俺の名前は藤原樹季! 頭脳は大人、体は子供などこぞの名探偵と同じ状態を素で行く霊感少年さ! といっても俺の大人な頭脳は某高校生ほど回転良くないけどな! 二十五歳だった俺からすれば高校生もまだまだ子供の部類なんだが、ここ最近元の年齢、体の年齢で同い年なのに立派な連中をたくさん見てるから、年食っただけじゃ大人って言えないんだなって思う事しばしばなんだ! うん、高校生探偵! 推理力とか洞察力とか知識量に加えてワイハーでヘリコプターの操縦とか覚えちゃったり英語ペラペラなお前はもう大人でいいよ! 自分が高校生だった時と比べると色々しょっぱい気持ちになるから立派なお前は大人でいいよ!
…………俺は何を一人脳内で愉快に喋っているんだ。
俺は急に我に返って自分にツッコミを入れたが、目の前の光景に再び現実逃避の大海原に漕ぎ出そうとした。しかしそれは許されない。何故なら俺の手には一枚のパンツが握られており、そしてそのパンツの持ち主が猛然と俺に向かってつっこんできたからだ。
「下僕三号! そのパンツをよこしなさい!」
同級生から他学年、そして先生たちに至るまでパンツ一丁にされ、あまつさえパンツ瞬間移動なる阿呆な技で次々と全裸にされていく光景。それを成している痴女に対して、俺が返せる答えは一つだけだった。
「モラル!!」
「はぐぅ!?」
俺はこの日、初めて女の顔を殴るという暴挙を行った。……一応、ぐーじゃなくて平手で。
時間は少々遡る。
俺はその日、校庭で広たちと野球をしていたんだ。
少し前に鳴介が心臓発作で死に、あぎょうさんという妖怪だか神様だか分からない存在によって復活してからしばらく。死んだように静かだった教室に笑い声が戻り、俺はこの平和な時間をじ~んと噛みしめていたわけだ。
しかし、俺は忘れていた。あぎょうさんの後に、どんな恐ろしい妖怪が来るのかを。
地獄先生ぬ~べ~は、基本的に様々な短編を集めて一つの作品にするオムニバス形式のような漫画である。しかしちゃんと縦軸となる話の時系列もあるわけで、特にメインキャラクターに関わる話なんかいい例だろうな。そしてあぎょうさん回の後に来るのは、直前までのシリアスを吹き飛ばすある意味お約束というか……なんというか……。 いや、恐ろしい! 恐ろしい敵なんだ! けど恐ろしいの意味がちょっと違うんだよ!
「なんだ!?」
「空間に裂け目が……!」
「こ、これってまさか地獄の……!?」
そんなわけで、俺は突如校庭上空にバリバリと音を立てながら現れた空間の裂け目を見て驚く広と克也を尻目に無言で上着を脱ぐ。よかった、今日上着来てて。……そして空間が爆発し、周囲がパニックになる中俺はただ一人爆発の中心地へと走った。爆風にも負けず、精一杯の力で大地を踏みしめて走った。ビビりな俺が"妖怪"に向かって、走ったのだ。
それには譲れない理由があった。この展開を、この世界を知る俺が今しなければならないこと。
それは!!
「おい、お前たち、私のパンツを知らないか?」
「モラル!!」
「おわ!?」
下半身すっぽんぽんで現れた鬼娘の下半身をジャンプのモラルたる海賊マークさんの代わりに隠す事だよこの野郎!! 野郎じゃないけど!!
謎の空間……おそらく地獄と繋がっているであろうそこから現れたのは、見た目だけなら大変可愛らしい桃色の髪をツインテールにした角の生えた美少女だった。愛らしい顔立ちはもちろん、幼さを残す顔立ちとは裏腹になんともボリューミーなわがままボディの持ち主である。まさにボン! キュ、ボン! むっちむちだ。我がクラスで言えば、プロポーションで張り合えるのは美樹くらいだろう。
そして彼女は張りがありながらも柔らかそうな肌を惜しげもなくさらし、堂々たる仁王立ちをしていた。ただし、さっきも言ったがその下半身はすっぽんぽん。上半身は装備なのか体の一部なのか微妙に分かり辛いもので胸は隠してるからいいんだが…………下品で申し訳ないがチラッと見た限り、下は大事な部分を覆い隠す毛も生えてないと言う……マジモンの丸見え状態。
わざとじゃねぇ! わざと見たんじゃねぇ! 腰に上着を巻き付けるために目をそらすわけにはいかなかったんだ! つーか俺は大人のお姉さん専門だし! 体がムチムチで中身がババァでも見た目ロリなら専門外だし! そして俺は誰に言い訳してんだよチクショウ!! それもこれも鬼娘、お前に羞恥心が無いからだよ!! いくら鬼でも隠せよ! そこは隠せよ!!!!
「な、なんだお前は!」
「いいから何も聞かず隠せ! 俺は今、童守小のモラルを背負って生きているんだ!」
もはや自分で何を言っているのかわからない。けど思春期真っ盛り、もしくは思春期にも至っていない
鬼娘はそんな俺をうさん臭そうに見ていたが、本来の目的を思い出したのか……俺を無視し、こちらを見ていた広と克也に声をかけた。
「はあ~? 何を言っているのだ。……まあいい。出鼻をくじかれたが、改めて問おう! 私は眠鬼! 地獄から来た誇り高き女戦士である! 亜空間を通って現世に出る時、すさまじいエネルギーの流れでパンツが脱げてしまってな……。お前たち、そのパンツを見なかったか? 探しているのだ」
「ぱ、ぱんつ……?」
「ちょ、おい待て。ってことは今あの子は樹季の上着の下はノーパン……!?」
「無駄なところで理解力高いな克也お前! その前に鬼ってとこにつっこんどけよ!」
「いやつっこみてーけど、おま、あの体でノーパンだぞ!? 健全な男の子としてそこは反応するっつーの! てかお前何だよあの素早さ! そ、それに、い、樹季が何もしなければ俺たちは今頃、ご、御開帳を……!」
「ええい煩い! 知っているのか知らんのか、早く答え……」
はらり
「「「あ」」」
「おっと」
苛立った鬼娘……眠鬼が広たちに詰め寄ると、その動きの勢いに結び方が緩かったらしい上着があっけなく落ちた。そして少年二人の目の前に晒される、下半身すっぽんぽん。
俺はそっと額を押さえた。広と克也が勢いよく鼻血を噴出し眠鬼の顔を鼻血まみれにし、その怒りで攻撃を受けそうになってもそのまま目を瞑った。そして何かがボンッと音を立てて、愛らしい声で「ぴぎゃっ」という間抜けな叫びが聞こえて頬っぺたに生暖かいものがぶっかかっても目を開けずにそのまましゃがみこんだ。なんか血生臭いが、今は絶対目を開けないぞ。開けたらわがままボディーの首から上がふっとんでる光景が広がってるんだろ。ヤダよそんなの見るの……。
「あ~あ……あ~あ…………」
今、それしか言葉が出てこない。
……この鬼娘、眠鬼はちょっと前に俺達に絶望を味わわせてくれた絶鬼と、鳴介の左手に封印されている覇鬼の妹なんだよな。けど元のパワーは凄いのに、今はパンツを失ったせいでその力が制御できていないわけだ。だから妖力波なんて使おうとしたら暴発する。頃合いを見計らって目をあけたら復活してたけど、頬っぺたを触れば彼女から飛んできたであろう血液でぬるっとしていた。うぎゃう……いくら美少女の血とはいえ気持ち悪い……。
つーか、俺がせっかく上着貸してやったのにケツ丸出しで倒れよってからに。「ううう……」じゃねーよ。
俺は無言でケツ丸出しで倒れている美少女に、さっき落ちてしまった上着を拾ってかけてやった。
そしてそれを見た広が言う。
「ひょっとしてこいつ……。かなりおバカ?」
おう、その認識で間違ってないぞ。
その後、眠鬼のあまりにも間抜けな様子に毒気を抜かれた広と克也は、眠鬼の正体を知りつつ彼女のパンツを一緒に探してやると言い始めた。まあ実際絶鬼なんかに比べると根はいい子だったりするからな眠鬼……。鬼だけど。
そういや眠鬼の奴、広と克也と俺を「下僕一号二号三号」とか言いやがった。ちなみに俺三号。……パンツはいてないくせに調子乗りやがってからに。パンツはいてないくせに。
俺はこの眠鬼回ともいうべき内容を、一応ちゃんと覚えてる。なんたってぬ~べ~エロ回でも屈指の振りきれっぷりを見せてくれた回だからな。
具体的に言うと眠鬼下半身すっぽんぽんで登場に始まり、童守小の生徒教師がパンツ一丁からの全裸。最終的に広たちがパンツにされて、意識を保つために郷子達にはかれるという……。うん。ヤバいヤバいヤバい。控えめに行っても大げさに言ってもヤバいって。字面にしたらあらためてヤベー。パンツになってはかれるって何だよ。漫画で見た時はちょっとドキドキしつつ、大人になってからはこの漫画で幾人の子供たちが妙な性癖に目覚めたのかに思いを馳せつつ、でもなんか好きだったギャグとエロって偉大やなって思ったエピソード。……でもそれ現実になったらヤバい。シャレにならん。つーか俺まで被害にあったらたまったもんじゃねーよ。誰かにはいてもらったとして、もうその子と顔あわせらんねーわ。いや、むしろしっかり向き合って責任取らなきゃいけないのか……!? ああもう! とにかくそんな事態にさせないのが一番だっつーの!
というわけで、俺は一緒に探してやるふりをしつつ……いや実際探すんだけど、とりあえず広たちとは別行動をとることにした。
さっさとパンツ回収して鳴介に渡して事情を話してあのハレンチ鬼娘を無力化しよう。そうしよう。
(え~と、たしかパンツは石川先生が拾ってはいてたんだよな)
…………っておい。
思い出せたのは良いけど、おい。
拾った女もののパンツを即着用するって、よく考えなくても石川先生やべーじゃねーか! ちょ、いい人なのは知ってるけど性癖もう少し抑えて小学校教諭!! 頼むから!!
い、いや、もういいや。とりあえずさっさとパンツ回収だ。何て言って返してもらえばいいか分からんから、さっと行ってぱっと強奪しよう。幸い眠鬼のパンツは紐パン。石川先生の背後から近づき、ばっとズボンをおろしてさっとパンツを奪えばいいんだ。うん、OK。これで行こう。
俺は深く考えたら負けだと割り切ると、職員室へ向かった。俺の作戦により何人かが石川先生のパオーンを目撃してしまうかもしれないが、これから起きるであろうハレンチな惨劇を思えば安いものだ。拾ったパンツをはいてた石川先生だって悪いんだし、そこは因果応報ってことでひとつ。……まあ、俺も石川先生のケツ毛をおがまなきゃならんことになるのだが。
が、誤算が一つ。
あのハレンチ娘、我慢が足りねえぇぇぇ!! 思ったよりずっと早くパンツ一丁化フラッシュ(俺命名)使ってきやがったぁぁぁぁ!!!!
突如童守小の上空に光の球が浮かんだかと思えば、その途端その光を浴びた者の服がはじけ飛び、みんなパンツ一丁になったのだ。ちなみに俺も例外ではなく、服がはじけ飛んだ。
「樹季お前、服の下に般若心経を!?」
「まさかのタイミングでばれたよチクショウ!!」
そして廊下でばったり遭遇した、何故か鼻血ダラダラで頬っぺたを腫らした鳴介に俺のお経アーマーがばれる事態に。護身のために体育の日以外体にお経書いてたのバレた! 恥ずかしい! 思わず女子みたいに内股になって両手で胸おさえちゃっただろ!! つーかパンツフラッシュ強ぇな! 俺のお経アーマーの効果もあっさり突破しやがったチクショウ!
……それにしても、鳴介の奴どうせ律子先生あたりのボインを真正面から見たんだろうな、そして殴られたんだろうな羨ましい。俺にも大人のお姉さま限定のエロイベントもっと来いよ。殴られてもいいから。俺はロリコンじゃねーんだよ。
……って、今はそんな場合じゃない!
「鳴介! これは鬼の仕業だ!」
「なんだって!? やはりさっき感じた妖気は鬼……いや待てなんで鬼の妖気でパンツ一丁に……」
「鬼は無くしたパンツを探してる! そいつ、パンツが無いと力を制御できないんだ! 今ならたいして強くない! 俺はそのパンツの場所にあてがあるから、パンツを確保してくる! 鳴介はその鬼にこれ以上好き勝手させないようにしてくれ!」
「! わかった! ……任せていいんだな?」
「ああ!」
「よし、任せたぞ!」
短く情報交換を行うと、互いに踵を返して別々の方向に走り始める。俺は石川先生を探しに、鳴介はおそらく妖気を頼りに眠鬼を目指して。
へへっ、なんかこうしてると俺達、戦友みたいだな。赴く戦地が男の股間と痴女というのがなんとも言えんが。
(何してんだろ、俺……)
考えてたら空しくなってきた。いや、でも急がねば! じゃないとパンツを探して眠鬼が……。
「むっ! お前が鵺野鳴介だな!? 私は眠鬼! お前に倒された二人の兄……覇鬼と絶鬼の妹だ!」
と思ったら背後で早速遭遇してるーーーーーー!! いや、でも構うまい! 俺は走るぞ!
俺は鳴介と眠鬼の遭遇にも足を止めず、「廊下を走るな」のポスターなど無視してひた走った。そして運がいい事に、正面から石川先生が歩いてきたのだ! 眠鬼のパンツをはいた石川先生が! ああチクショウ! やっぱり視界の暴力だったよ! 毛むくじゃらのでっぷりした体型の髭もじゃ眼鏡の石川先生が女ものの紐パンはいてるのとかどう見ても犯罪でしかないよチクショウ!!
俺は無言ですれ違いざまにパンツを奪い取った。「ああ、わしのパンツ!」と聞こえたけど諦めろ。俺だって本当は中年男からパンツはぎとるなんてしたくないんだから!! ううっ、言ってて悲しくなってきた。なんで俺がこんなこと……。で、でもとりあえずミッションコンプリートだぜ! 俺はやった。よくやった!
ちなみにボロンとこぼれた石川先生のパオーンに関しては俺の管轄外だ。各自脳内で海賊マークを貼ってくれ。
「よ、よし! あとはこれを鳴介に渡せばとりあえず……」
パンツにモシャス事件は、とりあえず鳴介が眠鬼にパンツをとられなければ問題無いし今は保留! 俺はすぐに方向転換し、眠鬼と対峙しているであろう鳴介の元へ戻ろうとした。……が、それは肌色の壁によって阻まれる。
「キャァァーーーー! 何よこれ~!」
「いやああー!」
「あ~ん! 見ないでー!」
おれの まえ に クラスメイト女子 の ハダカが あらわれ た
(ど、どうしよう……)
この壁の向こうには鳴介が居るってのに、まさかこの肌色の海に割って入るわけにもいかずたたらを踏んでしまった俺。そして目ざとく俺に気づいた美樹の奴が声を上げる。
「きゃ! ちょっとあんた樹季! 何見てんのよ! ってゆーかその握ってるパンツ誰のよ変態!」
「いやお前にだけは変態って言われたくねーよ! 前に自ら裸ランドセルとかやってた痴女のくせに!」
「うっさいわね! その時はその時、今は今よ!」
「い、樹季くん!? やだ、恥ずかしい見ないで!」
「そ、そうだそうだ! ……いやでもその前にお前何その気持ち悪いの!? お経!?」
「ほ、ホントだわ! あんなにびっちりと……!」
「う、ううううううう煩いわ! ファッションだよファッション!」
「いや、それは無いわー」
「樹季、怖がりなのは知ってるけどそれは流石に……」
「う、うあ……これは、これはだから……!」
「あら、でも字は綺麗ね」
「い、樹季のくせに生意気な……! この超絶ダイナマイトでびゅーてぃほーな美少女美樹ちゃんより裸で目立つなんて……!」
「お前は恥ずかしがるのか張り合いたがるのかどっちだよ! オイヤメロ手をどけるな見えるから!! 見えちゃうから!!」
何故だ。羞恥にもだえる女子たちから急に羞恥プレイを押し付けられ初めた。何この逆レイプ感。こっち見んな。
「! あれは私のパンツ!」
あーもう、眠鬼にはバレるしよー!!!! お前らが騒ぐからだぞ!
「樹季、それか!?」
「あ、ああ!」
鳴介の問いに答えたはいいが、俺が鳴介にこのパンツを人質ならぬパンツ質に渡す前に眠鬼の奴が完全に俺をロックオンしてやがる。やっべ。
「返せ!」
「やだよ!」
「変態!」
「誤解だ!」
眠鬼には追われ始めるわ、パンツを握り締めて返すの嫌だと言ったもんだから女子からは変態と言われるわ……最悪だ!
とにかくパンツを眠鬼にとられたらヤバい。そう思って、俺はとにかく逃げ始めた。それによって俺からパンツを奪い返すべく眠鬼が「パンツ瞬間移動」なる技を使い始めたからさあ大変。……老若男女入り乱れた裸祭りの開幕である。これは酷い。
そして俺はしばらく逃げるのと現実逃避を繰り返したのだが、ふと思い至った。「あれ、そういえばこいつ今パンツはいてないし普通の女の子と同じくらいの力しか出せないんじゃね?」と。
普通の女の子という範囲が、某探偵のヒロインである全国大会でも名を馳せ弾丸すら避けて見せる格闘家系女子高生まで含むなら俺の死亡は確定だが、そうでないなら勝機はある。
そして話は冒頭へ。
俺は現実逃避をやめ、ハレンチ娘をビンタで迎え撃った。
その後、無力化された眠鬼は鳴介がぬ~べ~クラスで引き取るということになった。鬼の妖気を感じて来てくれたゆきめさんと玉藻が反対したが、鳴介的には人間の間で暮らしていけば人間の心を手にいれられる……と信じているようだ。ま、目の前の二人自体そのパターンなわけだからな。言いたいことは分かる。
でも。
「予備のパンツにしてやる……」
背後の席から時折聞こえる、むすっとした声が怖いです。眠鬼の目的は鳴介に対する兄たちの敵討ちではなく、強力な霊能力者である鳴介をパンツにすることなのだが、何か俺まで狙われてるっぽい。
あれ、俺もしかして恨まれてる……? いやでもさ、悪いことしたのお前じゃん。俺だって怒るよ! あのビンタは教育的指導だから!! ……まあ、俺からも眠鬼に恨みが無いとは言えないけど。だってお前のせいで体育の無い日にお経を書き込んで登校してるのがばれたから、しばらくあだなが「耳なし芳一耳あるバージョンの樹季」略して「ほういち」にされたんだぞ俺! 誰だよこのセンスのないあだな考えたの! いろいろ略しすぎて俺タダの芳一になっちまってるじゃねーか!
が、そんなのまだまだ甘い方だった。俺は数日後に彼女の有言実行によって更なる地獄を味わうことになる。
「ああ! 樹季がパンツに!」
「眠鬼がパンツをはいた!」
「フハハハハー! パンツを取り戻せないなら、パンツを作ればいい! まったく、簡単な事だったのになぜ気づかなかったのか! フルパワーまで出せんが、こいつのはき心地もなかなかだぞ! 未熟ではあるが、いい潜在能力を秘めている! 予備のパンツとしては合格点だ!」
「まさか樹季がパンツにされるなんて!」
「で、でもちょっと羨ましいような……」
「あれ感触とかあんのかな……。なんかまだあいつ、意識あるっぽいし……」
「ほほう! なら喜びなさい! あんたたちもパンツにしてあげる!」
「え!?」
鳴介に眠鬼のパンツを厳重に保管してもらったにも関わらず、地獄先生ぬ~べ~屈指のハレンチイベントはきっちり起きました。俺が眠鬼にパンツにされたせいで。
ぬ~べ~クラス男子もみんなパンツになったよ! はは! 俺だけじゃない! 俺だけがあんな辱めを受けたわけじゃない! はは! そうだ俺たちは仲間さ!
…………。
ナメクジになりたい。
鳴介の奮闘があって後でなんとかもとの姿には戻れたものの、後頭部に残る生々しい感覚はなかなか消えなかった。これが大人のお姉さん相手ならラッキースケベなご褒美なのだが、中身はともかく見た目が完全にロリな眠鬼では俺的にはアウトである。俺の方が被害者なのに罪悪感しかわかねーよ……。
そして眠鬼なのだが、結局今もぬ~べ~クラスにいる。
クラスのみんなでカンパして彼女に「鬼のパンツのかわりに」ってたくさんのパンツをプレゼントしてからは、以前よりもっと馴染んだようだ。本人戸惑ってるっぽいけど、パンツ事件の前も何だかんだでクラスのみんなと仲良くやれてたからな。
…………こう考えると、眠鬼が鬼の中でもいい子だってことを差し引いてもやっぱりぬ~べ~クラスの適応能力スゲーな。
ちなみに俺だが、放課後霊能力の訓練に鳴介の家に行く事が多いため、そこに住むことになった眠鬼と距離を置くと言うのはなかなか難しい。だから気まずいながら、少しずつ歩み寄ってはいる。
けど。
「樹季。あなた、なかなかのはき心地だったわよ。才能はあるんだから、頑張んなさいよね!」
霊能力の修業に苦労する俺を「いい穿き心地だった」を褒め言葉に応援するのはヤメロよ!!
ああ、憂鬱だ。
こんなにパンツパンツと書いたの初めて。いったい何回パンツって書いたんだろう。