銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第6話 予想外の展開

静けさが支配する部屋の中に、トレイが床に転がる音だけが大きく響く。

「ようやく、あんたに会えたよ。長かったな。おっと、坊主、おとなしくしてな。動くと怪我するぜ」

銃口は確かにオビ=ワンに向いている。

この至近距離では、フォースを使って外すこともできない。何よりフォースをちゃんと使いこなせるかもわからない。今の体では。

それはクワイ=ガンも同じだ。ジェダイ・マスターとはいえ、この距離の光線を例えフォースを使ったとしても、跳ね返すことができるかわからない。

クワイ=ガンは押し黙ったまま離れた台所に立っている。もしクワイ=ガンが何か行動を起こせば、オビ=ワンの命はないだろう。

偉大なるジェダイ・マスターは沈黙を纏い、両手を組み袖の中に入れていた。その顔には憂いの表情と悲しみの表情が入り交じっている。

ややあって、オビ=ワンが口を開いた。

「マスターがあなたの弟を殺したって?そんなの嘘だ」

オビ=ワンはジェネヴァーの気を逸らし、隙を狙っていた。話しかけていれば、何か突破口が開くかもしれない。

ただ、自分にこんなに優しくしてくれたジェネヴァーの、クワイ=ガンに対する憎悪が信じられないのかもしれなかった。

 

「嘘じゃねぇ」

穏やかに言い含めるように話しかけるその言葉に、逆に真実が感じられる。

「弟は、まだあの頃14標準歳だった。俺達はその時チャラムという惑星に住んでいた。ある日突然争いが起こったんだ。弟はその巻き添えをくらって死んだ。殺したのはジェダイだった」

(ザナトスだ)

クワイ=ガンは苦い気持ちで思った。

ザナトス ―― それは、オビ=ワンの前に彼の弟子だったジェダイ。ダークサイドに堕ちてしまった若き青年の名。

 

惑星チャラムの政府はその当時、揺れ動いていた。

次期政権を巡って保守派と革新派が争っていたのだ。その争いが民間に及ぶや、ジェダイ評議会はクワイ=ガンとその弟子ザナトスに、争いの調停を命じた。

チャラムに着いた時は、時既に遅く、保守派のリーダーが革新派に監禁され、革新派が政権を握ろうとしていた。

クワイ=ガンとザナトスは二手に分かれ保守派のリーダーを救いにいったが、その際、軽はずみな行動を起こしたザナトスと革新派の間で激しい戦闘が起こり、何人かの民間人が犠牲となった。動かぬ少年にすがり付きながら慟哭している青年がいたが・・・それが、彼か。

あの時、ザナトスが平然とした顔つきで、それを眺めていたのを覚えている。

苦虫を噛み潰したような顔をし、それから、クワイ=ガンは沈痛な面持ちでジェネヴァーを見やった。

「あの子が君の弟だったのか」

「そうだ。幼い頃両親を亡くした俺達にとっては、かけがいのない肉親だったんだ。それをお前が殺した」

「それは、私ではない ―― いや、私だ」

弟子の不始末は自分がつけねばならない。クワイ=ガンは溜め息をついた。

オビ=ワンがショックを受けた表情で、自分を見つめている。

訳を話せばオビ=ワンだったら理解してくれるかもしれない。が、今はそんな時間もなかった。

 

悲しみに顔をゆがめながら、オビ=ワンが重たい口を開いた。

「あなたは、僕がマスターの弟子だって知っていたんですか?」

「もちろん、全て調査済みさ。スパイスの密売を通じて情報網は確保していたからな」

(では、彼が密売のボス?本当の?)

「ど、どうして・・・あの時、僕を・・・殺さなかった・・・んですか?」

急に舌がもつれる。驚きのあまり頭がうまく働かないのか?

(いや、違う。何かが・・・おかしい・・・)

「オビ=ワン?」

オビ=ワンはベットの上に倒れ伏した。こんな緊急事態だというのに。

何故か急激に睡魔が押し寄せる。

(まさか・・・?)

「お前は傷つけたくないんだ、オビ=ワン」

ジェネヴァーは初めてオビ=ワンと呼んだ。

「しばらく眠っていてくれ」

 

(あの水に催眠作用がある薬が・・・?もしかして今まで飲んだ水にも全部?・・・僕を・・・ここから出さないために・・・?)

(ダメだ、寝ちゃだめだ。マスターが殺されてしまうかもしれない。でも、ジェネヴァーも殺すわけにはいかない。彼はきっと良い人だ。僕を助けてくれた・・・)

オビ=ワンはやもすると陥りそうになる眠気を振り払い、右肩に左手を当てた。

先ほど軽くだが、クワイ=ガンが治癒してくれた箇所。まだ全く完治していない損傷が酷い傷。オビ=ワンは深く息を吸うと、その右肩の傷に爪を突き立てた。

「ぐっ」

激痛の余りしばらく声が出ない。しかし、眠気は少し納まった。

「オビ=ワン!?」

「何をしている?坊主っ」

口々に叫ぶ声が聞こえたが、それに対する余裕もなかった。激痛が治まるのを待つが、簡単に治まってもらっても困るのだ。

ようやく、伏せていた顔を上げると、絞り出すように声を出した。

「マスターを・・・殺させはしません・・・そして、あなたも。ジェネヴァー、お願いです・・・。過去のことは水に流してくれませんか?」

「無理だっ。この日を待ちわびて生きてきたというのに。たったこの時、この瞬間だけを夢見て」

ジェネヴァーも吐き捨てるように言葉を出す。

 

クワイ=ガンは静かに言った。

「もし私を倒したとしても、オビ=ワンはどうなる?無事に帰してくれるのか?」

「!?」

驚愕の表情を見せるオビ=ワンに、ブラスターの銃口を向けたままジェネヴァーは答えた。

「坊主は囮だったんだ。クワイ=ガン、あんたをおびき寄せるための。だから、あんたを殺したら用はない」

(それだけじゃない。・・・それだけじゃないはず)

「さて、おしゃべりは終わりだ」

ブラスターの銃口がゆっくりクワイ=ガンに向いた。

 

「まだ死ぬ訳にはいかない。私にはまだ、私を必要としてくれている者がいる」

微かに笑みさえ浮かべクワイ=ガンは言う。

その言葉を聞いて、オビ=ワンはベッドに横たわったまま嬉しさに顔をほころばせた。

(僕には、マスターが必要なんだ。・・・何があっても、どうあっても。それをマスターがわかっている)

お互いに相手を大切に想う心が通じ合い、師弟の間に見えない、しかし固い絆が結ばれた。それは喜ばしい事実だった。

その時。

オビ=ワンはもう自分のことは気にかけなかった。クワイ=ガンさえ助かれば良かった。

(マスターはこれからの世界に必要な人だ。僕の命に換えても)

渾身の力を振り絞って、気を抜けば塞がりそうな瞼を押し留めてオビ=ワンは体を起こした。

クワイ=ガンがフォースを通じて言葉を伝え、その動きを止めようとしているが、フォースを纏う力もないオビ=ワンには届かない。

彼はもたれかかるようにジェネヴァーの体に抱きついた。

「おい、止めろっ!!死にたいのかっ!?」

不意を突かれたジェネヴァーは、体を捻りオビ=ワンを振り払おうとする。

「・・・マスターは・・・彼は僕にとって、父親の・・・ような・・・。だから」

ろれつが回らなくなりそうな言葉をどうかに紡ぎ出し、オビ=ワンは続けた。

「だから、・・・彼を殺させる訳にはいかない」

 

「!?くそっ、ちくしょぉっ!!!」

ジェネヴァーの遣りきれない怒りを込めた言葉が部屋にこだまし、その反動でオビ=ワンはベットに叩きつけられた。

その激しい衝撃に世界が一瞬にして暗くなった。

「オビ=ワンっ!!」

クワイ=ガンが素早く近づこうとする気配を、うっすら感じる。

起きあがる余力もなかった。

ビュンッと光線が発射される音とともに、何か重いものがバタッと床に倒れる音が微かに聞こえたが、あとはもう何もかもわからなくなった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ゴォォォ・・・ン

荘厳な鐘が鳴り響く、その低い音が耳朶を揺さぶる。

オビ=ワンはハッと目を覚ました。

再び鐘が何かを告げるように鳴り、日が落ちたすぐ後の薄青い霞がこもる静寂な部屋にこだまする。

この鐘の音は聞き覚えがある。

コルサントのジェダイ聖堂にいた時から、時々風に流れてきた鐘の音に似ている。葬列の調べ と。

オビ=ワンはベットから体を起こすと、素早く辺りを見まわした。

 

(ここはどこ?)

部屋には、扉のない入口越しに通路から明かりが差し、行き交う人々の囁き声が微かに聞こえる。

「葬儀が執り行われ・・・」

「まさか、こんなことに・・・」

「偉大なるジェダイ・マスターが・・・」

(マスター・・・?)

一瞬の戸惑いととも共に記憶が溢れ出るように蘇った。

(僕は・・・。ジェネヴァーが・・・。そうだ、マスター。あの後どうなったんだっ?)

気を失うまでの記憶を取り戻すと、オビ=ワンは立ちあがった。

居たたまれない気持ちが彼を突き動かす。

(葬儀って・・・まさか。まさか? まさか!!)

なりふり構わずオビ=ワンは駆け出した。

 

喪服を着た人々が歩いていく、その方向に。ゆっくりと歩いている彼らをもどかしく思いながら、掻き分けつつ。

長く伸びた通路の先に、小さなこじんまりとした部屋が見えてくる。ガラスが嵌め込まれていないその部屋の窓から、赤い揺れる光が幾重にも延び、通路や天空を照らしている。

オビ=ワンは部屋に辿り着き、

言葉を失った。

炬火がたかれ、今まさに火葬されんばかりに石の寝台に横たわっている人影。

がっしりとした体躯。どこか野生味を帯びた、しかし繊細な、まるで寝ているように穏やかな顔。強靭な意志を思わせる顎。金髪の髪。

両眼から涙がぽろぽろ零れてくる。止めどめもなく。

(こんなのってない。こんなのって・・・)

 

オビ=ワンは人々を掻き分け、前に進み出ようとした。

火葬される前の今ならまだ、生き返りそうな気がして。

しかし、もうその青い澄んだ瞳はオビ=ワンを見ることはない。

その穏やかで優しい声が、オビ=ワンに掛けられることもない。

父親のように暖かく包んでくれるフォースもない。

「・・・嘘だ。嘘だっ。嘘だーーーーーっ!!!」

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