「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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すみません。荒野行動やり過ぎで全然書いてないです…。


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 * * *

 

 

 

「…今の…俺では、無理…?」

 

「あぁ、そうだ。…君の、『誰かを犠牲にする』スタンスでは、この問題はまず解決出来ない。解決するには最低でも『当事者』、欲を言えば、『関係者』が無事でいない限りは『解決』は勿論、『解消』すら不可能だ」

 

 何の躊躇も無く、ゆっくりと先生は俺にそう言った。

 

 俺では無理。

 

 この言葉の意味を、正しく理解するのに少し時間が掛かる程度には、俺は衝撃を受けていた。

 喉まで出かけた反論も、結局は出せずじまい。

 

 ──誰も犠牲になってない、などとそんな言い訳、この人の前では言い訳にすらなり得ない、ただの喚き事(わめきごと)だ。

 

「…君は、何か勘違いをしていないかい?──何でも出来ると…もしくは、自分がやらなくてはいけない、と」

 

「…………かも、知れないです。…でも実際に、これは俺の問題ですよ」

 

「君の問題に他人が介入してはいけないと、誰が決めたんだい?──まさかとは思うけど、君自身だ…何て面白い事を言おうとしてる訳じゃあないだろ?」

 

「………………」

 

 言おうとしていた事を止められ、のどに詰まる。

 

「気付かないのか。…余程切羽詰まっているのか、それとも単に気付いてない…いや、君に関してはそれはあり得ないか。君程に対人関係に敏感な子も居ないからね」

 

「……まぁいい。気付いてないからどう、という訳でもないし、彼女たちの成果と受け取っておこうか。──さてと、話を戻すけどね」

 

「……答えから言えば、君のそれは間違いだよ。というか、既に君自身が君自身に反して居るんだけどね。僕がさっき言ったのは、他人の介入を阻止しておきながら僕に助けを求めに来た事への矛盾なんだけど」

 

「あっ……」

 

「本気で気付いてなかったのか…。って事は、君の問題が君『だけの』問題ではないことには納得してくれたかな?……君が片付けなくちゃいけないのは確かだけどね、何も周りの意見までも閉ざさなくてもいいんじゃないかな?それとも、周りの言葉に影響される程弱い決心なのかい?だから自信がないと?」

 

「…それは…いいえ」

 

「なら、まずは意見を聞くことだよ。君ひとりで考えていればそりゃいつかは詰るだろうさ。スパコンなんかでも、並列に繋げて解析率を上げたりするだろう?」

 

「それにね、君はもう一つ間違えている事があるよ。君は『元に戻りたい』んだろ?なら、考える事の優先順位は『原因』より『どうしたら戻れるか』の方が上だよ」

 

「──君が考えるべきは、これからの事であって、その過程で『振り返る』事が必要になるんだ。だからまずは、その大元を考えてから、それを実行して、その時に生まれてきた障害を取り除けばいいさ。それに、そのくらいなら君のもともと言っていた事にも当たらないし、折本さんたちにも相談できるんじゃないかな?」

 

 ──こうして、俺は新たなヒントを…いや、違うな。

 

 忘れていた事を、……折本に言われていた事を、先生に思い出させてもらって、また新たに、舵を切ろうとしていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──由比ヶ浜結衣サイド──

 

 ゆきのんが変になったのは、ヒッキーがあの病院に入院した時からだった。

 最初は、私が掛ける言葉に適当に反応して応える程度。それが段々と応えなくなり、何回かヒッキーの名前を出した時には、物凄く辛そうな表情をするようになっていた。

 

 そんなゆきのんも、ある日から突然奉仕部に来なくなった。平塚先生に訊けば、体調不良で…という事だったけど、実際のところは分からないし、その時から奉仕部としてあの部屋に行く事も無くなってしまった。

 

 でも、私はそんなのイヤだったし、ゆきのんのことも心配だったから、先生に一応訊いて、ゆきのんの家に何度か足を運んだ。

 

 最初のうち何度かは門前払いされて、その内に今度は陽乃さんが出て来るようになった。そして陽乃さんの許可で、私は久し振りにゆきのんと会うことが出来た。

──けど、

 

 そこに居たのは、別人だった。

 

 もともと細かった身体は更に細く、顔色も蒼白い。更には部屋の薄暗さも相まって、不気味さを醸し出していた。そのインパクトは、声が出て来なくってその場に座り込んでしまったほどだった。

 

 ゆきのんと陽乃さんに心配されたけど、それ以上に、少し時間が経って落ち着いた事でゆきのんに会えた事の感動とか嬉しさが込み上げてきて、思わず抱き付いてしまった。

 

 それからは少しずつ、ゆっくりとではあるけど、ゆきのんと会える機会も増えていって、笑顔も漏れるようにはなっていた。──今思えば、それと同時に、ヒッキーの話題や奉仕部の話題については、一回も話してなかった気がする。何かを怖がる(きらう)ように、避けていたような、そんな気がする。

 

 そしてこの間、ゆきのんはどうやら登校して来たらしく、その際に、ヒッキーと鉢合わせてしまったらしい。

 私は陽乃さんからしか聞いてないから、よく分からないけれど、ゆきのんが結局帰ったのはその日の内に平塚先生から聞いた。

 

 ヒッキーには情報はいっていなかったらしく、私に放課後、あのスタバでゆきのんの質問をしてきた時は、正直驚いた。──私が、ゆきのんの話を他人にすること自体が久し振りだったし、何より、ヒッキーと久し振りに本格的に話が出来たこと…それと同時に、少し遅いと思ったのと、何故今なのか、不思議に思っていた。

 

 軽い世間話をして、久し振りにヒッキーと本格的に会話をする事に愉しみを覚えていた私は、何の気なく、その場の流れで本題は何だったのかと、問うた。

 

 そこで初めて、私はヒッキーがゆきのんの事を心配していた事を知ったのだ。

 心配しているのだろうか、と何度か思考を巡らせはしたけど、ヒッキーはヒッキーで怪我をしていたし、あの二人──津久井さんと、…えっと……折本さん、の二人と、何かしらのいざこざがあった、と言うのを陽乃さんから聞いていたから、私たちの事は後なんだな…という感想と共に見過ごしていた。だから、心配して行動に出す程だとは、考えもしていなかった。

 

 ──でも、それに嬉しさを感じたのも、柄の間。

 

 ヒッキーはその話題に入るなり、『何かあったのか』と単調な疑問を、何の素振りもなく振り掛けてきた。

 

 原因くらいには気付いてもいいだろうと、そして、ゆきのんにも悪いところがあるとはいえ、その悪びれない態度に、なのだろう。気付いたら私は、席を立っていた。それ以来、ヒッキーとは同じクラスではあるけれど、話をしていない。

 

 そして──

 

「………………」

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 ショッピングモールにて、今に至る。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 先生に相談した同日、その後の話。偶然ではあるが、折本からの招集があり、ショッピングモールにて折本に合流したところ、何となく予想出来ていたが、既に津久井がそこに居た。

 

「おはようございます、比企谷君」

 

「あぁ、おはよう。…ところで、折本はどした?」

 

「えっと…ト、…まだ見てないですね」

 

「と?…まぁいいか。待ってりゃ来るだろ」

 

 ──そこへ、噂をすれば何とやら。

 茶色掛かったボブを揺らして、モールの中から現れたのは、今は俺の彼女となった女子、折本かおり。

 

「おーっす!…いやぁ、ごめんね!撒くのに手間取っちゃって」

 

「撒くって…もしかしてアイツか?えっと……しめ縄?」

 

「惜しい。…でもま、人自体はそいつであってるよ」

 

「…折本さんも大変ですね」

 

「あはは…大変と言うよりダルいけどね。それと比企谷はゴルゴ13みたいな顔しない」

 

 こんな風に遅れて登場した折本を含め、三人が合流し、そして目的を聞いた後──つまりは、モール内へと歩を進めて、階を上がったその時だった。

 

 ──エスカレーター乗り場から出て、左に進んだその時、向こう側から、茶色い団子を付けて歩いてくる一人の女子を、先頭に居た津久井が見つける。…その後に居た俺が、そして、『彼女』が、俺たちに気付いたのが、同時だった。

 

「………………」

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 これは、中々にマズいのではないだろうか。

 

 折本は事情を知らないし、由比ヶ浜とも先日以来特に話をしていないから、それなりに不穏な空気が流れていない訳じゃない。津久井は同じクラスだから、知っては居るのだろうが。

 

「……えっ…と、何………してる…の?」

 

 先に沈黙を破ったのは、由比ヶ浜。

 津久井に目配せをして、何とか折本が暴走しないように止めてくれるよう頼み、由比ヶ浜に直る。

 

「…普通に買い物と、…ちょっと二人に頼み事をな」

 

「あはは……。……そう…なんだ」

 

 明らかに笑顔が乾いている。無理をして笑っているのが、何をしなくても伝わってきた。

 

「……ねぇ、ヒッキーはさ、……私たちの事、どう思ってるのかな…」

 

 ──突然、由比ヶ浜はゆっくりと、そう口にした。


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