ホグワーツと天才美少女錬金術師☆   作:上帝

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続いちゃいました。



ある闇の帝王は

 ホグワーツ6年生の頃の僕は、とにかく時間が足りなかった。

 秘密の部屋を開き、愚かなマグルの父を殺し、その頃から僕はヴォルデモート卿として行動していた。

 だが、学生としてのカリスマである僕を捨てることもしない。ヴォルデモート卿としての活動も、始めたばかりで力を入れたい。

 何事も新しいことをやろうとすると、どうしても時間が足りなくなる。それは人のサガともいえるだろう。ダンブルドアが持つ逆転時計でも借りることが出来たらと思ったが、奴の輝いた目は僕のことを間違いなく見抜いている。

 よって、時間が足りないならば作るしかないと僕は判断した。そこで白羽の矢が立った科目があった。錬金術学だ。

 

 この科目は受けるだけで合格がもらえる科目。自然と時間も確保できる。そう考えて受けたこの科目、僕が参加するということもあり、取り巻きも何人か付いてきた。

 当時の僕のカリスマ性は、コミュニケーション……話術におけるものが大きかった。だからこそか、取り巻きの一人が言い出したことに耳を傾けたのは。

 

 錬金術学の教師が、いったいどんな人なのか……見てみないか、と。

 

 後にスネイプから聞いた話によると、当時から今に掛けて錬金術学の生徒の集め方は変わっていなかったことが分かった。

 

 才能と根気。そのどちらも兼ね備えている者しか教えない選民思想。

 

 取り巻きの気まぐれで知ることになった、錬金術師カリオストロの授業に、僕は空き時間を作る計画を崩す程度に興味を引かれていった。

 

「ちっ、忍耐のない奴らばかりだ。結局、最後まで残ったのはお前だけか。トム」

「まあ仕方ありませんよ。カリオストロ先生の授業はその……苛烈ですので」

 

 彼女の授業は中々にスリリングだった。というのも、そもそも彼女は闇の魔法はおろか、生命の禁忌すら忌諱していなかったのだ。

 僕の要領が良かったのもあって、授業はするすると進んだ。結果、錬金術学の時間をヴォルデモート卿としての時間に当てることもなく、僕は最後まで錬金術学を受けてしまった。

 

 

 

 

 

「死からは逃れられない。『許されざる呪文』における死の呪い、アバダ・ケダブラに反対呪文がないように、人間には必ず死が訪れる。だが、一度受け入れてしまえばどうってことはない。ただ死ぬってだけだ」

 

 7年生の最初の錬金術学。内容は生と死について、だった。

 

「……その、仰る意味が良く分からないんですが」

「つまりだ。死は必ず訪れるんだから、その訪れた後をあらかじめ作っておけばいいんだよ。そうすれば死んだのは前の自分で、次の自分は生きていることになる。人の営みを考えればすぐわかるだろ、子孫なんてのはまさにそれだ」

 

 もっとも、自身が生き続ける点で言うなら落第ものだがな。と彼女は続けた。

 だが、ここまで言われて察することが出来ない僕でもない。

 

「つまり。予備の肉体を作り、死を起点に自身をそちらに移す」

「正解だ。スリザリンに10点……ってのもおかしいか、トム自身に10点としておく。7年の最終課題はこれだ。オレ様のように美少女ボディを目指すもよし、理想の肉体を作って死を越えろ」

 

 彼女の授業は、自身の経験則に基づくものが多い。つまり、彼女自身はもうすでに死の超越を体現している。

 彼女の教えに従い、僕は魂と肉体に付いて1年間学んだ。それは僕自身も望むところだったからだ。

 死が絶対である。だからこそ死を越える。彼女の言葉に、すっかり僕は魅入られていた。これこそ僕が想像に描いていた、魔法使いそのものじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「最後の授業だ」

 

 そう彼女が切り出した。

 

「とは言っても、まあお前なら大丈夫だろ」

「ええ、この日のためにずっと準備してきましたから」

 

 彼女の補助を受けながらではあったが、僕はついに理想の肉体を作り上げた。

 彼女の言葉で言うなら、美少女ボディ。好きな肉体でいいとは言ったものの、当時のトム・リドルの外見は、自分で判断しても端正な顔つきと言っていいと思うし、いきなり外見が変わってしまったらそもそもホグワーツにすらいられなくなってしまう。

 現状のままでも十分と判断して、僕の新しい肉体は外見はそのままに、健康そうな肌色と、ほんの少し人間よりも強い肉体にした。

 

 そして何よりも……この新しい肉体には、純血の血が流れている。詳細な材料としては、ちょっとばかし協力してもらった僕の友達がいた。それだけだ。

 

 魂の移り先として、作った肉体に魂が宿るように呪文を刻み込み、最後の工程へと移る。

 魂を移し替えるということは、元の肉体から魂を引きはがすことと同義。これを無理やり行うことは魔法使いですら困難だ。

 一つ。魂を移す方法として、分霊箱という魔法がある。これは人を殺すことで魂を裂き、物体へ魂を宿す不死の術だ。だが、今回はそれの比ではない。魂を裂くどころか、魂そのものをそのまま移し替えるからだ。

 リスクはある。けれど、失敗する気は毛頭なかった。当時の自分には失敗なんてものはないと思っていたし、何より彼女が魂を移す作業をしてくれるからだ。彼女に限って失敗などありえない。

 

「問題はお前自身だ、トム」

「僕自身……と、言いますと?」

「いいか、お前は今からアレに入る。アレはお前にとって完璧な肉体で、拒む理由はどこにもない」

「もちろんです。そうなるように作りました。魂を移し替えるとき、肉体を拒んでしまったら……魂は入る器が無く、消滅してしまう」

「そうだ。絶対に受け入れろ。そうすればこのテーマは合格だ」

 

 

 

 

 魔法陣の上に、僕と移し替えの肉体が並んだ。

 彼女の静かで、美しい声と共に儀式が始まる。僕は彼女の振るう杖へ身を任せた。

 杖の先を見ていたと思ったら、不意に視点が上にずれた。浮遊感を感じて下を見ると、自分の顔が二つ並んでいて、少々滑稽に思えた。

 彼女の杖が指揮棒のように動き、僕に指示を与えた。なすがままに、僕は新しい肉体へと入り込んだ。

 

 新たな肉体に入ったその瞬間に、違和感を感じた。

 気持ち悪い。体温を感じない。自分の思っているように、身体が機能していない。

 

「――い、トム!それはお前の――!――自身だ!」

 

 彼女が叫んでいる。ところどころ、耳が機能しなくて聞こえなかった。

 寒い。体の中心から末端にかけて、どこにも熱を感じない。寝転んで触れている床の方が、まだ温かかいかもしれない。

 

 これは僕自身。僕が望んでいた、純血の体。

 

 ――僕が純血?

 

 そうだ、僕は純血になった。忌々しいあの父とは違う、新たな肉体で、新たな名前で、新たな自分になった!

 

 ――違うだろう。トム・リドル。お前は純血じゃない。穢れたマグルの父に捨てられた、トム・リドル。お前がどれだけ純血に焦がれようと、お前の体に流れているのは――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――げほっ!げほっ!」

 

 むせ返る気持ち悪さで、目が覚めた。

 今まで止まっていたものが動く感覚だった。いや、事実止まっていたんだろう。

 横眼をやると、そこにあったのは白い肌をした作った肉体。健康的だった肌色とは面影もない。

 

「ゆっくり深呼吸をしろ。大丈夫だ、お前は生きている」

 

 彼女がいつになく、優しい声でそう言ってきた。

 すーはーと深呼吸をするたびに、体全体の熱を感じた。ただ、それだけで涙が出てきた。

 

「臨死体験。いや、実際にはほぼ死んでるような状態か。得難い経験だったろうが……あれは経験しなくていいものだ。よく戻ってこれたな、トム」

「あ……」

 

 頭にようやく血が巡り始めた。

 失敗。その二文字が重く僕へとのしかかってきた。

 

 後に、彼女は自分のミスだと言ってきた。

 ……彼女の教え方は、自身の経験則に基づく。それが仇となったと彼女は言った。

 僕は、あの新しい肉体を受け入れることが出来なかった。自身の穢れたマグルの血を否定しながらも、それが自身であることを受け入れていた。

 彼女はその点で、完璧な肉体であるなら受け入れることなど容易と考えていたらしい。当然だ。僕でさえ、そうだと思っていたのだから。

 最後の最後を失敗で飾ってしまった錬金術学。そのこともあり、ホグワーツ卒業後は彼女との関わりも疎遠になっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、トム」

 

 時は流れ、俺様は闇の帝王として魔法界へ君臨した。

 俺様の掲げた純血主義に呼応し、同士となった魔法使いは数知れない。死喰い人、と銘打った俺様へ忠誠を誓う配下も生まれた。

 ただ一つ、俺様の掲げる純血主義には一つ裏があった。

 才ある者こそ素晴らしい。たとえ純血であったとしても、無能や怠慢を許す俺様では無かった。純血というだけの無能がどれだけいたことか。無知ならば使いようがあれど、真に無能で忍耐もないボンクラは粛清してもあふれんばかりに存在していた。

 

「ずいぶん派手にやってるそうじゃないか。アルバスが嘆いてたぜ?」

「カリオストロ先生も分かっているはずです。今の魔法界は、無能どもが多すぎる」

 

 そして今。

 俺様は彼女の前にいる。ダンブルドアの目も潜り抜けて、彼女を誘いに来た。それだけの価値が彼女にはある。

 

「共に理想を同じくする、同士として。カリオストロ先生の力をお借りしたいのです」

「はっ、オレ様とお前の理想が同じと来たか。とんだ勘違い野郎になったもんだ……それとも、魂を裂きすぎてまともに思考すらも回せなくなったか?」

 

 そう、俺様は分霊箱に手を出した。

 その過程で俺様の顔も崩れ、力も削ぎ落ちてしまったことは認めよう。それでも、死を克服したかった。それほどに、あの死の体験は恐ろしかった。

 

「オレ様は真理の探究者。革命だのなんだのってのをやりたいんだったら自由にやってろよ、オレ様を巻き込まずにな」

 

 それだけ言って、彼女は向き返った。もはや、俺様に興味などないと言わんばかりに。

 杖を握る手に、力が篭った。彼女の実力は折り紙つきだが、性格自体は難点だ。いっそ服従の呪文で……と、杖を振り上げようと思ったときだった。

 

「ま、うまく行ったら確かにオレ様も過ごしやすい世界になるかもな。応援くらいはしておいてやるよ」

「……分かりました。期待して待っていてください」

 

 彼女のその言葉を聞いて、杖を振る気が急に失せてしまった。

 ……せめてもの激励が、彼女の最大限の譲歩だったのだろう。ならば、俺様がここにいる理由も最早ない。

 たとえ彼女を引き入れることに失敗しようとも、死喰い人による侵攻は優勢だ。このまま行けば遠からず、魔法界は俺様のものとなろう。

 

 そう考えていた矢先に、聞き捨てならない予言を聞いた。俺様を滅ぼす子が生まれたというものだった。

 だが、それがなんだと言うのか。俺様に楯突くあの忌々しい騎士団からも、結局は裏切り者が現れた。正義を気取る騎士団の瓦解が、内部からとは皮肉なものだ。

 それだけ俺様の掲げる世界を、本能的に望んでいる者がいると思うと高揚感が高まってくる。予言がどうしたというのか。今の俺様は分霊箱を通した不死が存在する。滅ぼすことなど不可能!

 

 

 

 

 だが、俺様は敗北した。

 正直に言って、わけがわからなかった。子供どころか、赤子にこのヴォルデモート卿が敗北したのだ。

 赤子の家へ襲撃して、その赤子の夫婦を殺すところまではよかった。赤子に放ったはずの死の呪いが返り、俺様はゴーストと化した。苦痛だった。死にも等しい状態で、俺様は死すらも許されなかったのだ。

 俺様は苦痛に耐えた。そう、耐え忍ぶことこそ錬金術学で学んだことの一つではないか。

 耐えて、耐えて、耐えて、何年にわたって耐えた。そして、ついに俺様に転機が訪れた。俺様の潜伏先へとやってきた、おろかな男。名をクィレルと言ったが、その男に無我夢中で取りついた。

 

『ホグワーツへ……錬金術……』

 

 たとえどんな状態であったとしても、俺様は復活してみせる。

 そしてもう一度、闇の帝王として君臨して、魔法界を変えてみせる。たとえ、どれほど時間が掛かろうとも。

 

 

 

 

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