キャスターの攻撃を防いだのは、体よりも大きな盾だった。
一瞬マシュかと思ったが、目の前にいたのはマシュでは無く、彼女そっくりな青年だった。
「無事ですか、マスター」
呆然としている俺に、目の前の
すると彼は、盾を押し込み、キャスターを弾き飛ばした。キャスターは空中でくるりと一回転して着地した。
「……貴様、何者だ」
「盾の騎士、とでも名乗っておこう、"光の御子"よ」
「ほう?……一応聴いておくが、何故分かった?」
その問いに青年は愚問だと言いたげな顔で、
「なに、あなたの事はずっと見ていた、それだけのことだ」
「……なるほどな。道理で”アイツ”が警戒してた訳だ」
”アイツ”?まて、ということは、敵の大将は
いや、今はそんな事はどうでもいい。今は、この状況を切り抜けないと。
「マスター」
「え!?、あ、はい、なんでしょうか?」
「ふふっ、そんなに畏まらなくても良いですよ。それよりマスター、
青年―――盾の騎士―――は真剣な眼差しで
「
「了解です、マスター」
盾の騎士は俺を守るように立ち塞がると、腰の剣を抜いた。
「……話は終わったか?」
「ええ。貴方をコテンパンにしろ、との命令です」
「……聞いてた話とは随分違うな、お前さん。もっとこう、キラキラしてるもんだと思ってたんだが」
「……?戦場でキラキラ等していたら、嫌な意味で格好の的です。私は守るモノではありますが、好んで敵に襲われる様な趣味は持ち合わせてはいませんよ」
「前言撤回。お前さんは聞いてた通りの奴だ」
「…変わった方ですね。さて、世間話はこれくらいにして、始めましょうか」
「いいぜ」
瞬間、二人の姿が掻き消えた。え?と驚いているのも束の間、目の前で起こった衝撃波で吹き飛ばされそうになった。
そして、理解した。この戦いは、先ほどの様な児戯では無く、本物のサーヴァントの戦闘なのだと。
ーーーーー
杖と剣が打ち合い、衝撃波が広がる。始めは一つづつだったそれは、秒の速さで二つ、三つと増えていく。その数が十を超えた時、それは動いた。
同時に起こった十の衝撃波、その全てから藁の腕が飛び出した。
「なっ!?」
「オラァ!!」
飛び出した腕によって十の像、その殆どが回避せずに搔き消えるが、ただ一つだけがその腕を回避した。すかさずキャスターはその数瞬の隙を逃さずに心臓狙って突き出した。
得物が得物ならば『
「何っ!?」
「油断したな、光の御子よ!」
盾の騎士はその不安定な姿勢とは思えぬ程の速度で盾を振るう。キャスターは杖を引き戻し盾の様に構え防ごうとするが、直後に突き出された剣によって心臓を貫かれた。盾の騎士はそのままキャスターを盾にする様に地面に落下した。
不意に不意を重ねたその一撃はキャスターを仕留めるに充分なものであった。
キャスターは震える腕で盾の騎士を引き寄せ、二言三言話すと光の粒子になって消えていった。
「―――――」
この間、体感で凡そ15秒。自身にとっては余りに短い時間だが、彼らからすればそうでは無いのだろう。
盾の騎士が此方に向かってくる。遠目では外傷はない様に見えたが、近くで見ると所々に傷があるのが分かる。傷の治療が出来れば良いのだが、治療の心得はあるものの道具が無い。
「お怪我はありませんか、マスター」
「うん、俺は大丈夫。それよりも、騎士さんの方は大丈夫?……ごめん、傷の治療ができたら良いんだけど」
「ああ、いえ、ご心配無く。―――の通り、治療は自分で出来ますので」
「!?!?」
盾の騎士が黄金の光に包まれる。数瞬後、光が消えるとあった筈の傷が無くなっていた。
先程の戦闘といい、今の現象といい、サーヴァント程"超常"の言葉が似合うものは早々居ないだろう。尤も、彼らが特別なのかも知れないが。
「……どうしましたか?マスター。呆けている様ですが」
「……いや、なんでも無い。それよりも騎士さん、さっきキャスターと話した内容って何ですか?」
「彼は敵の首魁の居場所と、今は私と首魁以外のサーヴァントは居ないと言っていました」
成る程。気になる事は幾つかあるが、敵の首魁の居場所が分かったのは大きい。それに、首魁との戦闘中に乱入者が出る事が無い事も分かった。早速ロマンさんに連絡して、状況を知らせよう。
ーーーーー
「―――てな感じです」
『成る程。それで、その、君の隣にいるサーヴァントは、一体何者なのかな?…僕にはマシュにしか見えないのだけれど、データでは霊基反応が英霊のソレ何だけれど』
「ああ、えっと、彼は……?」
そういえば、彼の名前を聞いていない事を思い出した。それどころか、彼については全く知らないといっていい。ロマンさんへの回答に困っていると、彼が前に出てきた。
「……そうですね、良い機会ですし、自己紹介しましょうか。
私の真名は“ギャラハッド”。此度はクラス“シールダー”として現界しました。……とはいっても、今の私は彼女の体に取り憑く様に現界している為、本人とは言えないのですが」
ギャラハッド。アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人だ。同じ円卓の騎士の一人、“湖の騎士”サー・ランスロットの息子で、“最も穢れなき騎士”と呼ばれていたとされている。彼の逸話には色々あるが、最も有名なのはやはり“聖杯探索”であろう。
ギャラハッドは生前、旅の途中で出会った騎士達と共に聖杯と手に入れ、昇天したという。
成る程。それならば先程の治癒の説明がつく。聖杯を使えば、あの程度の傷の治療等有って無い様なものだ。
ロマンさんはギャラハッドの名に驚いたものの、意外にもすんなりと納得していた。
『成る程……、それならば彼女の身体を使っていても不思議は無い。……でも、僕が言うのも何だけど、君が表に出てくる事は無いと思っていたけれど』
「……本来ならば傍観者に徹底しているつもりだったのですが。人理の崩壊と、仮とはいえマスターの危機が重なり、こうして表に出てきたという訳です」
『……そっか。……マシュの意識は残っているのかい?』
「彼女については心配有りません。表に出てきたといっても、彼女の意識を塗り潰した訳では無いので。私が引っ込めば彼女の意識が表に出てくるでしょう。尤も、聖杯のお蔭なのですが。自惚れる訳では無いのですが、私か、或いはかの“イエス・キリスト”でも無い限り不可能だった事でしょう」
『……すまない。手を借りるばかりか、マシュの事まで』
「いいえ、礼には及びません。身体を借りているのですから、此れくらいは当然です」
『ありがとう、ギャラハッド君。……そろそろ通信を切るよ。ーー君、君の健闘を祈る。どうか、無事に帰って来てくれ』
「はい、ロマンさん。安心して待っていて下さい」
俺のその言葉を最後にカルデアとの通信が途切れる。
そして俺たちは、敵の首魁の元へと足を進めた。
―――最初の歯車が回り始める迄、あと少し。
特異点Fに出てきたサーヴァントで、この作品に出てきていないのは
・アーチャー(エミヤ)
・ランサー(武蔵坊弁慶)
・ライダー(メドゥーサ)
・バーサーカー(ヘラクレス)
この四人の内、誰か一人は一切出番が有りません。
なお、よく似た別人は出てくる模様。
次回、敵の首魁との遭遇