ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第5話 強さ

 喧騒の中、ハリーは自分の『予言』を抜き取り、ローブの中に入れた。代わりに『粉砕呪文』の衝撃で棚から落ちた、ひびの入った水晶玉を置いておく。少しでもクラウチの目を誤魔化せればいいが……

 

「こっちよ!」

 

 ハリーの腕を誰かが掴み、引っ張った。声からしてチョウだろうか。

 

「いたぞ、ポッターだ!」

 

 『インスタント煙幕』を抜けると、ハリーを見つけた死喰い人が呪文を撃ってきた。

 チョウはそれに気がついていないようだ。

 

「危ない!」

 

 咄嗟にチョウを押し退けて、『失神呪文』を撃ち込む。

 ハリーの呪文と、死喰い人の呪文が激突した!

 物凄い力で押されているような感覚が、杖から伝わってくる。ハリーはそれをなんとか押し返し、杖を思いっきり前に突いた。

 紅い閃光が緑の閃光を突き破り、死喰い人を引き飛ばす。死喰い人は壁に激突し、動かなくなった。

 

「上手い!」

 

 叫びながら、チョウが杖を振るった。

 二人が走っていた先の扉が、吹き飛ぶように開く。二人はほとんどスライディングになる形で、部屋の中に飛び込んだ。

 ハリーは辺りを警戒し、その間にチョウが扉に接着呪文をかける。

 

「みんなを置いてきちゃった!」

「いいえ、違うわ。私達話し合って、チームを分けることにしたの。セドリックとハーマイオニーちゃんのチームに。他のみんなが、注意を引いてくれてる。君はその間に、私と一緒に逃げるの。いい?」

「そんなこと許さ――」

「ハリー危ない!」

 

 今度はチョウが、ハリーの事を吹っ飛ばした。

 次の瞬間、さっきまで立っていたところを三本もの閃光が走り抜けた。

 さっきチョウが閉めた扉とは別の扉から、死喰い人達が押し寄せている。

 迂闊だった!

 普通に考えれば、扉があれだけじゃないことくらい、簡単に分かったのに!

 

「アクシオ! 机!」

 

 死喰い人達が次の呪文を撃つよりも、チョウの方が一瞬早かった。死喰い人達の後ろにあった机が、一斉にこっちに向かって飛んでくる。

 二人は咄嗟に屈んで避けたが、一人は後頭部にモロに机が当たり、動かなくなった。

 一人やった!

 残りは二人!

 これで一対一だ!

 しかし残りの二人は直ぐに体制を立て直し、呪文を撃って来た。

 おそらくハリーよりも、少し早い。

 咄嗟にチョウが沢山の机を死喰い人とハリーとの間に滑り込ませ、盾の様にして攻撃を防いだ。

 

「乗って!」

 

 机の一つが、ハリーの所に飛んでくる。

 ハリーが言われた通り飛び乗ると、直ぐにチョウも同じ机に飛び乗ってきた。

 次の瞬間、机が猛スピードで発進した。死喰い人が何やら呪文を撃ってきていたが、他の机が盾になり、それを阻んでいる。

 

「コンフリンゴ!」

 

 二人の死喰い人のちょうど真ん中で、呪文は炸裂した。

 再起不能とはいかないだろうが、しばらくは動けないだろう。

 空飛ぶ机はハリーとチョウを乗せたまま、神秘部の中を駆けた。

 

「ああっと。こりゃあ不味いわね……」

 

 途中まで順調に進んでいたのだが、三つほど部屋を超えたところで、クラウチとセドリックが戦っている所に遭遇してしまった。

 『悪霊の火』で作り出した大熊と大蛇を、激しくぶつけ合っている。

 木製の机でこの中を突っ切るのは、少々良くないだろう。

 

「ハリー! こっちよ!」

「ジニー!? どうしてここに?」

「説明は後! チョウ、ハリーをこっちにパスして!」

 

 一瞬迷ってからチョウは机から降り、ハリーだけを残した。

 背を向けながら、チョウが最後の言葉を語りかける。

 

「いい、聞いてハリー。貴方は私達の中で唯一、『例のあの人』を倒せる可能性も持つ人間なの。だから生き残るべきだわ。

 そのことを話したら、みんなで一瞬の迷いもなく頷いてくれた。みんな貴方が好きなのよ。

 私はここまでだけど……絶対に生き残りなさい!」

 

 そんな価値が自分にあるとは、ハリーには到底思えなかった。

 むしろこんな自分に付き合ってくれるみんなの方が、よっぽど生き残るべきだ。

 ハリーはそう反論しようとした。

 だがそれより速くチョウが杖を振り、ハリーを机ごと吹き飛ばしてしまった。

 名前を呼ぶ暇もなく、扉の外へと弾き出されてしまう。

 

 チョウはここに残り、セドリックの応援に行くようだ。防火の呪文を机にかけて、死喰い人へと向かって行った。

 ハリーの目線の先……

 チョウもセドリックは頑張っていたが、優勢とは言えなかった。机が次々と溶けてなくなり、大熊の炎も最初ほど燃え盛っていない。

 反対に死喰い人が出す炎の勢いは、増すばかりだ。

 このままじゃ危ない!

 助太刀に行こうとしたハリーの腕を、しかしジニーが掴み、反対方向へと走らせた。

 

「ジニー! 二人を助けなくちゃ――」

 

 言い切る前に、ジニーはハリーの頬を引っ叩いた。

 分かっている。

 ああ、分かっているとも。

 あの二人はハリーよりもずっと優秀で、むしろハリーがいては、足手まといになるかもしれない。

 それでもハリーは、二人のところに行きたかった。

 だがジニーが、それを許さなかった。

 ハリーの腕を引き、新しい扉へと走った。

 

「ごめん、ジニー」

「いいってことよ、とは言わないわ。貸しにしとくわね」

「うん。でも、どうしてジニーがここに?」

「私だけじゃない。ショーンもルーナもいるわ! ルーナはネビルと双子の兄貴と一緒に、ショーンはハーマイオニーとロンと一緒に戦ってる」

「それは分かったけど、でもどうして!?」

「長い話になるんだけど――」

「ステューピファイ!」

「コンフリンゴ!」

 

 角を曲がったところで、死喰い人と出くわした。

 向こうは面食らったようで完全に出遅れていたが、ハリーとジニーは即座に魔法を唱えた。ハリーの呪文で失神した死喰い人が、ジニーの呪文で吹っ飛んで行く。間違いなく骨の二、三本は折れているだろう。

 ホッとしたのも束の間、直ぐに後ろから足音が聞こえてくる。

 ハリーとジニーは真横にあった部屋に入り、息を潜めた。二人とも肩で息をしていたため、呼吸音がうるさかったが、偶然にもここは逆転時計(タイムターナー)の保管室であり、時計の音で誤魔化された。

 

 二人は床に耳を当て、音を聞いた。

 足音は通り過ぎていったが、直ぐに出ない方がいいだろう。

 辺りを警戒しながら、ジニーが息を潜めて言った。

 

「あのね、ハリー。落ち着いて聞いて」

「なに?」

「闇祓いや先生達は助けに来れないわ。だから私達が代わりに来たの」

「なんだって?」

 

 ハリーは耳を疑った。

 誰も助けに来ない?

 そんな馬鹿な。

 それじゃあ、みんなはどうなる?

 何故助けに来れないのか――ハリーが聞くと、ジニーが渋い顔で答えた。

 

「ホグワーツが襲撃されたの」

「えっ、それってどういう――」

「誰もいなくなったホグワーツを、死喰い人が襲ったの。

 だから記者会見は途中で打ち切り、みんなホグワーツの方に行ってしまったわ。今コリンが呼びに行ってるけど、いつになるか……」

 

 絶望的な知らせだった。

 確かに今、ホグワーツの守りは手薄かもしれないが、攻撃する理由など何一つない。賢者の石もなければ、ハリーもいないのだから。つまり意味することは一つ――陽動だ。

 

「とにかく、今は行きましょう。暖炉まで行けば、ホグワーツに戻れるわ。貴方だけでも送り返さないと」

 

 肩を掴み、ハリーを立たせた。

 扉の前に立ち、息を潜めて辺りの様子をうかがう。

 何の音も聞こえない……

 

「誰もいなさそうね」

「それじゃあ行こう。1、2、さ――」

 

 「3」をハリーが言い終わる前に、強烈な破壊音が鳴り響いた。

 

「ああ、嘘でしょ神様のクソッタレ……」

 

 ジニーが嘆くのも無理はない。

 なにせ天井が壊れ、上から巨大な『脳みそ』が落ちて来たのだから――!

 脳みそと一緒にロン、ハーマイオニー、ショーンも落ちてくる。

 ロンは脳みそに絡み取られ身動きできないでいたが、ショーンとハーマイオニーは落下しながらも、死喰い人と戦っていた。

 

「さあ行って! ハリー!」

 

 ジニーがハリーを蹴っ飛ばして、部屋から出した。

 次の瞬間、ついに脳みそが地面に落ちた!

 轟音が鳴り響き、落石で扉は崩れ、中の様子はまったく分からなくなってしまった。

 

「――行かなくちゃ」

 

 ここまで全員が、ハリーのために戦った。

 彼らに勇敢さに報いる為には、何をすればいいのか――戻って共に戦う?

 違う。

 ハリーは逃げなくてはならない。

 例えそれがハリーが最も選びたくない選択肢であっても、ハリーは逃げなくてはならないのだ。

 それが、彼らの望みだから。

 

 故にハリーは走った。

 その途中悲鳴や戦いの音が聞こえても、ハリーは走り続けた。

 悔しくて涙が出ても、後悔で何度も振り返りそうになっても、ハリーは走った。

 走って、走って、走って――

 気がつけば『神秘部』を抜け、暖炉がある大ホールにたどり着いていた。

 何処をどう走ったのか、まったく分からない。

 

「はあ、はあ、はあ……ホグワーツ行きの暖炉はどれだ?」

 

 暖炉がたくさん並んでいて、どれがホグワーツ行きの暖炉だったか思い出せない。

 こんなところで足踏みなどしてる場合ではないのに!

 

「教えてあげようか?」

 

 すると、声が聞こえた。

 まるで今から歌でも歌うかのように上機嫌な声が。

 ――コツン、コツン。

 次に、大理石を歩いてくる音が聞こえてくる。

 

 魔法省の中を悠然と歩く“ソイツ”を見た瞬間、ハリーの中の血が爆発した。

 身体中が、火でもつけられたみたいに熱い!

 ひたいの傷も、狂ったように痛み出した!

 体が告げているのだ! 目の前に立つ“ソイツ”こそが己が宿敵だと! みんなが必死にハリーをここへたどり着かせてくれたのは、“ソイツ”を倒すためだったのだと!

 ハリーは“ソイツ”の名を口に出した。誰もが畏れる、その名を!

 

「ヴォルデモート――!」

「やあポッター。ご機嫌麗しゅう」

 

 ヴォルデモートが、人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。

 まるで古くからの知人の様に、ハリーを見ている。

 

「エクスペリアームス!」

 

 ハリーは今までにないくらいの速度で、『武装解除』を撃った。

 ヴォルデモートは一切の抵抗もせず、それを受けた。

 それどころか呪文の効果で杖が放物線を描いて飛んで行くのを、呑気に眺めている。しかも手を叩いて、ハリーを褒めた。

 

「お見ごと」

「馬鹿にするな!」

 

 ヴォルデモートに大股で詰め寄り、その場で押し倒す。

 ハリーは馬乗りになり、喉元に杖を突きつけた。

 しかしそんな状況にあって、ヴォルデモートの余裕はなくならない。

 

「僕を殺す?」

「ああ、お前が望むならそうしてやる!」

「それもいいだろうね。でもお忘れかな、この体は誰のものかを」

 

 ヴォルデモートの――というより若かりし頃のトム・リドルの――顔が歪み、シリウスの顔へと変化した。

 普段は魔法でトム・リドルの顔を貼り付けているが、実際は変わらずシリウスの体なのだ。

 ハリーは杖を突きつけたままだったが、先程までの激情がぱったりと消えたのが、ヴォルデモートには手に取るように分かった。

 

「はははははは! やはり弱いな、君は。こんなのが英雄だなんて、いっそ喜劇だよ!」

「黙れ!」

「黙らせてみなよ! 君の手でさ。まあ無理だろうがね!」

 

 またヴォルデモートは、大きな口を開いて笑い転げた。

 ハリーは杖を強く喉に突きつけ、ありったけの声で叫んだ。

 ――なんだ、何なのだこれは。

 ヴォルデモートの手には杖が握られておらず、ハリーの手にはある。体勢的に見ても、有利なのは明らかにハリーだ。それなのに、ハリーは追い詰められていた。自分の下で狂った様に笑うヴォルデモートが、心底不気味に思えた。

 これも、自分が弱いせいなのだろうか?

 ヴォルデモートの言うように、自分が弱いから――

 

「――昔に教えたはずじゃ、トム。『強さ』とは魔法の技量だけに使う言葉ではないと」

 

 ヴォルデモートの笑い声がピタリと止んだ。

 

「随分早かったじゃないですか、先生。やはりあの程度では、貴方の足止めにはなりませんでしたか」

 

 ドクン、とハリーの胸が高鳴った。

 手の節々にまで熱が満ち、先程までの弱い気持ちが消え、あり得ないほどの高揚感が駆け巡る。

 ほがらかに微笑む“彼”を見た瞬間、ハリーはここが世界一安全な場所にすら思えた。

 

 ――暖炉のすぐそばに、アルバス・ダンブルドアその人が立っていた。

 

 ダンブルドアは少しも恐れることなく、大股でヴォルデモートへと向かって行った。

 その足取りは、彼が老人であることを少しも感じさせない。

 むしろ今世紀最高の魔法使いという称号にふさわしく、パワーに満ち溢れている。

 

「両親の仇であるお主を憎む気持ちよりも、後見人であるシリウスを大切に思う気持ちが優った。ハリーが強い証拠じゃ」

「そう僕を笑わせてくれるな、ダンブルドア。腹がよじれそうだよ」

 

 口ではそう言いつつ、ヴォルデモートは少しも笑っていなかった。

 むしろ少しの油断もなく、ダンブルドアを見つめている。

 

「それじゃあ――ダンブルドアが言うには――強いハリー・ポッター。これを防いでみろ!」

 

 ヴォルデモートはハリーの袖を掴んだ。

 咄嗟のことで、ハリーの体は一瞬硬直した。

 その隙を見落とすヴォルデモートではない。箒を使わない飛行術で一気に天井まで飛び上がり、急降下してハリーを叩き落とす!

 

「アレストモメンタム!」

 

 地面に当たる直前、ダンブルドアが呪文を唱えると、ハリーの動きがピタリと止まった。

 否、止まっただけではない! ハリーの体は滑空し、ダンブルドアの隣に着地した。

 強烈な安心がハリーの体を包む。ダンブルドアの持つ力強く暖かい雰囲気が、ヴォルデモートの冷たい狂気から守っているのだ。

 

 ヴォルデモートは冷えた目でハリーを一瞥(いちべつ)してから、鋭い目をダンブルドアに向けた。そしてローブから、新しい杖を取り出す。先程ハリーが吹き飛ばした杖は、ダミーか予備だったらしい。

 

「そらみろ。貴様に守ってもらわねば、小僧は今の一撃で死んでいた。やはり弱いではないか」

「先程も言ったであろう。『強さ』とは魔法の技量にあらず。心の『強さ』にこそ相応しい言葉じゃ。ハリーは弱くない。むしろわしやお主なんかよりも、ずっと強い心を持っておる。取り消すのじゃ、トム。この子を弱いと嗤うことは、このわしが許さん」

「ハッ! 滑稽だなダンブルドア。例え心がどれほど強かろうと、力がなければ何も出来はしない!」

 

 ヴォルデモートが緑色の閃光を放った。

 その光の大きさと速さは、これまでハリーが見たどの呪文よりも強大だった。

 ダンブルドアが杖を振るうと、空中から黄金の戦士像が出現し、盾でそれを防いだ。戦士像はそこで止まらず、ヴォルデモートへと走っていき、剣で斬りつける。

 やった! とハリーは思った。

 しかしヴォルデモートはヒラリと身をかわし、半透明なベールで戦士像を包んだ。戦士像の動きは急にスローになり、遂には止まってしまう。

 止まった戦士像をヴォルデモートが杖で小突くと、あれほど頑丈そうだった戦士像は、飴細工のようにいとも簡単に砕けてしまった。

 

「悲しいことだダンブルドア。かつて貴様は、確実に僕――俺様よりも優れていた。

 しかし貴様は老い、俺様は若い姿で舞い戻った。全盛期を知っている俺様からすれば、力を失った貴様はいっそ哀れにすら映る」

 

 ヴォルデモートは飛翔し、魔法省の中心へと降り立った。

 両手を上げると、窓ガラスや水、果ては床までもが、呼応するように浮かび上がる。

 ヴォルデモートが唱えているのは、ハリーでも使える初級呪文――浮遊魔法だ。しかし彼ほどの技量があれば、それは必殺の魔法となる。

 

「死ね、老いぼれ」

 

 あらゆる物体が、高速でダンブルドアとハリーに襲いかかった!

 しかしダンブルドアは、簡単な杖の所作で、それを防いでしまう。

 全ての物体が空中で無に帰した。

 

「逆じゃよトム。わしが得難き物を手にし、お主が失ったのじゃ。

 もしも逆の立場であれば、お主はわしに立ち向かえるか? 傷ついた生徒を守りながら、格上の敵に立ち向かえるか?」

 

 今度はダンブルドアの番だった。

 新たに七体の黄金像が、ヴォルデモートを取り囲むように躍り出た。

 だが、ヴォルデモートも負けてはいない。

 飛翔魔法と『姿くらまし』、それからアバダ・ケダブラを乱発し、直ぐに像を瓦礫に変えてしまった。

 

 守る像のいなくなったダンブルドアを、ヴォルデモートが嗤いながら見据える。

 ダンブルドアはその圧に負けず、いや一層の迫力を持って押し返した。

 

「わしは立ち向かえる! むしろ喜んでこの役を引き受けようとも! これは心から言えることじゃ。何故じゃと思う?」

「しれたこと。貴様が偽善者だからだろう。足手まといを切り捨てられぬからよ!」

「否! 断じて否じゃ!」

 

 ダンブルドアの背後から、不死鳥の形をした黄金の炎が燃え上がった!

 呼応するように、ヴォルデモートの背後からも巨大な蛇の形をした暗黒の炎が燃え盛る!

 お互いが激突し、周囲を溶かし尽くす――!

 あまりの熱風でハリーは目を覆ったが、ダンブルドアとヴォルデモートはしっかりとお互いを見つめ合っていた。

 

「トム、わしはのう。夢のような時間を過ごした。ここ数年、本当に楽しい時を過ごさせてもらった。他ならぬ生徒達にじゃ。来年は何があるのかと考えただけで、ワクワクして寝れもせん。若かりし頃の理想――夢よりも、今の方がずっと楽しい証左じゃろう。

 そんな楽しいひと時を過ごさせてくれる生徒達のためなら、弱いわしはこんなにも勇敢になれる!

 歳ゆくことは人なら当たり前のこと、むしろ進歩じゃ! それを逸脱し不老となったお主は、停滞したに他ならん!」

 

 ダンブルドアの不死鳥がヴォルデモートの蛇を食い破り、ヴォルデモートへと飛翔した!

 今度こそ決まった! とハリーは思った。

 しかし寸前――ヴォルデモートは恐ろしいまでの速度で『姿くらまし』を練り上げ、ハリーの真隣へと『姿表し』したのだ!

 

 ヴォルデモートの杖が、ハリーへと向き、光った。

 その所作は流麗で、ハリーの身体能力を持ってしても、捉えることが出来ないはずだった。

 しかし、たしかにハリーは見た、聞いた。ヴォルデモートの口が開き――せせら笑うように言ったのを。

 

「ならば守ってみせろ」

 

 強い衝撃が響き――ハリーは何か、生暖かい物を全身にかぶった。

 血だ。

 おびただしいほどの血を、ハリーは浴びたのだ。

 だが、ハリーは少しも傷ついていなかった。

 ではこの血は、一体誰の……?

 

「グ、ウゥ……!」

「ダンブルドア先生!」

 

 ハリーを庇うように覆い被さっていたダンブルドア。

 その右腕――杖腕が、肘から切り落とされていた。












ダンブルドア「腕がとれた……っ!」
ハリー「腕の一本くらいなによ、人間には二本も腕があるのよ!」
ショーン「出番は?(´・∀・`)」

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