「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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今回は前話の一日前の話になります。

津久井さんメインですが、この作品としてのメインは折本ですので、安心して下さい。(要望が多ければ、八折が終わった後で出します)

ここでキャラの設定を書くとネタバレが怖いので、先にキャラ設定見たい人は後書きへ。


05

 デパートに行ったのは、昨日の放課後だった。

 

 昨日は生徒会からの召集もかからなかったし、奉仕部は奉仕部で現在俺に関しては自由参加的になっているのもあってか行く気にもなれなかったので、久しぶりに早く帰ろうと思っていたのだが──

 

 

「比企谷君!待って比企谷君!」

 

 

 誰かに呼ばれた為振り向くと、そこには津久井がいた。

 

「おお、津久井か。…どした?」

 

「き、今日…その……暇?」

 

「ああ。……ってか、津久井は部活なんじゃねぇのか?」

 

「うっ……。ま、まあそうなんだけど…。……比企谷君、返事にはまだ時間……かかりそう…なの?」

 

「………ああ。なんだかんだで聞けなくてな……。その、悪「良かった……」……え?」

 

 いきなり、津久井がわけの分からん事を言いだした。

 

 本人にとっては返事を保留されているのだがら出来るだけ早く答えを聞きたい筈なのに。

 

 今、目の前にいる女子は少しホッとしている。

 

「なんで……先延ばしされると、良かった事になんだよ……」

 

 少し怪訝な顔をしてしまう。

 

 

 本当は演技だったのでは──

 

 

 そんな予感が頭をよぎる。──が、

 

 

「由比ヶ浜さんに比企谷君の事を少し聞いたんだけど、そしたら不安になっちゃって……」

 

「由比ヶ浜?」

 

 なんでここで由比ヶ浜の名前が出てくるのか分からんが、取り敢えずはそのまま話を聞く。

 

「うん。……それでね?比企谷君はあの時(・・・)私の事忘れてたっぽいし、なんならアタックして…みようかなー………なん…て」

 

 言葉は最後に向かうに連れて勢いがなくなっていったが、言いたい事は分かった。

 

「え…えっとね?……だから…その……私の事を理解してもらわないといけないかな、って思ったから……」

 

 ──やっぱりだった。

 

「……目的は分かったけど…。……俺、その前に津久井のフルネームすら知らないんだけど……」

 

「えっ!?………あっ!」

 

 どうやら言われて初めて気付いたらしい。……めぐり先輩に通じるもの──というか、どこか抜けているような感じは見ていて(なご)む。

 

「えっと……私は津久井(つくい)一奈(かずな)って言います。………………あ、……あなたが……好きです…」

 

「お、おう。……俺は比企谷八幡だ。………よろしく」

 

 

 ──なんともたどたどしい自己紹介だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後はだいぶ話してしまったので割愛させて頂くが、大まかな話の方向としては、デパートに行く事になった。ウィンドゥショッピングをする、という事らしい。目的はさっきの通りだ。

 

 ちなみに、全部割愛した話が幾つかあるのだがその中から部活関係だけ。話さなければ、聞いてもらわねばならない。

 

 本人曰く、運動部に所属しているのは本当にただ運動のためだけで、特に何かを極めたいとか、そういう事ではないらしい。適度な運動、という事だろう。ちなみにテニス部に入っているらしく、女子テニス部内には、男子テニス部の戸塚が女子と同等の可愛さがどうとかで戸塚に張り合おうとする奴もいる事も教えてくれた。無駄な事を。戸塚は至上だ。並べる筈などないのだ。

 

 

「──あ、ここですね。行きましょう、比企谷君」

 

 と、脳内で戸塚を褒めていたら何時の間にかデパートまで来ていた俺達は、持ってきたチャリを自転車置き場に置いて中に入った。

 

 

 デパートの自動ドアを潜ると、さも当然というような喧騒に身体が包まれる。

 

 俺の知らないような店ばっかりで、書店ですら聞いた事のないような名前があった。

 

「えっと……」

 

 地図の前で少し悩むようなそぶりをしている津久井は、何かを見つけたらしく、「あった!」と言うと、その黒髪を跳ねさせるように俺に振り向く。

 

「比企谷君は、何か見たいところ…ある?」

 

「んや、特にはねーよ。津久井の行きたいところで問題ない」

 

「ありがとう……。それじゃ、行こう?」

 

 結局どこに行くか告られていないのだが、忘れているのだろうか。

 

 津久井と知り合って──と言うかいきなり告白されて、その後会うのは今日が二回目、計三回目になるのだが、そんな少ない時間でも、取り敢えず分かった事はそれなりにある。

 

 

 華奢な身体の割りに運動が出来て、

 

 この高校にいるだけあってか勉強面も問題無い。

 

 容姿もいい方ではないだろうか。

 

 雪ノ下ほど才色兼備ではないものの、なんだろうか、俺の周りにはいないような独特の──大人しめな雰囲気がある。一番近いのはめぐり先輩だが。

 

 これも割愛した話の中にあったが、友達もそれなりにいて、派手ではなく、《地味まではいかないけど目立たない》、くらいの集団らしい。要するに普通の集団だ。

 

 性格もおとなしい方だし、話を聞く限りではアウトドア派というよりはアウトドアよりのインドア派だ。

 

 

 その細めの身体付きから、病弱なのかと思っていたら津久井に図星をさされ、弁解を受けた。病気には強い方らしい。

 

 

 ──と、そうこうしている内に、津久井がある店の前で立ち止まった。

 

 

「このお店です」

 

 津久井が止まったのは、どうやら洋服屋のようだ。

 

「服を買いにきたのか?」

 

「買いに来た、って言うよりは見に来た、ですね」

 

 津久井はそう言って何故か俺の事をじーっと見てから小声で何かを呟きつつ入って行ったので、後に続く。

 

「………ここ、女性ものしかないのか」

 

「すいません……。どうしても早めに確認したくて……。せっかく来たし、って思っちゃって……」

 

「あ、いや、別に良いけどさ」

 

 そんな会話をしながらも、津久井は服を選んで行っている。気になるものは鏡で確認したりして手にとっていた。

 

 そして、ある程度見て回ると「少し…待っていてもらえますか?」と言われたので肯定し、津久井を待っていると、俺の耳が話し声をひろった。

 

「──でさー、ちょーヤバくない!?」

 

「ヤバい!ちょーヤバい!それホント!?折本(・・)さんが付き合──」

 

 だが、その会話は喧騒に呑まれてすぐに聞こえなくなってしまう。

 

 

(今の奴ら、折本の話をしてたのか?)

 

 

 ここは店の中。話し声が聞こえてきたのは通路からなので、一瞬だけしか確認出来なかったが、その確認したその服装は、青い制服──つまり、海浜総合のものだった。

 

 

(なんで折本の話が……)

 

 

 と考えに浸っていると、後ろから肩を軽く叩かれた。何かと思って見てみると、そこには──

 

 

「どう……かな」

 

 

 照れて顔が赤くなっているが、恐らくさっき選んだであろう服を着た津久井が立っていた。

 

 女性の服なんてものはその人のイメージを決める、みたいな話を聞いた事があるが、俺と津久井の場合は今の今まで学校での接触だけだった──つまり、私服を見たことがなかったから、その他の情報から津久井のイメージを作り上げて、そして大方合っていると思っていたのだが──

 

 

 ──現在目の前にいる女子は、その想像とは全く別のイメージの服を着ていた。

 

 なんだろうか、津久井のイメージはちょっと臆病で真面目な感じだったのだが、服は一色に近い感じだ。

 

「……私の私服はだいたいこんな感じなんですけど……似合ってる?」

 

「お、おう。……よく似合ってると思うぞ」

 

 しどろもどろになりながら答えてしまった。

 

「良かった……」

 

 津久井は心底安心したようだった。

 

 そして、俺と津久井で服がどうこうと少し喋った後、津久井が「少し待っててもらっていい?」と聞いてきたのでOKサインを出すと、再び試着室の方へと向かう。着替えてくるのだろう。

 

 しばらく待っていると、シャーッというカーテンを開ける音と共に津久井が出てきた。

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃって」

 

「いや、気にすんなよ」

 

「ありがとうございます。……ちょっと会計行ってくるね」

 

「……………買うのか………」

 

 俺の返答は津久井には届いてなかっただろう。聞く前にレジへと向かっていたから。

 

 取り敢えず俺はする事がないので店の入り口で待つ事にした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「じゃあな」

 

「はい。比企谷君も気をつけて」

 

 そう言ってそれぞれ別れる。

 

 ──津久井の狙い通り、初めて見る津久井のいろんな事を知れた。

 

「明日…は水曜日だから………玉縄とまた会議かよ……」

 

 ちょっと憂鬱な気分になる。

 

 

 

 ──だが、この時の俺は明日起こる事など、予想もしていなかった。




キャラ設定
津久井一奈(つくいかずな)

黒目で黒髪ショートヘアの至って普通な女の子。女子テニス部所属で、交友関係もそれなりに広いが、知名度が高い訳ではない。スタイル的には相模。丁寧口調と普通の口調が混ざった言い方をする。八幡と知り合ったのは一年生の時。その後文化祭で再び会い、あの事件へ。相模が責められていない事に疑問を抱いて問題の結論を出した。その後から八幡に惹かれている。

(アニメでは二年ですが、津久井の名前は出てきます)

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