「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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後書きにて章編集の変更を告知します。


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 ──雪ノ下陽乃サイド──

 

 期待半分、退屈凌ぎ半分で参加した話し合いは、予想以上に私の興味を引いて、その結果少し長引いた。

 彼女が彼に選ばれたと言うのも、彼の性格を考えれば納得出来るかも知れない。

 彼女は、飽くまでも個人だった。

 無理に二人になろうとせず、近い距離に居る個人として存在しようとしているのが、その口調から理解出来た。

 互いに依存するより、と言った雰囲気だ。信頼のおける、と言うより寧ろ、気の休まると言った方がよりそれらしいのだろう。今まで一つの例外もなく一人で何事をも熟して来たであろう彼の、休憩出来る場所。それが彼女の立ち位置だ。頼る事が先にあって、そうして二人になるのでは無く、気の休まる場所だから、頼る事が出来る(、、、、、)。それが雪乃ちゃんやガハマちゃんとの大きな違いだろう。

 でも恐らくそれは、現状での話。当初は違った筈だ。彼を、そこまで親しくならずに理解するのは不可能に等しい。私ですら彼を掴み切れて居ないのだから。…まぁ最も、私の場合は掴む以前に面白さで判断してしまうから、ベクトルが違うんだけど。

 

「…今日、あの人の予定は?」

「はっ、…午後から、旦那様の参加なさる会食に同席される予定で、本日はそのままお帰りにはなりません」

「……そう。分かった」

 

 運転手に訪ねた返答と、私の予定を重ね合わせる。

 大学の講義を無視すれば、今日と、三日後のどちらかで『作戦』を決行出来る。問題なのは彼女が比企谷君を説得出来るか、その一点のみ。そこが失敗してしまえばそもそも私は動く事すら出来ない上に、最悪は彼女との間に彼が溝を作ってしまう可能性すらある。そうなれば問答無用で、私は恐らくその原因として彼と永遠に離れる事を余儀なくされるだろう。

 …正直、私も彼に依存しているのかもと思った事はある。彼に彼女が居ると知った時、探りを入れて消しかけようと思ったのはそういう事なのだろう。

 でもそれは、形になる事は無かった。

 それも理由は分かってる。雪乃ちゃんやガハマちゃんが居たからだ。

 私の想いは、あの二人を目にした事で、表面化する前に恐らく諦める形で霧散してしまったのだろう。今残っているのは、単純に楽しいという、それ一つ。

 だから、私は私の楽しみを減らさない為にと言う、私にとって嘘偽りの無い理由で、『奉仕部の再建』を実現させる。

 私が直接アプローチを掛けるのは構わない。彼を楽しみの一つとして扱う以上、それなりの理解の仕方があって、無論それが出来なければ彼を弄べない。だから、私も私なりに彼の事はそこそこ理解してるつもりだ。先に言った通り、掴み切れてないのも、また事実ではあるけど。

 

 でも、私には今回やる事がある。

 それは私にしか出来ない事で、失敗する可能性は無い訳ではないけど、彼女の行う比企谷君の説得同様、成功しなければ作戦は決行に移せない。

 だから、作戦を決行する為には、私も、彼女も失敗出来ないのだ。

 彼女の方はこの際任せるとして、私は私で取り組まないといけない。

 私が単純に失敗する要因になるとすると、やはり『あの人』だろう。この間から警戒され続けてるし、雪乃ちゃん自体が今、本家の中に監禁されてる様な状況だから、どうしてもあの人とかち合う事は避けられない。

 

「…彼女の方を待つしかない、かな…」

 

 私が雪乃ちゃんに接近出来る日は限られている。その上、警戒されているとなれば、回数も精々が一回から二、三回が良いところ。だったら、条件の揃うのを待つしかない。

 あとは、条件が揃うまでに準備を進めるだけだ。

 

「……………」

「ねぇ、隼人」

「…何ですか?」

「もしかしたら、隼人にも動いて貰うかも知れないから」

 

 隣からの返答は無い。でも、驚いた様子は無く、寧ろ理解していた風だった。

 

「…葉山様、そろそろ到着いたします」

「あら、もう時間か…」

 

 運転手の声に、溜め息気味に反応する。隼人は乾いた愛想笑いを漏らし、それに答えていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──折本かおりサイド──

 

「はぁぁあっ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「…うん。…多分」

「あはは……」

 

 話し合いが終わって、解散となった後。

 私と津久井さんは、別のカフェに居た。

 雪ノ下さんと向き合っていた緊張から解放され、安堵から溜め息が漏れる。

 話し合いの結果は、一先ず成功、と言った手応えだった。協力を取り付けると言う最大の目的を達成しこそすれ、『その』目的は見破られてしまった。

 相手に腹を見せる形で戦ったのは、流石に不味かったかも知れない。…何となくだけど、比企谷や葉山君を見て、弱みを掴ませたら刺されそうな気がしてたんだけど……。ま、まぁ、外れて良かったね、ってところかな。

 

「……ところで折本さん」

「んー…?…何?」

「…その、…えっ、と……比企谷君とは、…上手くいってるんですか?」

「えっ…!?」

 

 ──!

 突然の爆弾投下どーん!って感じに、いやもうそれはそれは『ところで』過ぎる爆弾を投下して来た津久井さん。何も飲んでないのにむせてしまった。…彼女も比企谷を好きだった(と言うより恐らく今でも好きなんだろうけど)手前、やはり気になるのかも知れない。それが何で今出て来たのかは、まぁ多分ここのところずっと奉仕部と比企谷の話をしてて、それに携わって来たからだろう。

 

「だ、だから、…その、どう…なのかな、って」

「ど、どうって、…そりゃあ上手く──」

 

 …ん??

 今言おうとして気付いたけど、果たして上手くいってる、って言えるのかな…?

 奉仕部の騒動でそれどころじゃないのは分かるけど、確かに最近顔見れば『奉仕部』で…。恋人らしい事何もしてない?いやでもそもそもがアイツだし、期待するのは酷だし、何より頼りない…。

 …でも元はと言えば奉仕部との事が邪魔してる訳だから、それを確かめる為にも先ずは障害を片付けないと…。

 

「……実を言えば、どうか分かんない…かな。…そもそもが比企谷だし。『アイツにとっての良い事』=『皆にとっての良い事』になる確率ってそんなに高くない気しない?」

「ふふっ…、それは確かに…分かるかも知れません。比企谷君ですし」

「そーなんだよねぇ…。………津久井さんの前で言うのもどうかと思ったんだけどさ、やっぱり言いたいし、津久井さんなら理解出来ると思うから言っちゃうけど」

 

 そこまで言って、ひと呼吸おく。

 

「…比企谷の恋愛感とか、私と比企谷の関係って恐らく、一般のそれとはかなりかけ離れてるじゃない?」

「だと…思いますよ?……と言うか、それで言うなら私と折本さんの関係もなかなか凄いと思いますけど…」

「…まぁ、それもそうなんだけど……。こう、恐らく比企谷の求めてるものって、『彼女』ってステータスじゃなくて、単純に『居場所』な気がするの。…でも、それは『空間』じゃない。そう言う居場所が欲しいんじゃないんだと思う」

「……何となく、言おうとしてる事は理解出来ます。…比企谷の求めるもの、それは『理解者』とも少し違った、…敢えて言うなら、『本音で語らえる場所』…って言う感じですかね…?」

 

 …流石だ。

 彼女の私が言うのも何だけど、比企谷を良く理解してる。

 津久井さんもまた、比企谷の本質を見抜いた一人だ。それに気付く過程を私は知らない。けど、気付けるだけの観察眼と、寧ろこっちは付き合いが出来てからの事だろうけど、比企谷に似た思考を持っている。私とは違ったタイプだ。

 そしてだからこそ、理解に正確さが垣間見える。

 同族理解の要領で、自分に置き換える様にして求めるものを割り出せるのは、かなり強みだろう。

 私の場合、そうは行かないから、少し羨ましくもある。…そもそも私が比企谷思考とか、それはどう考えても無理がある。別人じゃん。

 私が比企谷を理解出来たのは、努力したからだ。興味を持って、理解に努めたからだ。だから理解出来る様になったし、彼の数少ない理解者だと、(張る相手は居ないけど)胸を張れた。

 まぁ、今現在の事実を言ってしまうと、私も着々と比企谷に侵食されつつある。ふとした時に、以前の私ならと思う事が、中学時代と比べて格段に多くなっているのが良い証拠だ。彼色に染まる、と言うのももしかしたら悪くないのかも知れない。

 

「…でも、折本さんは──いや、そうじゃないですね。先ずは彼の事…ですよね?」

「──っ。何でもお見通しかぁ…」

「何でもじゃありません。…彼だけですよ」

 

 どうやら本当に彼について、彼女に隠し事は出来ないみたいだ。

 それが嬉しくもあり、そして結構悔しい。

 まぁでも、ここのところ三人で出かける事が多かったし、仕方ないっちゃそうなのかも知れない。

 

「取り敢えず、比企谷を説得しよっか」

「そうですね。…私も手伝います。いえ、手伝わせて下さい」

「ううん、こっちからお願いするよ。よろしくね?」

「はいっ!」

 

 …もし説得出来なければ、最悪は事後承諾の形で彼を騙す事になってしまう。それは避けたい。…でも正直、彼を説得出来る自信も、あまり無かった。




 どうも、おひ(ry
 さて、前書きの件ですが、今までの構成「本編」「AS」「IF」の三つから、ASを「AS①」と「AS②」の二つに分け、「本編」「AS①」「AS②」「IF」の四つに分けようと思ってます。

 理由としては、一言で言ってしまえば私のミスです。
 そもそも今書いている部分と言うのは、本編で既に解決している比企谷君と雪ノ下さんの仲直りについての部分を、(作者が勘違いして無理やり別の原因を作って)仲が直る前の状態に戻して書き直しているだけです。

 また、気付くのが遅かったのと、それを基軸に書いて行く予定だった事で、話が膨らんだ後に気付く羽目になり、モチベのダウンに繋がり、そして現在に至ります。
 これでは仮にも「折本アフター」とは言えないので、「本編」から直結で読めるよう、新たなアフターを書くことにしました。
 とは言え、(駄文ではありますが)今までの部分も無駄にはしたくないので、(一応頑張ってはみますが)今書いている部分を読まずに本編から飛べる様に書きつつ、その人物相関図に関しては今現在のものの続きとする事で、今現在のアフターを経由しても読める様にするつもりです。

 そして、ここから話が戻りますが、ASの分け方についてです。
 現在の(仮称)「奉仕部再編」編を「AS①」として、それが片付き、障害の無くなった後の折本との話を「AS②」とします。

 恐らくこのまま行くと、AS全体の話数が本編を超えるという事態になりかねませんが、そこはご了承下さい。


 これからも温かい目で見守って頂けますよう、よろしくお願いします。

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