「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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お久しぶりです。
ホントにお久しぶりです。
長らくお待たせ(待ってた人が居るかは別)しました。
書き上がったんで、投稿します。
もう言い訳はしません。単純に書いてなかっただけです。はい。これからも気まぐれで投稿します。えぇ…。
…まぁここまで膨れ上がった作品ですから、作者自体、終わらせる事が望みの一つ、みたいな所あるので、終わらせはします。…今のままで、津久井編まで書けるかは、怪しいですが…。少なくともこのASは終わらせます。


16(43)

 開いた門から、執事(?)に先導される形で歩いて行く。

 今更になって、隣に立っている大きなビルの壁面に『雪ノ下建設』の文字があった事に気付き、本当にお金持ちなんだな、と、有り体な感想を浮かべた。

 都会の中だという事を一瞬忘れてしまう様な、人工林を両側に備えた、最早『道』と称するに値する敷地を歩き、遂にその建物の前に着く。

 

「あ、来たね。いらっしゃい、折本ちゃん。…ご苦労さま、下がっていいよ」

「はっ。では」

 

 去り際までまさにイメージそのままな黒服の人は、そのまま私の後方へ消えて行く。恐らく門まで戻るのだろう。

 数秒としない内に雪ノ下さんに手招きされ、私はその戸を潜る。

 静寂とした雰囲気に覆われた大きな空間に放り出され、思わず息を呑んだ。

 

「こっちだよ」

「あ、はい」

 

 面接にでも行く様な気持ちで、雪ノ下さんに先導される間中ずっと、言うべき事を脳内で反芻する。

 比企谷が気にしてないという事。

 そして、比企谷は元の関係に戻る事を望んでいる事。

 

 これだけ言えば、取り敢えずの私のミッションは終わる。

 だからせめて、と、ずっとその演習をしていると、雪ノ下さんが足を止めた。

 

「この部屋が雪乃ちゃんの部屋…なんだけど、ちょっと待っててくれるかな」

「え、あ、はい…」

「そんなに待たせないから」

 

 そう言い、目の前のドアをノックして、返事を待たずにその中へと消えて行く雪ノ下さん。

 『やぁ、雪乃ちゃん』と言う声が聞こえた頃には、ドアが閉まり、それ以降は何も聴こえない。ドアの目の前にいるのに、音が漏れない様になっているのは、恐らく開いた隙間から見えた大きなコンポと、バイオリンか何かの入っているらしいケースが置いてあった事を見ると、どうやらその辺に理由がありそうだ。

 その後、無音の空間に気圧されつつも、そのまま待つ。こういう時は時間が長く感じられるから、左腕の時計を見ても、一分経ってない、なんて事を数回していた。

 そして──。

 

「お待たせ、折本ちゃん。どうぞ」

 

 ドアを開けて現れた雪ノ下さんが、私を手招く。それに従う様にして、私は決戦の場所へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい、折本さん。…歓迎するわ」

「う、うん…。ありがとう、雪ノ下さん。…ぇ、と、お邪魔させてもらうね」

「そんなに堅苦しくしなくても良いわ。…あと、姉さんは出てって頂戴」

「……ん。…まぁ、今日は可愛い妹の言う事を聞いてあげよう」

 

 雪ノ下さんから、明らかに好意とは取れない視線を向けられつつも、そう言い残して、ヒラヒラと手を振りながら部屋から出て行った。

 

「…姉が迷惑をかけなかったかしら」

「い、いや、そんな事ないけど…」

「そう、…なら、良かったわ」

 

 あの時、あれ程にまで言って、一時は言い負かしたとさえ感じた相手なのに、全然対等である気がしない。…いや、それもこれも気負いのせいなんだろうけど、まるで別人を相手にしている様だった。

 …ただ、それはどうやら、私の気負いのせいだけでもないように思えた。……本当に別人の様に見えるのだ。あれ程綺麗だと憧れた美貌こそ保っているものの、髪のツヤも記憶の中のそれとは違うし、服から伸びている腕も、脚も、どちらも以前に増して細く、折れてしまいそうな程だった。…記憶のそれを美化していないとも言えないが、それには留まらない、それだけでは説明のつかない雰囲気の変化が、彼女にはあった。

 そんな、彼女の変化に狼狽えている私をおいて、彼女は部屋の奥の方へと歩いていく。そんな彼女を──それもおかしい話だけど──子供の心配をするかの様な気持ちで、部屋に入って以来一歩も踏み出してない事を思い出しながら、見守っていた。歩き方にこそ気品ある雰囲気は見えるが、やはりその後ろ姿には、何か喪失感を思わせる暗い表情が見て取れた。

 

「折本さんも、こっちに来たらどうかしら」

「え、…あ、うん」

 

 まだ緊張の取れない身体をぎこちないながらも動かして、彼女のもとへ向かう。

 丁度私の立っていたドアの前からは仕切り一枚隔てて見えない位置に、丸テーブルと、椅子が三脚。その一つ…雪ノ下さんの真向かいの位置になる椅子に座る。

 私が座る事を了解したと、雪ノ下さんはテーブルに着くのと同時に紅茶を出してくれた。

 

「有り合わせでごめんなさい。新しい物を淹れている時間が無かったものだから。…姉さんに出した物と一緒になってしまうのだけれど」

「き、気にしないでいいよ。急にお邪魔したのはこっちなんだし」

「そう言ってもらえると助かるわね。………それで、…やっぱり、…比企谷君の…話かしら…?」

「!……うん。そうだよ」

 

 まさか彼女の口から出るとは思って無かった事もあり、少し驚いたが、すぐに気を引き締め直す。以前比企谷に聞いた症状よりは、幾らか回復している様だ。

 

「先ず、雪ノ下さん…貴女に、……ううん、奉仕部に。……ごめんなさい。私のわがままで、関係を壊しちゃって。…だから、また奉仕部が奉仕部として集まれる様に、協力させて欲しいの。…それが、比企谷の願いでもあるから…」

 

 そう言った私は、座ったまま軽く会釈をする様に、頭を下げた。

 そして、雪ノ下さんの応対は、以外とも、当然とも取れるものだった。

 

「…ダメよ、折本さん。……貴女がここで謝るという事は、今の比企谷君との関係を後悔しているとも取られかねないわ。…私にはもうその資格は無いのだから、私が悩む必要は無いけれど、それでも由比ヶ浜さんは違うわ。…だから、奉仕部に対して謝るという行為は、由比ヶ浜さんが居る以上、してはいけないのよ」

 

 言いながら、雪ノ下さんの目線は私から逸れていった。どこを見るでもなく。ただ、私から逸しただけの様に感じたのが、私の心に、何かを植え付けた。

 

「……比企谷からの言葉を伝えようと思ったんだけど、その前に一つ…良いかな」

「…何かしら」

「…凄い今更な事だけど、確認したいの。……雪ノ下さんは…比企谷の事が、好きなの?」

 

「それ…は…」

「答えて。…お願い」

 

 少し、圧をかける。今の彼女に、以前の様な気品から来る威圧感は全く無い。…それも手伝って、私は予定より早く、そして深く、核心に迫った。

 

「聞いて、それで私が雪ノ下さんに比企谷を渡す訳でもないし、そういう意味では、雪ノ下さんにとってみれば意味の無い…ううん、寧ろ悪意のある質問に思えるかも知れないけど、…私が確認したいのは、雪ノ下さん…貴女が、彼から逃げてるんじゃないか、って事」

「……………」

「…もし、雪ノ下さんが、比企谷の事が好きなら、あの時怒った理由も、…まぁ、分かるよ。……でも、それは間違いだったと、自分で気付いてしまった。…だから、貴女はそんな自分が許せなかった」

 

 今、私が言っているのは、比企谷、小町ちゃん、それに、雪ノ下さん(姉)に聞いた雪ノ下さんの人柄から想像した、デタラメを口にしているだけ。…理由は明白。それもこれも、やっぱりその口コミからだけど、彼女は間違っている事に対して、徹底的に正そうとする性格らしい。…そして、挑発に乗りやすい、と、姉直々に教えてもらったのをそのまま信じて、雪ノ下さんが間違ったと、わざと適当を言って、それで真実を引き出そうと言う…少しリスキーな賭けだった。…これも、本来ならしなくていい事ではある。本来の目的は、比企谷の意志を伝える事。ただそれのみなのだから。

 

 ──しかし、どうやら今日の私は冴えているようだった。

 

「…そう……なのかも、知れないわね」

「────え?」

 

 私から言っておきながら、認められて素っ頓狂な声を上げてしまう。カッコよさの欠片も無い。

 だけど、そんな私には構わず、雪ノ下さんは続けた。

 

「…確かに…そうかも知れないわ。…あの時──いえ、今もだけれど、彼が私のものになった事は、一度も無いわ。…それなのに、あそこで貴女が近くに居たのを見ただけで、勝手に盗られたと勘違いしたのは…そうね。私が、彼を──」

 

「──好きだっ…た、から…なのね…」

 

 置いてあった彼女の紅茶に、波紋がたった。

 私は、何もしないまま、しばらくその紅茶を見ていた。

 

 彼女の顔は、見られなかった。…見ては、いけない気がした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから、何時間話しただろう。

 詳細については、誰にも言うなと、この世の物とは思えない程の冷気を纏って笑顔で言われたので、黙って頷いた。…あえて言うなら、目的は達成した、という所だろう。やはり彼女は認識していなかったのだ。自分の気持ちを。そしてそれは、正しく言えば、認知していながら、無意識下に止めようとしていたのだ。だから、それに気付くまいとしていた自分と、既に行動して結果として現れていたその現実との狭間に挟まれ、身動きが取れなくなり、やがて窮屈に感じた彼女は動けなくなった理由を探してしまったのだろう。そうして気付いた後には、その性格故の自責の嵐が待っていた…と、言う流れか。…想像するに、だけどね。決して聞いた訳じゃないけどね。うん。…うん。

 

 取り敢えず、仕事の一つを終えた私は、比企谷に一本の連絡を入れた。

 

《To :比企谷八幡

 Sub:雪ノ下さんからの伝言だよ

 Text:雪ノ下さんに伝えたら一言あったから、行ってあげて?『夏休み明け、奉仕部に来て頂戴』ってさ》

 

 送信出来た事を確認して、目線を切る。昼というにはやや遅い時間だが、この天気ならこれからどこかに行くのも悪くないかも知れない。勉強…?受験生…?………まぁほら、根詰めても、って事で。




久しぶりに書いたんで、キャラの感じが変わってたり、以前の所との矛盾が生じてる可能性があります。…が、矛盾については、ご指摘を。キャラの感じ…は、直せるかな。まぁ、頑張ってみますので、こんなふうに変わった、等あれば。あ、尚、今の方が良ければそれはそれで。良い悪いの判断基準は…まぁ、原作から乖離せず且つ、この作品の雰囲気にあってるかどうかで。

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