前回のあらすじ
かなり若い頃のギース「地獄だった。空気は腐臭と硝煙の匂いで満ち、砂は流れた血で重く湿る。そんな中でふと思う――この地獄を生み出した人間の業の重さを」
人だった頃の神崎「ギース、捕虜の追加です。意識が戻る前に対処を――私はこのまま残りを片付けてくるので」
かなり若い頃のギース「あっ、はい」
もけもけA「もっけっ!!(タックル)」
もけもけB「もけけもけけ!!(連続パンチ)」
もけもけC「もけーっもっけっ!!(跳び蹴り)」
プロフェッサー・コブラ「この化け物どもがァアアァアアアア!!(銃乱射)」
アメルダ「――と、このように戦場はいつだって無慈悲な現実を突き付けてくるのです、モクバ様」
モクバ「お、おう……」
海馬は己が向き合わなければならない問題にケリを付ける為に一時KCを離れ、ある場所を訪れていた。
それはとある別荘地。そこで海馬は老執事の制止の言葉など聞かず乱暴に目的の人物がいる扉を勢いよく開く。
そこにいたのは――
「ん? おお、久しいな瀬人」
海馬の憎しみの象徴であった筈の海馬剛三郎。
「KCでのお前の活躍は耳にしているぞ。見事なものじゃないか」
剛三郎は突然来訪した海馬に嫌な顔一つせず老執事を手で下がらせ世間話を繰り出す。
「俺は此処にくだらん世辞を聞きに来たわけではない。俺は――」
だが海馬は取り合わない。そもそも用が無ければ剛三郎になど会いたくもないのだから。
そんな海馬に剛三郎はティーセットを用意しながら穏やかに返す。
「そう慌てるな。いい茶葉が手に入ったんだ――お前もどうだ?」
その剛三郎の姿に海馬にKCを追われた怨みなどは微塵も感じられない。
――こいつは誰だ……
海馬の心に不気味な波が立つ。
「フフッ、儂も最近になってようやく美味く淹れられるようになったんだぞ?」
――こいつは誰だ……
海馬が見たことのない、剛三郎の「普通の親」ともいうべき在り方に海馬の内心での動揺の波がさらに大きく揺れる。
「どうした瀬人。さっきから黙りこんで、気分でも悪いのか?」
そんな「純粋に海馬を心配する」剛三郎の優しげな視線に、不気味な違和感に堪えられなくなった海馬は声を荒げた。
「いい加減にしろっ! 貴様が俺にした仕打ちを忘れたか!!」
――こいつは一体、誰だ!!
内心でそう叫んだ海馬にとって「剛三郎」はこんな人間ではなかった。
別人かとも考えるが、海馬が自身の憎しみの象徴たる剛三郎を見間違える筈が無い。
海馬の怒気に肩を落とし小さくなる剛三郎。
「……それもそうだな、許される筈もない……それで一体何のようだ? 儂に恨み言をぶつけに来たのか?」
だがそれも当然のことだと海馬の怒りを真摯に受け止める剛三郎。
海馬は吐き気を覚える――人はここまで
「そんな暇は俺にはない! 貴様の知っているヤツのことを全て話せ!!」
「ヤツ、か……儂の所まで聞きに来た姿を見るに余程、追い詰められているようだな……」
ゆえにさっさと用件を済ませこの場から立ち去るために急かすように言い放った言葉に剛三郎は言いよどむように声を細める。
だが海馬は剛三郎の言う「追い詰められた」という言葉を否定するように声を荒げる。
「黙れ! 話すのか話さないのかはっきりしろ! 暇ではないと言った筈だ! ヤツは何を企んでいる! アクターとは何者だ!」
そんな海馬に剛三郎は紅茶を入れながら資料を読み上げるように説明を始める。
「『神崎
神崎の過去は剛三郎がKCにいた時代に全て調べ上げている。
「ごく一般的な愛情を持って育てられた」
そのあまりにも「普通」なその調査結果に剛三郎は何度も再調査を命じたものだ。
「だがヤツが幼少の頃、両親と共に鉄骨の落下事故に巻き込まれた」
しかし悲劇がその家族を襲う。
「両親は死亡、即死と思われる――その事故も特に事件性のない偶発的なものだ。不審な点はない」
神崎の過去の中で唯一「普通」ではないと言えたのが、早すぎた両親の死。
「無傷だった1人の子供を除いてな」
「それがあの男……」
神崎の過去の一端を垣間見た海馬がそう零すも、剛三郎は説明を続ける。
「そして既に両親の祖父母も他界しており、頼る親類縁者もいなかったためそのまま施設に預けられた」
しかし、それもさほど珍しいモノでもない。探せばどこにでもある「ありふれた悲劇」だ。
「施設での生活でも大きなトラブルもなく育ち、苦学生として勉学に励み、やがて施設を出て儂の前に姿を現した」
剛三郎が不気味に思う程に神崎の過去には「何もなかった」。
「ヤツの出自に歪みの原因になりそうなものは『両親の死』くらいなものだ。だが施設での暮らしぶりを調べた限り、そこで『歪み』が生まれたわけではない」
剛三郎が語り終えた神崎のプロフィールだが海馬の求めた答えに辿り着いてなどいない。
「さっきからあの男の身の上話ばかり……そんなものに俺は興味などない!」
海馬の先を促す言葉にカップの紅茶を飲み干す。まるで覚悟を決めるように。
「焦るな、瀬人。次に
此方の情報は全くなかったと断じる剛三郎。
「何処からともなく神崎が連れてきたデュエリストだ」
剛三郎はアクターを戦災孤児辺りではないのか、と当たりを付けている。
「さて前置きは此処までにして、本題に入ろう」
そして剛三郎は懺悔するように海馬に告げる。
「瀬人、儂は始めから、貴様の両親が死んだ段階でお前に目を付けておった――その聡明さはKCの後継者に相応しいとな」
「だったらどうした」
過去の海馬、否、瀬人の家庭はかなり裕福だった。ゆえに剛三郎との接点があってもおかしくはない。その為、海馬は興味なさげに続きを促す。
「そしてそのことは神崎も知っていた」
「待て、俺がKCに来たのはヤツがまだ――」
だが続いた剛三郎の言葉で海馬は不審がる。それもその筈――
「ヤツは始めから全てを知っていた。KCの、儂の、貴様の全てをな」
当時、軍事産業をメインにしていたKCの情報の入手難度は高いどころではない。
「ただの学生でしかなかった男が、だ」
そこいらの学生が手に入れられるようなものでは決してなかった。
「全てを知った上で儂が推し進めていた軍事産業をコケにした」
しかし全てを知った上で取った神崎の最初の行動は剛三郎に喧嘩を売ること。
「『未来の利益を食い潰しているだけの愚かな行為』と評してな」
当時、後ろ暗い行為にためらいのなかった剛三郎相手に実行するには命知らず所ではない。
「とはいえ、ヤツが提示したプラン――『医療技術の発展と独占』による間接的支配も当時の儂は悪くないと思ったのも事実だ」
だが、それゆえに剛三郎の目に強く留まった。
「ゆえに使える内は使ってやろうとヤツを迎え入れた――いつでも殺せると若造だと嘲笑いながらな」
そして神崎は医療分野の発展を目指しつつ、オカルト的なアプローチを始め、オカルト課が生まれた。
「少々勝手が過ぎるきらいもあったが、ヤツが及ぼした成果は中々だった」
オカルトパワーと言えば胡散臭いことこの上無いが、『魔法』と評すればその利便性は分かり易く、計り知れない。
剛三郎は過去を懺悔するかのように続ける。
「『長きに渡る戦乱に終止符を打つ英雄』との名誉を争う者の前にチラつかせてKCの力を駆使することで戦を終わらせ、復興の名目で干渉し、国家を疑似的に乗っ取る」
もの凄くアレな言われようだが、アメルダ探しのついでに神崎は頑張って復興支援しただけである。
結果的に相手を恩義で縛る形になってはいるが、クリーンなスタンスは崩してはいない。
それに何だかんだで経済効果によってKCは潤っている。
「そして救国の立役者の栄誉を別の人間に売り渡す――特にBIG5の奴らは喜んでおったよ」
神崎的にはイリアステルに目を付けられないようにしつつ、BIG5たちとの友好関係を築ける一石二鳥の作戦である。
「儂も『もうしばらく使ってやろう』と思った……『思ってしまった』」
それは剛三郎の気の緩み。それが全ての明暗を分けた。
「そうしてあの日を迎えた訳だ――儂が気付いた時には全てが遅かった」
剛三郎が全てを失う日、KCの社長の交代劇。
もはや剛三郎に抗う術は既になく、状況に流されるままだった。
「儂はヤツの掌でずっと踊らされていたことにも気付かぬ道化だった訳だ」
僅かに声が震える剛三郎。そして閉じていた感情の蓋が外れる。
「儂があの時! あの時、殺しておけば! そう何度思ったか!」
その剛三郎の目に映るのは「後悔」、「怒り」、そして拭えない「恐怖」。
「そこまでにしろ! 俺は貴様のくだらん後悔を聞きに来たわけではない!」
心を乱す剛三郎を制止するような言葉をかけつつ海馬は歩み寄り、剛三郎の胸倉を掴み上げて喝を入れるかのように追及する。
「貴様にはヤツが手を下すだけの『何か』があった筈だ! 貴様が俺にした仕打ちを悔いていると言うのなら、ソレを教えろ! 心当たりの一つ程度はあるだろう!」
その海馬の覇気に我に戻った剛三郎は弱々しい声で呟く。
「………………あくまで、あくまで儂の仮説だ。荒唐無稽すぎて儂自身も信じておらん……」
「構わん、話せ」
了承の言葉と共に剛三郎を掴んでいた手を離す海馬。
剛三郎はヨロヨロと椅子に座る。
そしてティーセットの横に置かれた箱から何かを取り出した。
「儂もデッキを組んでみた――かなりの値打ちものだぞ」
それは「デュエルモンスターズ」のカードの束、所謂「デッキ」だった。
「? 急にどうした? そんな自慢に興味はない――まさか呆けたか?」
話の中身が急に変わったゆえに海馬は純粋な疑問をぶつけるが、剛三郎は溜息を吐くように続ける。
「気付かないか、瀬人? いや、『気付く筈も無い』か」
「……何が言いたい」
意味深な剛三郎の発言に眉をひそめる海馬。
そんな海馬の反応を余所に剛三郎は過去に思いをはせる。
「初めて聞いたとき、儂は耳を疑ったよ。こんなゲーム一つで世界が一喜一憂しているのだから」
「俺たち、デュエリストを侮辱するつもりか……」
剛三郎の言葉に一人のデュエリストとして苛立ちを覚える海馬。
だが剛三郎の話の本質はそこにはない。
「そんなつもりはない。ところで瀬人、『チェス』で世界は動かせるか?」
海馬と剛三郎に馴染み深く世界的に知られているゲームを例に上げる剛三郎。
しかし海馬にはその質問の意図が読み取れない。
「何の話だ……無理に決まっているだろう」
「なら『デュエル』ではどうだ」
「……可能だ」
続く剛三郎の言葉に海馬の背に嫌な汗が流れる。
その海馬の動揺から答えに辿り着いたと考えた剛三郎は震える声で「仮説」を言葉にする。
「――――『世界の変革』。それがヤツの目的の『一つ』だ」
「なに……を言っている……」
海馬は心のどこかで自覚しつつも認められない。
そんな海馬に現実を突きつけるように剛三郎は
「今や世界の在り方は様変わりした。通常兵器など大して見向きもされない」
未だに兵器の存在があれど、もはや過去の遺物になりつつある。
「犯罪者共も銃を片手に悦に入る時代は終わり、レアカードを片手に悦に入る時代だ。儂から見れば――」
犯罪組織グールズなどがその最たるモノだった。
「――
偽らざる剛三郎の本音。
所詮「デュエルモンスターズ」など遊びに過ぎないと考える剛三郎の「過去の思想」が見て取れた。
海馬は己がデュエリストであることを誇りに思っている。
これは海馬だけでなく多くのデュエリストの共通認識と言える。
だがそれが「与えられたもの」だったという剛三郎の仮説。
ミエナイ イト ヲ カンジル
海馬は身体にいくつもの糸を幻視する。そして酷く身体が重く感じたが、海馬はそんなものはまやかしに過ぎないと力強く目を見開く。
「何を言っている! 『デュエルモンスターズ』を生み出したのはペガサスだろう!」
海馬はデュエルモンスターズが創造されるときに神崎が立ち会ったことは知っている。
だがあくまで「デュエルモンスターズ」を生み出したのはペガサスだった。
ゆえにその仮説はまやかしに過ぎないと海馬は叫ぶように宣言する。
「ならば何故ペガサスが生み出したのかは知っているか?」
「古代エジプトの遺跡とやらにインスピレーションを受け――」
そんな剛三郎の質問に海馬は過去に剛三郎の元で帝王学を学ぶ中で知り得た知識で答えるが――
「それは表向きの理由だ。実際はヤツが不治の病に侵されたペガサスの恋人の命を救った対価を『カードゲームの創造』という形で要求したものだ」
剛三郎がその裏側を明かす。
厳密には違うのだが剛三郎がそう受け取るのも無理はない。
「だとしても! ペガサスが作り上げた『デュエルモンスターズ』がこれ程までに世界に広がることなど予測できん筈だ!」
海馬瀬人にとって「デュエルモンスターズ」は、《
己が絶対の信頼を置く「力」が「敵」の手によって「与えられていた」現実など海馬は認められない。
「予測が出来ない? 違うな、間違っているぞ、瀬人」
だが剛三郎は笑う。
「――予測は可能だ」
「そんな筈が――」
バカバカしいと頭を振る瀬人に剛三郎は己が辿り着いた答えを提示する。瀬人の突破口になると信じて。
「過去にもあったのだ――『デュエルモンスターズ』が力を振るった時代が」
「古代エジプトのことか……」
「ほう、さすがに知っていたか。だがそれは一例に過ぎん――各地に根付く様々なオカルト話は全てカードの精霊と呼ばれるものと密接な関係を持っておる」
その考えはレベッカの祖父、ホプキンス教授によって示唆されている。
「そしてヤツはそれらの過去を利用した。『今』の情報発信技術を使ってな……そのための『KC』だったのだろう」
世界的に影響力が強く、なおかつある程度は自由に動ける場所だったのだと。
「古代エジプト史には
今までのオカルト課が生み出してきた医療技術などの様々な成果はこれゆえだと剛三郎は考えていた。
「そして『ペガサス・J・クロフォード』が『世界の改変』の
そして続く剛三郎の言葉に海馬はバカバカしいと鼻を鳴らす。
「仮にそうだったとしても、ただ偶然その恋人とやらが病に侵されていたことで恩人になれただけだ!」
そうでなければペガサスも傍から見れば胡散臭さの塊である神崎の頼みを聞くわけがない。
ゆえに「偶然」に過ぎないと。
しかし剛三郎は目を伏せる。「偶然」等どうとでもなると言いたげに。
「どうだろうな……その恋人が健康だったならば、『偶然』不治の病にかかるか、『偶然』不慮の事故でヤツ以外には治療不可能な程の大怪我を負うだけだと思うがな」
「そんなことが! そんなことが、まかり通る筈がない!!」
そんな吐き気を催す
「何を言う、当時『まかり通った』ゆえに今も平然としているのだろう」
だが剛三郎のその言葉が全てを物語っていた。
海馬は呟くように言葉を零す。
「…………何故、『デュエルモンスターズ』なんだ……」
よりにもよって海馬の魂とまで言える《
KCを守るため、兄弟の夢を守るため、そして何よりモクバを守るために
そんな海馬の問いに労わるように剛三郎は答える。
「……『デュエルモンスターズ』のルールは複雑怪奇だ。タイミングがどうとか、任意がどうとかな」
そのコンマイ語の難解さはK○NAMIさんの仕業でございます。
「ヤツは己でルールを定めたかっただけなのだろう。つまり『たまたま目についた』、その程度の理由だ。そしてルールを定めたゆえに世界の誰よりもその複雑怪奇なルールに詳しい存在と言える」
デュエルモンスターズに何ら愛着のない剛三郎は今の海馬の心をくみ取ってやることはできない。
ゆえに剛三郎は己が知る全てを海馬に伝える――自身の二の舞にさせないために。
「『新たな世界』においてこれ程のアドバンテージはないだろう」
大まかな「仮説」を話し終えた剛三郎はティーセットに紅茶を注ぎ、その波打つ紅茶に映った自身の姿をみやる。
「少し話が逸れてしまったな……」
そして最後の締めとして剛三郎自身がKCを追い出された理由を考察したものを語りだす。
「それらの事実に気付いた儂に警告を与える為か、それとも扱いやすいお前も十分に育ったからかは知らんが儂はお払い箱になった。そう儂は考えておる」
「…………俺が扱いやすいだと?」
聞き逃せぬ言葉にギロリと剛三郎を見やる海馬。
だが剛三郎はその視線を意に介さず答える。
「ああ、そうだ。分かりやすい
この海馬瀬人はその性格的にいわゆる「悪」にカテゴリーされる行動をとれない。
弟、モクバに誇れる存在であろうとするスタンスもその一つだ。
一方で過去の剛三郎は「悪」であろうが何だろうが気にも留めないその差が明暗を分けたと剛三郎は考える。
「言った筈だ、瀬人。『ヤツは殺しておけ』と――もっとも、今のお前には無理な話だろうがな。そして儂にも出来ん」
だが剛三郎がKCにいた時代の神崎はその牙をのらりくらりと躱し、確実に殺すと剛三郎が決めた段階ではその牙はもう届かない領域にいた。
そして今や、その牙すら剛三郎にはない――時間をかけてゆっくりと削り取られた。
しかし牙を無くした剛三郎とて出来ることはあると、意を決した表情で父として
「瀬人、もう抗うのは止せ。ヤツは邪魔さえしなければ基本的に無害だ」
摩訶不思議なオカルト技術を持つ神崎に対する敵対者は剛三郎の後ろ盾があってもなお多かった。
しかし明確に敵対しなければ神崎は何もしない――気付いていないことも多々ある。それでいいのか……
だが敵対者の末路は皆同じ。
「下手に抗えば『幸福にさせられる』ぞ」
「なにを……言っている……」
一見すれば意味不明な剛三郎の言葉だったが、海馬は嫌な予感だけはヒシヒシと感じていた。
そんな海馬に剛三郎は続ける――今の自身の有様が何よりの証明だと言わんばかりに。
「簡単なことだ。相手の望む『幸福』の在り方を用意し、周りを囲み、逃げ場を塞ぎ、縛り、味わわせ――」
今の剛三郎は「幸福」だ。乃亜に海馬、そしてモクバの3人の息子の躍進を眺めながら心穏やかな時間を過ごせる。
「その上で問いかけるのだ――『良い関係を築いていきましょう』とな」
それと同時に剛三郎には常に突きつけられていた――その「幸福」が誰の手によってもたらされているかという点を。
「断ればどうなるかなど、阿呆でも分かる」
ゆえに剛三郎は抗えない。この幸福感を手放したくない――なら答えは一つだ。
「『別にいいじゃないか』と割り切れる――いや、割り切らせてしまう」
今までの神崎は「表側」で過激な手段は何一つとっていない。
ならば「表側」にいる海馬も「今のままなら」安全の筈だと剛三郎は考える。
「俺に敗北を認めろと……!」
地の底から響く海馬の怒りの声に剛三郎は首を横に振りながら返す。
「そうは言っとらん。相応の距離感と言うものがある……ソレを見誤れば――全てを失うぞ」
だが海馬にその
「断る! 俺は断じてヤツには屈しない! そして貴様のような哀れな負け犬になるつもりもない!」
「儂が負け犬か……否定はせん。だが――」
海馬の啖呵に剛三郎はゆっくりと立ち上がり、海馬の前に立って見下ろす。
「お前に
海馬が自力で勝ち取ったものだ――障害であった筈のBIG5は何故か海馬に従順だったが。
「お前に
海馬が己で選び取ったものだ――世界の根幹をなしていたゲームを無視できる訳もないが。
「お前に
海馬が己で見染めたものだ――所持者は始めから海馬に渡すつもりだったが。
「お前に
海馬が生涯のライバルと定めたゆえだ――試合の段取りはあらかじめ全て用意されていたが。
「お前の
海馬とモクバが共に夢を実現させようと邁進したからだ――その前に、諸々の準備は既に終わっていたが。
剛三郎が間近で海馬の目を覗き見る。
「お前という存在を構成しているのは誰だ?」
海馬のこれまでの人生は全て海馬自身が踏み出した一歩が積み重なりロードとなったものだ――
しかし剛三郎の瞳が海馬に問うている――『本当にそう思っているのか?』と。
それに対し海馬は俯き言葉を返さない。そんな海馬の肩に手を置こうとした剛三郎だったが――
「フフフ……ハハハ……ハーハッハッハッハー!!!!」
天を仰ぎ、狂ったように海馬は高笑いを上げる。上げ続ける。
「……瀬人?」
明らかに様子のおかしい海馬に戸惑う剛三郎だったが、海馬はひとしきり笑いを得た後、ニヤリと笑って呟く。
「ククク……良いだろう! あくまで俺のロードの手綱を握ろうと言うのならば、好きなだけ握らせてやろう!!」
「瀬人! 何を言っている!!」
その言葉を額面通りに捉えるなら逆らわないことを誓うようにも聞こえるが、剛三郎はそんなものではないと理解していた。
そしてその剛三郎の危惧を肯定するように海馬は返す。
「ふぅん、簡単な話だ――俺がヤツの手の届かぬ高みに昇れば良いだけのこと! この俺を御せると思わんことだ!」
「止せ、仮にそんなことになれば――」
制御できない存在など、まさしく「邪魔」でしかない。争いは必至――だが海馬は望む所だと獰猛に笑みを浮かべる。
剛三郎の制止の声も無視して、海馬は背を向け立ち去る。
「ふぅん、邪魔をしたな! ここにいては貴様の負け犬がうつるわ!!」
そして扉に手をかけながら言い放つ。それは――
「だが貴様の情報、活用させてもらうとしよう」
海馬なりの感謝だった。
そして扉が閉まる寸前に剛三郎の弱々しい声が海馬に聞こえる。
「すまん……瀬人。何の力にもなれん愚かな父で――本当にすまん」
その言葉に「フン」と鼻を鳴らしKCへと帰る海馬。
閉じられた扉の向こう側で剛三郎は椅子に座りこむ。
我が子の危機にも拘わらずその膝は震えていた。
今話のテーマ:それなりに事情を知る人から見た神崎