ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第5章 ショーン・ハーツと謎の日常
プロローグ


 産まれたときから、俺は普通じゃなかった。

 俺が産まれた時、最初の産声で病院のベッドが吹き飛んだそうだ。

 生後一週間もする頃には歩ける様になって、空も飛べたらしい。

 人には見えない幽霊が見えたし、動物の声も聞こえていたのだとか。

 この頃になるともう自我が芽生えていたから、その後の記憶はよく覚えている。

 成長するのも、他の子供と比べてずっと速かったのだ。

 

 ……同時に俺は、両親と別れるのもずっと速かった。

 

 俺と両親との間に決定的な差が出来てしまったのは、ある日のなんてことない休日だ。

 母さんは久しぶりに、腕によりをかけて料理していた。

 出張の仕事が多かった父さんが珍しく早く帰ってくるとか、そんな理由だったと思う。

 その時母さんはうっかり、包丁を落としてしまった。

 あっ、と思った。拾ってあげなきゃって、そう思ったんだ。

 その時包丁がひとりでに持ち上がって、勢い良く天井に突き刺さった。

 包丁だけじゃない。

 家にあった家具全部が、全て天井に突き刺さっていた。

 

「もういや!」

 

 母さんはその場にうずくまって、震えながら叫んだ。

 その時、俺はどうしていいか分からなくて、つい母さんの前で幽霊に話しかけてしまった。

 母さんは俺が幽霊に話しかけることを、とても嫌がっていたのに。

 

 次の日から俺は、ハーツ家の子供じゃなくなった。

 

 最初は俺も落ち込んだ。

 俺に怯えてはいたけど、母さんも父さんも、優しい時もあったんだ。

 それに俺は、両親と幽霊以外の人を知らなかった。

 母さんが決して、他の子供に俺を近づけなかったからだ。他の人にどう接していいか、分からなかった。

 分からないことは、怖かった。

 

 孤児院に入れられた俺は、その時初めて同世代の子供達と話した。

 最初はまあ、怯えてたよ。

 よく泣いたりもしたらしい。

 だけど次第に俺は、調子に乗っていった。

 実際、俺には簡単に出来ることが、他の子供には出来なかったんだ。

 自分がとても特別な存在だと、思うようになった。

 幽霊達は俺を注意していたけど、その時の俺は、聞く耳を持っちゃいなかった。

 

「ばーか」

 

 路地裏で、俺は自分よりも一回りも大きい青年達を殴りつけていた。

 その頃にはぼんやりと、自分の中の力を制御しつつあったと思う。

 とにかくそれを使えば、喧嘩で負けることは絶対になかった。

 

 最後の一人が喋れなくなったところで、俺は飽きた。

 気絶した青年達の服を全て脱がし、金目の物を除いて川へと捨てる。ついでに素足になった青年達の周りに、破れた空き瓶をばら撒いた。

 いつも威張り散らしてる奴等が裸で助けを求めるのは、愉快だと思った。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 見兼ねた幽霊の一人が、たまらず話しかてくる。

 煩わしい。

 俺は無視した。

 幽霊の一人が少し泣きそうになっていたが、それでも俺の肩を掴んできた。

 何故かは知らないが、俺はそれが凄く煩わしいと感じた。

 

「いたっ……!」

 

 幽霊の腕を、掴む。

 当時の俺の腕力は、凄まじいものがあった。

 ちょっと手に力を込めれば、幽霊の細腕くらい簡単に折れただろう。

 

「おい。勝手に俺の身体に取り憑いてる居候の癖に、口出ししてんじゃねえよ。家賃の一つでも払ってから意見しろ、クズ」

 

 更に強い力を込めた。

 また別の幽霊が、それを止める。

 

「そこまでだ。流石にやりすぎだよ、ショーン」

「はっ! 何がだよ。何がやり過ぎなんだ。言ってみろ」

 

 幽霊と睨み合う。

 殺してやろうか、というドス黒い感情が俺の中に渦巻くのを感じた。

 

「い、いいんですゴドリック。大丈夫、私が悪いんです」

 

 それを止めたのは、俺が腕を掴んだままの幽霊だった。

 彼女は痛みを堪えながら、下手くそな作り笑いをした。

 

「気は済みましたか、ショーン。それともまだ……?」

 

 急激に熱が冷めていく。

 さっきまでの激情が、嘘の様に消えた。

 消化不良を起こした感情が、ぷすぷすと残っているだけで、後は何もなかった。

 

 下らない。

 何もかもが下らなかった。

 まったく、本当に下らない。

 俺は路地裏を後にした。

 

 俺が人生を変えてくれた恩人に会うのは、もう少し後の話である。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 目が覚めた時、ショーンはこの世の誰よりみじめな気持ちだった。

 さっき夢で見たのは、これまでの人生の中で最も恥じている記憶だ。

 もう長いこと忘れていたのに、今さら見るなんて……。

 きっと今日が暑いせいだ。

 汗で服がベトベトだし、息苦しい。

 今のショーンより顔色が悪い奴なんて、きっと血みどろ男爵くらいのものだろう。

 

 今年の夏休みは、例年よりも更に暑かった。

 誰かとんでもない奴が浮遊呪文で地球をちょっと太陽に近づけたんじゃ、と思うほどだ。

 この暑さでダンブルドアがとち狂って、南極と北極に肥大呪文をかけてくれたらいいのに。

 最悪ヴォルデモートが、太陽にクルーシオかアバダ・ケダブラを唱えるんでもいい。農家の人はちょっと困るかもしれないが、大体の人間がヴォルデモートに感謝するだろう。もちろん、ショーンだって感謝する。お世辞に彼の髪型を褒めてもいいくらいだ。熱心なイエズス会の信者なんですね、と。

 

 ふと、良い匂いが鼻をくすぐった。

 誰かが朝食を作っているようだ。

 普段ショーンが起きるのはみんながとっくに朝食を食べ終わった後なので、なんだか新鮮な気分だった。

 

 今日くらいは早めに起きてみよう。

 ショーンは体に力を入れて、起き上がろうとした。

 

「プギャ!」

 

 膝に、何か柔らかい物が当たった。

 それは正しくロウェナの鼻だった。

 どうやら彼女は、ショーンの寝顔を、ベッド脇に座って眺めていたらしい。

 

「は、鼻が折れました。割とマジで」

「もげれば良かったのにな」

「鼻がなくなれば、貴様のその顔も多少はマシになっただろう」

「いやいや、鼻がなかったらもうオークじゃないですか。それに私、元から絶世の美女ですから」

「絶世の美女(笑)」

「なんですか、その馬鹿にした態度は! 大体サラザール、貴方の顔はどうなんですか!? それこそ高貴(笑)でしょう!」

「なんだと貴様!」

「やりますか?」

「いいだろう」

 

 二人とも取っ組み合いを始めたが、運動神経がへなちょこ過ぎて、見れたものではなかった。

 

「痛い痛い痛い! 髪を引っ張らないで下さい!」

「き、貴様こそ! 私の鼻に指を突っ込むな!」

 

 この光景をスリザリンとレイブンクローの寮生が見たらどう思うのか、ショーンはかなり気になった。

 少なくともショーンだったら、レイブンクローに置いてあるロウェナ像を壊すだろう。

 

「おはようございます、ショーン。今日は随分とお早いようで」

「おはよう、ヘルガ。こんなに気持ちがいい朝に寝坊してたら、もったいないだろう?」

「そのセリフは、とってもあなたに似合いませんね」

 

 ヘルガがクスクスと笑った。

 

「ゴドリックは?」

「あそこですよ」

 

 ゴドリックは窓辺に座って、鼻歌を歌っていた。

 小鳥が集まり、一緒に歌っている。

 非常に絵になっていたので、ショーンはなんとなく腹が立ち、ゴドリックを窓から落っことした。

 

「よし、爽やかな朝だな」

「爽やかとは大分かけ離れていると思いますが……」

「たしかに。まだ顔を洗ってなかった」

「そういう意味で申したのではありませんが。でもたしかに、いい朝ですわ」

 

 ショーンとヘルガが笑い合っていると、ロウェナが横から割って入った。

 

「はいそこぉー! 私抜きで会話を楽しまないで下さいね。私も仲間に入れて下さい」

「嫌だよ。お前臭いもん」

「えぇっ!? く、臭くありませんよ。臭く、ありませんよね?」

「臭くはないが、カビの生えたような臭いがするな」

「それを臭いって言うんですよ! えっ、ちょっと、やだ。本当に?」

 

 自分の身体を慌てて嗅ぐロウェナを見て、サラザールは鼻の位置を直しながらふんと笑った。

 

 その横で窓から、ゴドリックが戻ってきた。

 彼の脚力なら、その程度容易い事だろう。

 

「あのね。僕相手だからって、何をしてもいいってわけじゃないんだよ?」

「オーケー。窓から蹴落とすのは、大丈夫な範疇だよな?」

「ダメだよ。女の子以外から蹴られる趣味はない」

「ゴドリック、朝から下品な会話は控えるように」

「分かったよお母さん」

「わたくしはお母さんではありません!」

 

 ヘルガがぴしゃりと言った。

 ともかく、これでいつも通り五人が揃った。

 そろそろ朝ごはんを食べに行こう、と思った時、部屋のドアが吹き飛んだ。

 

「遊びに行くわよ!」

 

 入ってきたのは、ジニーだった。

 ホグワーツの教育は、彼女にノックの作法とドアノブの存在を教えなかったらしい。

 家に遊びに来る時、ジニーはいつもドアを蹴飛ばした。

 

「行ってらっしゃい」

「うん。行って来るわね!」

 

 ジニーは爽やかに返事を返した後、部屋を出て行った。

 三秒くらい間を置いてから、またもジニーがドアを蹴っ飛ばして入ってきた。

 

「ってなんでよ! あんたも一緒に行くのよ!」

「なんだ、今から遊びに行くって報告に来たんじゃないのか」

「どんな報告! どんな報告!?」

「何故二回……」

 

 ヘルガがもっともな疑問を口にした。

 しかし、ジニーに聞こえるはずもない。

 

「つーかお前、ドア蹴っ飛ばすなよ」

「嫌よ」

「嫌なのかよ」

 

 両手を組んで仁王立ちするいつものポーズをしながら、ジニーは鼻を鳴らした。

 ショーンはドアに近寄り、壊れてる所がないか調べている。

 

「おーよしよし。痛かったでちゅねー。ジニーちゃんは乱暴でいやでちゅね」

「あんた、どんだけドアに愛着持ってんのよ」

「名前はダニエルだ」

「ペットか」

「特技はお手」

「どこに手があんのよ。長方形じゃない」

「ドアノブがあるだろ」

「手短いわね、ダニエル」

「そこがまた可愛いんだ」

「長かったら困るじゃない。開ける時毎回ドアノブがつっかえるわよ」

「ジニーちゃんは屁理屈ばっかでいやでちゅね〜」

「困ったら『赤ん坊をあやしてるモード』になんの止めなさいよ。腹立たしい」

「あー、腹減ったな」

「ダニエルに飽きてんじゃないわよ。でもたしかに、お腹は空いたわね」

 

 ショーンとジニーは、部屋を出て二階に降りた。

 昔はバイトの為に『漏れ鍋』にいたショーンだが、それももう必要なくなったので、今は孤児院に住んでいる。

 孤児院は現在、リフォーム中だ。

 ショーンは自分の分け前のほとんどを、孤児院の再建に当てた。

 

「おはようございます、うぃーずりーさん。それから、兄さんも」

「おはようアナ!」

 

 下に降りると、ショーンの妹分であるアナが出迎えてくれた。

 何故かは分からないが、アナは無表情で荒ぶる鷹のポーズをしていた。

 それを受けて、何故かジニーも荒ぶる鷹のポーズで返している。

 どうやら二人の挨拶はこれらしい。

 いつの間にジニーと仲良くなったのか。妹がジニーの悪影響を受けるんじゃないかと、兄は少し心配だった。

 

「朝食はもうご用意出来ていますよ。今すぐお召し上がりになりますか? それとも、ご夕食の後で?」

「夕食の後で食べたら、それもう朝食じゃないだろ」

 

 席には、当たり前のようにジニーの分のご飯が置かれていた。

 これだけで毎日のように彼女が遊びに来ていることがわかる。

 

「今日のメニューはサンドウィッチね。いいじゃない!」

「付け合わせに満漢全席はいかがですか?」

「付け合わせ過ぎだろ。机が埋まるわ」

 

 三人は早速、サンドウィッチを頬張った。

 ハムと卵とレタスの、シンプルなものだ。

 だがそのシンプルさが、朝にはちょうどいい。

 丁寧にパンに塗られたマスタードが、また食欲をそそる。

 

「見てください、兄さん」

「ん?」

「私サンド」

 

 アナはパンを自分の両頬に当ててみせた。

 久しぶりに、ショーンはなんと返していいか分からなかった。

 

「兄さん」

「はい」

「食べごろですよ」

「女の子がそんなこと言っちゃいけません」

「兄さん……私のこと、女の子として見ていたんですね。いやーん」

 

 アナは身体をクネクネさせた。

 もちろん、相変わらず無表情である。

 なんだかワカメみたいだ、とショーンは思った。

 

「アナ、あんた頬っぺたにマスタードがついちゃってるじゃない」

「本当ですね。一体いつ付着したのでしょうか」

「間違いなく今さっきだろ」

「ほら、拭いてあげるからこっちに来なさい」

「食事中にジニーに近づいちゃいけません。ばっちいよ」

「ばっちくないわよ!」

「兄さん……うぃーずりーさんのこと、ばっちく思ってたんですね。いえーい」

「何がいえーいなのよ!」

「あ、うぃーずりーさん」

「なによ」

「鼻にれたすを突っ込んでもいいですか?」

「会話の脈絡なしか。いいわけないでしょ」

「そ、そんな!? 何故ですか!?」

「どんだけショック受けてんのよ! つーかなんでよ!」

「お顔の彩りを整えて差し上げようかと思いまして」

「料理か、私の顔は」

「さあ、今日も始まりました。あなの三分くっきんぐのお時間です」

「なんか始まった」

「今日はじにー・うぃーずりーさんを作っていこうと思います。助手のにいさ――ショーンさん、お願いします」

「はい。よろしくお願いします」

「順応が早い!」

「先ずはうぃーずりーさんの鼻にれたすを突っ込みます。助手さん、お願いします」

「かしこまりました」

「ちょ、やめ! やめなさいよ! 羽交い締めにするんじゃないわよ! 鼻にレタスを突っこ、本当にそれ以上はやめなさい! いい加減にしなさいよ、このバカ兄妹!」

 

 本気を出したジニーに、ショーンとアナは二人揃って投げ飛ばされた。

 魔法使いだからか、ショーンより腕は細いのに、ジニーの方が力は強い。昔教科書で読んだ、トロールは雄より雌の方が強いという記事がショーンの頭に浮かんだ。

 

 ともあれ、今日はセドリック、ジョージ、フレッドの卒業パーティーの日だ。

 爽やかな朝をいつまでも楽しんでいる時間はない。

 二人は色々なパーティーグッズを買い込むために、ダイアゴン横丁へ出かけた。







【オマケ・ショーン・ハーツとジニー・ウィーズリーが絶対にしてはいけないことリスト】
第1条 ダンブルドア校長の言う「疑わしきは罰せずじゃよ」はカンニング推奨という意味ではありません。
第2条 「ショーンと行くアズカバン探索ツアー」の参加者を募ってはならない。
第3条 アンブリッジ元教授の面会に行くことは「ショーンと行くアズカバン探索ツアー」が正当化される理由にはなりません。
第4条 新入生歓迎会の出し物としてストリップやポールダンスの類はふさわしくありません。
第5条 マクゴナガル教授の説教に対して「でもクィディッチのためなんです」は絶対にやめて下さい。減点制度を見直す必要がでてきます。
第6条 マグル生まれの子供に宛てたホグワーツからの招待状に『ちびっこわんぱく幼稚園からの招待状』と書いたせいで、マクゴナガル教授は大変な苦労を強いられました。
第7条 食堂のシャンデリアをピンク色にしてはならない。
第8条 ハグリッド森番に架空の動物情報を教えて探しに行かせてはならない。
第9条 ルーナ・ラブグット女史がいると言っていてもです。
第10条 「減点されずにできる100のイタズラ」なる小冊子を販売してはならない。
第11条 その本に書かれたイタズラを罰する方法をスネイプ教授に売るのも禁止です。
第12条 スネイプ教授の嫌味に対する正しい答えは、少なくとも「もう少しユーモアを勉強した方がいいんじゃないか?」ではありません。
第13条 貴方のステーキに対する愛は分かりましたが、ステーキを独占したいからと言って、食事中に不衛生・食中毒・放射能などの言葉を発してはいけません。
第14条 ホグワーツ生全員の写真を撮り、勝手にミスコンを開いてはならない。
第15条 グリフィンドール談話室を「対・ゴジラ用」にしてはならない。
第16条 「廊下で魔法を使ってはならない」という校則は、廊下で殴り合いの喧嘩をする正当な理由にはなりません。
第17条 新入生が規則を破ってしまい、かつそのことが先生方に発覚していた場合、かける相応しい言葉は「3ガリオンで無罪にしてやろう」ではありません。
第18条 第17条は値下げの要求ではありません。
第19条 フィルチ管理人が「このトロフィーをピカピカにしておけ」という罰則を下した場合、それはピカピカになるまで磨いておけという意味であり、電飾を飾り付けろという意味ではありません。
第20条 ホグワーツは、あなた方がスリザリン寮の場所を特定するために、架空の防災訓練を開いたことを重く見ています。


※破るとセドリックの給料が減ります。

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