「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
もう既に前の話を何時に書いたか覚えておりませんが、未だにこんな駄作を読んで下さる読者様がいる事に驚くとともに衝動に駆られまして、急ぎ書き上げました。
最低でもあと一話は休まずに書きますので、どうかお付き合い下さい。
──折本かおりサイド──
暗い雰囲気の中比企谷と別れ、一人帰路に着く。
何だかんだあっても──と、言うよりは何が起ころうとも。
恐らく私は比企谷の事をどこかで考えているのだろう。彼自身であれ、周辺であれ。
多分考えている理由は分かる。
──彼を、未知なる彼を知りたいのだ。
他人に個人情報を開示したがらない性格故に、最早少ないとしか言い様の無い人間関係故に、新しい一面を見れる機会は少なく、情報も入って来ない。
であればこそ、達成した時、それは比企谷へ私が向ける愛情と相まって比企谷へ降り注ぐだろう。…意外とあれで可愛いところがある彼だ。恐らく我慢出来まい。……主に私が。
そんな彼を見る為にも、つまりは『自分の為』にも、この問題は早く解決したい。
「──だから、協力して貰えないかな。…ね?」
正直、この男に舟を出して貰う事になるとは、思っても居なかった。
でも、成り行きは成り行き。行き着いてしまったのなら仕方ない。
『…いいよ。……そうだね、それは…いいかも知れない。だけど、彼に見つかったら、君が疑われかねないかな?』
耳元から聞こえて来る声に、短く溜め息を吐き、応答する。
「協力してくれるんだね。…それじゃあ、お願い」
それだけを言うと、向こうからは『あぁ、分かったよ』と。それを聞くと同時、通話を切る。
本当に癪だ。
よもやこんな事になろうとは。
(…でも、気掛かりなのはやっぱり、雪ノ下さんのお姉さん…。……何で何もしてこないの?)
比企谷から散々聞かされたから、警戒していたけど、警戒し過ぎなだけなのだろうか。…それとも、今回の件に首を突っ込むつもりが無いのか。
どちらにせよ、接点が少ない以上は、信憑性の低い推測しか出来ない。
今必要なのは、問題の解決へ向けて動く事。
雪ノ下さんのお姉さんが邪魔するなら
「…向こうは雨…か」
高層マンションの方角の空を見ながら、そう呟いた。
* * *
──比企谷八幡サイド──
「お前これ知ってっかー?」
「お?…あぁ、それか。それがどうしたんだよ?」
昼休み。
午前の四限を終えれば、その解放感に浸れる昼休みなるものがあるのだから、それに浸るなと言うのは無理があろう。寒い冬、目の前には炬燵があるのに、入ってはならないと言われる様なものだ。
だがまぁ、何も暖まるのに炬燵しか無い訳でもない。布団
故に、昼休みの楽しみ方にも色々──人それぞれある訳だ。
例によって俺は一般諸氏とはズレているので、勿論その楽しみ方もズレている。
最近は折本やら津久井やら、人と居る事もあったが、俺自身は他人と居る事に慣れている訳では無い。彼女たちについては、俺に対して害では無いと確認出来たが故に、…なのだと思っている。折本に対して抱いた感情を恋愛と呼ぶのかはともかく、それによって得たものは『居場所』と『安心』であり、それはきっと、大多数が無意識に他人に対して求めているものなのだろう。だから自分を嘘に包み、他人と『思い出』を共有して、安心に浸ろうとしているのだ。
そして、それを得るには主に二つの方法がある。
一つは、それを他の誰かと共有する事。これは誰でも出来る。…最悪俺でも出来なくは無いだろう。『思い出』や『経験』を駆使して、馬の合いそうな奴を見繕い、話し掛ければ、八割方成功と見て良いだろう。
もう一つは、自分で場を作る事である。安心出来る居場所を作ってしまえば、探す必要など無いのだ。言い方にもよるが、俺はこのタイプである。一人が安心出来る場所なら、一人になる状況を作ればいい。多人数がそうなら、それを作ればいい。…つまりは、葉山もこのタイプである。
「やぁ…久しぶりだね」
机で寝ていたその時だった。
葉山の事を思い出してしまったのが運の突きか。
しかもいきなり肩に手を置くとか。仲良く見えちゃうから止めろよ。
「……葉山。…何の様だ…?」
「何の…とは心外だな、比企谷。僕が君に話し掛けるのは、君が『それ』について君なりの意見を出した後のタイミングだよ。だから来た」
「まるで俺の事を見透かしてるかのような言い回しだな」
「…実際、その通りだと思うよ。…最近の君に関しては」
「……最近の…だと?」
「…取り敢えず、本題へ行こうか。…率直に言おう。……今の君は、君らしくない。必要以上に理屈に囚われていて、正直言って何の魅力もない」
俺の問いかけを無視した葉山は、クラス内であるにも関わらず、とても──それこそ、表現の仕様がない程に酷く──冷たく言い放った。
あの外見最強の葉山が、自らを崩したのだ。
「…君も、結衣が俺たちと一緒に行動してるのは知ってるだろ。嫌でも分かるんだよ、何かあったのは。…それに、
「……………今、…
葉山が淡々と語る言葉の、その一部に思わず目を見開いて反応する。
「……雪ノ下が休みだと…?」
「…君はそれすら知らなかったのか」
何だ?何を言っている?休み?それも、春休み前から?
「……ここでは場所が悪い。…移そうか」
そう言ってチャイムと同時に教室を出いく葉山の後ろを、俺は警戒しつつ着いていった。
* * *
──葉山隼人サイド──
昼休み終了のチャイムに構わず教室を出た俺と、迷わず着いてきた比企谷とで、現在二人きりで屋上に居る。
ここまで怒ったのはいつ以来の事か、記憶が怪しいから分からない。
「…それで、どういう事なんだ」
互いに互いは見ていないから、今背中に居る比企谷が何をしているかは知らないが、来て少しもしないうちに切り出して来た。
「精神病、らしい。鬱のようなものだと解釈してくれればいい、と陽乃さんから聞かされたよ」
「君の言いたい事も理解出来る。…どうしてあの、とね。でもそれは逆だよ。寧ろ彼女だから、だ」
「僕も最初は疑ったさ…まさか、とね。だけど残念な事にあの時の陽乃さんは真剣だったし、雪ノ下家から態々電話が
「……それで、雪ノ下はどこに居るんだ…?」
…まるで、赤子の様な弱さを感じる声だな、比企谷。何をそんなに怖がってるんだ?
「…君は、奉仕部を棄てたんだろう?なら、『そんな事』を知る必要無いんじゃないのか?」
「……………」
言われて黙るのか…。…君が望んだモノは、……俺程度で壊せる、そんな容易いモノだったのか?…それとも君は、本当に心から『あの場所』を棄ててしまったのか…?だとしたら──。
「…どうしてだ…?…どうして、君は『そんな事』を気にする?……奉仕部は君の場所じゃないと判断したのは君自身だろう?…何故……、いや、それ以前に、君はどうして奉仕部を…。やっぱり…」
言いかけて、迷う。
この先を言えば、確実に比企谷は俺に何かしらのリアクションを取るだろう。だから、出来るなら、やるべきだ。…だが、同時にそれは、彼と俺の繋がりをも断ち切りかねない、危険なモノだ。
ほぼ確実に彼は認めないだろうが、俺自身が認め、そして平塚先生にも言われた事だ。
『俺と彼は似ている』。
似ているが故に、彼がどうしたいのか、どうするのかある程度分かる。…しかし同時、それは分かった気になっているだけでもある。俺は彼ではないし、何より優柔不断な俺にはあそこまで頑なに貫く覚悟はない。
「…もう、用は無いか、葉山」
「…言っておくが、陽乃さんは無理だと思うぞ、比企谷」
「な………どういう事だ?…そもそも何でここであの人が出て来る…?」
「分かっているだろう?…どういう事だ、と訊いておいて分からない、なんて事は無いと思うけど」
「……………」
驚いたのを抑えたのが丸分かりだぞ、比企谷。…本当にらしくないな……。
彼と
故に比企谷は──。
「……お前、結局何が言いたい…」
──こうして、停滞する事を選ぶと、容易に想像出来た。
次話も、なるだけ早く書き上げて投稿する予定です。
不定期で、挙げ句の果に作品を忘れかけていた始末ですが、暖かな目で見守って下さい。