ホグワーツ特急の車内販売の魔女は190年前から同じ人。
走行中に降りようとした生徒を止める役割がある。
シリウスやジェームズ、フレッドとジョージなどがお世話になった。
(ハリー・ポッターと呪いの子より)
グリフィンドールの四年生ケニー・ジーンは、ちょっとした有頂天気分だった。
彼は一年生の頃から、同じくグリフィンドールに組み分けされたある女の子に好意を寄せていた。
女の子の名前はロミルダ・ベイン。
同世代の女子グループではリーダー的な存在だ。
しかし彼女は、どちらかと言えば内気な性格のケニーとは住む世界が違った。
気になりながらも声を掛けられない。目で追うだけの生活が、長い間続いた。
転機が訪れたのは、魔法薬学の授業でのことだ。
取り巻きの女の子とペアを組んでいたロミルダは談笑に夢中になるあまり、まったく魔法薬を作ろうとしなかった――どころか、声のボリュームが大きくなりすぎてスネイプの講義を邪魔さえしている始末だった。
とうとうブチ切れたスネイプはロミルダのペアを解散させ、近くに座っていたケニーとペアを組ませた。
そんな幸運がきっかけになり、ケニーはロミルダとちょっとした顔見知りくらいにはなることが出来た。
ロミルダは頭がそこまで良くない。
というか、はっきり言って馬鹿だ。
頭の中には恋愛とファッション、それからチョコレートのことしか頭に入っていない。
ケニー自身そこまで成績が良い方ではないが、ロミルダに比べればずっといい。そんなわけで魔法薬学の授業ではいつも、ロミルダに頼られていた。それが嬉しくて、ケニーは魔法薬学の予習・復習は欠かさずこなす様になったほどだ。
そんな努力の甲斐あってか、ロミルダの中での評価が“授業でペアを組まされる人”から“頼りになる頭の良いやつ”くらいにはなることができた。
そして今日。
つまり新学期が始まり、ホグワーツ行きの超特急に乗る日。
まだ取り巻きの女の子達と会う前の、一人きりのロミルダと偶然にも出会うことができた。
ケニーは早朝から来て列車の前をずっとウロウロしていたが、あくまで偶然に、である。
なんとか勇気を出して、一緒のコンパートメントに座ろうと誘いの言葉をかけることができた。
自分の心臓が変身呪文でウサギにでも変えられてしまったのかと思うくらい飛び跳ねるのを、ケニーは感じた。
「ええ、いいわよ」
永遠とも言える一瞬の後、ロミルダはオッケーを出してくれた。
しかもロミルダは夏休みの宿題をまるっきりやってないらしく、一緒にやろうということで、二人でコンパートメントを占領する事になった。
二度目になるがロミルダは女の子グループのリーダー的存在だ。
彼女に逆らえるのは、グリフィンドールでもほんの一握りしかいない。
ホグワーツまで二人っきりになることは、ほとんど間違いなかった。
偶然コンパートメントの前を通りがかった友達と目があったとき、思わずウィンクするくらいにはケニーは舞い上がっていたのである。
「それにしても、うるさいわね。となり」
ロミルダの言葉に、ケニーは素直に同意した。
隣のコンパートメントの連中は、気が狂っているか、漏れ鍋で何か良くないものを引っ掛けて来たとしか思えなかった。
笑い声も大きいし、時折何かが爆発する音や、殴りつけるような音まで聞こえてくる。
そろそろ注意した方がいいかもしれない、とケニーが思い始めた時、コンパートメントの扉が開いた。
「邪魔するぞ」
最悪だ……。
ケニーはそう思った。
訪ねてきたのは、スリザリンの六年生ブレーズ・ザビニだ。
元々黒人で身体能力が高い彼だが、ボクシングというマグルのスポーツをやっているらしく、相当ケンカが強いらしい。事実グリフィンドール生が何人か歯を折られているのを、ケニーは何度も見たことがあった。
しかも後ろには、クラップとゴイルを引き連れている。
彼らはザビニほど身体能力は高くないが、パワーは超一流だ。それに後先考える頭がないので、直ぐに手を出してくることでも有名である。
スリザリンでも特に最悪の三人が、揃って立っていた。
昔はここまで直接手を出してくれることはなかったが、『例のあの人』が復活して以来、スリザリン生は強気だ。特に、グリフィンドールに対して。
「ロミルダ・ベインだな?」
「……そう、ですけど」
「パンジーが呼んでる。一緒に来い」
パンジー・パーキンソンは、ロミルダがしょっちゅう陰口を叩いているスリザリン生だ。
どうしてかは知らないが、それがバレたらしい。
何を考えているのかは分からないが、少なくとも彼らが、ロミルダと一緒に楽しい列車の旅をしたくて呼びに来たわけではないことは確かだった。
ケニーの心臓は、ロミルダを誘った時とはまた別の方向で激しく鳴っていた。
良心と恋心が、恐怖と激しく戦っている。
しかし自分はグリフィンドール生だ。
グリフィンドールに選ばれた者なら、人生の何処かで一度は勇気を見せなくてはならない。
それが今だと、ロミルダの腕を無理矢理掴んだザビニを見て、ケニーは思った。
「あ、あの!」
……嘘だろ?
まだ何を言ったわけでもないのに、声を出した瞬間、その存在に今気づいたと言わんばかりにクラップがケニーを殴りつけた。
クラップの腕はケニーとロミルダの首を足したくらいある。
鼻がぐしゃりと潰れて、脳が揺れた。
その時初めて、ケニーは自分の骨格がどんな形をしているか自覚した。もっとも、少しも嬉しくはなかったが。
更に嬉しくないことに、ザビニの手際は非常に良かった。
あっという間に『沈黙呪文』をかけてロミルダを黙らせると、今度はケニーを押して、コンパートメントの奥へと放り込んだのだ。
扉の前には、クラップが立っている。
その奥にはまるで順番待ちでもしてるみたいに、ゴイルがいた。
説得も無理そうだ。
ザビニならともかく、クラップとゴイルに言葉を話す知能があるとはとても思えなかった。
もっと悪いことに、援軍も見込めない。
ロミルダの友達は女の子がほとんどだし、ケニーもそう友達が多い方じゃない。その数少ない友達も、ケニーがウィンクした時に、邪魔しちゃ悪いと遠くのコンパートメントに行ってしまったようだ。
いや近くに誰かいたとしても、この三人に対抗できる人なんてどれだけいるだろうか。
力と、親の権力。
勇猛な者が集まると言われるグリフィンドールでも、ごく僅かしかいないだろう。
ただでさえそうなのに、『例のあの人』が復活した今、死喰い人を親に持つ彼らに立ち向かえる生徒はもっと少なくなってしまった。
ジリジリと追い詰められるケニー。
狭いコンパートメントで、逃げられる場所は少なかった。
背中全部が壁にくっつく位へばり付いた時、また隣のコンパートメントからうるさい声が聞こえて来た。
呑気な奴らめ、とケニーはなんだか腹さえ立った。
珍しくクラップも意見があったらしい。
丸っこい拳を固めて、彼は壁を殴りつけた。
すると隣からも、壁を殴る音が返ってくる。
顔を真っ赤にしたクラップは、有りっ丈の力を込めて壁を殴り返した。
コンパートメント全体が揺れるような、凄い威力だ。
次はこれが顔面に飛んでくると思うと、ゾッとしない。
「……不味い。おい、クラップ! やめろ。今すぐやめろ!」
「なんでだ」
慌てたように、ザビニが止めた。
またもクラップと意見があってしまったが、ケニーも理由が分からなかった。
先生はここら辺には座ってないはずだが……。
「隣に、あいつらが座ってる!」
その答えは、直ぐに分かった。
隣のコンパートメントから、ドアを蹴っ飛ばす音がした。
その後、二人分の足音が聞こえてくる。
「うっさいわよ!」
やって来たのは、一つ歳上のジニーだった。後ろにはショーンもいる。
二人を見て、ケニーは心底ホッとした。
きっとロミルダもそうだろう。
グリフィンドールでもザビニ達に逆らえるのはごく僅かと言ったが、この二人はそのごく僅かに含まれる。
しかもこの二人は、その中でも最高の人選だった。
なにせ、荒っぽいことにめっぽう強い。
グリフィンドールではケンカが強かったり派手なことをすると英雄扱いされることが多いが、この二人はそういった人間達の頂点に位置している。
上級生の間では数々のトラブルを解決したハリー・ポッターが根強い人気を誇っているが、事実、下級生の間では数々のトラブルを起こしてきた二人がダントツ人気だ。
しかもこの二人には、権力や圧力が一切及ばない。
証拠はないが、アンブリッジを退学にさせたのはこの二人だというのが、もっぱらの噂だ。
魔法省の幹部でさえ辞めさせる力が、この二人にはある。
事実ザビニ達は、明らかに動揺していた。
「やめろよ、大人げねえな」
ショーンが話しかけると、ザビニは二歩下がった。
「……チッ。ショーン・ハーツとジニー・ウィーズリーか」
「なんでフルネーム呼びなのよ」
「つかそれより、なんだお前ら。俺らの寮の後輩にちょっかいかけてんのか?」
「お前らには、関係ないだろ」
「私達に関係ないことなんざ、ホグワーツにはないのよ」
とんでもない暴論だった。
しかしそれが、今は心強い。
「ウィーズリー、お前の父親は魔法省勤務だったよな。母に掛け合って、クビにしてもらう事だって出来るんだぞ」
「やってみたらいいじゃない。どうなるか、試してみたら」
ジニーが、サングラスを少しズラして睨んだ。
ザビニがまた一つ下がる。
「おま――」
クラップが何か言おうとしていた。
多分「お前ら」と言おうとしたのだろう。その後になんと続く予定だったのかは知らないが。
「遅えよ」
しかしそれより速く、ショーンがクラップを殴り飛ばした……のだと思う。手を出すのが速すぎて、ほとんど見えなかった。
力ではジニーに軍配が上がるが、すばしっこさとか手の速さではショーンが勝っているというのが、グリフィンドールでは通説だ。
クラップはすっぽり窓枠に収まってしまった。
これでは動けないだろう。
後はゴイルとザビニだけ、と思っていたケニーは、まだまだ甘かった。
「ヴォルデモートが復活したくらいで、私達より威張ってんじゃないわよ」
ジニーが、クラップの顔面を蹴っ飛ばした。
クラップが重すぎたのか、窓枠がもう古くなっていたのか、ジニーの蹴りが強すぎたのか。
ケニーとしては、ジニーの蹴りが強すぎだのだと思う。
何せクラップの顔に、はっきりと足跡がついていた。
窓枠が壊れて、クラップが窓の外に飛んでいった。
もちろん、ホグワーツ特急は変わらず進んでいる。
この速さの列車から人が落ちれば、どうなるかは明白だった。
ザビニは目を見開き、叫んだ。
「お、お前ら。人殺しだぞ!」
「お前も誘拐だろ」
「レベルが違う! 俺たちがしたことはちょっとした寮のイザコザで済むが、お前らアズカバン行きだ!」
「そうかもな。俺たちとしても、あんまり刑期を伸ばしたくない。とっとと失せろ」
ザビニは、戦意喪失したように見えた。
それも無理はない。
明らかに二人は強かったし、助けられてる立場のケニーから見ても頭のネジが飛んでいる。
噂以上に、噂通りの人物だった。
しかし会話の内容が理解出来なかったのか、もしくは友達であるクラップが殺されたことに怒ったのか、ゴイルがジニーに向かって突撃した。
ジニーの小さな身体が、物凄い音を立てて壁に押し付けられる。
しかしゴイルが優勢だったのは、そこまでだ。
ジニーがぶん殴ると、もっと凄い音を立ててゴイルが壁にぶつかった。頑丈な列車の壁が、ちょっと凹んだくらいだ。
「ぐぅ!」
そのままジニーは、片手でゴイルの顔を掴んで持ち上げた。
ゴイルは相当抵抗しているようだったが、ジニーの手はビクともしていない。
そのままジニーは、ゴイルを壊れた窓から放り投げてしまった。
嘘だろ……。
ケニーは僅か5分もしない間に、人が死ぬのを二回も見てしまった。
「クソがっ!」
今度はザビニが、ショーンに殴りかかった。
さっき戦意喪失したように見えたのは、演技だったのだろう。
いかにもスリザリンが使いそうな卑怯な手だったが、効果は抜群だ。事実ショーンは、ザビニの方をまったく見てなかった。
しかも素人目から見ても、ザビニの左は“キレて”いた。鋭い風を切る音が、はっきりと聞こえて来る。
それなのに、まるで後ろに目が付いてるみたいに、ショーンはひょいと屈んで避けてしまった。
屈んだままの体勢から。
ショーンはバク転をするみたいに器用に回転して、ザビニの顎を蹴り上げた。
「ショーン、そいつもこっちに寄越しなさいよ。窓から放り投げてやるわ」
「ひっ! く、クソ! お前ら覚えてろ!」
今度こそ、ザビニはロミルダを放り投げて逃げ出した。
その瞬間、ショーンがなんでかケニーの手を引いた。
くるりと場所が入れ替わり、そこにちょうどロミルダが倒れこんで来る。慌てて抱きとめると、ふわりと薔薇の匂いがした。
「んー! ん、んー!」
ロミルダにはまだ『無言呪文』がかかっていた。
口が接着されたみたいに開かない。
「ルーナ!」
「なにー?」
「ちょっとこっちに来て呪い解除してくれる?」
「いいよ〜」
ルーナが来て、ロミルダに掛かった呪いを解除してくれた。
しかし、どうしてこの人達はこんなに落ち着いてるんだろう。
ケニーは激しく疑問に思った。
いかにこの人達といえど、流石に殺人は不味い。
「心配ねえよ。いつも車内販売に来るおばちゃんいるだろ? あの人は本当の人じゃなくて、魔法なんだ。列車から人が落ちたら、必ずキャッチしてくれる」
「そうそう。何度かコリンで試したから、間違いないわ」
「そ、そうなんですか」
何がどうなったらそんなことを試す機会があるんだろうか。
ケニーは疑問に思ったが、決して口には出さなかった。
「ちょっと、そこのあんた」
「は、はい!」
「鼻が曲がっちゃってるじゃない」
ケニーの曲がった鼻を、ジニーは無理矢理元の形に直した。もちろん、素手で。鼻が取れなかったことは、この日起きた出来事の中で一番の幸運といって良かった。
確かに鼻の形は治ったが、痛みは倍だ。
正直ルーナに治して欲しかった。
そうじゃなくても、ホグワーツまで行けばマダム・ポンフリーがいる。
「ん。これで男前に戻ったわね!」
それでもそう言われると、不思議と悪い気はしなかった。
「じゃあ、またホグワーツでな」
「もうあんま絡まれるんじゃないわよ」
「あっ! 良かったら、ザ・クィブラー取ってね」
三人はコンパートメントを出て、戻っていった。
その時、遠くからかぼちゃジュースの瓶が飛んでくるのが見えた。恐らく、浮遊呪文で飛ばしたのだろう。
考えなくても、ザビニの最後の抵抗だということが分かった。
「ごちそうさん」
ショーンは後ろ手で瓶を掴んで、普通に飲み始めた。
やっぱりあの人は、後ろに目が付いてるとしか思えない。
「クールだわ、とっても……」
昔ハリー・ポッターを見ていた時みたいに、ロミルダがうっとりした顔で言った。
あれがクールなのだとしたら、目を後ろにつける魔法を覚えるところから始めなきゃいけない、とケニーは思った。
◇◇◇◇◇
「くっだらないことに体力使ったわねー!」
身体を伸ばしながら、ジニーが言った。
「でも本当にさ、最近のスリザリンはちょっと過激だよね」
ジニーの言葉にも、コリンの言葉にも、ショーンはうなずいた。
視界の端でサラザールが仏頂面しているが、それも分かるというものだ。ヴォルデモート復活以来、スリザリンは気品がいいとは言えなかった。
ショーンは簡単にあしらえるからいい。
昔はケンカ三昧だったショーンは、一年生の時目隠しした状態でバジリスクの攻撃を避けた事からも分かる通り、結構運動神経がいい。
ゴドリックがショーンの身体で動く度に筋肉痛になって超回復するせいで、昔より筋肉が増えた気もする。
そのショーンと同じくらい強いジニーも、ちょっとやそっとじゃ遅れを取らないだろう。
ただ他の生徒がみんなバジリスクの攻撃を目隠しした状態で避けれるかと言われると疑問だし、ゴドリックが取り憑いてるかと言われるともっと疑問だ。
「それより二人とも、もう少し魔法を使ったりしないの?」
「おっと。そう言えば俺たち、魔法使いだったな」
「あら本当ね。うっかりしてたわ。だけど一々呪文を唱えるより、直接ぶん殴った方が速いもの」
『無言呪文』を使えればまた違ったかもしれないが、そこはまだ習っていない。
一部のレイブンクロー生なんかは予習して使える奴もいるらしいが、この二人が予習なんかするわけがなかった。
「ま、そんな退屈なこと考えてもしゃーないわよ」
「確かに」
二人の頭から、ザビニ達のことは直ぐに抜け落ちた。
それより今年はホグワーツで何をするかで頭を埋めた方が、余程有意義というものだ。
「あっ、三人とも! 卒業パーティーの写真が現像し終わったんだ。見るよね?」
「見ない」
「そうね。あのことはもう二度と思い出したくないわ」
「私は見たいな。だって記憶が全然ないんだもん」
二人はパーティーの時のことを思い出して、ひやりと汗をかいた。
フレッドとジョージが持ってきたケーキを食べたセドリックが全裸になって外に飛び出したとき、闇祓い局に就職する予定が、アズカバンに就職しそうになりそうだった。
他にも誰かが持ち込んだポリジュース薬のせいで、全員の見た目がスネイプになったのも良くない出来事の一つだ。
お昼にスネイプに会ったショーンとジニーにしかスネイプの体の一部を手に入れることは出来ないはずだが、それはまた別の話だろう。
ハリーとコリンが
誰一人欠けることなくあのパーティーを乗り切れたのは、何故か参加してきたダンブルドアのお陰だろう。彼がいなければ、今年のホグワーツ特急には空席が目立っていたはずだ。
しかしダンブルドアがいたせいで、事態が悪化したのも事実だった。
「あっ! ジニー、良かったね」
写真を見ていたルーナが、一枚の写真をこっちに寄越す。
そこには愛の妙薬でおかしくなったハリーが、ジニーに抱きついているところが写っていた。
写真の中のジニーは、顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせている。目の前のジニーも、同じような感じだ。顔を手で覆って足をバタバタさせている。
ジニーがコリンにこの写真だけ焼き増しして欲しいと頼んでいたのを、ショーンは聞き逃さなかった。
「こっちは、グレンジャーさんとショーンの写真だね」
こっちには、酔っ払ったハーマイオニーがショーンに肩車されているところが写っている。
髪を引っ張られながら「あっちに行くわよ!」と指示されているショーンを見て、ショーンはショーンに同情した。
将来ハゲたら、責任の一端は間違いなくハーマイオニーにあるだろう。
やがて写真の中のショーンが疲れて「そろそろ止めないか?」と言ったら、ハーマイオニーが愚図り出してしまった。この後は頭の上からゲロをかけられた記憶があったので、ショーンは写真を返した。
ふと頭皮がむず痒くなった。
後でヘルガに頼んで、記憶を消してもらう必要があるかもしれない。
「あーーー!」
「うわっ! ど、どうしたのよルーナ。いきなり大声出すから、びっくりしたじゃない」
「窓の外にね。他の杉よりも、少しだけ高い杉が見えたんだ」
「そう。次からは、その報告しなくていいわよ」
「でもあの杉が見えるってことは、ホグワーツまで10分ないよ?」
「なんですって!?」
四人は全員、まだ荷物をコンパートメントに出しっ放しにしていたし、着替えてもいなかった。
「出て行くの面倒だから、お前らが着替えてる間もここにいていいか? 安心しろ、窓の外を見てるから」
「分かったわ」
ショーンはコリンの肩を抱いて引き寄せ、仲良く二人で窓辺に肘かけた。
「いいわけないでしょ、この馬鹿!」
そんな二人の背中を、ジニーが蹴っ飛ばす。
ホグワーツ特急から弾き出された二人は、地面に激突する前に、車内販売の魔女に拾われた。
列車を抜け出そうとした生徒は、ホグワーツに着くまで屋根の上で説教されるのが通例である。
事実、屋根の上にはまだクラップとゴイルがいた。
ショーン、コリン、クラップ、ゴイル。
よく分からない四人で、今年のホグワーツは始まった。
【ショーンとジニーが絶対にやってはいけないことリスト】
第41条 自分達と仲良くしてくれる友人を「錯乱呪文に掛けられているのかもしれない」と保健室に連れて行ってはならない。
第42条 クィディッチの試合の際、放送禁止用語がふんだんに織り込まれた自作の応援歌を勝手に歌ってはならない。
第43条 クィディッチの試合の際、ミスした相手のプレイヤーを指して「賄賂を渡す相手を間違えた。演技が下手くそだ」と言ってはならない。
第44条 たくさんの人種の生徒達を集め「それで、どこの国の宗教が一番優れてるんだ?」と言うのは絶対に止めて下さい。
第45条 トレローニー教授があなたのティーカップを見て「死相が出ていますわ!」と言った際「ああすみません、これはトレローニー教授を占った結果でした」と言って口喧嘩に勝ってはならない。
第46条 「今から彼と熱い夜を過ごすのよ」は、スネイプ教授に罰則で呼ばれたことを指す正確な表現とは言えません。
第47条 「激しかったわ」は罰則の厳しさを表す表現として、非常に不適切です。
第48条 新入生が問題を起こし、教授に説教されているのを見かけたとき「流石俺(私)の後継者」と言うのは、お願いですから止めて下さい。先生方に重大かつ無駄な緊張が走ります。
第49条 確かに議題の八割ほどがあなた方についてですが、あなた方が職員会議に「参考資料」として出席する必要はありません。
第50条 魔法薬学の授業中に危険な薬品を取り扱う際「あっ」と呟いてはならない。
第51条 毛皮製品に「Made from ミセス・ノリス」というタグをつけてはならない。
第52条 フリットウィック教授が「もう大人になってもいいのでは?」と言ったのは礼儀正しくしようという意図で言ったのであり、決して援助交際を申し出たわけではありません。
第53条 ショーン・ハーツの所謂「上目遣い」、ジニー・ウィーズリーの所謂「甘え声」は人体に重大な影響を与えます。二度とやらないでください。
第54条 「ホグワーツ城爆破計画」なる架空の計画の存在をほのめかし、先生方を疑心暗鬼にしてはならない。
第55条 実行するのはもっと駄目です。
第56条 はい、ホグワーツをリフォームする予定はありません。
第57条 突如スネイプ教授の言いつけを全て守り、優しく礼儀正しい生徒になってはならない。スネイプ教授はその日1日、何が起こるのか不安で眠れませんでした。
第58条 確かにマクゴナガル教授は“ネコ”の動物もどきですが、それは彼女が“受け”であることを示唆しているわけではありません。
第59条 エロイーズ・ミジョンに「早く保健室に行った方がいい。顔が物凄くブサイクになる呪文をかけられているぞ」と言ってはならない。
第60条 屋敷しもべ妖精に衣類を渡すことは「解雇」になりますが、衣類を奪うことは「採用」にはなりません。
※破るとセドリックが破かれます。