「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
普通に読んでいる方には関係ないと思うので大丈夫です。
最新話ボタンから飛んで来た人、紛らわしいことしてすみません。
* * *
「………俺が文化祭実行委員だった事はお前に言ったっけか?」
俺は、最初にそう振った。
俺と津久井の話をするにおいては外せない話になるからだ。
一年の頃同じクラスとはいえ俺は覚えていないし、文実も同様に覚えていない俺は、結局のところ記憶上の初対面になったあの奉仕部での接触以降の話をすればいいと思っていたのだが、津久井本人から好きになった理由も話してくれ、と頼まれたのだ。……それを俺に話せた津久井も津久井だが、俺は俺で公開処刑かと思った。
とにかく、そんな訳で文化祭の話をしないといけないのだが、その話をするに当たっても問題がある。
──相模の件だ。
あの件の解決方法を見抜いたのは雪ノ下と葉山だけだと思っていたのだが、津久井もそうだったらしく、そこから俺の事を考え始めたらしい。
だが、その解決方法は折本に何度も何度も注意されていたものだった。
──その助け方は自分の価値を下げる
──その解決方法は自分を傷つける
そんな風に折本は俺に言っていた。あの中学の頃の告白の時に俺を叱ってくれた時と同じ事を何度も言われた。
『価値が無いから私と付き合えないって言うならそんな事はしないで』
そう言っていた。
──だが、それを分かっていても、俺はあの方法をとった。
他の方法を知らなかった訳じゃない。でも俺はあの方法をとってしまった。
理由は簡単だ。
それを正しいと判断したから──
つまりそういう事だ。
あの時は時間がなかったし、俺に託された事、そして何より周りと自分を天秤にかけて、周りを選択してしまった事が理由だと分かっている。
俺はまた、自分の価値を周囲より低いと判断したのだ。
それを、折本に謝らなければならない。
折本は誰より俺の事を理解しようとしてくれていて、その為なら周りの事すら少し疎かにしてしまう。
そして中学の頃は、俺の事を理解した上で周りに馴染む最適な状況を作ってくれようとしていた。
そこまでしてくれていた折本に、俺は背くような事をしてしまったわけだ。……苦労を無に返すような事を。
それを謝ってから、津久井の話をする事にした。
* * *
「……その文実でな、……また、やっちまったんだ。………スマン」
そう言って隣にいる折本に謝る。だが折本は──
「……はぁ」
と溜め息を付いた。そして、
「あのさ比企谷、その件なら私もう知ってるから」
と言った。
折本から聞いた話によると、その話は既に海浜総合にも届いていたらしい。名前までは来ていなかったそうだが。
「やっぱり比企谷だったんだ。……比企谷がそういう解決方法を取るのはもう知ってるし私はそれを治せ、とは言わないけど、やっぱり彼氏が被害にあうのは辛いって…」
そう言った折本に再度謝ると、今度は折本から振って来た。
「それで?その文化祭が何なの?」
「あ、ああ。……その文化祭の俺の行動を、本当の意味で理解した奴の中に、告白して来た奴がいたんだ」
そして、俺は津久井から聞いた話をそのまま折本に伝えた。
相模が責められなかった事を怪しんだ事。
考えていくうちに俺の行動にあたった事。
そして、その行動に惹かれた事を話した。
「──どうして惹かれたんだ、って聞いたら『普通の人じゃ出来ない事をやれるからです。……褒められるべき事で、そして褒められてはならない事ですけど……』って言ってた。要するに折本と同じように自己犠牲はよくない、って奴だ」
「当たり前じゃん。……でもそっか、ついに比企谷に告白する人が出てきちゃったかぁ……」
折本はうーん、と唸っている。そして、
「比企谷はさ、津久井さんの気持ちに本当の気持ちを返したいんだよね?」
「ああ。俺に対してあんな風に接してくれたのは折本以外で初めてかもな」
「……だったら、今度三人で遊びにいかない?」
それは、とんでもない提案だった。
* * *
「三人で遊びに行かない?」
「………いやいやいや。……なんで?」
意味が分からん。
そもそも、俺は津久井の話をした時に折本からなんか悪い事言われるかと構えていたのだが、それすらなかった。
だが折本は津久井の事を許した訳ではないだろう。
俺も二股だけは絶対にするつもりはない。
そうなると、何故遊びに行くなんて結論が出てくるのか分からない。それに津久井も折本に会いたいとは限らないだろう。
「……遊びに行くかどうかは置いとくとしても、津久井が折本に会いたいと思ってるかまでは分からんぞ」
「んー、どうだろ。……でもまぁ、会いたくなかったら『私の事を話して』なんて言わないんじゃない?」
「……なるほどなぁ」
──というわけで、彼氏&彼女&彼女が居る彼氏を好きな女子という三人で遊びに行く事が、津久井の確認のみ残して確定した。
* * *
翌日、いつものように寒い中をえっちらおっちらと自転車で学校まで登校して教室に入る。
暖房の効いたこの部屋に居座りたいが、その考えを振り払って廊下に出る。
廊下は底冷えしていてとても寒かったが、それを我慢して隣のE組に向かう。
扉から津久井を探して、見つけたので扉を引く。
「津久井、ちょっといいか」
俺が呼びかけると、本を読んでいたらしい津久井は顔を上げて、自分を呼んだ人を探す。直ぐに俺の事は見つけられたらしい。
「えっ?比企谷君?…どうかしたんですか?」
そう言いながらこっちに来る津久井。
周りは、俺に好奇の視線を向けていたがあまり気にしないようだ。……一色は津久井を見習うべきだな。互いに互いの事知らないけど。
「どうしました?」
俺の前にきてもう一度質問してくる。流石にちょっと視線が痛いので場所を移動して話をする事にした。
「お前に言われた通り、折本には話したんだがな。……その事を話す前に、まず俺と折本の関係について話していいか?」
俺が急にその事を切り出すと、予想していなかったのであろう津久井は、ビクッと震えた後、
「………今は、……もう少し…夢を、みていたいんです……」
津久井はそう言って否定した。
「………おかしいな、覚悟してた……はず、何ですけど──」
震えながらそう言う。
無理もない。俺がいきなり言い出してしまったのが悪いんだから。
「ま、待ってくれ!……折本の話も聞いて欲しい」
そうは言ったものの、やはりどう説明しようが折本との関係を説明しないと出来ない気がしたので、一部だけ伝える事にした。
「……折本は、お前と話がしたいんだとさ。……だから、三人で遊びに行かないか?」
「へゅっ……?」
俺のいきなりの提案に、津久井が謎の声を出す。一色の『ふぇっ?』に当たるんだろうか。
と、そんなどうでもいい事は置いといて、津久井の返事を待っていると、
「……分かりました。行きます」
と言う肯定の返事が貰えた。
その後、日程を聞いてきた津久井に対して折本に確認する為にメールを送ったら、津久井が嫉妬?して津久井ともメアドと電話番号を交換する事になった。
* * *
更に日は進み、いよいよクリスマスムードも本格的に街を覆いはじめて来た週の休日、朝十時から俺は駅前に来ていた。
折本曰く本日の顔合わせデートの集合場所だ。
ちなみに俺はデートだとは思っていなかった。
どちらかと言うと顔合わせの方が目的であり、それを折本がデートだと捉えているだけだと。
しばらく待つと遠くからいかにもな服装でこっちに走ってくる折本が視界に入る。
「ごめーん!お待たせっ……」
「おう、待ったぞ。寒いのに待たせんな」
「……比企谷らしいなぁ……」
そんな会話を自然とする。
ここまでは一連の流れのようなものだ。
──と、そこで更に声をかけられる。
「遅れてしまってすみません。おはようございます、比企谷君。……えっと、そちらが折本さん?」
「あ、うん。……今日はよろしくね、津久井さん!」
「あ、はい。よろしくお願いします、折本さん」
どうやら、最初の接触は上手くいったようだ。これが上手くいかなかったら気まずい雰囲気になってただろうからな……。余裕で死ねる自信がある。
そういう点では折本は失敗しなさそうだけどな。
折本に限らず、由比ヶ浜なんかもそうだろうが、ああいう誰とでもすぐに仲良くなれる奴は本当、才能な気がする。俺が一人でいるからそう思うのかもしれないが。
ちなみに、折本の服装はイメージ通りというか、ゆるふわ系でまとめているみたいだ。津久井の方は驚いた事にこの間のデパートで服屋に入った時に買ったものだった。
「それじゃ、揃ったし行こっか」
折本のその声に俺と津久井がそれぞれ短く応える。
何はともあれ、俺たちの顔合わせ会がスタートした。