銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第10話 待ち受ける罠2

危険が渦を巻いている。

部屋に足を踏み入れた途端、クワイ=ガンはそんな言いしれようもない気配を体全体で感じた。

研ぎ澄まされた五感が、フォースが告げている。充分注意すべきだ、と。

ゆっくりと辺りに視線を配りながら足を運ぶ。

不意にカチッと音が鳴り前方の床が薄明るく光ると、そこから青い映像が出現し揺らめいた。クワイ=ガンは緊張の面持ちで身構えると凝視する。

(・・・ザナトス?)

床に据えつけられた小型プロジェクターから投影されたホロは二、三度揺れ動くと、少し縮小された人間の姿を映し出した。黒きローブを纏った、恐れを司る使者の姿を。

 

青年はニヤリと笑った。

『やぁ、クワイ=ガン』

クワイ=ガンは油断なく周囲を見渡す。

このホロが今の状態を映し出しているにしろ、過去に撮られた物にしろ、このプロジェクターの操作をしているのはザナトス本人に間違いない。そして、クワイ=ガンがこの部屋に入ってきてから映像を映し出したことから考えるに、彼はすぐ近くにいてクワイ=ガンの様子を窺っているはずだ。

左手の方向。そこには先ほどの部屋と同じく、厚いカーテンで覆われた窓と思しき空間。だが、人の隠れる隙間はなさそうだ。

前方。ホロのザナトスを超えて見えるは、やはり壁。左前方奥には次の間の入口が見える。

そして、右。セーバーの青き光をそこに向けクワイ=ガンは独りごちた。

(元は書斎だったのだろうか?)

右の壁際には、高さ2.5mほどのどっしりと構えた棚がずらりと並んでいたからだ。

光の反射具合からデュラスチール製の棚だろう。今は全くの空だが、データカードを収納するのに使っていたようだ。隣りの部屋に落ちていたデータカードもこれで納得がいく。しかし、こちら側も棚と棚が隣接しているため、隠れることはできないだろう。

 

瞬時のうちにそう見て取ると、クワイ=ガンはホロに視線を戻した。

『俺を探しているんだったら無駄だぜ。俺はあんたから見える所にはいないからな』

ザナトスは嘲った。まるで彼自身がそこにいて笑っているかのように。

ジェダイ・マスターは沈黙した。ザナトスがどこにいるかわからないが、自分の考えを述べて手の内を明らかにするつもりは毛頭ない。

『今度はだんまりか?相変わらずわかりやすい性格だ』

その言葉も無視すると、クワイ=ガンは静寂を求めフォースを纏い部屋中に伸ばした。

何時、如何なる危険があっても対処できるように。

『まぁ、いいだろう』

言い放ち、含み笑いを漏らすとザナトスは続けた。

『しかし、あんたも老いぼれたもんだな。まだ俺を倒せないなんてさ』

クワイ=ガンはホロを静かに見つめる。これだけは、はっきりしたかった。今の気持ちだけは。

彼は重々しく口を開いた。

「倒そうとは思っていない。先ほども言った通り、ただお前を止めたいだけだ」

『まだジェダイ・オーダーとやらに縛りつけられているみたいだな』

「お前とは違い、私には守るべきものがあるからな」

一瞬、静寂が舞い下りた。それから、ややあってザナトスが言葉を続ける。

『それにしても、あんたの鈍感さには敬意を払うよ』

その奇妙な間により、クワイ=ガンはこのホロが録画されたものだと見破った。ならば、ザナトスは今この瞬間にも元師を陥れる画策をしているかもしれない。

しかし、その考えは次のザナトスの言葉によって意識の隅に追いやられた。

『自分の目の前で弟子がさらわれたってのに、全く気づかないんだからな』

(私の目の前で、とはどういうことだ?)

さも可笑しそうにザナトスは言う。

『あんたが訓練室に到着した時には、俺もあいつもまだあの部屋にいたのさ。明かりを破壊して部屋が真っ暗だったから、あんたは気づきもしなかったけどな』

思わずクワイ=ガンは眉根をひそめ唇を噛み締めた。

(ダークサイドは見えにくい。ヨーダはそう言っていた。しかし、迂闊だった。私はあの時、落ちていたオビ=ワンのライトセーバーに気を取られ過ぎていたのかもしれない。ザナトスのフォースに気づかなかったとは。もし、私があの場でオビ=ワンを救い出してさえいれば・・・)

返す返すも悔やまれる思い。しかし、今はこの一瞬に集中しなくてはならない。

『あんたのことだ。さぞ悔しい思いをしているだろうよ。そうだ、もう一つ教えてやろうか』

 

危険を警告するフォースがチリチリと体に感じられる。クワイ=ガンは油断なきよう攻撃及び防御体勢を保った。

『この館から出るにはパスワードが必要なんだ。玄関の扉には、正しいパスワードを入力しないと爆発する仕掛けがついているからさ。館の壁を切って脱出しようと考えても無駄だぜ。館の裏手は崖だからな。あんた一人だったら何とかできるかもしれないが、あいつには厳しいだろうな』

クスクスとザナトスは笑みを深くする。

『さて、あんたに敬意を表してパスワードを教えてやるよ』

急にホロの画像が乱れ始めた。ザナトスの声が不意に小さくなる。

自然、クワイ=ガンは前方へ身を乗り出した。

『パスワードは ―― 』

ドッカ――ン!!

突如、ホロが爆発し、辺りを震撼させ家を鳴動させた。

壁際に並んでいたデュラスチールの棚が一斉に倒れてくる。天井が抜けブロックの塊が一瞬のうちに落下してきた。見る間に部屋は巨大なガレキで埋もれ、塵や埃で真っ白に覆われる。

ややあって揺れが止まると、そこにはただ残骸だけが残っていた。

ぽっかりと開いた天井を通し、コルサントの月明かりが部屋を青白く照らす。

しかし、ブロックに埋もれたのか、ジェダイ・マスターの姿は影形もなかった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(マスター?)

少年は目を開けた。酷い揺れと轟音が彼を襲ったような気がしたのだ。

ぼんやりとした視界が徐々に晴れ、大広間の天井を形作る。それと共に置かれている状況も記憶として戻り始めた。

(どのくらい経ったんだろう?)

彼は傷を癒すべく、催眠状態に自らを置いていたのだ。

おかげで本調子とまではいかないが痛みは引き、力も湧いてきたように感じられる。

(マスターを助けにいかないと)

ゆっくりと傷を気づかいながらオビ=ワンは体を起こし始めた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

静かに隣りの通路から歩を運ぶ。

青年の目の前には、崩れ落ちた天井に覆われた部屋、そして、6体のドロイドがブラスターを構え、油断無く動くものはないか見張っている姿がある。

この暗殺ドロイド(アサシンドロイド)は、デュラスチール製の棚をカモフラージュにして、その後ろに配置されていたものだ。

ザナトスはほくそ笑んだ。

(どこに隠れていようが、このガレキから姿を現した時がお前の最後だ)

刹那、フォースを感じた。クワイ=ガンの。

真中に近い一角、そこでガレキが突然盛り上がる。

「そこだ、殺れっ!!」

ドロイドは一斉に光弾を発射した。瞬時にしてブロックの塊は焼け焦げ粉々に破壊される。

ブラスターの連射が止み埃が舞い下りると、辺りは沈黙に包まれた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ピタリと足を止めた。不安げに天井を見上げる。

二階からだろう。ブラスターの激しい攻撃音が聞こえてきたからだ。

勿論クワイ=ガンのものではない。となると、ザナトスのものということになる。

オビ=ワンは大広間から通路に至る入り口で立ち止まっていた。心を静かに保ち、思いを飛ばしてみる。

//マスター?//

返事はない。この暗闇とも言えるダークサイドのフォースに覆われているのだ。彼の声が届かない可能性もある。また、彼が弱っているせいもあるかもしれない。

軽く頭を振り溜め息を漏らすと、少年は再び歩行を開始した。出きる限り速く。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ザナトスはじっと見つめた。この部屋に生きている者のいる気配は微塵も無い。

クックックッという忍び笑いが徐々に高笑いに変わった。

「こんなに簡単にいくとはな。お前の死にざまがこの目で見れなかったのが残念だが、まぁ、いいだろう。次はあいつの番だ」

ザナトスは踵を返すと、棚がそびえていた場所におもむき壁を触る。するとその部分がスライドし暗い口を開けた。足を踏み入れようとする。

その時。

「安心するのはまだ早いと思うが?」

静かで落ちついた声が聞こえ、ザナトスはギクリとして振り返った。

「どこだ、どこにいるっ!?」

周囲を見渡すが声の主は見つからない。

「大地にばかり縛りつけられることはない。たまには天空を見上げるのも良いものだぞ」

若干笑いを含めた言葉に、ザナトスは急いで視線を上に向けた。

天井にぽっかり開いたその巨大な穴。

その縁に片足をかけコルサントの月の光を背に、浮かび上がる人影があった。

茶褐色の髪が夜風にそよぎ、宇宙の深遠、海をも思わせる澄んだ双眸が煌き、精悍なる顔つきに微笑みが浮かぶ。

「クワイ=ガン!!何時の間に!?」

驚愕の表情を向けるザナトスに、偉大なるジェダイ・マスターは微笑を保ち腕を組んだまま口を開いた。

「この部屋に入った時から何か仕掛けはあるとわかっていたからな。爆発が起きた瞬間、ブロックの塊を避けながら天井に跳躍したという訳だ。都合よく埃が目くらましになってくれたが」

歯軋りをするとザナトスは言い放った。

「今度こそ殺れっ!!」

ドロイドがその指令により動き出すのを認めた後、

「また後で会おう、クワイ=ガン」

凄みを帯びた笑みを見せ、青年は壁に出来た暗闇の中に身を躍らせた。

跳んでくる光弾を、クワイ=ガンは瞬時に起動させたセーバーで弾き返す。

返されたレーザーがドロイドを貫く。

ジェダイ・マスターは跳躍すると青き光を一閃し、ドロイドを縦に真っ二つに切り裂いた。

軽やかに着地し腰を捻ると右横から薙ぎ払い、返す刃で左下から切り上げる。

体を一回転させるとドロイドの胴に横から叩きつけた。

残り1体を視界の隅に見とめ、右手を突き出す。

ドロイドは吹っ飛び壁に激突すると、ガレキの山の上に転がった。

しばし周囲に視線を向け次の攻撃に備えていたが、ようやく緊張を解くとクワイ=ガンはザナトスが飛び込んだ壁の入口に近寄った。

全くの暗闇。何も見えない。どこに繋がっているのだろうか。

しかし、躊躇いもせずクワイ=ガンは飛び降りた。

 

跳躍時間は長くはなかった。すぐに彼の足は固い物の上に着地した。

ライトセーバーの明かりを頼りに周囲を窺う。

(この部屋は見たことがあるような気がする)

何もないこじんまりとした暗き部屋。

(もしかしたら ―― )

不意にその思考は遮られた。赤い光に。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

フォースを伸ばしながらゆっくりと慎重に、しかし、内心酷く焦りながら階段を上る。

思う通りに動かない体がもどかしい。気持ちだけが先行しそうだ。

(落ちつくんだ、マスターだったら大丈夫)

オビ=ワンは自分に言い聞かせ、階段を上りきる。

すると足元にはもつれ合うように重なり倒れているドロイド達。1体はローブを、多分クワイ=ガンの物だろう、被っている。

彼のマスターは策を弄するザナトスの罠を無事に潜り抜けているようだ。

ひとまず安心し、しかし、先ほどの轟音が気になり、再び表情を引きしめる。

少年は通路を歩き、最初の部屋を覗き込んだ。

前方を見た瞬間、オビ=ワンの顔がこわばる。

彼にブラスターの狙いを定めて、暗殺ドロイド(アサシンドロイド)が3体立っていたからだ。

オビ=ワンは唾を飲み込み、右手に持ったセーバーを見つめる。マスターのライトセーバー。

彼は意を決すると素早くスイッチを押した。

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