銀河彼方での物語   作:秋鹿

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第7話 連鎖する記憶

「・・・=ワン?オビ=ワンっ!?」

自分を呼ぶ声に促され、目を開けた。

「大丈夫か?うなされていたようだが」

涙で潤んだ視界に見えるその姿 ――

「マスター・・・?」

「何だ。怖い夢でも見たのか?」

クワイ=ガンは口の端に笑みをのせ、言う。

オビ=ワンは涙を湛え無言で彼を見つめると、次の瞬間、マスターに抱きついた。

「お、おいっ。オビ=ワン!?」

しかし、彼は声も漏らさず、クワイ=ガンの大きな胸に顔を埋め、肩を震わせている。時々微かに鳴咽が混じるのを、クワイ=ガンは聞いた。

痛みを伴うほど強い力で自分にしがみついている少年の頭を優しく撫でる。

あれほどの危険に遭ったのだ。ほっとして気が緩んだのかもしれない

「もう、大丈夫だ。心配することはない」

少年は泣きじゃくりながら、激しく首を横に振った。

「・・・違う・・・違うん、です」

仕方ないなといった風にクワイ=ガンは苦笑し、心落ち着かせるフォースを静かにオビ=ワンに送った。ある時は峻嶺な山を思わせる険しさを示し、ある時は大地を照らす光のような全てを包含するフォースを。

 

「落ちついたか?」

静かに放たれた言葉に促され、オビ=ワンは体を離した。

「・・・すみません」

落ちつきは取り戻したものの、真っ直ぐクワイ=ガンを見ようとはしない。目を真っ赤に泣き腫らし、ベットに腰かけたまま下を向いて黙っている。その両手はチュニックの裾をしっかり握り締めていた。

クワイ=ガンは溜め息をつき、

「ま、元気になったなら何よりだ。3日3晩意識を失っていたのだからな。全くお前は無茶をする」

窘めつつも呆れ、しかし、心なしか嬉しそうな顔をする。

その言葉に、ようやくオビ=ワンは記憶の糸を手繰り始めた。

(そうだ、傷っ!)

慌てて左足を見、右肩に手をあてる。かなり良くなっている。クワイ=ガンが癒してくれたに違いない。それから高い熱もない。

「オビ=ワン。余り無理をするものじゃない。体調が優れない時は、前もって言っておくものだ」

全てお見通しだったらしい。顔が真っ赤になる。

「すみません・・・。これからは、気をつけます」

心から殊勝に反省する。自分が原因でクワイ=ガンを危ない目に合わせたかと思うと、素直に謝る心も生じるものだ。

 

「・・・任務はどうなったんですか?」

人心地つくと、オビ=ワンは訊ねた。失敗だ そんな言葉が返ってくるのを半ば恐れながら。

「無事片づいた。全部とは言えんが、めぼしい密売集団を一毛打尽にしたのだ。残りは今後リルパの政府が、私が掴んだ情報により調査を進めていくだろう。オビ=ワン、お前のおかげだ」

「僕の?」

思わぬ言葉を聞き、オビ=ワンは驚いて顔を上げた。腫れた赤い眼が痛々しいが、好奇心を取り戻しつつあるようだ。

「そうだ、オビ=ワン。お前が倉庫で倒した密売人を探っていくと、ほとんどの密売集団に辿りついたのだからな」

「そうなんですか・・・。でも、マスターはどうやって情報を得たのですか?」

 

聞かれてクワイ=ガンは、口の端を笑みで歪ませ、いたずらっ子のように瞳を輝かせた。

「私がなぜ宝石店を探していたか、知っているか?」

オビ=ワンはかぶりを振る。

「首都リルパは商売の盛んな都市だが、特に宝石の輸出は類を見ないほど頻繁に行われている。しかも、その宝石の輸出先と、やはりスパイスの密売が盛んに行われていると噂される星々のほとんどが、同星系(システム)にあると聞けば、何かあると思うだろう?」

「宝石・・・・宝石箱ですか?」

「そうだ。宝石箱に入っているクッション、入国管理局でもセンサーに引っかからないような加工が施されていたのだが、あの下にスパイスを隠して売っていたのだ。グリッタースティムぐらいの貴重な物になれば、少量で莫大な利益が出るからな。ま、簡単な答えだ。そこで、スパイスを欲しがっていると思わせて、法外な値段で宝石を売買している店を探していたのだ」

オビ=ワンは道理でといった風に頷き、納得した。

思い出したようにクワイ=ガンは弟子に、懐から取り出したライトセーバーとコムリンクを渡す。

「宿屋の戸棚の中にあった。ジェネヴァーがしまっておいたのだろう」

両手で受け取りながらオビ=ワンはおずおずと聞いた。

「・・・彼はどうなりました?」

クワイ=ガンは無言で首を横に振った。

 

「彼は・・・自殺した」

「えっ!?」

走馬灯のように彼の表情、仕種が蘇る。

(自殺なんて・・・何故・・・)

「彼はどうしても私を殺すことができなかったようだ。いや、本当は殺す気だったのだろうが、オビ=ワン、お前が言った言葉により、彼は彼みたいな不幸な者がこれ以上生まれることを望まなかったのだろう、自ら命を絶ったのだ」

(そうか・・・やっぱり彼は良い人だったんだ・・・)

再び涙が出そうになって慌てて堪える。

「僕を殺すこともできたのに・・・」

優しくクワイ=ガンは微笑む。

「たまたま近くの惑星にいた彼は、私達がここに来るとの情報を得た。そして、あの倉庫に誘い込んで殺そうと計画していた。ところが、オビ=ワン、お前しかその場に来なかった。だから、彼は計画を変更し、お前を囮として使うことにしたのだ。しかし、情が移ったのだろう。お前は死んだ弟にどことなく似ていたし、まして彼の兄をも殺さなかった。肉親を大切にするジェネヴァーにとってみれば、敵と情の板挟みになっただろうな」

「兄・・・?って、もしかして、ザーロブ?」

クワイ=ガンは静かに肯いた。

 

「あの倉庫に誘い込むことは、密売元締めのジェネヴァーにとって諸刃の剣だったが、そうまでして彼は私を殺したかったのだろう」

先ほどの夢がありありと思い出された。一歩間違えれば本当になっていたかもしれないあの夢を。

余りにもリアル過ぎて本当だとしか思えなかったあの夢。

「どうした?」

思いつめた顔をしていたのだろう、クワイ=ガンが声をかけた。

「・・・嫌な夢を見ました。マスターが、マスターが・・・」

その先は言葉にならなかった。否、言葉にしてしまえば本当になりそうな気がしたからかもしれない。

 

「私が死ぬ夢か?」

オビ=ワンは驚愕して、クワイ=ガンを見つめた。しかし、師匠の顔は凪いだ海のように静けさを湛えている。

「そうだな、いつかは死ぬかもしれない」

「そんなこと言わないでくださいっ。マスター・・・」

「若きパダワンよ」

微笑みすら見せてクワイ=ガンは言った。

「死ぬということはフォースと一つになるということだ。何も恐れることはない。それに、お前が一人前になるまでは死なん。心配だからな」

「本当ですね。約束ですよ」

「ああ。約束しよう」

クワイ=ガンはニッコリと笑った ――

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「・・・=ワン?オビ=ワンっ!?」

自分を呼ぶ声に促され、目を開けた。

「大丈夫ですか?かなりお疲れのようですが」

白く霞む視界をはっきりさせると、アミダラ女王の侍女の姿になった。

「ああ、大丈夫だ」

軽く頭を振る。

「間もなく始まります。どうぞ、お越しくださいませ」

侍女はお辞儀をし、去っていった。

 

侍女の姿が扉のない入口から通路へと消えると、オビ=ワンは溜め息をついた。

どうやら、うたた寝をしていたらしい。一晩眠らずに彼の傍で泣き明かしていたのだ。疲れが出たのだろう。

夢を見た。

マスターが死なないと誓った夢を。

その前はどんな夢だったか覚えていないが、そこだけは妙にはっきり覚えている。

そう、彼は確かに私にそう誓った。10年以上も前に。惑星アルカスの首都リルパでの任務の時に。

だが・・・

オビ=ワンは頭を振った。涙は出尽くしたと思ったのに、何故また視界が歪むのだろう。何故まだ頬を熱いものが落ちるのだろう。

 

ゴォォォ・・・ン

突如荘厳な鐘が鳴り響く、その低い音が耳朶を揺さぶる。

再び鐘が何かを告げるように鳴り、日が落ちたすぐ後の薄青い霞がこもる静寂な部屋にこだまする。

この鐘の音は聞き覚えがある。

コルサントのジェダイ聖堂にいた時から、時々風に流れてきた鐘の音に似ている。葬列の調べ と。

通路から明かりが差し、行き交う人々の囁き声が微かに聞こえる。

「葬儀が執り行われ・・・」

「まさか、こんなことに・・・」

「偉大なるジェダイ・マスターが・・・」

オビ=ワンはローブを羽織ると、沈痛な面持ちで部屋を離れ歩を進めていく。

喪服を着た人々が歩いていく、その方向に。

 

長く伸びた通路の先に、小さなこじんまりとした部屋が見えてくる。ガラスが嵌め込まれていないその部屋の窓から、赤い揺れる光が幾重にも延び、通路や天空を照らしている。

オビ=ワンは部屋に辿り着き、

無言でその光景を眺めた。

炬火がたかれ、今まさに火葬されんばかりに石の寝台に横たわっている人影。

がっしりとした体躯。どこか野生味を帯びた、しかし繊細な、まるで寝ているように穏やかな顔。強靭な意志を思わせる顎。金髪の髪。

 

アナキン・スカイウォーカーが悲しい表情を留めたまま、近寄ってくる。

オビ=ワンは彼を傍に引き寄せると、静かに寝台の横でクワイ=ガンを見守った。

しかし、もうその青い澄んだ瞳はオビ=ワンを見ることはない。

その穏やかで優しい声が、オビ=ワンに掛けられることもない。

父親のように暖かく包んでくれるフォースもない。

(マスター・・・あなたが死んだなんて、まだ信じられません・・・)

今にも炬火が点され、彼を覆い隠そうとする。

ふと少年の声が聞こえた気がした。

・・・嘘だ。嘘だっ。嘘だーーーーーっ!!!

それは少年の声だったのか、それとも内なる自分の声だったのか・・・

 

炬火がオビ=ワンの顔を照らす。必死に涙を堪える。

もう、泣くことは許されない。私はジェダイ・ナイトなのだ。

アナキン、そうこの少年を導き、立派なジェダイに育てあげる。それが、私の使命であり、クワイ=ガンの遺言なのだ。

「アナキン、君は立派なジェダイになる。約束しよう」

 

炎から立ち上る煙は、それ自体意思があるかのように澄み切った天空目指して伸びていった ――

 

 

 

 

End

(2000年頃執筆)




*惑星アルカス(Arukas)、惑星チャラム(Chram)は架空の星です。
*ジェネヴァー(Genever)とならず者さんたちはオリジナルキャラです。
*ザナトス(Xanatos)は、「JEDI APPRENTICE」シリーズに登場する、オビ=ワンの兄弟子です。ダークサイドに堕ち、クワイ=ガンの元を去りました。
*「JEDI APPRENTICE」(略してJA)シリーズとは、もうすぐ13歳になるオビ=ワンがクワイ=ガンのパダワンとなるまでのすったもんだ(笑)と、師弟となったあとの二人の活躍が描かれているシリーズです。残念ながら日本語版は出てなかったと思います・・・。出たら読みたい!!

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

この話は初めて書いたSW小説です。そのため、時系列がややこしいかもしれませんが(すみません)、いろいろと試験的なことをしています。
当初付けていたタイトルは「追憶の環」ではなく、「The Mebius Strip」(メビウスの輪)でした。全部、繋がっている・・・的なイメージで。
タイトルを変えたのは、この話を皮切りに、今後この一連の師弟冒険譚シリーズに発展する、「〇〇の〇」というタイトルにそろえるためです。
そう、ここから続いていくのです・・・。
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