銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第8話 紙一重の攻防

青年の笑顔は不意に消え、見る見るうちに不機嫌な表情に変わる。

纏う焦げ茶色のローブやチュニックに獣が噛んだと見受けられる裂けた箇所はあり、頬や手に掠り傷はあるものの、思ったよりクワイ=ガンは深手を負っていなかったからだ。

(あの獰猛な肉食獣相手にどう闘ったんだ?セーバーもないのに)

そんなザナトスの思いを打ち破るかのようにクワイ=ガンの声が飛んだ。

「オビ=ワンっ!!!」

だが、少年は床に倒れ伏したままピクリとも動かない。

気を失っているだけなのか?それとも、まさか ――

「安心しろ、まだ死んじゃいないさ」

冷笑を浮かべるとザナトスは、横たわるオビ=ワンを足の先で転がした。

「うっ・・・」

仰向けになった瞬間、少年の口元から声が漏れ

「ゴホッ、ゴホッ・・・グッ・・・・ゴホッ・・・」

途端、激しく咳き込み、痛む肺を抑える様子が遠目にも見て取れた。

「オビ=ワンっ!!」

安堵の吐息とともに抑えきれぬ心配を込めて、再びクワイ=ガンが叫ぶ。

しかし、意識が朦朧として周りに気を払う余裕がないのか、彼が自分のマスターに気づいた様子はなかった。

 

クワイ=ガンはザナトスの注意が少年に向けられているのを感じ、その隙に駆け寄ろうとした。

刹那、フォースが危険を告げ、ジェダイ・マスターは立ち止まると体をすかさず半身にかわす。

彼の顔のすぐ横をナイフが音を立てて通り過ぎていった。

ザナトスにはその一瞬があれば十分だった。

青年は左手を壁に向け、埋め込まれているアクセス・パネルのスイッチにフォースを叩きつけた。すぐに床が鳴動したかと思うと、床から透明スチール(トランスパリスチール)の壁が迫り上がり天井にまで達し、一瞬にして大広間を二つに隔ててしまった。

クワイ=ガンは不意を突かれた衝撃から立ち直ると、すぐさまその壁に駆け寄った。

「パダワンっ!!オビ=ワンっ!!!」

叫びながら透明スチール(トランスパリスチール)の壁を、骨も折れよとばかりに拳で叩く。

相当の厚みがあるのか、壁はビクともしない。クワイ=ガンは急いで辺りを見回すが、こちら側にアクセス・パネルの類は全く無かった。

拳から滴る血も気にせずクワイ=ガンは唇を強く噛み締め、壁の向こうを見つめた。

すると、薄ら笑いを浮かべるザナトスと視線が合う。

ザナトスは笑みを深くすると何ごとか、ゆっくりと言った。

壁に隔てられ声や音は全く聞こえない。

だが、ザナトスが言った言葉はその口の動きから理解できた。

『そこは特等席だ。お前の大事なパダワンが死ぬのを、無力感にさいまれながら見るがいい』

(そんなことはさせない。絶対に。私の命に代えても)

クワイ=ガンは決意を新たにすると、壁から1,2歩下がり左腰に手をやる。

そして、ライトセーバーを取り出し起動スイッチを押した。

美しく輝く青い光が現れる。オビ=ワンのライトセーバー。

彼はそのセイバーを、透明スチール(トランスパリスチール)に深く突き刺した。蒸気を上げ、壁は飴のように溶け始める。

セーバーを握る手に益々力を込め、クワイ=ガンは目を瞑り静かに心の中で呟いた。

//オビ=ワン?//

 

ジェダイ・マスターの行動を見たザナトスの表情が驚きに変わる。彼はクワイ=ガンを甘く見ていたのだ。

が、一瞬でその顔は憎悪に歪み、彼は怒りを湛えた表情でオビ=ワンに向き直った。

(あいつが来る前に片づけてやる)

少年はよろめきながら何とか立ち上がっていた。

その震える手には師のセーバーがぎゅっと握られている。いつでも起動し攻撃できるように。

ザナトスはほくそ笑んだ。そして、笑みを浮かべたまま、小さな声でオビ=ワンに囁きかける。

オビ=ワンはまだ意識がはっきりしていなかった。

故にしばらくしてからその言葉を理解したらしく、急に愕然とザナトスを見上げる。それから視線を落とし呆然と手にあるセーバーを見つめ、ややあって唇を噛み締めると自分のベルトにセーバーを掛けた。

ザナトスはニヤリと笑い、突然、力強く手を突き出すと、オビ=ワンにフォースをぶつけた。

立っていることもままならなかった少年は、成す術もなく吹き飛ばされ壁に激突し、倒れそうになる所を辛うじて留まり壁にもたれかかる。

口角を上げるとザナトスは自らのセーバーを起動し、少年に向かって走り出した。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「やめろっ!!」

聞こえないとわかっていてもクワイ=ガンは思わず叫んだ。

(このまま彼を失う訳にはいかない。そんなことにでもなれば、私は一生私を許せない)

ぐるりと円を描くように切っていた透明スチール(トランスパリスチール)は間もなく環となるはずだった。

(間に合って欲しい。どうか・・・)

知らず知らずクワイ=ガンは必死に祈っていた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

どうにか壁を支えに立っている状態のオビ=ワンの前に、ザナトスは素早く姿を現した。

彼は赤く光るセイバーを少年に向け垂直にし、自分の傍らに引きつける。

少年は動いて何とか逃れようとしたが、体が言うことをきかなかった。

オビ=ワンは諦めの表情を浮かべ黒き死神を見る。

 

そして ―― 勢い良く出されたセーバーが深々と突き刺さった。

 

「オビ=ワン ―― !!!」

クワイ=ガンの悲痛な声が部屋に響き渡った。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

オビ=ワンは諦めの表情を浮かべ黒き死神を見る ――

死。消滅。永遠なる忘却への旅。

彼は死を覚悟した。

 

There is no death; there is the Force.

 

フォース。

全銀河に存在する、ものとものを繋ぐ命の源。力の根元。

 

(もし、僕が死んだらフォースと一緒になるのだろうか・・・。昔のジェダイ達と同じように)

ジェダイらしく生き、ジェダイらしく死ぬ ――

(最後までジェダイらしく闘って死んだのなら、マスターを失望させずにすむかもしれない)

その考えは少年を微笑ませた。

そして、その笑みは心に穏やかさをもたらし、彼の周りにフォースを呼び込んだ。

不意にオビ=ワンは、良く知られた存在を感じた。力強く、暖かなフォース。

今までフォースと一体になる気力も体力もなかったのだ。でも、この存在に全く気づかなかったなんて!!

彼は自分に向かって毒づきたくなった。

霞む目を瞬かせ視界をはっきりさせると、目の前には赤きセーバーが迫っていた。

 

「オビ=ワン ―― !!!」

クワイ=ガンの悲痛な声が部屋に響き渡った。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

深々と突き刺さるセーバーの傍から蒸気が上がる。

ザナトスの表情は怒りから次第に薄笑いに変わっていった。

「ふん、よく避けたじゃないか」

その声には若干驚いたような口調も混じっている。

「諦めが・・・悪いんだ。お前よりも・・・ね」

左腕に走る火傷の痛みに顔をしかめながら、オビ=ワンは呼吸を整えつつニヤリと笑った。

あのまま右に動かなかったら心臓を串刺しにされていただろう。一瞬でもフォースを取り込んだおかげで、辛うじて動くことに成功していたのだ。

今、ザナトスのセーバーは、少年の左腕を掠め壁に突き刺さっていた。

 

「だが、これで終わりだ。この至近距離からじゃ逃げられないだろう」

凄みを帯びた笑みを浮かべザナトスはセーバーを引き抜くと、勢いよく振り下ろした。

瞬間、少年は動いた。

まさかこんなにも素早く動くことができるとは思ってもいなかったのだろう。自分を過信しすぎるが故に余計に。

オビ=ワンは半歩右斜め前に飛び出ると、ヒュンという音を立てて落ちてくるセーバーを紙一重で躱す。そのままチュニックの懐から何かを取り出すと、ザナトスの振り下ろされた右手の甲にそれを突き刺した。

「ぐっ!!」

痛みの余り、セーバーを取り落とし右手を押えるザナトス。

その横をすり抜けると、痛がる彼の背に、少年は激しい蹴りを入れる。

衝撃に吹っ飛び壁にぶつかるザナトスを尻目に、オビ=ワンは離れるように二、三度前転して、相手との距離を保って向き直ると片膝をついた。

素早く呼吸を落ち着かせようとするものの、今までの一連の攻撃でかなりダメージがぶりかえしたらしい。頭の鈍痛は激しくなり、へたすると脳しんとうの後遺症で目眩に襲われる。

右腕の痛みに加え左腕の火傷。気管も痛いし、呼吸も荒い。

少年は思わず苦笑し、しかし、鋭い双眸で前方を凝視した。

ザナトスは攻撃から立ち直り、いや、逆にいっそう暗き力を漂わせ、憎悪のまなじりで少年を睨みつけていた。

強いダークサイドのフォースが体から発散され、辺りの空気を重く感じさせる。

オビ=ワンは不意に体が動かないことに気づいた。ピクリとも。

きっと、先ほどまで少年を軽んじていたことに思い至ったに違いない。今度は確実に仕留めに来るつもりなのだろう。暗きフォースで押さえつけることによって。

ザナトスは、起動したセーバーを横に垂らしたままゆっくりと向かって来た。その右手から鮮血が滴っている。

「こんなもので俺を倒そうと思ったのか?」

彼はそう言い放ち、手にしていた物を忌々しそうに投げ捨てた。

それは床を滑りくるくる回って止まる。特殊プラスチック(デュラプラスト)でできたフォークだった。オビ=ワンが監房から抜け出す際、唯一武器になる物をと思って持ってきていたのだ。

「倒そうとは・・・思っていないよ」

少年はフォークから視線を戻すと静かに言った。そして、言葉を続けた。

「ただ、時間稼ぎがしたかった・・・だけなんだ」

「そう、お前の相手は私がする」

決意の秘められた低い声が傍から聞こえ、ザナトスは悔しさに顔を歪めた。

彼の目前の床には、丸く切り取られた透明スチール(トランスパリスチール)

そして、青きライトセーバーを構えた威風堂々たるジェダイ・マスターが立っていた。

 

「くそっ、お前たちは・・・随分と俺を楽しませてくれるよ」

吐き捨てるように言い放つと、ザナトスは突然、踵を返し後方へ駆け出した。

一瞬、緊張の度合いを高める二人の前で、彼は

「このまま俺を逃がすつもりか?」

との高笑いを残し、大広間から通路への入り口へ向かうと、暗闇の中に消え去っていった。

クワイ=ガンは追おうと一歩踏み出したが、唇を噛み締めると振り返り、弟子の傍に跪いた。優しくオビ=ワンを抱え起こす。

「大丈夫か?オビ=ワン」

それに答えず、ぼんやりした頭を振るとオビ=ワンは声を出した。

「マスター、彼を追ってください。・・・逃がさないで」

「しかし、お前を置いて行く訳にはいかない」

「今逃がしたら・・・何をするかわかりません。僕は・・・大丈夫です、後から追いかけますから」

クワイ=ガンは澄みきった蒼き瞳で弟子を見つめた。オビ=ワンは静かに微笑む。

師は素早く弟子に癒しのフォースを送ると、決意も新たに頷いた。

「わかった。しばらく休んでいるがいい」

「彼はきっと・・・罠を張って待っているでしょう。・・・気をつけて」

ジェダイ・マスターは立ち上がり弟子に暖かな、しかし、心配そうな眼ざしを与えると、素早くザナトスを追って駆け出した。

オビ=ワンは這うように壁に近づくともたれかかり、そのまま目を瞑ると耐えきれず床に崩れ落ちた。

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