銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第16話 全て終わって

爆風がおさまり土煙や埃が静まった後。

館の玄関先から僅かに離れた地面に、倒れている人影があった。

ブロックの塊がもう落ちてこないと判断するや、クワイ=ガンは伏せていた体をようやく起こした。そして、彼が爆発から庇っていた少年に目を向ける。

「オビ=ワン?」

呼ばれて弟子はゆっくりと瞼を開き、弱々しく微笑んだ。

師は深い安堵の吐息を漏らし体を起こすと立ち上がった。それから、同じく立ち上がろうとしてるオビ=ワンに手を貸す。

少年は少しよろめいたが、しっかり自分の足で地面を踏み締めると、館の跡を見つめた。青緑の瞳には悲しみの色が漂っている。そんな弟子の様子からクワイ=ガンも視線を廃虚に向けた。

跡形も無い。

ここに館が存在していたこと自体疑えるほどの、残骸の積み重ねと化していた。

オビ=ワンは何かを探すように視線を彷徨わせていたが、不意に

「マスター、あれ・・・っ」

と言ったきり、その方向を指し示しながら絶句した。

クワイ=ガンもその先を辿り顔を強張らせた。

残骸の山から飛び出ているもの。ボロボロの黒いローブを纏った青白い右手。何かを掴むように虚空に向けて伸びているその指先。

「まさかザナトス・・・」

オビ=ワンの言葉に、クワイ=ガンが急いで廃虚に向けて駆け出そうとした瞬間。

ドカンッ!

爆発が起きた。

まだ点火し損ねていた爆弾があったらしい。

それは先ほどよりは弱めだが、そこに存在していたものを全て粉々にするほどの威力は充分にあった。埃や塵が舞い下りると二人は素早く双眸を向けたが、生きているものを見出すことは不可能だった。

ややあってオビ=ワンがポツリと言った。

「ザナトスは・・・死んだのでしょうか?」

クワイ=ガンは瞳を閉じた。ジェダイ・マスターの顔は悲しそうな表情に彩られている。永遠かと思われる沈黙の後、ようやく口を開いた。

「そうかもしれん。暗きフォースが全く感じられない今」

「そうですね・・・」

奥歯に物が挟まったような物言いにクワイ=ガンは問う。

「何か気になるのか?」

「いえ。ただ・・・彼が死んだことが・・・信じられないのかもしれません」

少年はゆっくり頭を横に振った。

 

そして、静寂が訪れた。二人はそれぞれ物思いに耽っていた。

サラサラと木の葉を揺らす風の音だけが辺りに流れる。

「マスター?」

突然オビ=ワンが声をかけた。

ジェダイ・マスターは視線を移し少年を見やる。

「どうした?」

「マスターは僕に・・・多くの大切なものをくれました。・・・僕の宝物になっているあの石も含めて、・・・人を信頼する心、他人を思いやる気持ち、・・・そして、かけがえのない肉親とも呼べる人を。だから・・・」

師は小首を傾げ、言い淀む弟子を不思議そうに眺める。何故、彼は突然こんなことを言い始めたのだろう?

不意に思い当たりクワイ=ガンは口を開いた。

「ザナトスの言葉を聞いたのか?」

オビ=ワンは俯きながらコクリと頷く。

軽く苦笑を漏らして師は思わず目を細めた。弟子に慰められるとは。

「だから、気を落さないでください、とでも?」

悪戯な瞳を向けると、少年は恥ずかしそうに再び頷いた。

師に意見するつもりはなかったのだろう。ただ、自分の考えを伝えたかっただけで。

クワイ=ガンは頬を緩め

「彼の言ったことを気にしていないと言ったら嘘になるだろう。だが、過去を振り返ってばかりもいられないのだ。未来に目を向けねばなるまい。さし当たってやることはあるのだから」

と言うと、少年の頭を愛情を込めてぐしゃぐしゃと撫でた。

「やること・・・ですか?」

怪訝そうに訊ねるオビ=ワンに

「お前がジェダイ・ナイトになれるよう導くことだ。まさかこの館の後片付けをやると思ったのではあるまい?」

含み笑いをしつつ悪戯っぽい表情を向ける。

「そ、そんなこと思っても・・・いませんが」

と弟子は慌てつつ、師の口調からようやく死闘と悲哀の呪縛から解き放たれたように、ニヤリと笑って言葉を続けた。

「・・・しかし、随分と壊しましたね・・・評議会に請求が来たら・・・どうするんですか?」

「私のせいではないぞ?降りかかる火の粉を払っていたまでだ」

他人事のように言うクワイ=ガンに、オビ=ワンはこんな時でも込み上げる笑いを押さえ切れなかった。

クスクス笑いを漏らしながら少年は続ける。

「でもこの前・・・マスター・ウィンドゥのドロイドを・・・壊していましたよね。・・・あれも降りかかる火の粉ですか?」

「そうだ。だからメイスの頭は焼け焦げて髪が ―――― オビ=ワン?」

腹を抱えて笑い始める弟子に、思わず話に乗ってしまったクワイ=ガンは強い口調で窘めるも、自分も笑っているため迫力がない。

溜め息をつくとジェダイ・マスターはオビ=ワンに近寄った。

「だが、本当に無事で良かった」

涙を流しながら笑っていたオビ=ワンは不意に引っ張られ、そして、驚いた。

クワイ=ガンが自分を抱き締めていたからだ。

師から暖かい癒しのフォースが送られてくる。それとともに穏やかで安らぎを与える感情も。言葉はなくとも、師の自分を案じる想いがひしひしと感じられた。

しかし ――

「マスター・・・」

「何だ?」

「・・・苦しい・・・」

クワイ=ガンは苦笑すると弟子を解放し、その頭を再びぐしゃぐしゃと撫でた。

 

夜空を見上げ、突然、思いついたようにクワイ=ガンが訊ねる。

「ところで、変えられたパスワードとは何だったのだ?」

Despair(ぜつぼう)です。・・・あの時の状況そのままに」

「 ―― 絶望はない、希望がある」

ジェダイ・マスターは静かに声を発した。

 

暗闇の天空から、光を照らしながら一台のシャトルが二人に向かって近づいてくるのが遠目にも見えた。

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