ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第6話 戦死

「ダンブルドア先生!」

「下がっておるのじゃ、ハリー!」

 

 ダンブルドアの右腕――世界一の右腕だ!

 それを、それを自分なんかのために!

 ハリーはとてつもない後悔に襲われた。

 やはりここに来るべきではなかったのだ。

 もし、もしもダンブルドア先生が――

 

 ――ダンブルドア先生が死んだら。

 

「下がっておれ!」

 

 ダンブルドアが左手を動かすと、ハリーは強い力で後ろの方に飛ばされた。

 先程までハリーが立っていた所に、ヴォルデモートの黒いオーラが広がる。

 ハリーの代わりにそれを受けたダンブルドアは、まるで木の葉の様に軽々と吹き飛んだ。

 

 痛みか、あるいは深手を負って動けないのか、その場でうずくまるダンブルドアに、ヴォルデモートが高笑いしながら近づく。

 残った左腕で、ダンブルドアは這うように逃げた。それをあざ笑うようにヴォルデモートが『姿表し』で近づき――あろうことか、ダンブルドアの頭を踏みつけた!

 仮にもかつての師であるダンブルドアを、足蹴にしたのだ!

 後悔や手加減など一切ない!

 あるのはかつての強者をいたぶる薄汚れた快楽のみ!

 

「ふははははは! やはり魔法の技量こそが唯一にして絶対の『強さ』よ。なあダンブルドア!」

 

 高笑いするヴォルデモートを見たハリーは血が出るほど歯をかみしめた。

 ダンブルドアの腕が切断されたとき、右腕と一緒に杖が飛んで行ってしまった。

 だから無抵抗に、ダンブルドアはやられているんだ!

 ヴォルデモートもそれを分かってて――!

 甚振っているんだ!

 偉大なダンブルドア先生を!

 

 ヴォルデモートに激昂する一方で、冷静なハリーが考える。

 杖は――いやダンブルドア先生の右腕はどこだ? 杖を持って行きさえすれば、ダンブルドア先生はまだ戦える、いや勝てる!

 

(杖……杖は、どこにある。杖さえあれば!)

 

 普段スニッチを探しているのが役に立った。ハリーの動体視力は、いとも簡単にダンブルドアの右腕を探し出したのだ。

 だが呼び寄せ呪文は唱えられない。ヴォルデモートに気づかれ、反対呪文で相殺されるのがオチだろう。

 その後彼は喜んで、右腕ごと杖を燃やすに違いない。

 どうすれば、どうすればヴォルデモートに気づかれないように杖を取れる?

 

 ――その時、ハリーは閃いた。

 たった一つの冴えた策を。

 

 賭けになる。

 大きな賭けに。

 しかしやらないわけにはいかない。

 ダンブルドアのために、そしてハリーをここまで導き、今も戦ってくれているみんなのために!

 

「ヴォルデモート! 僕が相手だ!」

 

 広間の中央へと、ハリーは躍り出た。

 ピタリと、ヴォルデモートの動きが止まる。

 本来のヴォルデモートなら、ハリーなど歯牙にもかけないだろう。杖をほんの少しだけ動かせば、ハリーなどたやすく倒せるのだから。

 しかし、それが彼には出来ない。

 何故ならハリーの手にはヴォルデモートが欲して止まない物――予言が握られているからだ。

 アレを壊す可能性がある間は、ハリーには手出しできない。

 

「ダンブルドア先生から離れろ。でなければ、これを叩き割る!」

「なるほど、考えたなポッター。この闇の帝王を脅すか」

「いいから離れろ!」

 

 ハリーが一瞬予言を砕き割るフリをすると、ヴォルデモートの目は予言に釘付けになった。

 いいぞ……その調子だ。もっとこっちを見ろ。

 ハリーは自分を必死に鼓舞した。

 これから起こる恐ろしいことに耐えるために……

 

 ――次の瞬間、ハリーは予言を空中に投げた!

 

 自分を守ってくれる唯一の盾を、ハリーは自ら手放したのだ。

 しかしその甲斐はあった。

 目論見通りヴォルデモートの目がハリーから外れ、空に浮く予言に移ったのだ。

 

「エクスペリアームス!」

 

 その隙を見逃さず、ハリーは武装解除を唱えた。

 ヴォルデモートがほとんど条件反射で、対抗呪文を唱える。

 しっかり準備して呪文を唱えたハリーと、咄嗟に唱えたヴォルデモート。

 本来ならハリーが勝つのだろう。だが両者では、実力に差があり過ぎる。ハリーの呪文は一瞬食らいついたものの、ヴォルデモートの呪文に打ち負けてしまった。

 

「プロテゴ!」

 

 盾呪文を唱え、ヴォルデモートの呪文を受け止める。

 万全の状態ではない呪文、しかも一度ハリーの武装解除とぶつかり合っている。にも関わらずヴォルデモートの呪文は、盾呪文ごとハリーを、彼方まで吹き飛ばした。

 

(これでいい……!)

 

 骨が軋み、芯から体が痛む。

 だがハリーは、笑った。

 これこそがハリーの策!

 迂闊にもヴォルデモートがハリーを飛ばした先――そこには、切断されたダンブルドアの右腕があった!

 ハリーが取りに行けないのなら、ヴォルデモートに運んでもらえばいい!

 弱らせたヴォルデモートの呪文に、自分を運ばせたのだ!

 

「貴様!」

 

 予言をキャッチしたヴォルデモートが、冷静さを取り戻し、ハリーの策に気がついた。

 飛翔魔法を使い、一気に距離を詰めてくる。

 

「エクスペリアームス!」

 

 ヴォルデモートの呪文が、ハリーから杖を奪った。

 杖は宙を舞い、ヴォルデモートの手の中に収まってしまった。

 

 飛翔魔法の勢いのままヴォルデモートがハリーの胸ぐらを掴み、その場に押し倒した。

 喉元に、杖が突きつけられる。

 まさに絶体絶命。

 勝利を確信したヴォルデモートは笑い、遠くで見ているダンブルドアでさえが負けを悟った。

 

 しかしハリーは、それでもなお余裕だった。

 

「さっきと逆だな、ヴォルデモート」

「なに?」

「こうなってよく分かったよ。お前は有利なようで、全然有利じゃない。僕を倒すことしか考えられないからだ」

「貴様、どういう意味だ……」

「お前が今吹き飛ばした杖を見てみろ!」

 

 ヴォルデモートは、先程ハリーから奪った杖を見た。

 ダンブルドアの杖ではない……

 最初にハリーにわざと取らせた、自分のダミーの杖!

 

「お前の『負け』だヴォルデモート! 僕の『勝ち』だ!」

「ぬぅ――!」

 

 本物の杖はどこにあるのか……?

 聞くまでもない。

 誰にでも簡単に使える初級呪文――浮遊魔法。

 それをハリーが使えぬ道理はない。

 背後に強い気配を感じ、ヴォルデモートは冷や汗をかいた。

 

 ――ヴォルデモートの背後に、杖を持ったダンブルドアが立っていた。

 

 先程ヴォルデモートに攻撃され、全身傷だらけだが、その全身からは前よりも一層エネルギーが迸っている。

 何故立てる?

 人を壊すには十分の攻撃を与えたはずだ。

 それなのに何故――

 これが精神の『強さ』だとでも言うのか……?

 

「左様。お主の負けじゃよ」

 

 ダンブルドアの言葉は静かだった。

 しかしヴォルデモートでさえ総毛立つような、確かな恐ろしさを感じさせた。

 

「アバダ――」

「エクスペリアームス!」

 

 ヴォルデモートの体は宙を舞い、床に激突した。

 いかな不老である闇の帝王とて、体は人間のそれだ。

 ダンブルドアの全力の一撃に耐えられるはずもない。

 

 強い衝撃で予言を手放してしまい――床に落ちて予言は砕けてしまった。

 

「手を貸そうか、ハリー」

「いえ、大丈夫です。自分で立てます」

 

 自力で立ち上がり、ヴォルデモートへ杖を向ける。

 ダンブルドアも今度は「下がれ」とは言わなかった。

 もう守られる存在ではない。ハリーはダンブルドアの肩を並べて戦う強者へと、進化したのだ。

 

「おのれ! ――おのれおのれおのれッ! 許さんぞポッター!」

 

 全身から憎悪を溢れさせながら、ヴォルデモートが立ち上がる。

 もう予言は失われた。

 敵は二人。

 力もかなり消費している。

 しかし、引くわけにはいかない。

 偉大なる闇の帝王である己が、たかが15の小僧に負けたまま、引き下がるわけにはいかないのだ!

 そしてダンブルドアの言う精神の『強さ』などは戯事だと、己の信じる『強さ』こそが真の『強さ』であると、証明しなくてはならない!

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

 ――ヴォルデモート卿の魔法が炸裂した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 三人の戦いは熾烈を極めた。

 ダンブルドアの呪文が舞い、ハリーが駆け、ヴォルデモートの閃光が照らす。

 このまま戦い合えば、どちらが勝者なのか分からなかっただろう。

 しかし決着はついた。

 当人達の手ではなく、第三者の手によって。

 

「我が君!」

 

 死喰い人を引き連れたバーテミウス・クラウチ・ジュニアが乱入した。

 最初ヴォルデモートは鬱陶しそうにクラウチを見たが、しかし彼の手に握られているそれを見て、表情を綻ばす。

 セドリック、チョウ!

 ロン、ハーマイオニー!

 ネビル!

 ルーナ、ジニー、コリン!

 フレッド、ジョージ!

 全員捕らえられている!

 

 ……いや、全員じゃない。

 ショーンは?

 彼は一体どうしたのだろうか?

 まさか――

 

 最悪の予感がよぎったが、ハリーはそれを慌てて否定した。

 きっと何処かに隠れて、機会を伺っているだけだ……

 そうに違いない。

 彼がそんなに簡単にやられるものか!

 しかしそんなハリーの願いは、ヴォルデモートの問いによって否定されることになる。

 

「……一人足りぬようだが、あいつはどうした?」

「死にました」

 

 ショーンが、死んだ……?

 そんな馬鹿な!

 違う! と否定してほしかった。

 死喰い人の嘘だと、そう言ってほしかった。

 しかし全員が泣くばかりで、何も言ってはくれない。

 

「嘘だ!」

「嘘ではない。あの小僧はコイツを庇い――」

 

 死喰い人はハーマイオニーを指差した。

 

「我が呪いを受け、吹き飛んだ。不幸なことに、奴が飛んだ先にあったのはタイムターナーの保管庫であった。小僧が着地した衝撃でタイムターナーは一斉に起動し、小僧ははるか過去へと飛ばされた。あそこには年単位の物まで保管されている。100年や200年ではきかぬだろう。つまり、戻ってくる可能性はゼロだ」

 

 ショーン達が戦っていたのは、確かにタイムターナーの保管庫付近だった。

 辻褄は合っている。

 しかし、死体がないのも確かだ。

 まだクラウチの嘘かもしれない。

 だが冷静なハリーが囁く。

 忠実なしもべである死喰い人が、ヴォルデモートに嘘の報告をするだろうか、と。

 

 ハリーの思考を邪魔するように、ヴォルデモートは高笑いした。

 

「そうか、奴は死んだか!

 あの小僧は呪いにより、俺様でさえ手を出せぬ。しかしそうか、過去へと送ったか――なるほど、良い手だ。

 ドロホフ! 貴様には褒美を取らせよう」

「有難き光栄です」

「して、ダンブルドア。お主はこの状況をどう切り抜ける。多くの人質を前に、貴様がどうするのか、見ものだな」

 

 死喰い人達が、ダンブルドアを指差して笑った。

 悔しかった。

 実力では勝っているのに、こんな卑怯な手で負けるのが、ハリーはたまらなく悔しかった。

 

「いいや。時間切れじゃよ、トム」

 

 だがダンブルドアは、落ち着き払っていた。

 ダンブルドアの声と同時に、魔法省にあった暖炉が次々と燃え盛る。

 ルーピン、トンクス、ムーディー、ウィーズリー夫妻、キングズリー――不死鳥の騎士団の面々が勢ぞろいしていた。

 更には魔法省の役人や、闇祓いまでいるではないか。

 死喰い人達が一瞬たじろぐのを、ハリーは確かに見た。

 

「そんな、まさか――」

 

 沢山の護衛に囲まれたファッジが、ヴォルデモートを見て信じられないとばかりに目を見開いた。

 ファッジだけではない。

 魔法省勤の役人のほとんどが、ヴォルデモートを見て驚愕している。中には腰を抜かしてしまい、その場で倒れ込んでしまう者までいた。

 

「トム。今宵は引いたほうが賢明だと察するが、いかがかな?」

「そうだな……」

 

 ヴォルデモートの蛇のように鋭い目が、魔法省中を舐めた。

 

「お前との決着は、一対一でつけるとしよう。下手なケチが入ってはつまらん」

 

 ヴォルデモートがマントを翻すと、次の瞬間には消えてしまった。

 死喰い人達も主君を追って、次々と『姿くらまし』していく。

 最後の一人が消え去り――魔法省には再び沈黙が訪れた。

 長い長い、沈黙が。

 

 いつまで待っても、いつも沈黙を破ってくれるショーンは――姿を現さなかった。












ショーン「オイオイオイ……死んだぜ俺」
ジニー「ほう主人公抜き展開ですか……大したものですね」
コリン「なんでもいいけどよォ。相手はあのヴォルデモート卿だぜ?」

 というわけで6話でした。
 「ショーン・ハーツと偉大なる創設者達」は主人公が死んだので打ち切りです!
 次からは「ロナルド・ウィーズリーと偉大な偉業」スタート!
 ……とはならないんですね、残念ながら。
 あともう少しだけショーンの物語は続きます。

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