想いも歴史も俺たちには関係ない。あるのは勝利の美酒と使いきれない金だけだ。
「全く持って骨折り損だ。水平線団だか地平線団だか知らないが全く持って割に合わない仕事だったよ」
紙コップに入ったコーヒーを一口飲み私はそう愚痴を言った。モニターの先には恰幅の良い軍服のジャケットを羽織った中年の男性が自室の椅子に座っている。
「まぁそういうな。料金は既に振り込まれているんだろう?それに君らと同じ火星で働く同業者の実力がタダで知れたんだ、そちらが金を払ってもいい位だ」
私はデスクにダンと紙コップを叩きつける。中のコーヒーが飛び私のジャケットに染みを作る。
「月に居るあんたならそう言えるだろうさ。俺たちは腐っても傭兵だ、金さえあればどんなことだってやるが、あいつら・・・鉄華団とギャラルホルンの混成部隊だって事はわざと伏せやがった。アンタもだラスタル、アンタのとこのボンボンが来るならそう言ってくれたら」
「それについては謝ろう。だがなぁ戦闘が終わった今だからこそこうして通信できているが、迂闊に通信を取るとそっちの狐が起き出すやも知れんからな」
ハァと私は大きくため息を付き、くしゃくしゃに潰れた紙コップを丁寧に伸ばし水を注ぐ。今も思い出すのはあの一方的な戦場だ。海賊対火星随一の武闘集団とギャラルホルン。こんなの幾ら金を積まれたってやりたくない。それをあんなはした金でやらされたかと思うと腹が立ってくる。沸騰しきった頭を冷やす為コップの水を一息に飲み干す。
「あぁ。で、普段連絡してこない多忙なアリアンロッド艦隊総司令のラスタル様が私になんの様で」
モニターのラスタルは私の話を聞くと身を乗り出し、ニィと口角を上げた。
「あぁあんたに頼みたい仕事は2つあるんだがな。どっちをしたい」
「金と内容次第だ」
「お前ならそう言ってくれると信じていたよ。地球に降りて鉄華団を中から壊したいか、それとも鉄華団と戦いたいか」
「勿論、後者だ」
「良し決まりだ。SAUの非正規部隊にお前名義で申請しておこう。もう一人、ガランが鉄華団を中から崩壊させる。頼むからガランと同士討ちなんてことは避けてくれよ」
「SAU?アーヴラウじゃないのか・・・まぁいいか。どうせ俺たちには政治の事なんざ関係ないしな、じゃあ切るぞ」
「あぁ最高の結果を期待しているぞ、友よ」
ラスタルからの通信を切り私は部屋に吊るしてある上着を羽織る。そして自室を出ていき、ブリッジへと向かう。途中で何人かの部下に会い私は気さくに挨拶する。上司と部下の間に距離が無いのがウチの良さだ。ブリッジに着き、私は艦長席に座る。頃合いを見計らい秘書のミラルダが私に書類の束を持ってくる。
「なにこれ?」
「先ほどの戦闘等の収支表です」
「おぉぉこりゃ酷い。地平線団からの契約金がパーだ。人的被害が無かったのは奇跡的だな。処理は君に任せるよ」
書類の中身を確認し辟易する。
「さぁ皆、人に言えない大仕事の時間だ。地球に行って鉄華団と事を構えるぞ。それが終われば1週間のバカンスだ、勿論地球でな」
操舵士に行き先を告げ、私は艦内放送のマイクを取り先ほどの内容と同じ事を伝える。さて、地球まで暫く掛かることだし仮眠でも取ろうかと思った所に、バタバタと煩い足音が近づいてくる。私は上着を脱ぎ、それを布団代わりにする。
「たーいーちょー!地球行くってほんとっすかー!地球行くまでバリバリ働くんでバカンス2週間にしてくださいー」
「うるせぇ!耳元で騒ぐな、それにMS乗りのお前は地球行ってからバリバリ働くんだよ!今は休んどけ」
ギャーギャー煩いロランを手で払い、仮眠する気も起きなくなった私は傍に居るミラルダに頼み紅茶を入れてもらう。そしてオペレーターに頼み、地球までの航路図を表示する。進路を確認しいくつかの修正する。普段の海賊紛いの仕事ではなく、今回は真っ当な仕事だ。態々迂回路を進む必要は無い、ここからなら妨害が無ければ2、3週間で地球につく。ラスタルの事だ、既に話は通してあるだろう。こちらは悠々と地球へ降りればいい。鉄華団は現在アーヴラウ防衛軍の軍事顧問となっている筈だ。ならば俺たちが相手にするのも、鉄華団とアーヴラウ防衛軍となる。防衛軍は相手にもならないだろうが、問題は鉄華団だ。こちらのリサーチでは、地球支部に三日月やアルトランドの様な精鋭はいない。だが、元ブルワーズのヒューマンデブリ共がいるはずだ。MS戦において実戦慣れしているというのは想像以上のアドバンテージとなる。こちらの部隊も実戦なれはしているが、阿頼耶識をしているのは数人しかいない。
「よし、ロラン!仕事が出来た。ドックへ行く。お前も付いて来い」
「お、じゃあバカンス1日追加っすね」
「あぁバカンスの予定は変更だ。2週間に延ばす、その代わり完璧に仕事をこなすぞ」
「なんだかんだと私の話聞いてくれるから、隊長好きっすよ」
まとわりついてくるロランにバランスを崩しながらも、私はリフトに掴まりMSドックへに行く。ドックに入ると背中にロランを背負ったままMSに乗り込み、シュミレーターを起動する。そしてコンソールを弄りいくつか設定を足す。仮想敵は勿論阿頼耶識搭載MS、そして前回の戦闘から得たガンダムバルバトスとガンダムグシオンだ。ロランにもう1機のMSに乗る様指示し、私とロランでこのシュミレーターをやってみる。
10分後、全身から汗を拭き出し、タオルで顔を拭きながらシュミレーターを終えたロランを私は出迎えた。
「もうしゃちゃー無理っす。流石にバルバトスとグシオンの2対1は無理ですって」
「俺の方は何とか行けたぞ。何度か死んだと思ったがな。ロラン、久瀬とライナとキゼにもあのシュミレーターをやらせろ。2対1に勝てとは言わんが、1機くらいは落とせるようになっておけ。地球では鉄華団を相手にする。いずれはあいつらともやり合うことになるぞ」
「たいちょー心配性っすよ」
「反論は認めない。これもお前たちが全員生きて帰ってくる為だ」
「・・・ま、暫く暇なんで友達誘ってやっときますよ。面白そうなんでデータコピーして全員に回しますから」
素直にやりますと言えばいいのに、変に意固地なロランはそう言いながらパイロットスーツの前を開きながら去っていく。微妙に発育の足らない胸を見せびらかしながら見えた背中には、2つの阿頼耶識の証が見えた。
「さぁさぁ母なる青き地球だ。記念撮影もいいぞー」
眼前に地球を望み、艦長席に座った私はそういう。降りて直ぐに戦闘に入ることはないだろうが、一度降りてしまえばもうそこは戦場も同じだ。こうして気を緩めることも少なくなるだろう。私は予想通り話の付いていたSAUの港に船を止め、そこからSAUの船に物資を乗せ地球へと降りる。私としては久しぶりに感じる地球の重力だが、部下の中には初めて地球に降りる者もいる。降りる瞬間までキリッとしていたロラン率いる実働部隊も実際に地球の土を踏んだ瞬間には年相応の子供の様に騒ぎ始めた。ミラルダは眼鏡を拭きながら、ロランたちの行動に眉を顰める。
「さぁ諸君。これからは目も覆いたくなるような大人の時間だ。世間知らずな鉄華団のガキ共に、大人の厳しさって奴を教えてやろう」
太陽が照り、まるで我々の旅路を祝福しているようだった。
「たいちょー、私達まだ未成年なんですけど」
「先輩の厳しさってのを教えてやれ」