この不幸な事故はかつて守りきれなかったオリヴィエの姿と重なって刹那を苦しめた。
誰が悪いということも無い。刹那には何の責任はない。
しかし己を責め続ける。責め続けて責め続けて、ただひたすらに強さだけを求めた。
そう、自分の弱さが招いた結果だ、と刹那は語る。
第3話 強さの意味
―――――約半年後の冬
刹那「………」
ミッドチルダにあるスタジアムの脇に刹那はいた。目を閉じて、佇んでいる。
そう、ここはミッドチルダで行われる格闘技の大会でも屈指の規模を誇るウィンターカップの会場。そこに刹那はいた。
実況「さぁ、まもなくウィンターカップの1回戦、初戦が始まろうとしています。そして初戦からいきなり波乱の予感がするぞぉぉ!!おっと、両者選手が入場してきたぁぁ!!」
スタジアム脇で佇んでいた刹那は審判に促されるがままにリングに上がる。同じくリングに上がってきた試合相手は筋肉質な体、重量のありそうな巨軀。スピードこそ並以下だが、一撃のパワー強さと常に攻めて行くバトルスタイルが売りの強豪選手だ。
一方の刹那は半年前のDASS予選優勝。本線の結果はと言うと…
実況「初戦対戦選手、片方は半年前のDASSミッドチルダ予選で全試合ワンラウンドKO勝利を収めたものの、その後の都市本戦は棄権という結果の刹那·ストラトス選手だ!来年以降のDASSはもちろん、この大会でも優勝候補の一角を担っているぞおおおおお!!」
そう、例のアリシアを亡くした一件が原因で都市本戦は棄権。このウィンターカップがそれ以降初めて参加する大会となるのだ。
刹那「さて………」
意を決したようにリング中央へと向かい、構える。その瞳は蒼と紫の色彩を放っていた。
が、以前とはどことなく雰囲気が違う。以前はあった覇気がない……という訳では無いが、以前と違い、この試合をただの通過点としか認識していないような冷たい目。
そんな刹那を他所に、試合のゴングは鳴らされた。
同時に相手選手は刹那へと接近し、刹那へと攻撃を始める。一撃のパワーは強く、クリーンヒットを貰えば刹那と言えど流れを持っていかれ、敗北にさえ繋がりかねない。
しかし刹那もクリーンヒットを簡単に貰うつもりもなく、的確に一撃一撃を捌いていく。
刹那「……この程度、ですか。弱いですね」
「……は?っ!?」
刹那のちょっとした呟きに反応をした一瞬。相手選手が繰り出した右ストレートの肘の内側を刹那は左の拳で軽く小突く。すると相手選手の右腕はパンチの威力を失い、脱力する。
刹那「崩雷!!」
パンチの威力を失い、怯んだ一瞬だった。刹那の右の肘が左のこめかみに直撃。紛うことなきクリーンヒットだ。肘は拳よりも硬いため、下手な拳よりも威力があり、なおかつ断空の力を乗せた一撃は相手選手の意識を刈り取るほどの一撃だった。
「っ……あぁ!!」
それでも辛うじて意識を保った相手選手。体勢を立て直そうと刹那へと反撃の意思を込めた視線を向ける。が、戦慄した。
刹那「爆砕……棍!!!」
肘打ち·崩雷の勢いで体を1回転させ、断空に加えて遠心力をも乗せたラリアット·爆砕棍が既に振り下ろされているところだったからだ。
「が……はっ」
不意に防御しようと不安定な姿勢となってしまったため、胴への直撃を許してしまい、そのままリングへ叩き付けられた。
次の瞬間、KO勝利を告げるゴングが鳴り響いた。
刹那「弱さは罪です。それでは何も守れません」
ゴングが鳴った後でも、未だに起きない相手選手を背に、刹那はリングを降りた。
―――――――――――――――――――――
side 刹那
件の1件でアリシアを失った私は、目が覚める前に夢を見ました。かつてのベルカ大戦末期。ゆりかごへと向かうオリヴィエを止められなかった時の夢。以前までも何度も見た夢だ。
その時はアリシアが目が覚めた時にアリシアが側にいてくれた。側にいてくれたおかげで乗り越えてこられた。
しかし、アリシアはもういない。しかも、今回の夢は倒れる私を置いていくのはオリヴィエではなくアリシア。紛れもない悪夢だ。
その夢のせいでしばらく私は塞ぎ込み、さらに何故かリンカーコアも過剰な魔力の負荷を負ってしまっていた事もあって、やむなくDASS都市本戦を棄権。その後しばらくは病院での生活を余儀なくされた。
件の事故はアリシアの母親、プレシアさんが研究していた魔導炉の暴走によるものであり、私はその被害者という事もあって管理局の人達がいろいろと良くしてくれた。
けれどアリシアはもういない。そう思うと何をするにも手がつかなくなってしまった。そこに追い打ちをかけるように連日連夜見る例の悪夢。私は少しずつ追い詰められていった。
………私が弱いから
……………私が弱いから
……………………私が弱いからアリシアが死んだ!
そう結論を出すまで時間は掛からなかった。かつての覇王のクラウスも私も己の弱さのせいで大切なものを失った。
弱さは罪
そう自分に言い聞かせ、ひたすらに強さだけを求めた。
そうして私はウィンターカップを迎え、何の危なげもなく予選を通過。件の初戦勝利以降も圧倒的な強さで優勝をもぎ取った。
しかし、それでは足りない………まだ私は……弱い。
その後も大小いくつかの大会に出場しては優勝すると言う結果を残していますが、まだ足りない。
そんな時、私が出場したとある格闘技の大会。規模はDASSやウィンターカップ程ではないが、そこそこ大きく参加する年齢の層も上は30歳程まで出てくる大会。
無論20歳以下のジュニア部門とそれ以外のシニア部門とに分かれているが、ジュニア部門に出てくる選手は大体が過去に対戦したか同じ大会に出ているのを見ている為、興味はない。
ルール上は現在11歳となった私がシニア部門に出ることは可能ということなので、シニア部門へとエントリー。もちろん、今回の私のようなことをする選手は前代未聞とのことです。ちなみに男女の部門でも分かれてはいますが、女性が男性部門に参加することに限り、ルール上可能となっている。
その大会での初戦。対戦相手はクイント·ナカジマ。当然ながら私とは年齢は10以上も離れており、既に結婚もしているらしい。そして男性部門にエントリーした女性。何を考えているのかはわかりませんが、弱ければ屠るだけです。
刹那「よろしくお願いします」
私はリングに上がり一礼、構えに入る。クイントも同様に一礼から構えに入る。足にはローラー、両手には拳型の外装を身に纏ったハードヒッター、と言ったところでしょうか?
審判「………ファイッ」
試合が始まると同時に私はクイントの懐へと潜り込み断空拳による一撃。ジュニア部門であれば既にここで決着は着いたであろう私の最大級威力を持った一撃。
クイントはそれをいともたやすく左手で受け止める。想定はしていたものの、気持ちのどこかでは舐めていた部分もあったのか、それから第1ラウンドは泥沼化し、お互いに撃ち合うもクリーンヒットを出せないまま終わってしまった。
初めて第1ラウンドで決着がつかなかった瞬間でした。
そのまま第2ラウンドへと突入。第1ラウンドと変わらない拳の打ち合いとなった。
クイ「刹那くん、だっけ?」
刹那「……はい、そうですが」
打ち合いの最中、対戦相手であるクイントさんが不意に話しかけてきた。
クイ「刹那くんは格闘技が本当に好きなの?」
刹那「………」
訳が分からなかった。格闘技はずっと続けてきた私の趣味であり特技。嫌いなどということは無い。格闘技が好き……なはずだ。
そう、私はそこで断言できなかった。嫌いでは無い。それは断言出来る。しかしアリシアを失って以降はただ強さを求める手段として格闘技を利用していた私には自信を持って好きだ、とは言えなかった。
クイ「さっきぶつけたあなたの拳から寂しさのようなものが伝わってきた。何かを失って、それに囚われているのね」
刹那「……っ」
私はクイントさんから即座に距離をとった。私の心の中を全て見透かされている、そんな気がしたからだ。
刹那「だったら、なんだと言うんですか?」
クイ「失ったものは戻ってこないわ。生きている者がそれに囚われるのは、その人が本当に望んだ結果なの?」
私は戦慄した。例の魔導炉の事件は有名だから知っていてもおかしくはないだろうが、私とアリシアの事までは知る術はないはずだ。なのに、たった1ラウンド拳を交えただけでここまで見透かされた。その事に私の心は大きく揺らいだ。
刹那「オリヴィエは………アリシアは………私が弱いせいで、私の前からいなくなりました。もう、戻ってくることはありません。私が弱いせいで!だから私は強さを求めました。それの何がいけないと言うんですか!」
私は叫ぶと同時に断空を乗せた蹴り·烈風脚で攻撃に入る。が、動揺していたせいか軽々と受け流されてしまい…
クイ「ダメとは言わない。けど、それはあなたが好きだった格闘技への冒涜、よ!」
刹那「が………っ!?」
バランスを崩したところへ腹部へ強烈な拳を受けてしまった。初めて受けたクリーンヒットだ。
クイ「はぁぁ!!」
そこからは防戦一方。右に左にと繰り出されるかつて無いほどに強烈なラッシュ。捌ききれずに防ぐことで精一杯だった。
ラッシュに続くラッシュで私の防御にも限界が近付いていく。そこをクイントさんは見逃さなかった。
クイ「リボルバー…キャノン!」
防御の上から今まで以上に強烈な拳を打ち込まれ、完全に防御が崩れた。
クイ「もう一撃!」
それによってがら空きとなった私の腹部へクイントさんの左の拳によるリボルバーキャノンが直撃し、私は意識を失っていった。
side out
どうも、八雲ルイスです。
第3話、なんか長くなっちゃいました(笑)
いろいろな小説読んで、皆さんが言ってますが、あえて私もこう言わせてもらいます。
すぅぅぅぅ(息を吸う)
戦闘描写むずかしぃぃぃぃ!!!
さて、初めての敗北を決した刹那。そしてその刹那に手を差し伸べるクイント。アリシアを失った刹那の心境はどう変わっていくのか!それでは次話をご期待ください!