第3話にも関わらずクライマックスだぜ!
前回のあらすじ
KCの技術は世界一ィィィィーーーーッ!!
少女、シンディアの治療は特に大きな問題もなく無事に終了し、大口のスポンサーも見つかったことにより神崎も大満足のホクホク顔である。だがそれも長くは続かなかった。
シンディアの両親も大喜びであり暫くは喜びに震えていたが、何かを思いだしたかのように電話をかける。
喜びのあまりシンディアの恋人への連絡を忘れていたことを笑いながら謝る両親に「しょうがない」と笑うシンディア。そうした親子のやり取りにも幸福が溢れてた。
暫くすると誰かが全力で駆け抜けてくる。「あれが恋人さんか」と神崎は思いつつも近づくに連れてはっきりと見えてくる見覚えのある容姿にどこか危機感を覚える――神崎の記憶の中の姿よりも若干、若い。
その彼はシンディアと向かい合い喜びを表している。
節々に聞こえる
「信じられマセーン!!」
「イッツァ・ミラクル!!」
「ずっと一緒にイマース!!」
などの発言を聞きつつも神崎は「他人の空似だそうに違いない」と現実逃避しつつシンディアの発言に現実に引き戻される。
「ペガサス、あちらの神崎さんが私を救ってくれたの」
「Oh! Mr.神崎! アナタはワタシとシンディアの恩人デース」
そういって神崎の手を握りブンブン振りつつ感謝の意を示すペガサス流星拳(仮)
「No! 自己紹介がまだでシタ、ワタシはペガサス・J・クロフォード! シンディアの恋人デース!!」
否、ペガサス・J・クロフォード。他人の空似などではないことが証明された。Q.E.D. 証明終了。
そうして、喜びと感謝を全身で伝えるペガサスをよそに神崎は「シンディア」という名前で気付くべきであったと悔やむ。自身がとんでもないことをしてしまったことに。
遊戯王が遊戯王たるゆえんであるデュエルモンスターズが生み出された背景にはペガサスが「古代エジプトでは現世の人の魂は、来世へと受け継がれる」との話を聞き、古代エジプトに伝わる術を用いればシンディアに会えるのではと思い立ちそこで壁画に書かれたモンスターを見てみて発案する。
だがこれはペガサスの恋人であるシンディアの死亡が前提になっている。
つまり、今シンディアの死の原因が取り除かれた状態ではペガサスがエジプトに行く必要もなく、当然デュエルモンスターズも生まれない。
神崎は一縷の望みをかけてペガサスに問う。
「Mr.ペガサス、退院後にどのような予定がありますか?」
「Why? なぜそんなことを聞くノデース?」
わずかに疑念を抱くペガサス。
「完治したといっても長い闘病生活からすぐ出来ることとそうでないものがありますので……」
その神崎の建前全開の答えを聞きそういうことならとペガサスは今後の予定に思いをはせる。
「Oh……Sorry そうデスネ……シンディアと世界を回りマース! 彼女に様々な世界を見せてあげたいノデース!! そのあとは画家として絵を描きつつシンディアと静かに暮らしマース!!」
返答を聞き神崎は確信する「このままではデュエルモンスターズが生まれない」。
仮にエジプトに行き壁画の魔物にインスピレーションを受けデュエルモンスターズを考え付いたとしてもこのペガサスは恋人であるシンディアとの時間を優先することが容易に見て取れた。
彼はデュエルモンスターズが生まれなかった際のデメリットを考えるが、その必要はないくらいに判り切っていた。どう足掻いても「世界が滅ぶ」。
遊戯王の世界では幾度となく世界の滅亡の危機が訪れる。そしてその危機に対し「デュエルモンスターズ」を用いて戦うのだ。それがなければ勝負にもならない。
知らず知らずのうちに世界滅亡のスイッチを押しかけていた神崎は思案し結論を出す「まだ軌道修正は可能である」のだと、何もしなければ世界が滅ぶためそう信じるほかないのだが。
まず神崎が行ったのは時間を稼ぐことだった。その稼いだ時間で2人のハネムーン計画を完膚なきまでに打ち砕かねばならない。
ファーストフェイズ―「リア充爆発しろ」フェイズである。
もう退院しても問題ないシンディアの足止めとして「念のため」と称し各種精密検査を実行、病院に縛り付ける。
次にペガサスにはシンディアとの旅行先の一つとしてエジプトを勧め、一度下見に行かせ壁画の魔物からインスピレーションを受けさせようと画策する。デュエルモンスターズを生みだすために――ガイドには神崎の息のかかったものを引き連れさせて。
そしてセカンドフェイズ「遠距離からの互いの認識の相違」へと神崎は計画を進める。
様子を見に来た神崎をシンディアは快く迎え入れる――勝ちえた信頼は伊達ではない。
そして神崎は世間話に交え一手を放つ。
「ご存知ですか? Mr.ペガサスは『デュエルモンスターズ』という世界中の子供たちが楽しく遊べるカードゲームを作っているそうですよ」
この発言に続け次々と言葉を並べる。
どれほど素敵な夢なのか、いかにペガサスが人格者なのかを語る神崎。
シンディア自身も恋人であるペガサスを褒められ満更でもない様子。
神崎はそこに一つ毒を垂らす、「恋人として応援し支えてはどうか」と。シンディアは当然肯定をもって返した。それがペガサスの退路を断つことも気づかず。
シンディアとの世界旅行の下見を終えたペガサスは恋人との会話を楽しんでいた。
退院の目途が立ったと気を利かせてこの場から退出した神崎から聞き及んでいたためペガサスは退院後の予定へと話を変える。するとシンディアのまとう空気が変わったのをペガサスは感じた。
そして、シンディアは胸の前で両手を合わせ嬉しそうに語る。
「聞いたわペガサス、世界中の子供たちが楽しく遊べるカードゲームを作っているそうね――とっても素敵な夢だわ」
ペガサスに動揺が走る。なぜ彼女がそのことを知っているのか。
エジプトに下見に行った際、ガイドに勧められるまま見た壁画に対し強いインスピレーションを受けこれを基にしたカードゲームを作るのも面白いと考えたがシンディアと一緒にいることを優先するため彼の中でお流れとなった計画だった。
そのことは誰にも話してはいない。シンディアはおろか世界の誰もが知りえない情報だった。
「Oh……シンディア――ワタシは……」
ペガサスはシンディアと過ごすことを優先する旨を伝えようとしたがその言葉は続けられなかった。
「私のことは気にしなくていいわ。体もこの通り元気になったし貴方の夢の手伝いをさせて。私は夢に向かって頑張っている貴方が見たいの」
シンディア自身のせいでペガサスが夢を諦めてしまうこと、ペガサスの重荷になりたくないとの思いをペガサスは無視できなかった。
彼女の笑顔を曇らせる選択はできなかったのである。ゆえにペガサスは彼女に嘘をつく――優しい嘘を……
「実はそうなのデース。シンディアを驚かせるために隠していたのデスガ……そのサプライズをばらしてしまったのはいったい誰なのデスカ?」
そして、冗談めかしつつ聞き出す。彼女を利用した存在を――ペガサスはその相手を許すわけにはいかない。
「神崎さんが言ってたの。でも彼を怒らないで上げて、私が療養していた間に貴方がどんな仕事をしているか知りたかったからなの。貴方の頑張っている姿を知りたかったから……」
そうしおらしく言われてしまうとペガサスは言い返せない、彼女との時間を大切にするあまり自身に関する話をしてこなかったツケが回ってきたのである。
シンディアとの会話を切り上げ、下手人のもとへ向かうペガサスの胸中には「何故彼が」そんな思いが渦巻いていた。そして目的の人物を見つけ呼びかける。
「Hey Mr.神崎 !!」
「おや、どうかされました? そんなに息を切らせて」
神崎の胸ぐらをつかみ恫喝するかのように問い詰めるペガサス。だがデュエルの為に鍛えた無駄に筋肉質な神崎の身体はビクともしない。
「答えナサーイ! 何が目的なのデース! エジプト行きを勧めたのもこれが目的なのデスカ!!」
捲くし立てるように言葉を放つペガサスに神崎はペガサスに掴まれた胸ぐらを解きながら返す。
「落ち着いてください。ここでは何ですのでこちらへ」
そうして一室に案内されるペガサス。この状況下でも笑みを保つ神崎がペガサスは不気味でならなかった。
「シンディアの恩人でもあるアナタの頼みならワタシだって……」
意気消沈した面持ちでそんな言葉を零すペガサス。
ペガサスとてシンディアの恩人である神崎の頼みならデュエルモンスターズを生み出すことに抵抗はなかった。
こんな手段を取らずとも――そう思っての発言だったがその発言に彼の笑みが濃くなった気がした。気のせいである。
――彼は語る。
「『アレ』に対しては全身全霊で臨んでもらわなければ困りますので……」
――語る。
「そして貴方が全身全霊をかけるとすれば――それは私ではなく彼女の為しかありえません」
――カタル。
「貴方がデュエルモンスターズを生み出さないと知ったら彼女は悲しむでしょうね――自分のせいでと……」
ペガサスは怒気を身にまとい言い放つ。
「そのためにシンディアを利用したというのデスカ! 答えナサーイ!!」
それに対し神崎はさらに笑みを深めて返す。
「それではデュエルモンスターズができた暁にはぜひご連絡を」
その言葉を最後に神崎は其の場を立ち去った。
神崎は肝心なことは何一つ答えなかったが、ペガサスにはどうすることもできない。
神崎のことを信じているシンディアに今回の出来事を話したとしても信じてもらうのは難しい。
また信じてもらえたとしても「自身の存在がペガサスの行動を阻害している」現状を知れば神崎の言うとおりシンディアが悲しむ。それはペガサスには許容できない。
さらに神崎の思惑に乗り「デュエルモンスターズ」を作ったとしても、ペガサス自身もデザイナーとして思う存分腕が振るえ、シンディアはペガサスの夢がかなったと喜ぶ。
誰も不幸にはならない――逃げ場などなかった。
一方、ビビりながらも笑顔で誤魔化し平和的に解決できたと思っている神崎は心の中でこう思う。
――許せペガサス……世界のためだ
しかし許されるかどうかは別問題である。
第3話で世界を救う――原因を作ったと言ってはいけない。