「見かけない顔だな?」
「だから、先ほどから謝っているだろう?先を急いでいるのだ。通してくれないか」
溜め息を押し殺しつつ、軽く手を振りながら、焦げ茶色のローブを纏った背の高い人物が言った。
「あ?ああ、通してやるとも」
昼間から酔っ払っているのだろう、ろれつが回らなくなりそうな口調で、先ほどまで立ちはだかっていたならず者が急に了承の返事をした。
これだから泥酔者の言うことはわからない。
「おいっ、何を言っているんだ。こいつは、俺達にぶつかってきたんだぜっ。慰謝料ぐらいはもらわないと」
傍にいた同じく酔っ払いのならず者が、相棒の肩を掴み揺さぶる。
「そ、そうだな、俺、何、言ってるんだ?」
酔っ払いにぶつかるつもりはなかった。いや、逆にバーから出てきた酔っ払いが、ぶつかってきたのだ。
こちらが慰謝料をもらいたい そんな言葉を呟いた訳ではないが、そんな風に言いたげなローブの人物である。
だんだん人だかりが増えてきた。争いが起きると見るや、野次馬根性丸出しで集まってくる物好きもいるものである。
ローブの人物はふぅと溜め息をつくと、酔っ払いを無視して歩き始めた。
「おい、待て。待てって言ってるだろ!」
声に怒気が含まれ、数歩進んだ人物は止まった。
彼にブラスターが向けられている。
ローブを纏った男は、さりげなく手を振った。
突然風が巻き起こり、道に積もっていた砂を巻きあげる。
視界が一瞬悪くなり、しばしして風がおさまった時には、二人の泥酔者は風で飛ばされてきたと思われる店の看板の下敷きになって、のびていた。
男の姿はもうなかった。
ローブを纏った影は歩を緩めるでもなく、ひたすら道を歩いている。
(やっと見つけた)
ジェネヴァーはニヤリとした。慌てて追いかけようとすると、手で抱えていた、溢れんばかりに積め込まれた袋から瓶が零れ落ちた。
(やべっ)
瓶は、ローブを被った人物の足元に転がっていく。
歩みを止めそれを拾いあげた人物の元に、ジェネヴァーはにこやかに笑いながら駆け寄った。
「悪い、悪い。落としちまって」
細かく砕かれた薬草がガラスの瓶に詰まっている。
瓶を手渡されたジェネヴァーは
「ありがとう。さっきはすごかったな」
と笑いながら声をかけた。
男は微笑みを絶やさず言い返す。
「何のことかな?」
「あの、ならず者さ。いや、いいんだ。俺の気のせいかもしれない。あんた、クワイ=ガン・ジンだろ?」
「そうかもしれないが、そうでないかもしれない」
「だって、オビ=ワンが言ってた特徴にそっくりだ」
クワイ=ガンと呼ばれた人物は、ゆっくりとジェネヴァーを見た。
年齢は25,6標準歳ぐらいだろうか。髪の毛は焦げ茶色でくせ毛である。同じく焦げ茶の瞳を持つ、なかなかのハンサムだ。
その男は、そんな風に考えていたのかもしれない。ジェネヴァーを推し量るような表情で見つめている。
ややあって口を開く。
「オビ=ワンを知っているのか?」
「ああ。今、俺の宿屋にいる。動けないんだ、怪我がひどくて。あんたを探してくれって頼まれたのさ」
「・・・案内してくれ」
「いいぜ」
ジェネヴァーはニヤリと笑うと、彼を引き連れ道を戻り始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
懐かしく暖かい、まるで父親とも思える接触が、オビ=ワンの目覚めを促した。
(マスター?)
体は少し動けるようにはなったが、飛び回るには程遠い。しかし、
(マスターが僕を見つけてくれた。もうすぐここに来るだろう。だけど、こんな無様な姿を見せる訳にはいかない)
その嬉しいような、気恥ずかしいような一心が、オビ=ワンの体を無理矢理動かした。
布団を跳ね除けると、右肩を気遣いながら体の左側を下に向け、肘を起こす。ここまでは何とかできた。それから、体を動かしベットの角に伸ばした足をかけると、左手に全体重をかけ勢いをつけ上体を持ち上げた。
すぐに、恐ろしい程の目眩が襲い、頭が鈍器で殴られたようにグラッと揺れ、混沌に引き摺りこまれそうになる。
必死でベットの縁に手をかけ、倒れまいとふんばり、目眩が落ちつくのを待った。
ようやく視界がはっきりしてくる。ただ、ここから立ち上がり歩く勇気はまだ出なかった。
その時、部屋のドアが大きく開け放たれ
「オビ=ワンっ!!」
との切羽詰まった声とともに、偉大で優しく包み込むようなフォースを放つクワイ=ガンの姿が現れた。その背後には、ジェネヴァーが、上体を起こしているオビ=ワンに驚いた表情を見せている。
「おい、坊主っ」
「・・・マスター!すみません、僕・・・」
オビ=ワンは慌てて何も考えず立ち上がった。左足に鈍痛が走ると同時に、血の気が失せ頭の中が真っ白になった。
気を失ったのは本当に一瞬だったようだ。
気がつくと、オビ=ワンはベットに腰かけ、その上クワイ=ガンが大きな両手で支えていてくれていた。倒れないように。
「・・・大丈夫か?」
相変わらず穏やかで優しい声。心配そうに覗き込む青い澄んだ瞳。
逆にオビ=ワンは、マスターの言いつけに背きあの場を離れたことに対し、すまないという気持ちでいっぱいになる。
「・・・はい、大丈夫です」
恐縮し、消え入りそうな声で辛うじて応えた。
「いや、まだ無理だろう。しばらく私が治癒してやろう」
「いいえ、大丈夫です。もう帰れます」
クワイ=ガンは思わず微笑む。
(相変わらず頑固だな)
「坊主、お前はついさっきまで昏睡状態だったんだぞ?あまり無理しない方がいいと思うな」
ジェネヴァーに言われ、ふと先ほどまでの様子を思い出すと、張り詰めていた気持ちが緩み、軽い目眩に襲われる。
確かにまだ歩ける状態ではないことは、自分がよくわかっていた。治癒しないままここを離れても、マスターに迷惑かけるだけだということも。
でも、気持ちは焦っていた。任務はどうなったのだろうか?失敗してクワイ=ガンに対する評議会の評価を下げたくない・・・
「お前が心配することは何もない。いや、逆にお前のおかげで上手くいくだろう」
驚いて顔を上げるオビ=ワン。
クワイ=ガンは口の端に笑みを浮かべる。
//後で話してやろう//
そんなフォースが感じられた。
「・・・すみません・・・」
オビ=ワンは心底から謝ると、クワイ=ガンの治療に身を委ねた。
「そうだ、クワイ=ガン。ちょっといいか?」
台所で何やらごそごそやっていた、ジェネヴァーが声をかける。
「何だ?」
「この坊主のために良さそうな薬を買ったんだが、店主に勧められるまま買っちまって、どれがどれやらさっぱりわからん。あんた見て、欲しい物があったら持って行くかい?」
「そうだな。有り難くいただくとしよう」
クワイ=ガンは微笑み、しかし、さりげなくジェネヴァーの心を探ってみる。
彼の心の中は親切心で満ちていた。というか、オビ=ワンへの労わりの気持ちで溢れていた。
(何故だろう?)
訝しげに思う間に、クワイ=ガンは台所に立っていた。
目の前には、雑種多々な薬草が瓶に詰められ、うずたかく積まれている。原始的な惑星ゆえに、これらの薬草での治療が一般的なのだ。
(これは、頭痛の薬。この草は多分、出血止めの薬だな)
クワイ=ガンが薬を選んでいる間、ジェネヴァーは水が入ったグラスをトレイに乗せ、オビ=ワンの元へ運んでくれた。
「水だ。飲みな」
ニッコリ笑いかける
「ありがとうございます」
オビ=ワンはトレイからグラスを取ると、うまそうに喉を鳴らして飲み始めた。
「しかし、すまなかったな」
薬を選びつつクワイ=ガンが言う。
「オビ=ワンがかなりお世話になったようだ」
ジェネヴァーはクワイ=ガンに顔を向けた。
「何てことないさ。この坊主は俺の死んだ弟に、どことなく面影が似てるんだ。それに俺はあんたにも会いたかったんだ」
オビ=ワンは、グラスをトレイに戻そうとして、息を呑んだ。
「弟を殺したあんたにさ、クワイ=ガン・ジン」
トレイの下から、ブラスターの銃口がオビ=ワンに向けられていた ――