樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

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続かないと言ったな?あれは嘘だ(クルーシオ案件




番外編:枕返し先輩プロデュース平行世界旅行inハリー・ポッター2

 気づけばうっかりホグワーツ2年生になっていた。

 

 俺は未だに元の世界へ戻れずにいる。手紙で鳴介と連絡はとりあっているが、枕返しの奴は色んな次元を行き来しているため探すのが非常に難しいとのこと。しかも俺が知る地獄先生ぬ~べ~の物語は俺が居ない間に終わってしまったらしく、鳴介は九州へ転勤する事になったと聞いた。

 鳴介は自分も場所は違えど引き続き枕返しを探すと言ってくれたし、童守町ではなんと玉藻先生が奴を探すことを引き受けてくれたというから驚きだ。……イギリスに暮らす今、夏休みで日本に帰った時くらいしか俺が自分であいつを探すことは出来ないし、申し訳ないが彼らに頼ろう。もし帰れる時が来たらちゃんとお礼出来るように今から何か考えとかないとな。帰れるか分からんが。

 

 まあそんなわけで俺は当分、もしかしたら一生前の世界へは帰れないのかもしれない。

 

 そうなると向こうにはこっちの世界の俺の意識が入ってるのか? 鳴介に聞いたところこの世界の俺は転生した後の俺とまったく同じシチュエーションで新しい人生を送っていたらしく(なんと別世界の25歳の俺が中身ってとこまで同じだった)、実は生活しててほぼ違和感が無かった。

 

 魔法の世界があるか無いか、本当にそれだけの違いなのだ。

 だから最近はもし帰れなくても、俺とこの世界の俺はお互いそんなに支障は無いのかもしれないと思っている。

 

 

 いや、ラスボスに喧嘩売った時点で俺の方は支障ありまくりだけどな! 自業自得だけど!!

 

 

 それについては考え始めると頭と腹が痛くなるので、とりあえず霊能力の修行は自力で進めようという事だけは心に誓った。今度例の人面瘡が現れたらあとくされなく徹底的に成仏させてやろうと思う。

 

 

 そういえば夏休み日本に帰った時、久しぶりに広たちと会った。1年しか経っていないのにずいぶん大人びたというか、成長したように感じられて「ああ、俺の知るぬ~べ~の物語は本当に終わったんだな」と思った。きっと色々な出来事が彼らを成長させたのだろう。途中から怖い思いをしなくて済んだのは嬉しかったが、クラスのみんなは好きだったからちょっと寂しく思ったのは内緒だ。

 そうそう、鳴介には遅ればせながらゆきめさんとの結婚祝いを送った。場所は遠く離れてしまったが、枕返しの件で世話になる以外でも普通にこれからも友人でいたいものだ。あんなにいい奴なかなか居ないからな。俺が二十歳を過ぎたら、一緒に酒も飲みたい。……ちびっこい体にも慣れたけど、早く大人になりたいぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして夏休みを終えた俺は、現在ダイアゴン横町に新学期の買い物に来ている。

 本当ならばーちゃんが一緒に買い物に来てくれるはずだったのだが、腰を痛めたらしく辛そうだったから一人で来た。ばーちゃんは心配そうだったが、俺も中身だけとはいえ大人だ。豆太郎も一緒だし、特に問題は無い。

 途中教科書を買うために寄った書店でギルデロイ・ロックハートという人のサイン会が開かれており、何故かハリーが一緒に写真を撮られていた。すげぇなあのギルデロイって人。ハリーすっげぇ嫌そうな顔してるのに全然気にしてない所か有難迷惑以外の何ものでも無さそうな自分の書籍全巻プレゼントとか平然と行ったぞ。ちょっと羨ましいくらいの無神経さだ。

 あれくらい無神経で自信満々だったら、きっと人生楽しいんだろうな……。まあ見習おうとは思わないが。

 

「よ、ハリー。重そうだな。大丈夫か?」

「あ、フジワラ。はは……重いよ。どうしようコレ「ハリー! その本を貸して! サインをもらってきてあげるわ!」……大丈夫になったみたい」

「お、おう」

 

 重そうだった本は、ハリーの隣に居た赤毛のおばさんが奪うように持ち去ってサインの列に並んだ。……サインもらってきてあげるって言ってたけど、あのままあげちゃえばいいんじゃないかな。ハリーもそう思ったのか、近くに居た赤毛の女の子(多分おばさんの子供)に「あれは夏休みお世話になったお礼に差し上げますって言っておいて」と言づけていた。需要のある場所に供給する。うむ、間違っていないぞハリー。

 しかし直後に一緒に居たハーマイオニーに「あらハリー! なんてもったいないことするの!? しかもあれ、教材に指定されてる本よ」と言われて愕然としていた。俺も愕然とした。急いで買い出しリストを見たらたしかに載っている……マジか。おい、ギルデロイ著作物だけで他の教科書の合計と同じくらいの冊数あるんだが。ちょ、この教材許可した奴誰だよ!

 ……まあ、落書き対象としては優秀すぎるくらい優秀そうだけど。多分俺の教科書の彼は年末には愉快な髭と眉毛と厚化粧で彩られていることだろう。おっと、鼻毛も忘れちゃいけないな。鼻毛真拳使いに生まれ変わらせてやろうじゃないか。タイトルもギギギーギ・ギーギギに書き直しておこう。魔法界の写真は動くから、落書きも描いたら動くのかな? だとしたらちょっと楽しみかもしれない。

 

 俺はそこまで考えてからとりあえず見なかったことにして、賢者の石の件でちょっと話すくらいの間柄になったハリーと世間話に興じることにした。

 

「夏休み元気してたか? ……あ、あと俺の事は樹季でいいよ。俺もハリーって呼んでるし」

「そう? わかった。う~ん、後半は楽しかったよ。ロンの家に遊びに行ってたんだ! イツキは?」

「俺はほとんど日本の実家に帰ってたかな。一昨日イギリスに戻って、ばーちゃんの家で野菜とか薬草の手入れ手伝ってた」

 

 そんなたわいもない話をしていると、青白い顔をしたプラチナブロンドのぼっちゃんことドラコ・マルフォイがハリーに絡んできた。でもってその親父さんも絡んできた。そしてロンのお父さんと仲が悪いらしく、険悪な雰囲気になったと思ったら大の大人が取っ組み合いの喧嘩を始めた。おい馬鹿ヤメろ店ん中だぞ。子供も近くに居るのに肘とか当たって怪我したらどーすんだ。

 見過ごすわけにもいかず、俺は喧嘩両成敗ってことで2名にそれぞれキンテキを食らわせた。子供になってからは身長も低いし力も弱いから、積極的に急所を狙っていくことにしている。じゃないと勝てねーんだよ。

 2人は震えながら蹲って恨めしそうな顔で俺を見てきたが(痛くて声は出ないらしい)、俺は親指でくいっと外を示して「外でやれ」とだけ言っておいた。ついでにロンとぼっちゃんには「ああいうの、反面教師っていうんだ。いくらお父さん好きでもああいうところは見習っちゃいけないぞ」と注意しておく。ロンには微妙な顔をされてぼっちゃんには睨まれ嫌味を言われたが、すっと親父連中のゴールデンボールを蹴り上げた足を持ち上げると目をそらされた。うむ、マグルだろうが魔法使い族だろうが男の弱点は皆共通だということだな。

 

 ちなみに女子には「やり方が下品」と不評だったが、ハリーは体を震わせ笑いをこらえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 でもって無事教材も買い終わり、赤い汽車にのって再び来ましたホグワーツ。そして始まるハッフルパフでの2年目生活。……どうでもいいが、ハッフルパフって真ん中のフをスにかえてパフを二倍にすればハッスルパフパフというハッスルダンスとパフパフを合わせたドラクエに出てきそうな技っぽい名前になるなぁと、汽車の中で暇だったからぼんやり考えてた。ハッスルパフパフ……うん、ありだな。おっと、だけどネタが通じるとは思わないし通じたら通じたで寮生に袋叩きにされそうだからそっと胸の奥底にしまっておこう。そしてヘルガ・ハッフルパフ先輩すみませんでした。

 

 例のギルデロイ・ロックハート氏が新任教師として赴任してきた時は授業内容にざわついたなぁ。なんだよ教科担任自身に関するテストって。おもいっきりネタ解答しといたわ。そしたら「不正解だが、詩的な解答なのでハッフルパフに3点さしあげましょう!」とか言われて吹いたわ。……クラスメイト達の視線が痛かった。

 いや、あの人授業じゃなくてファンイベントの会場だと思ったりパフォーマンスを見物していると思えばそれなりに面白いんだけどさ……。闇の魔術に対する防衛術って、かなり重要な内容の授業じゃん? 魔法が苦手な俺でも頑張って覚えようとしてたわけよ。今思うと、豚箱送りになっちゃったけどクィレル先生の授業ってやっぱり丁寧だったよな……。

 とりあえずこのままじゃいかんと、闇の魔術に詳しいっていうスネイプ先生におすすめの教材は無いか教えてもらった。この人も性格は陰険だけど授業内容は丁寧だ。そして教えてもらった教材はやはり参考になった。……ちょっと難しかったけど。

 ちなみに以前俺が使ってた筆に興味を示していたから、後々この時のお礼にとクリスマスに筆と硯と墨を贈っておいた。生徒が教師にプレゼントするのが大丈夫か分からなかったから匿名だったけど。賄賂って思われても嫌だしな。

 

 

 

 

 

 まあ、そんな風に何もなかったわけではないけど…………最初こそ学校生活は平和だった。そう、初めは。

 

 だけど、途中で不吉な事件が起き始めたんだ。

 

 

 

 まずハロウィーンに、フィルチさんの愛猫であるミセス・ノリスが石になって発見された。去年といい今年といい、ハロウィーンという日は本当に悪霊でも彷徨い歩いていそうなくらいの厄日だ。来年からはきっちり仮装して魔除けしておこうか。

 

 ミセス・ノリスが発見された場所の壁には「秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ」と血のような赤い文字で書いてあった。そしてその後マグル出身の生徒が次々に何者かに襲われて石化するという事件が頻発したのだ。もうこれ学校閉鎖してしっかり調査した方がいいんじゃ? と思ったが、「継承者」の話で持ち切りになりながらもホグワーツでの学校生活はそのまま続いた。

 ……たしかこの事件って蛇と日記がキーワードだったよな? でもって、今までの被害者って運が良かっただけで蛇の魔眼って本来の効果は即死効果だよな? やっべ、これやっべ。

 ハリーに近づきすぎなければ大丈夫だろうとたかをくくっていたが、こうなってくると俺も無関係ではいられない

 とりあえず元凶である日記に取り付いたやたら美青年な幽霊(映画の印象)を駆除すれば問題ないんだよな? と、日記の方を探すことにした。蛇? いや、無理だろ。勝てないだろ。そいつ相手にするくらいだったら除霊が効きそうな奴相手にする方がまだましだわ。

 一応先生に「これって文献とかに乗ってるバジリスクとかコカトリスの仕業じゃないですか?」と、注意を促すために相談してみたんだが「不確定な情報で級友たちを混乱させてはいけません」と怒られてしまった。……まあ、証拠なんてないしなぁ。これが鳴介相手だったら俺の霊能力について理解もあるし、多分一緒に調べてくれたんだろうけど……。魔法の成績がよろしくない生徒がいきなり「勘」だの「予言」だの言いだしても信じてもらえないか。

 

 誰だったかなー日記の持ち主。たしかハリーの知り合いだったよなー。秘密の部屋の入口ってたしか女子トイレだろ? ってことは女子だよなー。やべー覚えてねー。女子トイレもいくつかあるから秘密の部屋に行けるトイレ分からないし、分かったとしても入り方知らないから先生にチクるわけにもいかないしなぁ……。また怒られるのが落ちか。

 

 悪霊が取り付いてそうな品なら、たとえ直接見なくても雰囲気で結構わかるんだが……何故か普段は必要以上に鋭い俺の霊視は仕事しない。あれ、今回の敵って幽霊でいいんだよな? 勘だが、微妙に見当違いをしていそうなのは気のせいだろうか。

 誰が持ってるか特定できないからしらみつぶしに探すしかないけど、この学校人数多い上に他の寮の生徒となるとそれも難しい。学校の見取り図でもあれば以前ぬ~べ~クラスで流行ったフーチ(※五円玉と糸を使った中国由来の占い)を使って探すことも可能なのだが、いかんせんそれが無い。たしか誰か地図を持っていた気がしないでもないけど……いかん。にわか知識過ぎてほとんど覚えてねぇわ。まあ原作読んだの25歳だった俺が煌くティーンエイジャー☆だった時だしなぁ……しかも流行に乗っておこうと一回読んだだけじゃあこんなもんか。

 

 

 

 あれこれ考えながら自分に出来る範囲で色々してみたが、ホグワーツの生活は何気に忙しく、気づけばクリスマスも終わり年末も過ぎて新年を迎えていた。

 

 

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

 寮という生活スタイルだと、どうしても常に人の目がある。しかも犠牲者が増えたことで18時以降は寮の談話室に戻る事、授業の移動は先生が引率するとが決定した。下手にそれをやぶって一人行動して蛇に遭遇したらもともこもないので、案外日記探しに割ける時間は少ないのだ。

 多分物語的に考えたら1年の時みたいにハリー達が何とかして、また1年が終わってめでたしめでたしって感じなんだろうけど……。実際に住む世界として生活してる身としては安心しきれないのが本音だ。

 う~ん、こりゃあ占いの授業が出て来たら本格的に勉強しようかな。多分観る事や霊気の探知が得意な俺と相性はいいはず。こういう探し物のもやもやを解決できるなら、是非身に着けたい技能だ。

 

 しかし、ある日ふと思い立って我がハッフルパフのゴーストである太った修道士さんに「女の子の幽霊が居る女子トイレって知らない?」と聞いてみた。するとあっさり「嘆きのマートルのことかい?」と答えが返ってきた上に、わざわざゴーストに聞かなくても、生徒でも普通に知ってる人は知っているらしい。……実に灯台下暗しである。不覚。

 トイレ……幽霊……。ぶっちゃけ花子さんのトラウマが抜けきってないから出来れば行きたくない。でも、一応確認だけしときたいしなぁ……。ううっ、女子トイレに行くなんて同級生に言うわけにもいかないし、これは一人で行くしかないか。嫌だなぁ……確認だけしたらさっさと帰ってこよう。

 運よく日記を持った人物が現れて、それを奪えたらラッキーなんだけど。

 

 

 

 

 とか思ってたらマジで現れた件。

 

 

 

 

「ねえ、あなた」

「ん?」

 

 件のトイレに来てマートルさんにビビりながらも(この場合幽霊ってよりもマートルさんタイプが苦手。繊細過ぎて扱い方が分からない)ざっとトイレの見取り図を描いてフーチで入口の場所を探っていた時だ。声をかけられて振り向けば、目が覚めるような赤毛。そして俺の意識はそれが誰か認識する前に暗闇に沈んだ。

 …………不意打ち対策、今度からもっと考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの声が聞こえた。

 

「イツキに何をしたんだ!」

「ああ、彼かい? こそこそと部屋の入口をかぎまわっていたから、連れてきたんだ。安心したまえ。気絶しているだけで、まだ生きているよ。まあ、それもあとわずか。……バジリスクに処理させて適当な廊下に放り出しておけば、新たな犠牲者ってことで校内を賑わわせただろうけどね……面倒だし、君と一緒にこの秘密の部屋で永遠に躯として転がっていてもらおうか」

 

 

 意識は戻ったが動けない俺の近くで何やら物騒な事言われてる。

 とりあえず様子だけ見れば、横たわる赤毛の少女、やたら美形な青年、そしてハリー・ポッター……うん、物語クライマックスですね分かります。

 

 またこのパターンかよ!! いや、今回は完ぺきに俺が迂闊だっただけなんだけどさぁ!

 

 冷や汗をだらだら流しつつ、様子を窺っていれば謎の美青年幽霊が自己紹介しはじめた。え、ヴォルデモートの過去であり現在であり未来……? あ、記憶? つまり幽霊っていうよりちょっとした付喪神みたいな? いや違うか。でも俺が幽霊探そうとして見つからなかった理由はちょっとわかった。分かった気もするが、まあ控えめに言ってよくわからん。フィーリングで分かった気になってただけだ。

 え、どういうことなのと思って薄眼で見ていたら、奴が空中に自分の名前……「トム・マールヴォロ・リドル」という名を書き、それを入れ替えた。すると「I am lord voldemort」という文が現れる。

 …………………………お、おう……本名のアナグラムか。なんつーか、何故か妙にしょっぱくて生暖かい気持ちになった。あれだな、人の黒歴史ノートのぞいちゃったみたいな? そしてもとの名前が嫌だからって理由のわりには素材はもとの名前なのか……。多分、格好いい名前にしようと思って色々考えたんだろうな……。うん、お前は頑張ったよ。ヴォルデモートっていう名前は強そうだし格好いいよ。トムからよく頑張って考えたよ。

 

「まあどうでもいいんだけどな! オラァッ!」

「な!?」

 

 俺はハリーに校長の不死鳥フォークス(こいつも実は豆太郎の友達である)が組み分け帽子を託したところで、勢いよく飛び起きてトムくんに足払いをかけてすっころばし、手に持っていた杖を蹴り飛ばした。

 

「イツキ!」

「ようハリー! これお前のだろ? 返すぜ! 豆太郎頼む!」

「クッ、よくも!」

 

 俺はトムの手から離れた杖を、ローブの下に隠れていた豆太郎に取りに行かせた。そこにもう一振りの杖(多分赤毛の子のだ)を取り出したトムの魔法が迫るが、うちの豆太郎を舐めてもらっちゃ困る。

 

「キュウ!」

 

 豆太郎は得意のエクトプラズマを使った変身で巨大な一つ目入道の姿になると、その体で魔法を弾いた。霊媒物質であるエクトプラズマが、本体の豆太郎に届く前に魔力とぶつかりあって消滅したのだ。エクトプラズマの量は減ったが、豆太郎はぴんぴんしているのでまるで問題ない。豆太郎、俺と一緒に鳴介に修行つけてもらってたから結構強いんだぜ! むしろ俺より強いぜ!

 

 まあいきなり現れた一つ目入道に杖を差し出されたハリーは驚いたろうけどな……。杖が楊枝に見える。

 

「チィッ、なんだあのトロールみたいなやつは! 来い、バジリスク!」

 

 忌々しそうに吐き捨てたトムが蛇語でバジリスクに呼びかけると、シュルシュルと音がしてサラザール・スリザリンの像の口が開き何かがはい出てこようとしていた。

 

「馬鹿野郎来させるかよ!」

「ぐぶ!?」

 

 目を見たら死ぬとか馬鹿かよ!

 とりあえず命令している本体をどうにかしようと、最近得意になってきた急所狙いの一撃を奴の股間に叩き込んだ。そのまま前のめりになったトムの目にチョキにした手を突き出し目つぶしをし、咽喉にチョップをえぐりこむように加えてから渾身の力で蹴り倒してのしかかりマウントポジションをとった。そして喋る間を与えないように顔を狙ってひたすら拳を振るう。

 合間合間に「馬鹿な!」「何故記憶の僕に物理攻撃が!?」「まだ完全に復活していないのに何故!」みたいなこと言ってたけど、そんなん知るか! なんか殴れたから殴るんだよ!! 強いて言うなら最近の俺は顔と首以外の体全てに直にお経を書き込むというスタイルのお経アーマーを纏っているからかもしれないとしか言えんわ! 同級生には「イツキ、それってKANZIかい? ワオッ、とってもクールだよ!」と意外と評判いいんだぞ!! ピーブスの野郎も定期的に殴ってるわ!

 

「イツキ! ナイスだけど駄目だ! バジリスクが出てきた! 目を瞑って!」

「ふ、ふふふ……。無駄さ。バジリしゅくは僕の命令をきゃん璧にしゅいこうすりゅ……」

 

 俺の拳をうけてぼっこぼこに晴れ上がった顔で、トムは勝ち誇った笑顔を浮かべる。クッ、カッコついてねぇぞって笑う暇も無いな。に、逃げないと殺される! 即死効果の眼も恐ろしいが、巨大な蛇ってだけでもうアウトだろ! 捕まったら絞められて一瞬で全身粉砕骨折だわ! あと絶対毒持ってるよな!? 即死の眼を筆頭に、絞殺死、窒息死、中毒死ってバリエーション豊富過ぎんだろ!!

 

「ま、豆太郎来い! お前が敵う相手じゃない!」

「きゅ、きゅうう~」

 

 一つ目入道に化けていた豆太郎も、動物だからこそ余計に本能で相手の強大さを感じ取ったのだろう。すぐに変化を解いて俺の腕の中に戻って来た。だけどそこで終わらないのが豆太郎の凄いところだ! なんと、バイクに化けて俺たちを乗せて逃げてくれたんだ!

 しかし巨体であるというのはそれだけである種のスピードである。バジリスクの追撃は、俺たちをいやおうなしに追い詰めた。

 

 そしてそんな中、ハリーと一緒に必死に逃げつつふと思い至る。

 

(サラザール・スリザリンの残した動物ってことは、下手したら玉藻先生より長生きしてるって事か……)

 

「おい待て大妖怪じゃねぇか! おいバジリスク! あの幽霊もどき絶対お前より格下だろ!? それでいいの!? 昔の飼い主の命令とはいえお前はあんな雑魚にしたがってていいの!? おいハリー訳せ蛇語に! バジリスク大先輩をご説得しろ!」

「まさかの説得!? いや、無理だよ! あいつ、本当にトムの命令以外聞き入れようとしてない!」

「だけど死ぬだろ!? このままだと死ぬだろ!?」

「高確率でね! 嫌だけど!」

「俺も嫌だ! さあハリー! ネゴシエイターとしての才能を今こそ開花させるんだ!」

「だから無理だよ!?」

 

「バジリスク! さっさとその煩いムシケラどもを殺せ!!」

 

 俺が雑魚だの格下だの言ったからか、トム先輩がさっきよりもお怒りだ。やっべ火に油注いだ。

 

 

 

 しかし、天は俺たちを見捨てなかった!

 

 

 

 途中で不死鳥のフォークスがカムバックして勇敢にもバジリスクに飛びかかり、その眼をつぶすという偉業を成し遂げたのだ! なんて勇敢な鳥だ!!

 しかし、それでも蛇は俺たちを追ってくる。蛇なだけあってしつこいぜ!

 

「ハリー! さっきの帽子まだ持ってるか!?」

「う、うん!」

「手入れてみろ! もしかしたら何か入ってるかもしれない!」

「帽子の中に?」

「おう! フォークスは校長の鳥だろ? もしこれが校長のよこした助けなら、中に何も入ってなかったら俺怒るわ! 全力で校長の顎にシャイニングウィザードぶちかますわ!」

「それもそうか……よし!」

 

 意を決したハリーが組み分け帽子に手を入れると、そこから美しいルビー(多分)の宝飾が施された一振りの剣が引き出された。

 

「キタ! 伝説の剣的なアイテムキタコレ!」

「でも突き刺すには近寄らなきゃ……!」

「馬っ鹿、伝説の剣様だぞ? 飛ぶ斬撃ぐらい余裕だろ! ジャンプ漫画の斬撃はだいたい飛ぶんだ! 魔法界ならそれくらい出来て当たり前のはずさ!」

「(ジャンプ漫画……?)そ、そうか! よし! はああ!!」

 

 気合いと共に、ハリーが離れた位置から剣を振りぬいた。

 勝ったな。そう一瞬前の俺は思っていました。剣はヒュインと空気を切っただけで、一瞬何とも言えない空白の時間が生まれる。

 

「イツキの馬鹿! 何も出ないよ!?」

「ガチで普通の剣ですか!? ギガスラッシュくらい標準装備しておけよ!」

 

 後から思い返せば、剣に随分大きな期待を寄せていたようだ。無機物であるが、心なしか剣が申し訳なさそうにしていた気がする。誠に申し訳ない。でも俺たちだって必死だったのだ。勘弁してほしい。

 

「ははははは! 無様だね。さて、そろそろ君たちの命運も尽きるかな?」

「やっかましいわ! おいハリー! 蛇は無理でもこのままトム先輩をひき殺そう!」

「ははは……は?」

「! そうだね! バジリスクはこのさい後回しだ! まずジニーを助けないと! あいつを倒せばジニーは助かるし、バジリスクも命令する相手が居なくなれば僕の声を聞いてくれるかも!」

「よし! 豆太郎、標的トム・たまごボーロ・リドル!」

 

 バイク(豆太郎)に乗った俺たちはまるで風になったようだった。天才的シーカーであるハリーの指示で俺がハンドルをきってバジリスクを撒くように秘密の部屋を駆け巡り、その時が迫るとハリーは俺の後ろでまるで勇者のように美しい剣を振りかざす。

 

「轢くのもいいけど、狙いは日記だ! あいつの本体は日記なんだイツキ! きっと日記を壊せば……!」

「よっしゃわかった! 横すり抜けるからしっかり狙えよ!?」

「うん!」

 

 ハリーが頼もしく頷いてくれたので、俺も腹をくくってハンドルを握る。そして豆太郎に「あとちょっとだ、頑張ってくれ」と呼びかけた。いくら霊媒物質で作っているからといって、それを発生させているのは豆太郎なのだ。疲れないはずが無い。あとでおもいっきり美味いもん食わせてやるからな! あと少しだけ頑張ってくれ!

 

「く! させると思うか!? アバダ・ケダブげむぉ!?」

 

 トムがヤバそうな呪文を使いそうだったので、さっきのやり取りなど無かったかのように軌道修正してアクセルを踏み込み最速で奴を轢いた。霊媒物質まじパーフェクト。俺のお経アーマーと同じように、物理攻撃が効かないと思い込んでたらしいトム先輩を吹っ飛ばしてくれた。錐揉みに回転して頭から落ちてたけど、やはりそれでは倒せないようだ。恐ろしい形相でよろよろと立ち上がり、再び俺たちに杖を向ける。

 

 

 しかし、この時点で俺たちはすでに勝利していたのだ。

 

 

「さあバジリスク、餌だぞ!」

 

 ハリーはトム先輩を轢く際、少女の肌を傷つけないように器用に剣を使ってとっさに日記をジニーの腕からかすめ取っていたのだ。流石の反射神経である。

 そしてそれを背後に迫っていたバジリスクに投げつけた。思いがけずバジリスクが近くに迫っていたから、剣で日記を切る暇がなかったからだろう。しかし結果的にそれが功を成した。

 投げつけられた日記に、攻撃だと勘違いしたバジリスクが嚙みついたのだ。……極上の猛毒の詰まった牙で、黒い日記は貫かれたのである。

 

 すると日記からインクが噴出し、言いようのない断末魔のような音があふれ出す。

 

「が、あ!? まさか、この僕、が……!」

 

 同時に、トム先輩の体も光に焼き尽くされるかのようにボロボロと崩れ去っていく。

 

 

「ああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 そして日記と共に悲鳴を上げて、トム先輩は消え去った。だけどそれで終わりじゃない!

 

「仕上げだ! もうヤケだよな!? ハリー!」

「まあね! このままバジリスクに止めを刺す!」

「おう! 頼むぜ!」

 

 日記が弾けとんだ衝撃を受けたのか、バジリスクが一時的に動きを止めたのだ。そこに、バイクの背からフォークスに乗り換え(?)たハリーが上空からせまる。

 

 

 そして……バジリスクの脳天を、銀色の刀身が刺し貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極限状態のハイってコワイ」

 

 後日、俺は寮の自室で布団をかぶりながらブルブルと震えていた。ここ数日授業も全部休んで引きこもっている。まさかの引きこもり生活リターンズだ。

 何度かハリー達が訪ねてきたようだが、俺としてはそれどころじゃない。

 

 

 

 最初は偶然だった。

 

 次は自衛のための情報収集に自ら行動した。

 

 

 

 けど、結果的に俺は2年連続で主人公と一緒にボス退治に参加してしまったのである。つーか2年連続で姿を変えて同一人物がボスって何だよ。しかもラスボスだぜ? もうちょっと出し惜しみして部下とかの中ボス挟んで来いよ! なに全部ラスボス自ら出張ってきてんだよ! 働き者か! いらんわ!

 人の口に戸は立てられぬといったもので、ハリーとジニーには俺があの場にいた事を広めないようにお願いしたにも関わらず……俺が秘密の部屋でハリーと一緒に戦ったという噂はあっという間に校内に広がってしまった。

 

 これが何を意味するかって? 今後闇の陣営に目をつけられるかもしれないってことだ。お腹痛い。すでにボスの恨みを買ってるのにさらに上乗せとかいらない。

 

 

 

 

 俺はますます憂鬱になった魔法学校での生活を、真剣に引きこもりのままやり過ごせないかと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。お粗末様でした!(本当にな
所々下品でまっこと申し訳ない。

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