「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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今回は二話連投したため、最新話からここへ来た人は更新は一話前にお戻り下さい。


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「……えっとさ………」

 

「どした、折本」

 

 さっきまで元気だった折本が静かになっていた。

 

 そして、いきなりの爆弾を投下したのだった──

 

 

「……えっとさ、……どこ行く?」

 

 

「「………………」」

 

「………えっ?……折本さんが先導してくれるんじゃないんですか?」

 

 俺より復帰の早かった津久井が折本に質問する。

 

 そのことに関しては俺も津久井に全面同意だった。

 

 駅で会ったときから折本が主導な雰囲気だったので折本について来たのだが、その肝心の折本が何も考えてないとは……

 

「い、いやー、ごめんね?」

 

 

 ……謝られたって困るのだが…。

 

 

「行きたいとことか、ないのか?」

 

「私は無いなー。津久井さんは?」

 

 折本に助け舟をだすと、それを折本が津久井に振る。

 

 だが津久井も特に無いようで、いよいよ参って来た。

 

「二人とも無いのかよ……」

 

 

 呆れている俺に、二人は揃って俺をジトっ…と見た後、同時に溜め息を付いた。

 

「「比企谷(君)の行きたいところは無いの?(無いんですか?)」」

 

「………俺の行きたいとこ?……家か本屋だな」

 

「……相変わらずだね、比企谷は」

 

 俺の返答に、折本は呆れたように手のひらを上に向けて肩を落とす。

 

 

 そんな折本の反応を見ていた津久井が──

 

「……私も、いつかそんな風に『相変わらず』なんて言える関係になりたいです」

 

 ──と言った。

 

 

 場の雰囲気が重くなってしまったが、そこは折本。自前のコミュニケーション能力で持ち直していた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 結局俺の案が採用されて本屋に行くことが決まった。

 

 駅から電車に乗り一駅、更にバスで少し行ったところにあるこの辺では比較的大きい本屋に足を運ぶ。

 

「……久しぶりだな。ここに来るのも」

 

 自動ドアがスライドしてから中に入ると、そこには本屋独特の雰囲気が広がっている。

 

「内装、変わったみたいだね」

 

 折本が後から俺に続いて入って来てそう言う。確かに、記憶の中のそれと今目の前にある景色は違っていた。

 

 津久井もすぐ後から入って来て、全員揃ったところで、

 

「……で、何見るんだ?俺は取り敢えず参考書とか見る予定だけど」

 

「私は特に無いから比企谷に着いてくよ」

 

「私も、そろそろ参考書に手を出そうと思ってたので、一緒に行きましょう」

 

 というわけで、本屋の中でも固まって動くことになった。……ラノベは今度だな……。

 

 

 

 

 参考書のコーナーで二、三冊選んだ俺は会計を通すと、まだ選んでいる二人のところへ行く。

 

「悪い、遅れた」

 

「いえ、私達はまだ選んですらないので大丈夫ですよ」

 

 ちなみに、もう数学を捨てている俺は、国語と社会の参考書を買った。津久井もある程度は決まっているようで既にその腕には一冊の本が抱えられていた。

 

「……迷う」

 

 折本はまだ決めかねているようで、唸りながら本棚の前で固まっている。

 

「……まだやってたのか」

 

 実は、俺が会計に行く前から折本はずっとこの行動をしていたのだ。

 

 

 ──そんな時だった。

 

「ねぇ、あの人って……」

 

「やっぱり?ってか隣にいるの折本さんじゃん」

 

 突然聞こえてきた会話に、本を選ぶことに集中していた折本を除いて俺と津久井が反応する。

 

「やっぱあの噂本当だったんだ!」

 

 沢山いる人の隙間から俺たちの事を発見したらしいそいつらは、先日同様、どこの奴かまでは分からないが女子二人組だった。こっちまで会話は聞こえてはいるが極小音で、ところどころ聞こえないがそれでも折本ともう一人が誰をさしているのかはわかった。

 

 そして──

 

 

 ──目が合った。

 

 その瞬間、「……………」って感じに相手が黙る。

 

 

 やっぱりだ。

 

 あの時──津久井とデパートに行ったときに海浜総合の奴が言っていたのと同じ内容だろう。折本も言っていた事から間違いは無い。──相模の件だ。

 

 ある意味思惑通りではあるが、それの火の粉が折本に飛んでいるのはマズい。

 

 

 だがその場では特に何もなく、相手の女子二人組は離れて行った。

 

 

「……………」

 

 俺は、女子二人組が歩いて行った方を見続けていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後折本も無事に選び終わり、カウンターを津久井と一緒に通してそして現在は折本の提案により映画に来ていた。

 

 ──こいつ、今日の目的忘れて無いだろうか。

 

 今日の目的はあくまで津久井の事を俺が理解する事にあり、折本がいるのは顔合わせも兼ねているからだ。

 

 折本と居るのが嫌なわけじゃない。

 

 こいつがはしゃぎ過ぎなのだ。俺ら三人の中で一番はしゃいでいる。……て行っても趣味がサイクリングだからこの中で一番外出多いのも折本だけどな。

 

 館内に入り、取り敢えず津久井がチケットを買い、折本と俺でポップコーンやらなんやらを買うことにした。

 

 

 列に並んでいると、折本が話しかけてくる。

 

「津久井さんの事は分かった?」

 

「………いや、あんまりだな」

 

「……アプローチ変えないとダメかな……」

 

 悩むようにそう言う折本。

 

 

 俺は、不安になってつい聞いてしまった。

 

「折本は、俺を津久井と付き合わせたい…のか?」

 

 俺のその質問に、折本が驚いた顔をする。

 

「そんな訳ないじゃん!……だから、私がしてるのは自己満足の為なの」

 

「自己満足?……俺と津久井を会わせる事が?」

 

「違う違う。それはあくまで過程なの。……本当の目的は津久井さんの事を理解してもらう事。その上で比企谷に選んでもらうの。もちろん、津久井さんの気持ちもあるし、比企谷の気持ちもあるよ。……津久井さんが途中で引いたり、比企谷が津久井さんを選ぶ可能性もある。でもね、そうしないと私は納得出来ない。だって津久井さん──」

 

 

「──比企谷の事、私と同じくらい好きなのが分かるから」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──私と同じくらい好き。

 

 つまり、折本が俺の事を好きなくらい津久井も俺の事が好き、だと言っているのだ。

 

 津久井からは真剣さを感じていたし、誠意も感じていた。もちろん、自分で言うのもなんだが好意も感じていた。

 

 折本とは恋人なだけあって互いに好きなのは知っている。

 

 

 ──だから、知っているだけあって容易に想像がついた。

 

 

「私ね、比企谷が選んだ事に、納得──はしないかもしれないし、同意──も出来ないかもしれないし、……と、とにかく比企谷が好きだけど、比企谷には一度リセットして考えて欲しいんだ」

 

「……何で、リセットして欲しいんだ?」

 

「津久井さんの為、っていうのも入ってはいるけど、どっちかって言うと私達の為なの」

 

「俺達の?」

 

「うん。……“『私が彼女』って言った”から今の私達の関係があるのは分かるでしょ?……でも、だったら最初からやり直したい。……そんな適当な理由で付き合ってるのはいやだから……」

 

 折本は気にかかっていたのだ。この関係に。

 

 告白して、それが受理された中学の時のような効力はほとんど無い。──言ってしまえば形だけのこの関係に。

 

 それが嫌だった。

 

 それだったら告白し直してもう一度やり直そう、と折本は考えたのだろう。

 

 

 ──だが、それは言えなくなってしまった。

 

 

 津久井が俺に告白してきて、状況が変わってしまったのだ。

 

 今俺をフったらもう一度告白する前に何処かに行ってしまう可能性が出てきてしまった。

 

 もちろん俺はそんな事はしないし、折本にも伝えた。

 

 そして現在、俺の言葉が折本に伝わって、やり直したいという折本の気持ちが出てきた結果──

 

「……じゃあ、別れよう比企谷。……これで……振り出し──だね」

 

 

 泣きそうな顔でそう言われて、胸と喉が詰まる。

 

 呼吸がし辛い。……こんな事を日常的にやっていたのかと驚く。

 

 だが、どんなに辛くても折本と俺自身の為だと分かっているから何も言えない。──折本も同じ状況にいるのだ。

 

 

 そして、溢れそうだった水滴を拭ったあと、折本が言った。

 

 

 

「──私と、付き合って下さい」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 映画の開演時間になって中に入ったのが既に一時間前。

 

 現在は俺を真ん中に三人で映画を見ている最中。

 

 津久井にこそばれなかったものの、俺は映画に集中出来ないでいた。

 

 それはそうだろう。

 

 恋人から振られ、すぐ後に再び付き合って欲しいと言われた。

 

 その上、答えを出すのはお預けを食らってしまったのだ。

 

『“今の私”と付き合いたいか、じっくり考えてから、ね?』

 

 要するに今の折本と津久井と、対等な関係に近い状態の二人から選べと言っているのだ。

 

 

 折本は贔屓(ひいき)されるのが嫌なのだろう。

 

 今回の問題は早めに自分達で解決しなかった俺と折本が悪い。

 

 そうすれば、一番最初の段階で防げたのかもしれない。『彼女が居て、その人の事が好きだから』と。

 

 実際は疎遠になって居たわけだし、そんな状態で言ってもどの口が、ってなるだけだ。

 

 だから原因は俺達なのだ。

 

 

 ──これは、ある意味一つの試練なんだろうか。

 

 

 

 俺は映画を観ながらそんな事を思った。




この展開を読者様の何人が思いついたのでしょう。

作者は書きながら『お気に入り減るだろうな……。低評価くるな……』と思っていましたが、折本の事を好きな作者としてはここは話の都合上必須なので変えずに上げました。

作者と同調してくれる折本派の人が何人いるか分かりませんが、この先の展開を楽しみながら気長に待っていただければこれ以上の至福は無いです。

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