Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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第マイナス6夜「日の当たらない御曹司」

○ 

 

 

 少年は全てに祝福されていながら、その全てを卑下していた。

 

 

 時計塔。魔術協会。

 神秘を追い求め、秘匿する魔術師達の自衛団体。

 実質は魔術師達が己の研究をより高みへと昇華させるのが結成の理由ではあるが、其処は暗黙の了解。

 神秘が年々失われて来ている近年ではそんな概念も薄くなり、まるで俗世の社会と同じように派閥や権力争いが水面下で勃発しているという。

 

 そんな時計塔の派閥は十二の貴族の君主を筆頭に3つに分かれている。

 

 一つ目は、非常に魔術師らしく血統を重視する『貴族主義派』。

 筆頭は三大貴族のバルトメロイ率いる〈法政科〉で、他にガイウスリンクなど。先代の君主(ロード)が貴族主義らしい魔術師だった為、新世代(ニューエイジ)が数多く在席する〈現代魔術科〉も立場上はここに含まれる。

 

 二つ目は、血統で劣っても才能ある若者を取り入れるべきという『民主主義派』。

 筆頭は三大貴族のトランベリオ。同じく三大貴族のバリュエレータ、他にエーデルフェルトなどもこの派閥。

 今まで血統が浅いというだけで日の目を見れなかった魔術師達からは、自身の沽券に関わると絶大の支持を得ている。

 

 最後の三つ目は、派閥争い自体に興味を持たず研究を優先する『中立派』。何でもいいから研究させろという、何よりも魔術師らしい考えを持つ派閥。

 派閥としての纏まりは弱いが一応の筆頭はメルアステアで、他にブリシサン、ジグマリエなど。

 

 

 少年はその中で3つ目。『中立派』に属する家系に連なる魔術師だった。

 彼は誇り高き精神を持っていると自負していたが、正確には彼は貴族ではない。

 時計塔十二の貴族の1つ、〈呪詛科〉の ジグマリエ一族の分家の跡取りという地位に座る、20歳間近の少年である。

 名をハーギン・ソーサラ・ジグマリア。

 一流に及ばずとも、二流の中では最上位クラスの能力を持つ若手魔術師である。彼自身の努力さえ実れば一流になることも夢ではないだろう。

 そう、彼は努力さえすればこの先十分一流になれるだけの素質を持っていたのだ。実際彼は普段からこと魔術に対しては努力家であった。

 一族の悲願。魔術師としての共通の目標。

 そういったものをそこいらの坊っちゃん連中より理解していたハーギンは、自分の為にもひたすら努力した。

 幼少期に愛していたペットの腹を切れと父親に命令された時から。その死体すらも愛そうと誓ったあの日から。

 彼はひたすらに努力してきた。なのに、あの誓いの日と同じく、ハーギンの父親は彼の考えなど自身のかんがえには含まずに突然命令してきたのだ。

 

 ――アフリカの聖杯戦争に参加しろ。

 

 極東でかつて行われた魔術戦を基盤とした戦争。

 七騎の英霊を呼び出すなんて馬鹿げた真似をしてわざわざ戦争をするあたり、昔の魔術師は頭が相当堅く、きっと優雅さなどの愚かな期待を求めたのだと思う。

 感情を持つ英霊なんかを使役するよりも、純粋に魔術師同士で戦争したほうがよっぽど低コストで試合がつく。

 プライドを捨て。金にものを言わせて戦闘ヘリを買った奴が勝てるのだから、これほど戦争らしい戦争はない。

 

 そんな魔術師らしからぬ台詞は父の前では言えず、彼はしぶしぶ大人しく〈法政科〉まで足を運んで、主宰者が用意したという自己強制証文(セルフギアス・スクロール)を受け取った。

 実際にそれを目にするまでは誰かが先に権利を奪っといてくれと願っていたが、どうせ父が根回ししていたのだろう。〈法政科〉の受付は、妖艶に笑ってハーギンの名を呼んで権利を明文化した紙を渡してきた。

 

 流石に、学部棟で魔術的な契約者に名前を書く気にもなれず、一度家に戻ろうと、いつも通り異質なほど曲がった猫背で廊下を歩く。

 幸い、友人という友人もいないので誰にも気付かれず自宅である屋敷に戻れる筈だった。 

 

 きっかけは、誰が開けたかは知らないが窓から吹き込んで来た風。 

 強風に煽られたハーギンはつい、抱きかかえるようにして持っていた自己強制証文(セルフギアス・スクロール)が腕から抜け落ちてしまい、隈だらけの目を見開いてそれを掴もうとする。

 しかし、数メートル離れたところで親切にも通りがかった男がハーギンよりも早くそれを手にしていたのだ。

 その男の顔見て、不味い、とハーギンは内心舌打ちする。

 何故その男が〈呪詛科〉の学部棟に居るのか、その理由に関しては検討がつかない。

 しかし、ハーギンはその男を知っていた。

 黒の長髪に、黒のスーツ。肩から赤いマフラーを垂らしている、ひどく不機嫌そうな男。

 時計塔に属している者ならその人物のことは誰しもが知っていた。

 恐らく、魔術協会内で今世紀最大の成り上がり。自身は全く尊き血族でなく、その能力は凡庸でありながら、その教育者たる手腕で12人の君主(ロード)の1人に君臨する男。

 ロードエルメロイⅡ世その人がハーギンの落し物を拾っていたのだ。

 

「……」

 

「……」

 

 暫し自己強制証文(セルフギアス・スクロール)を眉間に皺を寄せながら見つめる長髪の男。

 ハーギンは早く返してくれと内心訴えかけながら、身分の違いから切り出せずにいた。

 エルメロイといえば貴族派に属しているとはいえ、もはや没落貴族同然。借金も多額と聞いているが、それでも相手は君主の1人なのだ。

 彼が育てた新世代(ニューエイジ)達はいずれも天才揃い。そんな生徒達を隠し玉として持っていそうな男に、下手な不快感なんて味合わせられない。

 

 ――欲しいのならくれてやる。だからさっさと僕の目の前から消えてくれ。

 

 遺伝である色素の薄い肌を更に青白くさせながら、ハーギンが願っていると、ロードは親しみやすい笑みを浮かべることもなく、不機嫌そうな表情のまま落し物をハーギンに返却した。

 

「……あ、ありがとうございます……」

 

 ロードの口が開いたのは、受け取ろうとしたハーギンの手が自己強制証文(セルフギアス・スクロール)に触れたその瞬間だった。

 

「これは、()()()か……?」

 

 ロードの問の意味が、ハーギンには理解できなかった。

 確か、その主催者を名乗る魔術師が協会に義理として提示した参加枠は1つだった筈。参加を表明する自己強制証文(セルフギアス・スクロール)も当然1枚だけの筈だ。

 

「いえ、1枚目だと思いますけど」

 

 二枚目があるかどうかはさておき、これが1枚目であることは間違いない。

 〈現代魔術論科〉の若き君主(ロード)は一瞬だけ視線をハーギンから外して考えるような素振りを見せたあと、やがて1人納得したように歩き出していた。

 

 その背中を見送りながらハーギンは聞こえないように舌打ちをする。

 

「チッ……貴族だからって、偉そうな態度だな。全く」

 

 ボサボサの紫の髪、猫背、隈が傷のように深く刻まれた目付きで歩く姿は見る者からしたらさぞ陰湿だっただろう。それを自覚しながらも、それら何一つ改善しようとはせずハーギンは苛立ち混じりに言葉を紡いだ。

 つい今朝発覚したばかりで、まだ時計塔中に広まっていないある事件を今しがたのロードへの皮肉として。

 

「アンタの弟子が『時計塔の秘宝』を幾つか盗み出したのは大問題なんだからな……」

 

 

 

 

 これより後、自宅である屋敷に戻ったハーギンはサーヴァント召喚の儀を行うこととなる。

 

 

 彼が決戦の地であるアフリカ大陸に呼び出したサーヴァントと共に渡ったのは、それから明後日の話である。

 

 

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