりし始める。

広い、大広間だったと思われる部屋に一人の人物が立っていた。

漆黒の髪。青白い顔。蒼き瞳。そして ―― 忘れることもできぬ右頬の円環。

ザナトスはニヤッと笑みを漏らした。

「ふん、立ち直りが早くなったな。あの悪夢が足りなかったと言うことか。まぁ、いい。悪夢が現実になるまでだ」

ほくそえむザナトスの言葉を意にも介さず

「どうして生きているの?」

少年は静かに問うた。

ザナトスは嘲笑する。

「だから、お前達は詰めが甘いんだよ。実際に俺が死ぬ所を見たのか?俺の死体でも見たのか?」

「見てはいないけど。でも、あの蒸気を上げる、黒い<聖なる池>にお前は飛び降りたじゃないか。そして、お前の纏っていたローブは僕達の目の前に浮かび、溶けてなくなった・・・」

「それで俺も溶けたと思っているのなら大きな間違いだぜ」

クスクスとザナトスは笑う。

目まぐるしく頭を働かせながらオビ=ワンは考えた。

ザナトスの致命的な欠点は自慢せずにはいられないことだ ――

師はそう言っていた。

彼に自慢させることで何か馬脚を現すかもしれない。それによって活路が開けるかもしれない。

少年はザナトスの虚栄心を煽ろうと言葉を投げかけた。

「どうして?あの池の水に触れただけで、リュックの紐だって溶けたんだ。それなのに・・・」

ちらりと視線を走らせると、ザナトスは嬉しそうに口を開いた。

「教えてやろうか?頭の悪いお前でもわかるように丁寧に教えてやるよ。あのテロスで採掘に使っていたリヴトイルは確かに物を溶かす劇薬だが、加水分解を起こす薬品でもあったのさ。加水分解ってどういうことか知ってるか?」

「水が加わると起こる分解反応でしょ。それぐらい僕だって知ってる」

「そうか?」

ザナトスは鼻で笑うと続けた。

「池には常にリヴトイルが流れ込んでいたが、実はリヴトイルというのは水よりも比重がかなり軽かった。池のほとりにある<鏡の洞窟>、あの地下には、大量の地下水が溜まっていて常に池の底から湧き出ていたから、余計にリヴトイルは表面に集まっていた」

少年にはだんだん、このからくりが読めてきた。静かに口を挟む。

「その表面に浮かぶリヴトイルは水とぶつかった所で加水分解を起こし、分解された薬品は・・・劇薬じゃなくなったってこと?」

おどけたようにザナトスは笑った。

「ご名答。正確に言えば、リヴトイルは加水分解を起こして熱を誘発し、吸い込んでも死なない程度の蒸気を撒き散らす一方、全くとまでは言えないが無害な液体になったのさ。加水分解を起こす前のリヴトイルが覆う表面以外はね」

口をつぐむとザナトスはゆったりと歩き始めた。オビ=ワンは緊張感を持続させたまま、その姿を目で追う。

昔は、招いた客をもてなす食事や団欒の場か、舞踏の会場として使われたのだろうか。今までにない大広間だ。しかし、盗まれたのか物はほとんどなく、壁に取りつけられた燭台とボロボロになったカーテンだけが、華やかし頃の面影を残していた。

青年は立ち止まりオビ=ワンを見つめる。口には笑みが広がった。

「俺は池に飛び込んだあと、動きにくいローブを脱ぎ捨て、素早く地下通路を通り洞窟に逃げ込んだ。そして、あとは溶けたローブを見たお前達が勝手に俺が死んだと思ってくれる。そして、6標準ヶ月ほど、辺境の地でなりを潜めていたって訳だ。俺が逃げ道を全然用意していなかったと思ったのか?全く学習能力のない奴らだ」

オビ=ワンは沈黙した。

(全く気づかなかった。僕達はあいつの言う通り詰めが甘かったのかもしれない)

「どうした?何か手がかりを掴もうとしてたのか?残念だったな。俺はそんなにお人好しじゃない」

すっかり見透かされ、オビ=ワンは唇を噛み締めた。

 

(ザナトスが生きていることを急いで評議会に伝えなければ。マスターにも・・・マスター、マスターはっ!?)

「マスターは・・・マスターがここに来たはず。どこにいるの?」

不意に芽生えた不安に、少年は心中の焦りを静め真剣な眼ざしを向けた。ザナトスは薄笑いを浮かべる。

「あいつなら、ヴォルンスクルーの部屋に落ちたぜ」

「ヴォルン・・・スクルー・・・?」

聞いたこともない名前にオビ=ワンは戸惑いの表情を見せた。

「惑星マーカルに棲息する獰猛な獣さ。フォースに敏感に反応して襲う性質があるって聞いてる。かなり手強そうだ。あいつ、生きてればいいがな」

言い終わるとザナトスはクスクスと笑った。

だが、オビ=ワンは落ちついた口調で言った。

「マスターは強い。僕は信じてる」

途端ザナトスは顔をしかめ、

「あいつと同じことを言うんだな。つまらない奴らだ」

だが、それは一瞬で走りぬけ再びニヤリと笑った。

「まぁ、いい。お前達をこの館に招待した主旨に戻ろう」

「主旨?」

「お前の死さ」

瞬間、オビ=ワンの体が宙に浮いた。

何が起きたのか見極められぬ前に、急激な息苦しさが少年を襲う。

足をばたつかせながら思わず喉元に左手をやるが、そこには何も無かった。

霞む視界には、右手をこちらに突き出したまま嬉しそうに笑うザナトスの姿が浮かんでいる。

(強い・・・ダークサイドのフォース・・・)

オビ=ワンは必死にフォースを求めた。

フォースは光り輝く力となり彼を取り巻く。一瞬、光に闇が打ち消され呼吸が楽になる。

その刹那。喉が更に締めつけられた。

少年は酸素を求めて激しく喘ぎ、見えない力に対抗するが如く再びフォースに手を伸ばす。

だが、フォースは彼の指の間をすり抜け消えてしまった。

全身の血管が音を立てて脈打ち、頭が朦朧としてくる。視界の周りが黒く滲み、狭まってきた。

(・・・マスター・・・)

ついにオビ=ワンの両手がだらりと垂れ下がり、手から滑り落ちた師のセーバーが床を転がった。

 

「待て、ザナトスっ!!」

その声にザナトスはゆっくりと振り向いた。

集中が途切れたことにより、少年はダークサイドのフォースから解放され、床にドサッと落ちる。

二人が今いる所から遠い向こう、反対側にある、広間に通じるもう一方の入口。

そこに人影が立っていた。

長身。逞しき体。精悍なる顔つき。宇宙の深淵を思わせる蒼き双眸。

「遅かったな、クワイ=ガン」

ザナトスは凄みのある笑顔で、過去に師と仰いでいた者を凝視した。




*ヴォルンスクルーの画像は以下の通りです。

【挿絵表示】


<お知らせ No.2>
前回は唐突なご連絡だったかと思います。しかし、一週間ほど悩んだ上での決断でした。
詳細は、3月20日付の「活動報告」に書いてあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。