「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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 * * *

 

 

 

 一色から逃げるために部室から出た俺は、そこで会いたくない人と出会ってしまった。

 

「あっれー、比企谷君!久しぶりだね!」

 

 ──そこに居たのは、雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「雪ノ下…さん……」

 

「やぁやぁ、凄い久しぶりじゃない。どうしたの?こんな時間に。まだ部活中だよね?」

 

 あくまで明るく振舞っている雪ノ下さんだが、その実、目は完全に別の事を考えていた。

 

 獲物を、品定めする様な…。

 

「…まぁいいや。折角会ったんだし、どこか行かない?」

 

 ニコッと笑ってそう言って来る陽乃さん。

 

 ──と、そこへ。

 

「陽乃!勝手に行くな!…っと、比企谷が居たのか。………。…何故、比企谷がここに居るんだ?」

 

 雪ノ下さんの後ろからカツカツと音を鳴らしながらやって来たのは平塚先生。

 

「…比企谷、今日は時間が無いから、明日の朝私のところに来い。…陽乃、行くぞ」

 

 一難去ってまた一難とは、まさにこの事だろう。平塚先生が雪ノ下さんを連れて行ってくれたのは嬉しいが、要らん置き土産をして行った。──やはりタダでは働かないんだな、人って。

 

(…ってか、部室に行けば一色が居て、かと言って他のとこに居れば雪ノ下さんや平塚先生って…。一難去ってまた一難ってより、前門の虎、後門の狼──いや、狼の群れだよな。……ってか、なら横に逃げ道が──)

 

「お兄ちゃん?」

 

「小町か。由比ヶ浜はどうしたんだ?」

 

「結衣さんなら向こうに居るよ。友達と話してるみたい」

 

(…横まで塞がれた……)

 

「そうか。…ってか、あのメール何だよ。折本がどうこうって……」

 

「小町も詳細はよく分かんないけど、折本さんからの誘いだし行って来なよ!……と言うか今すぐでもOK。結衣さんと雪乃さんには上手く言っておきます!」

 

「…………」

 

 心配だ。

 

 非常に心配だ。

 

 ──こういう時、小町に任せて大丈夫だった試しが一度も無い。

 

 だいたい、小町の目的は分かっている。──理解しているし、俺の頼りなさを考えれば確かにそう言う行動へと腕が向くのも分かる。

 

 けど、それはそれでどうかとも思う。

 

 津久井や折本の様に、俺に好意を向けてくれている奴ならいざ知らず、由比ヶ浜は微妙だし、雪ノ下に至っては完全に無いだろう。

 

 もしかしたら──いや、小町の選出にケチを付けるのも何だが、小町は俺に好意を向けている奴ではなく、俺と一緒に居た奴を選出しているんじゃなかろうか。

 

 それで会いにいけという事は、交友を深めろ、という事だろう。

 

 ……なのに何で俺がヘタレ扱いされにゃならんのだ…。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あれ?八幡。どうしたの?」

 

 取り敢えず津久井を呼びに行こうとして、俺が直接呼ぶのもどうかと思い考えていたら、たまたま近くに居た戸塚から声をかけられた。

 

「おお、戸塚!……あ、いや、実はな──」

 

 小町から受け取ったメールを見せつつ、戸塚に状況を説明すると、

 

「──つまり、津久井さんを呼んで来たらいいのかな?」

 

「いいのか?」

 

「うん、全然いいよ。…八幡の頼みだし」

 

「戸塚……」

 

 ここで六時間程戸塚の天使さ──ひいては戸塚がどれだけ戸塚(てんし)であるかを語りたいが、それはまた後にしよう。何故なら──

 

「ごめんなさい比企谷君。気付かなくて…」

 

 ──戸塚と一緒に、津久井が向こうから来たからだ。

 

「……メール、見たか?」

 

「…うん。折本さんからお誘いがあったみたいですけど……。比企谷君は折本さんの家の場所知ってるんですか?」

 

「何度か行ったことあるから場所は知ってるぞ」

 

 目的はさまざまだったが、あの家には其れなりに行ったことがある。

 

 折本が両親がいない日に、デートしたいとか言って来て(と言うか言って来たその日がたまたま両親不在だった)、デート先で熱出して帰ることになり、折本の看病をしたり(04参照)。自宅デートという事で折本ん家にずっと居たりと、その他にもいろいろある。

 

「……で、津久井は部活は大丈夫なのか?…本当は部活終わってから行くつもりだったんだが小町から行って来いって言われてな……。無理ならいいぞ。待ってるから」

 

「大丈夫ですよ。えっ…と、私は比企谷君に着いて行けばいいんですよね?」

 

「まぁ、そうなるな。…んじゃあ用意出来たら言ってくれ。俺はここに居るから」

 

 はい、と言いつつ駆け足でテニスコートへと向かう津久井を見送ると、スッと視線を横に動かし戸塚を見る。

 

 パコーン、パコーン…

 

 ラケットがボールを打つ音が静かな校庭に響き、夕焼けの空と合間って現実味を薄くさせ、どこか夢現(ゆめうつつ)様な雰囲気になる。

 

 他の部活も活動して居るが、人の声など虫の羽音に等しく、耳には届かない。

 

「…比企谷君、用意終わりましたよ」

 

 すると、そこに突然、近くから人の声が聞こえて来て、急に現実に引き戻される。

 

「うおっと!?…あー、よし。じゃ、じゃあ行くか」

 

 ──そして俺達は、折本家を目指した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 学校を出る前に折本に連絡し、そして現在は折本家への道のりをだどっているところ。

 

 俺も津久井も自転車通学だから、いつもの登校ペースを少し落としたくらいの速さで移動している。

 

 信号で止まり、青信号で再び動き出す。

 

 その動作を何回か繰り返している内に、折本家に着いた。

 

「着いたぞ。…ここが折本ん家だ」

 

 目の前の家は、クリーム色の壁に、緑の屋根の比較的派手な色をしている。

 

「ここが折本さんの…」

 

 取り敢えず自転車を降り、インターホンを鳴らす。──すると、出て来たのは折本ではなく、見ず知らずの女子だった。

 

「えっと…」

 

「あ、比企谷八幡です。…折本…さん、居ますか?」

 

「!…あなたが比企谷君です…か?」

 

「そう…ですけど…。何か?」

 

「あ、いえ、何でも無いです。かおりなら中に居ますから、どうぞ」

 

 ──と、そこで家の中から聞き慣れた声が響いて来た。

 

「千佳ー、誰だったの?…って、比企谷と津久井さんか。…どうぞどうぞ上がって?」

 

 奥から出て来たのは折本だった。既に部屋着に着替えた後らしく、着ていたのは制服ではなかった。

 

「お邪魔します。…親はいないのか?」

 

「まだ仕事から帰って来てないだけだよ。津久井さんも上がってよ」

 

「う、うん。…お邪魔します……」

 

 そして折本の部屋へ行き──

 

「まぁ、みんな知ってると思うけど、折本かおりです」

「…仲町千佳です」

「…ひ、比企谷八幡です」

「…津久井一奈です」

 

 ──自己紹介をして居た。

 

 俺と津久井が仲町さんと初対面だという事で折本が勝手に言い出し、そのまま始まってしまった。

 

「……………」

 

 そう。別に自己紹介自体は(どうでも)いい。──今の問題は、どうして俺が仲町さんから見られ続けているかだ。

 

「……折本、ちょっといいか?」

 

「え?うん…。私はいいけど…」

 

 結局分からず、折本を呼んで確認する事にした。

 

「…あの、仲町さん?から、睨まれてんだけど、何かあったっけか?」

 

「あー……」

 

 俺が折本に訊くと、折本はしまった、という様な顔をする。

 

「まぁ、千佳には私から言っとくよ」

 

「おう。…あ、あともう一つ」

 

「今度は何?」

 

「呼ばれた理由を俺も津久井も説明されてないんだが?」

 

「あ」

 

「……はぁ」

 

 何をするのかは知らないが、前途多難だった。




もしかしたら火曜日間に合わないかもです…。

今回は次回へのフリというか付箋が多めなので分かりづらいかもしれません。申し訳ないです…。

頑張って間に合わせます!

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