ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第11話 保健室で睡眠を

 遠くで大砲の音が鳴った。

 どうやら二つ目の試練が始まったようだ。

 

「……見に行かないのかい?」

「ん、ああ。気分じゃない」

 

 ショーンは湖とは離れた、学校の北塔にいた。

 

 最初はショーンを人質として起用する案も出たのだが、各校代表選手全員とそれなりに交流がある為、全員が助けようとしてしまう可能性があり、見送られた。

 それなら応援する側に回ればいい……のだが、どうにも気のりしない。

 勘違いしてもらいたくないのだが、応援したい気持ちはある。

 ただ、たくさんの人間に混じって、声を上げて騒ぐ気分じゃないだけだ。それに湖に行くと、また水中人と喧嘩になる。それは勘弁願いたい。

 

「少し雑談でもしようか」

「雑談にそんな前置き入れるやつ、初めて見たよ」

「そうだなぁ、誰が優勝すると思う?」

「……クラムは流石プロ選手だけあっていざって時強いし、フラーも英語を覚えた事で図書館を使えるようになった。ハリーも最年少ながら第一の課題はトップ通過――だけど、やっぱりセドリックじゃないか?」

 

 ハリーとセドリックが第二の課題に向けて『泡頭呪文』の練習をしているところを見たが、やっぱりセドリックは呪文の習得が早い。順当に行けばやはりセドリックだろう。

 なんにせよ、全員ショーンより実力は上なのだ。下からの推測ほど不確かなものはない。

 

「なあ、ヘルガは――」

「さっきも言った通り、その事について僕たちから言う事は何もない」

「そうかよ」

 

 こういう風に言う時のゴドリックは、絶対に自分の意見を曲げない。

 それならショーンに甘いサラザールやロウェナに聞けばいい、と普段なら思うのだが、その二人も今回だけは口を割らなかった。

 ヘルガを探そうにも、ヒントもなければ当てもない。

 何かしなくては。

 でも何を?

 いいや、何も。何も出来はしない。

 ただ、言い知れぬ焦燥感にジリジリと身を焦がすだけだ。

 

「――つぅ!」

 

 頭を抑えてその場にうずくまる。

 ヘルガがいなくなってから、頭痛が止まらない。それに何だか、耳鳴りというか、複数の人間が常に耳元で囁いている気がする。

 加えて先程から、まるで真綿で首を絞められてるような、何とも言えない圧迫感までして来た。

 いつもオールAの健康診断も、今回ばかりは引っかかりそうだ。

 

「セドリック・ディゴリー、一位通過! みなさん、拍手でお出迎え下さい!」

 

 遠くから、セドリックがゴールした放送と、歓迎の声が聞こえて来た。

 続いてフラー、クラム、ハリーとゴールしたようだ。

 

 もう直ぐ生徒達が学校に戻って来る。

 祝賀会だってやるだろう。

 きっとまたジョージとフレッドあたりに、ジニーと組んで何か芸をやれと言われるに違いない。

 それまでに、何とか回復しなくては……。

 

(……あれ?)

 

 突如、目の前に壁が現れた。

 いや違う、これは床だ。

 倒れたんだ、地面に。

 幽霊達の心配する声が聞こえる。

 だけど、遠い。ずっと遠い。

 物凄く遠くから声をかけられてるみたいだ。

 

「……しょ………ショーン、ショーン! おい、大丈夫か!?」

「ん……シリウス?」

「ああ、私だ。待ってろ、今医務室まで運んでやる」

 

 いつの間にか、シリウスがそばに立っていた。

 彼はショーンを抱き抱えると、保健室を目指して一目散に駆け出した。

 

「悪いな、シリウス」

「これくらいなんて事ない。それより、ブラック教授と呼べといつも言ってるだろう」

「ああ、悪い」

「……そう殊勝に謝られると、調子が狂う。本当に大丈夫か、ショーン」

「平気だ。ステーキを食って、寝れば……」

「ステーキ!? そんな物、許しません!」

 

 半狂乱のマダム・ポンフリーが会話に割って入って来た。

 ああ、いつの間にか保健室にたどり着いていたのか……。本当にどうしちゃったんだ、俺は。早く元気にならないと、何処かにいるヘルガも心配するだろうしな。

 ショーンはベッドに横になりながら、そんな事を考えた。

 そして眠りについた。

 安らかな眠りだ。

 

 その日、彼が起きる事はなかった。

 次の日も、また次の日も。

 

 ステーキでも顔に乗せれば直ぐに起きるだろう、普段の彼を知る面々はそう楽観していたが……三日が過ぎ、四日が過ぎ、一週間が過ぎても、彼が目覚める事はなかった。

 流石にこの頃になってくると、楽観視する者はそう多くはいなくなっていた。 

 ルーナやハグリッドなど、中にはあまりに唐突過ぎて実感を得られない者もいたが、栄養補給の為に身体につけられた管を見ると、途端に痛ましい顔をした。

 

 原因は一切分からない。

 マダム・ポンフリー曰く、体にはまったく問題がないそうだ。

 しかし目覚めない。

 その上、時折苦しそうに頭を抑える。

 どう見ても異常なのだが、何が異常なのか分からない。

 マダム・ポンフリーはおろか、お見舞いに来たアルバス・ダンブルドアにさえ。

 

 そしてショーンが目覚めないまま時は流れ……遂に第三の課題が始まった。

 

「ショーン、聞こえるかしら? 随分盛り上がってるみたいね」

 

 医務室には、ハーマイオニーだけが残った。

 他のメンバー――ジニーやコリン、ロン、ルーナ――なども残ろうとしたが、それは彼女が力強く断った。

 二人が交際している事は、コリン以外知らなかったが、今回の件で色々と察したようだ。尤も、事態が事態なだけに、その事について深く言及する者はいなかったが。

 

「騒ぐのが好きな貴方が誰よりも静かだと、なんだか変な感じね。みんなもしっくり来てないみたい。

 ……でも、私はこんな風にしてるのが好きだわ。

 だからダンスパーティーの時、華やかなダンスホールを離れて、ゆっくり話せたのは……楽しかったわ。

 変かしら? ダンスパーティーに行って、ダンスホールを離れてた時が楽しいなんて」

 

 また、大きな歓声が聞こえて来た。

 どうやら向こうはだいぶ盛り上がっているようだ。

 

(……?)

 

 それにしては、様子がおかしい。

 歓声と言うよりはむしろ……悲鳴に近いような。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トップバッターであるセドリック・ディゴリーは、迷路の中を駆け抜けていた。

 彼の頭の中にあるのは、会場で応援してくれているガールフレンドのチョウと、ベッドに横たわる友人のショーンのことだ。

 

 ……最初、ゴブレットに名前を入れた時。

 あの時は軽い気持ちだった。友達やチョウに言われての事だったし、まさか選ばれるとは思っていなかった。

 だけど、今は違う。

 オールスター戦の時、ショーンが真っ先に頼って来たのは、僕だった。

 去年度優勝チーム・グリフィンドールのエース、ハリー・ポッターではなく、僕だった。

 ショーンは、ほとんど“人に頼る”という事をしない。過去に頼ってた人が自分のせいで死んでしまって以来、ちょっとしたトラウマになっているのだと、昔話してくれた。

 だからその時になってようやく、どれだけ自分が頼られているのか、期待されているのかを知ったんだ。

 僕は勝たなくてはならない。

 ショーンが目覚めた時「君の応援がなくても余裕だったよ」と笑って言うために。

 

 それから、チョウが「優勝したら“特別な夜”を過ごさせてあげる」って言ってくれたから……。

 

 リラックスしている証拠……と取れなくもない。

 セドリックがそんな事を考えていると、

 

「ステューピファイ!」

「おっと! プロテゴ!」

 

 後ろから魔法が飛んできた。

 放ってきたのは、二番手で迷路入りクラムだ。流石、足が速い。もう追いついたのか。

 

 しかしいくら足が速くとも、魔法使いとしての技量としてはセドリックが上回っている。強固な守りに阻まれて、追い越す事は出来ない。かといって引き離しても、直ぐに追いつかれてしまう。このままでは満足に探索できない……それなら、今倒してしまうか?

 そうセドリックが考えた瞬間、何かが横をすり抜けて行った。

 

 アレは……ハリーとフラーだ!

 ハリーが箒を操り、その後ろに乗ったフラーが防御魔法を展開している!

 同点だった彼らは、確か同時に迷路入りしたはず。僕とクラムを追い抜くまで、手を組んだのか!

 

 セドリックが思考を張り巡らせている間に、クラムは既に決意を固めていた。

 直ぐさまセドリックの追撃を諦め、空中に道を作り、最短ルートを駆けていく。

 気がついてみれば、一番に迷路入りしたセドリックは、最下位だ。

 

(……ハリーとフラーの様に、良いパートナーを見つける機会はもうない。かといってクラムの様に運動神経がいいわけでもないし、直ぐさま決断できるわけじゃあない。

 認めよう、出遅れた。だからと言って、無い物ねだりをしてもしょうがない。それなら彼らの様に、僕も僕の持ち味を活かせばいい!)

 

 セドリックはまず、足を止めた。

 次に深呼吸。

 先を行く選手達に追いつく事はもう出来ないだろう。しかし、これは迷路。速く進めばそれで良いというものではない。

 ハッフルパフ生の持ち味は、地道な努力。セドリックは一つずつ、迷路を細かく調べる事にした。

 

 魔法の痕跡を調べる事は、大人の魔法使いにとってとても大切な作業だ。特に魔法省――ひいては闇祓いにとっては。

 ここは一つ、メタ的に考えてみよう。今回の主催者の一人は、かつて闇祓い一の過激派だったバーテミウス・クラウチだ。それなら、闇祓いにとって必要な資質を試す試練を、組み込んでいるはず……。

 

「あった!」

 

 この広大な迷路も、元は小さなクィディッチ会場。それなら間違い無く、大規模な拡大呪文がかけられているはず。

 セドリックの読みは正しかった。

 拡大呪文の痕跡を、見事発見したのだ。

 後はこれを逆算して、縮小した図を思い浮かべればいい。

 

 手早くそれらの作業を済ませると同時に、セドリックは駆け出した。

 迷路の終点……中央へ。

 

「ビンゴ!」

 

 道の先には、怪しげな光を放つ優勝トロフィー。

 ゴールへ向けて、一直線に走る。途中巨大グモが脇から出てきたが、そんな物なんの問題にもならなかった。

 そしてセドリックが優勝トロフィーに手を触れた瞬間……とほぼ同時に、別の道から出てきたクラムと、上から飛来したハリーとフラーもまた、トロフィーを掴んだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 この感覚――前にもどこかで。

 そうだ、クィディッチのワールドカップを見にいった時の……。

 

「そうか、優勝トロフィーがポートキーになっていたのか」

「でも、妙だわ。ここって表彰台ってよりも、墓場よね。それともイギリスの表彰式はこれが一般的なのかしら?」

「まさか。ここは墓場だよ、イギリスでもね」

 

 そう。セドリック達が飛ばされたのは華々しい表彰台ではなく、不気味な墓場だった。

 

「いたっ!」

「ハリー。大丈夫ですか?」

 

 ハリーがひたいの傷を抑えて座り込んだ。

 あの傷は、確か『闇の帝王』につけられた……。

 ふと頭の中を、管に繋がれたショーンがよぎった。

 突如倒れたショーンといい、ハリーの傷といい……嫌な予感がする。とてつもなく悪い事が起きる、そんな予感が。

 

「速くここを離れよう。嫌な予感がする」

「あら、墓参りはいいの?」

「フラー、ふざけてる場合じゃない。みんな、もう一度一斉に優勝トロフィーに触れるんだ、そうすれば――」

 

「それは困るな、セドリック・ディゴリー」

「!?」

 

 墓場の陰から、一人の男が現れた。

 男は邪悪な笑みを浮かべながら、セドリック達を舐めるように眺めた。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア!」

 

 ハリーが叫んだ。

 ハリーは憂の篩の中でクラウチを知っていた。彼が死喰い人である事も、闇の帝王の深い信奉者であることも、強力な闇の魔法使いであることも。

 

「あの方の計画には、お前達が必要不可欠なのだ。四人ともがな。お前達を揃って優勝させるのに、こちらも色々と苦労したんだ。もうしばらく、ここにいてもらおう」

「はっ。イギリスはナンパの仕方も遅れてるのね。そんな誘いは願い下げ――」

「フラー!」

 

 クラウチは直ぐさまフラーに向けて呪いを放った。

 直ぐさまセドリックが止めに入る。

 

「ぐぅ……!」

 

 盾の呪文が貫かれ、セドリックの肩が深々と切り裂かれる。

 強い……。たった一つ呪文を受けただけで、セドリックはクラウチの力量を嫌という程分からされた。

 クラウチはセドリックの傷ついた肩を見ると、下卑た笑みを浮かべた。彼は人が傷ついてる様を見るのが――いや、人を傷つけるのが好きなのだろう。

 

「ふむ。あの方は生存している状態でと仰ったが、状態は指定なさらなかったな」

 

 ゾワッとした感覚が、四人を襲う。

 第一の課題で戦ったドラゴンの殺意とはまた違う、ドス黒い悪意。

 

「ああ、受けて――」

 

 ハリーは杖を構え、クラウチと戦おうとした。

 それを制したのは……意外なことに、セドリックだ。ハリーを庇うように、前に一歩飛び出た。

 

「ハリー。それからフラーにクラムも。ここは僕を頼ってくれ」

「でも、セドリック」

「大丈夫。もしもの時のために練習しておいた、とっておきがあるんだ」

 

 ウィンクを一つ。

 不気味な墓場に不釣り合いなほど、綺麗なウィンクだ。場違いにも、ハリーはそんな事を思った。

 

「ああ、相談は済んだようだな。それじゃあ――」

「三人とも、離れてくれ」

 

 セドリックは直ぐさま三人を離れさせた。

 それはクラウチが放った無数の呪いから逃れさせるため――ではない。自分が今から使う魔法の余波によって、三人を殺させないように、だ。

 三人が10メートルほど離れたのを確認してから、セドリックはその呪文を唱えた。

 

「――悪霊の火(Fiendfyre)よ」

 

 轟!

 と、熱風が吹き荒れる。

 かなり離れたのに、ハリー達はその熱によってジリジリと肌が焦がされた。

 

 悪霊の火(Fiendfyre)――それは最も強い魔法の一つ。

 燃やせない物がないと言われてるほどの破壊力を持つ反面……時として術者本人をも燃やしてしまう、危険な闇の呪文。早い話が、学生に使える様な魔法ではないのだ。

 使えない、そのはずだ。それが、なんだ。これは?

 

「……馬鹿な、あり得ない」

 

 目の前に立つのは、火で形取れた巨大なアナグマ。

 その腕の一振りは、クラウチのあらゆる呪文を焼き払った。

 間違いない!

 セドリック・ディゴリーは完璧に、悪霊の火を使いこなしている!

 

「僕は負けられないんだ」

 

 セドリックはひたいに、大粒の汗をいくつも浮かべていた。

 膨大な魔力消費、悪霊の火から受ける熱風、そして操作するための精神力――セドリックの疲労は並大抵のものではないだろう。

 それでも、セドリック・ディゴリーは負けない。

 

「終わりだ」

 

 殺すわけじゃない。

 ただ、再起不能にはなってもらう。

 

 悪霊の火で出来たアナグマは、その巨体からは想像もつかない程の速度で走り出した。

 クラウチは杖から大量の水を放出したが、足止めにもならない。

 アナグマの剛腕はクラウチに振り下ろされた!

 

「そこまでにしてもらおう」

 

 果たして、それは止められた。恐ろしいほどに呆気なく。

 同じく、悪霊の火で出来たヘビによって。

 

「なんで、そんな……。お前がここに!」

 

 傷が痛むのだろう。

 ハリーが苦しそうに声を出した。

 ハリーの見ている先……そこには一人の男がいた。黒いローブを纏った、一人の男が。

 

「俺様の部下の非礼を詫びよう。許せ、お前達を傷つけるつもりは毛頭なかったのだ。そして讃えよう、セドリック・ディゴリー。その歳で悪霊の火を使いこなすとは、才能に加え努力もしたのだろう。故に、俺様はお前を讃えよう」

 

 そこに立っていたのは、闇の帝王――ヴォルデモート卿だった。












ハリー、ロン、ハー子ジニー、フラー、クラム、ショーンの7人で魔法の人生ゲームをするという謎の話を書いたはいいけど、完全に入れるタイミングを逃した。

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