ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第14話 最後のクィディッチ 中編

 冬休みに入った。

 大抵の生徒が実家に帰る中、それはショーンも例外ではない。久しぶりに孤児院へと帰った。

 建て直しが進む孤児院を見たり、チャリティーイベントに参加したり、自室に戻るなり構って欲しそうな顔をしてるロウェナにパンチしたり、悪くない日々を送っている。少なくともハグリッドの小屋で出されるロックケーキよりは上等だ。

 

 しばらくゆっくりしているとウィーズリー家のふくろうが、建て直している最中の孤児院の柱に体全身でぶつかるという、あまり聞かない方法で『隠れ穴』からの招待状が届けてくれた。

 ふくろうは完全に伸びてしまっている。

 ひょっとして死んでしまったんじゃないかと心配すると、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。安心した、というよりは呆れるくらいだ。

 

 手紙を読んでみるとフレッドとジョージ、それからセドリックの休みが被ったからみんなで集まろう、という内容だった。行かない理由などない。例え自分の葬式があろうと『隠れ穴』を優先しようとショーンは思った。

 

 実際に行ってみるとウィーズリー家の面々はもちろん、主要メンバーはほとんど全員が集合していた。それどころか『不死鳥の騎士団』までいたくらいだ。残念ながら『死喰い人』一派はいなかったが。彼らがいたら最高に愉快なパーティーになっていたことは間違いないだろう。

 

「それで、最近のホグワーツはどうだい? まだヤンチャしてる?」

「ああ。俺はいつも止めてるんだけどな」

「止めてる? 馬鹿言わないでちょうだい。ここ六ヶ月の思い出と言ったら、半分はあなたがスネイプ先生の寝室をふっ飛ばすのを止めてること、もう半分はふっ飛ばした後の処理よ」

 

 今はみんなで昼食を取っていた。

 ショーンの周りにはセドリックとハーマイオニーがいた。向こうの席ではジニーがハリーに「あ〜ん」をしている。勢い余ってハリーを貫通してロンの喉まで突きそうだ。

 

「それじゃああんまり僕と変わらないな。ここ最近、闇祓いは忙しいよ。死喰い人が活発でね」

「あら、まだいいじゃない。この人は死喰い人以上よ」

「俺は死なんか食わないぞ。ステーキ喰い人だ。女喰い人でもいいけどな。襲ってやろうか?」

「ちょっと。フレッド、ジョージ! サンドウィッチに何を混ぜたの!?」

「レタスと」

「トマト」

「「それとハムだけだよ。これぞウィーズリー家秘伝のサンドウィッチレシピさ」」

「そう。じゃあ元からおかしいのね。知ってたけど」

「変わらないなあ、本当に」

 

 セドリックは懐かしむように微笑んだ。

 

「新聞を読んだよ。大変なことになってるみたいだね」

「いつ、どの新聞だ? 大変なことなんざ多すぎてな」

「本当によ。いっぺんこの人と付き合ってみるといいんだわ。そうすれば、聖母マリアだって三日も待たずに十戒を落とすってことがわかるでしょうよ」

「ははは。あー……なんというか、君たちはいつも楽しそうだね。そうじゃなくて、僕が言いたいのはクィディッチの話さ」

「それか。ま、スリザリンを潰す単純作業がちょっとは面白そうになったって感じだな。大したことはねーよ」

「流石だね。世界最高のクィディッチ選手が来るって聞いたら、普通はもっと慌てそうなものだ」

「世界最高のクィディッチ選手はクラムだよ。コノリーはあくまで世界最高のチェイサーだ」

 

 セドリック、ハリー、チョウの三人がかりでも止められなかったビクトール・クラム。

 世界戦でもクラムの強さは頭ひとつ抜けていたように感じた。

 

「それでも油断は禁物だよ」

「……回りくどいな。本題は?」

「流石! 察しがいいね。クィディッチやろう。みんなで。トレーニングだ!」

 

 セドリック。

 フレッド、ジョージ。

 チョウ・チャン。

 ハリー、ロン。

 ジニーにショーン。

 そして特別参加したデメルザ――各世代を代表するメンバーが揃っているのだ。そうならない方がおかしい。

 ショーンが頷くと、ほかのみんなも直ぐに同意した。

 

「ハーマイオニー、お前は審判な」

「いいわよ」

「こいつに有利なジャッジするんじゃないわよ」

「私は公平に審判します」

 

 ハーマイオニーはぴしゃりと言った。

 しかし、ジニーは懐疑的な顔をしている。ショーンが少しでも有利になりそうな要素は潰さないと気が済まないのだ。ついでに本人も潰してやりたいまである。

 

「で、ルールはどうすんのよ」

「ビーターとシーカーは抜き、キーパーも抜きでいいか。んで、4対4でいいんじゃね?」

「さんせー」

 

 ルールもサクッと決まった。

 後はチーム分けだけである。

 ただし今のままだと奇数で、ひとり余りが出てしまう。誰を土に埋めてしまうのがいいかと考えていると……。

 

「クィディッチをやるなら僕も入れてくれないか? いいだろ、ショーン」

 

 そこにチャーリーがやって来た。

 普段はルーマニアで働いている彼も不死鳥の騎士団の仕事とクリスマスということで帰っているのだ。

 チャーリーは在学中クィディッチの名選手として知られていた。卒業後はプロからスカウトされたほどだという。

 断る理由などない。

 

「よし。これで10人か。5対5でいい感じだな」

「そうね。チーム分けはどうする? くじ?」

「それなら僕にいい案がある!」

 

 チャーリーはにっこり顔でジニーとロンを抱きしめた。

 

「最初はウィーズリー家とそれ以外でやろう!」

「兄さん、気は確か!?」

「ははは。確かに僕たちが有利すぎるかもしれないけど、ちゃんと加減はするさ」

「いやそうじゃなくて!」

 

 クィディッチの名選手である自分に、卒業して益々身体が出来上がってきたフレッドとジョージ。

 この3人が固まってしまうと強すぎてしまうかもしれない……とチャーリーは考えたのだろう。

 ロンからするととんでもないことだった。

 確かにウィーズリー家チームも強いかもしれないが、相手が強すぎる。

 

 セドリック。

 チョウ。

 ハリー。

 ショーン。

 デメルザ。

 

 各世代の代表選手そろい踏みだ。

 偉人図鑑が作れそうだ。

 

「うっさいロン。いいわよこれで。ハリーと同じチームじゃないのがちょっと不満だけど、たまにはありね。ロミオとジュリエットよろしく、敵同士だからこそ育まれる愛ってもんもあるでしょうよ」

「じ、ジニーまで!」

 

 ジニーまで納得してしまった。

 これはもう、このチーム分けでやる流れだ。

 

「ショーン、あんたをコテンパンにしてやるわ」

「ジニー、後でベッドで待ってろ。負けて泣いてる所を慰めてやる」

「ははん。あなたの粗末なもので慰められるのか・し・ら?」

「これは失敬致しました。ウィーズリー様のようなクソビッチは、選り好みが激しいようで」

「くくく」

「ははは」

「クハハハハハハハハッ!」

「あーーっはっはっはっ!」

「死ね!」

「もげろ!」

 

 二人は試合前からバチバチだった。

 混ぜるな、危険。

 殺し合いが始まる前に早く始めた方がいい。

 

「先攻後攻はコイントスでいいよな」

「いいよ。僕は表で」

「じゃあ俺は横」

「えっ?」

 

 ショーンが親指でコインを弾いた。

 地面に落ちたコインは――地面にバウンドして横に立った。

 

「バカ兄貴! こいつにコイントスさせんじゃないわよ! 出目を操作できるんだから」

「相変わらず器用だなあ」

「何はともあれ、こっちが先攻だな」

 

 ショーン・チームの陣形は基本的に普通だ。

 パス回しが上手いショーンとチョウがミッドフィルダー。

 スピードのあるハリーとすばしっこいデメルザがサイド。

 そしてフィジカルと決定力のあるセドリックがワントップの、ダイアモンド型である。

 

 一方でウィーズリー家・チームは偏った陣形を持っている。

 チャーリーが一人で真ん中を担当し、ジニー・フレッド・ジョージがスリートップ。

 ディフェンスはロンひとりという狂気的なフォーメーションだ。

 

「そんじゃあ始めるぜ」

「そんなに早く始めていいの? 遺書と神への祈りはすませた?」

「お気遣いなく。どっちも必要ねーよ。お前にも必要ないな、家族がそろってるんだから速やかに葬式ができる」

「君たち、今からなんの競技をやるつもり?」

 

 チャーリーが疑問を挟んだ。

 一方で他のメンバーはなにも言わない。スポーツがうっかり殺し合いになることくらい、ホグワーツではティータイムより見慣れた風景だ。

 

「試合開始!」

 

 ハーマイオニーの合図と共に、ショーンが前に突撃した。

 ジニーが対応する――素振りをみせた瞬間にチョウヘパス。

 咄嗟のパスにも関わらず余裕でキャッチしたチョウは得意のターンでフレッドを抜き、ジョージがカバーに来たところでサイドにいたハリーへとクアッフルを逃す。

 ハリーがスピードを生かしてあっという間に上がる。コートの際まで行ってから、しっかり中で待っているセドリックに絶妙なクロスを放り込んだ。

 

「ナイス・クロスだハリー!」

「させるか!」

 

 受けようとしたセドリックと、チャーリーが競る。

 

「悪いな二人とも」

 

 クロス・ボールを味方であるショーンがインターセプト。別にセドリックが負けるとは思ってないが、安全策があるならそっちの方がいい。

 とはいえ、サイドに寄りすぎてて角度が悪い。

 これではシュートには行けないだろう。

 そこで上がって来たチョウヘパス。ジニーが止めようとしたが、チョウの方が一枚上手だ。視線のフェイントを一瞬入れてジニーからのマークを外した。

 

「こっちです!」

 

 そして最後に、これまで存在感を消していたデメルザが上がってくる――

 

「と見せかけてこっち!」

「さすがチョウ!」

 

 同じく存在感を消していたロンの動きを見て、チョウはセドリックへとパスした。

 セドリックにはチャーリーが付いていたが、一対一を制してゴールに叩き込んだ。

 

 美しいパス回しからのゴール!

 即席のチームとは思えない。

 

「次はそっちの攻撃だな」

「はん! このワンプレイで殺してやるわ」

 

 ジニーが突っ込んでくる。

 

「チョウ!」

「はいよ!」

 

 二人掛かりで対応する――と見せかけて、ショーンはひとりで特攻した。

 これには流石のジニーも驚き、身体が強張った。

 その隙を逃すショーンではない。

 クアッフルを脇からはたき落した。

 重力に従って落ちるクアッフルを、下で待ち構えていたチョウがキャッチ。ここでも二人は抜群のコンビネーションを見せた。

 

「こっから先は!」

「通行禁止だ!」

「あら残念。それなら空輸するわ」

 

 マークに来た双子を見て、チョウは真上にパスした。

 そこには当然ショーンがいる。

 

「それじゃあ俺も」

 

 チョウに倣って上を向く。

 釣られてジニーも見上げた。

 

 その瞬間――斜め下に向けてパス。

 

 双子のマークを抜けたチョウがクアッフルを受け取った。

 左からジョージが、右からフレッドが追いかけてくる。

 

「うぇ!?」

 

 右のフレッドに向けて突っ込む。

 またパスをすると思っていたのだろう、フレッドはギョッとした顔をした。

 その間に抜かせてもらう。

 

「どけ兄弟!」

「無理だ!」

「「ぎゃっ!」」

 

 チョウを追いかけていたジョージがフレッドに激突した。

 双子はそっくりの悲鳴を上げてノックダウンしてしまったようだ。

 

「こんのアマァ!」

「これ以上好きにさせないぞ!」

 

 今度はジニーとチャーリーが来た。

 双子が動かなくなったとみるやの動き出し――大した反応速度だ。

 

「だけど、悪手だね」

 

 かる〜く、ふわっとクアッフルを宙に浮かす。

 

「ナイス・トス」

 

 それを、いつのまにか来ていたショーンが箒でかっ飛ばした。

 正確無比に飛んだクアッフルは、超スピードでゴールを通過した……ところまでは良かったのだが、勢い余って『隠れ穴』の方まで飛んで窓ガラスを粉砕してしまった。

 今のはゴールを守れなかったウィーズリー家チームが悪い。ショーンはウィーズリーおばさんの怒鳴り声を聞いて、心からそう思った。

 

「ショーン君ナイス・ゴール! へい、ハイタッチ!」

「うぇーい!」

 

 パンッ! と小気味いい音を鳴らして手をぶつける。

 グリフィンドール・チームだと罵り合うばかりなので、こういうことは新鮮だ。

 なるほど、チームメイトを褒める、なんて戦術があるのか……チョウとプレイすると勉強になる。帰ったら次の練習で早速取り入れてみよう、とショーンは思った。

 

「次のプレイだけど、ジニーちゃんは私に任せてくれない?」

「奇遇だな。俺もそれを頼もうと思ってた」

 

 ニヤリ、と笑い合う。

 お互い思考が似てるのでやりやすい。

 グリフィンドールだと、全員好きなようにしっちゃかめっちゃかやるのでこうは行かない。

 

 続く3セット目、チョウはあっけなくジニーからクアッフルを奪い取った。

 なんのことはない。

 一回抜かせてやった後で、後ろから掠め取ったのだ。

 乗せられやすく前ばかり見ているジニーと、冷静で常に後のことを考えているチョウ。相性は最悪と言っていい。

 

「(そういえば、グリフィンドールVSレイブンクローの試合でも、この二人がマッチングすることってほとんどなかったかも。先輩がそういう風にゲームメイクしてたんですね……勉強になります!)」

 

 こちらの有利を押し付けて、不利は作らない。

 司令官の基本だ。

 デメルザはしっかり勉強していた。

 

「はいショーン君」

「ほいよ」

 

 チョウからショーンへのパスが通る。

 マークについたのはチャーリーだ。

 そしてハリーにはフレッドが、デメルザにはジョージが張り付いている。ゴール前のセドリックには、ロンが目を光らせている。パスはほぼ不可能と言っていい。

 

「(左を締めよう。ハリーなら、速さでフレッドを抜くかもしれない)」

「(左を締めるな。ハリーを警戒するだろ)」

 

 わずかツープレイの間でチャーリーの癖を見抜いたショーンは、その思考を見事に読み切っていた。

 一瞬だけ左へターンのフェイントをかけてから、あっさり右から抜く。

 

「やべ!」

「ヘボ兄貴!」

 

 が、追いついたジニーがカバーに入った。

 

「来ると思ったぜ」

 

 ショーンが選んだ対応策はバック・パス。

 一度下がった選手への警戒は緩むものだ――チョウが完全にフリーになっていた。

 チョウにクアッフルが渡った瞬間、セドリックが動き出した。

 ゴール前にいたのが、パスを受け取りに下がったのだ。釣られてロンも前へと動く。

 

「ナイス陽動」

 

 チョウお得意の正確なロングシュートが無人になったゴールを潜り抜けた。

 

「そ、そうだった……!」

 

 学校での試合で散々やられたことなのに、すっかり忘れていた。

 ロンは唇を噛んだ。

 そして、セドリックを睨む。

 

「ははは。悪いね」

 

 この男、曲者だ。

 先ず単純に、フィジカルが強い。競り合うだけでゴリゴリ体力が持ってかれる。

 それなのに技もある。

 ストライカーとしての素質は十分だ。

 

 だけどそれだけじゃない。

 エースとしてはジニーに一歩か二歩劣る。

 しかしセドリックには、ジニーにないしたたかさがある。

 周りを生かすのが上手いのだ。

 考えてみれば、これは当然のことかもしれない。周りの選手がパッとしないハッフルパフでプレーし続けたのだ。周りを活かせなくては話にもならなかっただろう。

 

 “パーフェクト・オールラウンダー”チョウ・チャン。

 似せて呼ぶなら“パーフェクト・ストライカー”セドリック・ディゴリーと言ったところか。

 

「これ無理じゃないか?」

 

 そして、ロンはそう結論付けた。

 勝てるビジョンが全く見えない。

 

 攻撃面から見てみよう。

 先ず単純に、ショーンとチョウのコンビが止められない。

 しかも二人ともロングシュートを持っているので、ちょっとでも隙を見せると得点される。

 かといってゴール前にあまり人を集めると、ハリーとデメルザがあっという間にサイドを駆け上がってくる。

 その上ゴール前には万能型ストライカーのセドリックが控えてる。彼へのマークが少しでも甘くなると、ショーンかチョウがすかさずパスを放り込んできて、あっという間に得点されてしまう。

 

 次にディフェンス。

 ここで厄介になってくるのがハリーの存在だ。

 超スピードのハリーがいる以上、常にカウンターを警戒しなきゃいけない。

 そうなるとポジショニングが大事になるのだが、向こうにはショーンとチョウがいる。タクティクスで勝てるわけがない。

 ジニーを使って強引に得点しようとしても、すかさずチョウが止めにくる。逆にチョウが開けた穴は、見事にショーンがカバーしていた。

 

 地味にデメルザもいい仕事をしてくる。

 あまりチェイサーに慣れてないハリーのサポートをキッチリこなしてくるのだ。

 全体はショーンとチョウが取り仕切っているが、サイドだけはデメルザのテリトリーになっている。

 その上で、隙あらば中に切り込んでくる。

 模範的なチョウと、トリッキーなショーンのプレイをちょっとずつ混ぜたような感じだ。

 

 ロンの予想通りその後も同じような展開が続き、遂に一〇〇対二〇という点差になってしまった。

 

「ショーンとチョウは別チームにしよう!」

 

 ロンは声を張り上げた。

 例え誰かの鼓膜を破ることになったとしても、ここは主張せねばならぬと思ったのだ。

 

「えー……せっかくコンビも板についてきたのになー」

「あと5分くらいやれば、もうちょっと合わせられんな」

 

 ショーンは少し不満に思った。

 普段は周りをまとめないといけないが、このチームは快適だ。しかもチョウとはかなり気が合う。

 最強のコンビネーションをもう少し楽しみたかった。

 しかしショーンにとってロンの言葉は、神の啓示に近かった。

 

「まあロナルドさんがそう言うなら、もちろん従いますよ。次のチーム分けはどうします? 一緒に組みます? 8対2でもいいっすよ」

「あんた、相変わらずロンのこと好きすぎるわね。キモいわ」

「次は君とチョウでドラフトするといいよ」

「ん、分かったわ。ジャンケンで勝った方から決めていこうか」

 

 ショーンがパー、チョウがチョキを出した。

 チョウ、ショーンという順にチームメイトを選ぶ。

 

「もちろんセドリックで!」

「ははは。光栄だね」

「俺ももちろんロナルドさんだ」

「このメンバーで最初に選ばれるの、ちょっと嬉しいや」

 

 最初は各々、自分が一番信頼する人を選んだ。

 次からはチーム・ワークを考えて選ばなければならない。

 

「次は……ハリーくんにしようかな」

「よろしく、二人とも」

 

 スピードという唯一無二の個性、癖がなく馴染みやすい性格ということでチョウはハリーを選んだ。

 読みは大成功で、セドリックとハリーはお互いに笑って手を叩いてる。

 

「それじゃあこっちはデメルザ、お前だ」

「えっ!? わ、私ですか! 嬉しいですけど、正直この中で足手まといだと思うんですけど……」

「安心しろ、そんなことはない」

「せ、先輩――!」

「ジニーの方が足手まといだ」

「あ、そういう……」

 

 しょんぼりしたデメルザが加わった。

 

「次はチャーリーさん――だと無難すぎるから、フレッドにしようかな」

「おいおいチョウ。俺を入れたら難ありかい?」

「あれ。卒業したらよい子ちゃんになっちゃった?」

「まっさかー! 我ら『永遠の悪戯仕掛人』が座右の銘でございますれば、よい子ちゃんなどとは無縁でございます」

 

 フレッドは恭しく一礼した。

 

「じゃあ俺はジニーで」

「遅いのよ! 私が雑魚みたいじゃない!」

「チョウが相手だと使いづらいんだよお前」

「次は負けないわ」

 

 次は勝つ、と言わないあたりらしくない。

 ジニーも徹底的に相性が悪いことは分かっているのだろう。

 

「それじゃあ次は、やっぱりジョージかな」

「こっちはチャーリーか。余り物みたいで悪いな」

「いや、いいよ。年長者だからね、我慢出来るさ。それに思ったよりみんな、レベルが高いや。ブランクの差は埋めがたいね」

 

 改めてチーム分けを見てみよう。

 ショーンのチームが、

 ロン、

 デメルザ、

 ジニー、

 チャーリー。

 

 チョウのチームが、

 セドリック、

 ハリー、

 フレッド、

 ジョージだ。

 

 総合的には互角と言っていいだろう。

 

「先攻はそっちに譲るよ。先輩の余裕ってことで」

「ありがたく後輩にならせてもらうぜ。ハーマイオニー、クアッフルくれ」

 

 ハーマイオニーが投げたクアッフルは、鋭い軌道を描いてロンの頭にヒットした。

 

「いたっ!」

「あら、ごめんなさい」

「お前ゴラア! なにしてんだボケ!」

「いや、いいよ。むしろ緊張がほぐれたくらいさ」

「流石ロナルドさん! 器の広さがマリアナ海溝ですね」

「おっと。ここまで言われるとさ、変な気がするよ。ハリー、君って大変な目にあってたんだな。『生き残った男の子』じゃなくてよかったよ、マジで」

 

 何はともあれクアッフルを受け取り、チョウに向き合う。

 なんだか懐かしい感じだ。

 レイブンクローとの試合が、ほんの五ヶ月前とは……時が経つのは早いものである。

 

「始め!」

 

 ハーマイオニーの合図と共に試合が始まった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 決着はつかなかった。

 一進一退の攻防が続き、点数がまったく動かなかったのだ。というのも、原因はチョウだ。彼女にディフェンスに徹されると、ジニーでも点を入れられない。前の試合の時は点を取らないといけなかったから前のめりだったが、こっちのスタイルが本来のチョウなのだろう。

 中盤では息のあったフレッドとジョージがチョウの指示の元完璧なコンビネーションを見せていたし、オフェンスにはセドリックがいる。サイドを猛スピードで走るハリーも厄介な敵だ。

 

 もちろんショーンもただ攻めあぐねていたわけではない。

 中盤戦では双子を上手く翻弄して、優位に進めていた。サイドにしたって、デメルザは冴えたプレイで時々ハリーの裏を取っていた。そしてロンは完璧なディフェンスをこなしてくれた。

 ところがどうも攻めきれない。

 ショーンには原因が分かっていた。ジニーだ。せっかくチャーリーと二人で攻めているのに、連携がまるで取れていない。昔からこの問題は度々ショーンを悩ませていた。後輩で気を遣ってくれるデメルザやショーン相手だと問題ないのだが、ケイティとはどうもパスワークが繋がらない。

 

「わーってるわよ、言いたいことは」

「ふぅん」

 

 不貞腐れながらジニーは言った。

 自分とセドリックのプレイを比べて、何か思うところがあったのだろう。だとしたらそれはショーンのたくらみが成功したということだし、ここ最近では一番よいニュースだ。少なくとも『今日の魔法大臣の素晴らしい働き』とかいう謎のコラムよりはマシだ。

 

「ま、考えておくわ」

 

 果たしてジニーに、三行以上続く物事を考えられる脳みそがあるかは甚だ疑問だった。もっと言えば脳みそがあるか疑問だ。レントゲンを撮ってみたら、脳にまで筋肉が詰まってるかもしれない。

 

「ショーン、ちょっといいかな?」

「なんだセドリック」

 

 ジニーと入れ替わりでセドリックがやって来た。

 

「今年のスリザリン戦では気をつけた方がいい」

「分かってるよ。病院送りにするのは三人までにする」

「全然分かってない! ……真面目な話、ちょっと不穏な空気があるんだ。

 こういう言い方はあまり好きじゃないけど、君はマグル生まれだ。そんな君が活躍することを喜ばない連中がいる。

 クィディッチだけのことを言ってるんじゃないんだ。スリザリンにいる一部の生徒たちの親は、ホグワーツの子供達に純血は尊いものだって教えたいんだよ。下らないことだけどね。

 だから――」

「だから?」

「――コノニーを本当の意味で呼んだのはスラグホーン先生じゃない。彼は囮だ。実際は理事達だよ。彼らは君を負けさせようと躍起だ。魔法界のスポーツでマグル生まれが活躍するのは我慢ならないのさ」

 

 言いたいことはわかる。

 フットボールでアメリカ人が活躍すると、ショーンだって面白くはない。

 

「子供達もそれを分かってる。親の期待に応えようと、あるいは、親を守ろうと死に物狂いで勝ちに来るはずさ」

「あのなセドリック。ひとつ言いたいことがある」

「なんだい?」

「俺はどんな後ろ盾があろうとなかろうと、どんな勝負だろうと、いつだって本気で勝ちを狙ってる。最初から舐めてなんかない」

「……そうか。いや、そうだよな。ごめん、変なことを言った」

「友達から忠告されて怒るほど、ジニーじゃないぜ」

 

 二人は笑って握手した。

 ホグワーツを卒業しても、セドリックとは親友だ。

 

「もし何かされたら僕を呼んでくれ。闇祓いのみんなと駆けつけるよ」

「逆に俺を逮捕するために呼ばれるかもな」

「ああ、それは一大事になりそうだ。魔法省は『例のあの人』だけで手一杯だよ」

 

 こうしてショーンは冬休みを終えた。

 次はいよいよスリザリンとの試合だ。






このメンツでやるならどういうチーム分けが一番バランスいいんでしょうかね。
それとオマケとして『授業風景』を活動報告に載せておきました。
そういえば学園モノなのに、一度も授業風景とか書いてなかったなーと思いまして。

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