Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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呪いの血を受け継ぐ子(通算19話)

 

『お前は失敗作なのだから、それらしく生きることのみを考えろ』

 

 

 祖国である英国から遠く離れたこの砂の大地で、ふと幼い頃、父に言われた言葉を思い出した。

 英国魔術師の総本山・時計塔の十三の貴族の一角。

 〈呪詛科〉の ジグマリエ一族の分家の跡取り息子に()()()()()()()ハーギン・ソーサラ・ジグマリアは、時折同じ様な悪夢を見る。

 簡単に言えば単なるトラウマの再発なのだ。睡眠を取れば人間の脳は自動的に記憶の整理を行う。その時に垣間見える、ちょっとした嫌な思い出。

 幾らかこの悪夢から逃れる対策は施したが、こればっかりは精神的な問題でどうにもならないらしく、どんな霊薬も効果を示さたかった。

 とにかく便利が売り文句の現代魔術が聞いて呆れる。魔術師の1人の頭痛の種が治せない程に、魔術は、輝かしい神代の時代から劣化してしまったというのか。

 ずっと魔術と共に育ってきたハーギンにとってはその事実は何よりも信じ難く、また耐え難いものであり、彼にとって『神代』とは見果てぬ夢である。

 手の届かぬ、しかし確かにこの地上に在った世界。

 砂漠の寒空の元。保温機能を持つテントの中で寝袋に包まりながら、ハーギンはその輝かしい時代を知る人物の1人である自身のサーヴァントに声を掛けた。

 

「なぁアサシン。お前が生きてた頃ってどんなのだったんだ?」

『……あ?俺が生きてた頃?』

 

 帰ってきた声は空気に響くものではなく、マスターであるハーギンの頭の中にのみ響く声であった。何しろ話し相手はサーヴァント。マスターが魔力を送らなければ実体化することもできないので、基本的には霊体の状態で待機しており、マスターと同じサーヴァントぐらいにしかその姿は見破れない。

 それ以前にハーギンが口にしたクラスからして、彼のサーヴァントの姿を見破れるサーヴァントも実はそう多くもないのかもしれないが。

 アサシンとは暗殺者の意。闇に隠れ、闇に紛れ、闇に潜み、人知れず命を狩り取る者。狩り取られた者さえ知らない内に。

 しかし、ハーギンのサーヴァントはそんな陰気なクラスには似合わず少々荒々しい口調で面倒臭そうに言葉を返す。

 

『ハーギン、合って間もない自分のサーヴァントに詮索掛けるとか、流石にお前の根性疑っちまうぜ?マスタぁ~』

「……うるっさいな。いいからさっさと話せよ。暇なんだよ」

 

 形式上マスターとは認めてくれているものの、実際は敬いどころか何の感情も向けられていない。自身のサーヴァントの興味なさげな声色に胸の内で焦燥に駆られながらも、それを悟られまいとハーギンは寝返りを打って話をしろと促す。

 アサシンは一度嘆息を付くと、マスターの許可も無しに実体化して、2人に居座るには少々狭すぎるテントの中に出現する。

 

「なっ!?実体化していいなんて許してないぞ!!」

 

 当然、驚いて怒りを顕にするハーギンであったが当のアサシンはというと、小柄な身体でケタケタと笑って凶悪な鮫歯をむき出しにしている。

 

「キャッキャッキャッ。実体化1つで焦り過ぎなんだよてめぇはーーってうわぁ!!?びっくりしたぁっ!!?なんだ蠍かよ!!……蠍っ!?やべぇじゃねぇか!!」

「……」

 

 騒がしい。嫌になる。

 ハーギンも馬鹿ではない。こんな序盤からサーヴァントに対するそんな不満を口に出せる筈も無く、できることといえば、突然実体化し狭いテントの中で暴れ始める相棒にジト目を送ることのみ。

 テントの中は狭い。至近距離で嫌な視線を受ければ流石にアサシンも気が付いて、何処から持ってきたのか酒瓶片手に笑って誤魔化す。

 

「あっ……あっあぁいや怖くねぇよ?蠍なんか怖くねぇからな?むしろ見慣れてるから?」

「……はぁ。お前が蠍が怖かろうが怖くなかろうがどっちでもいいんだけどさ」

 

 前置きを1つ置いてから、寝袋から抜け出したハーギンは胡座を掻いて右の掌を床に叩き付ける。その深い隈の刻まれた眼差しはいつもの怠そうな目つきとは違って僅かな強みを含んでおり、対面していたアサシンも思わず背筋を伸ばす。 

 その様子がまたなんとも過去の英雄の写し身であるサーヴァントのイメージとはかけ離れていて遣る瀬無い気持ちになりながらも、必死に立て直してハーギンは言葉を紡いだ。

 

「お前、一体何処の誰なんだよ。いい加減教えろよ」

 

 絞り出したハーギンの言葉は自身のサーヴァントに対する質問してはあまりにも今更なものであった。

 

 通常、聖杯戦争のルールを知る参加者であればまず間違いなく用意する物がある。  

 それは聖遺物。これまで紡がれてきた、人類史の遺産。

 実質的には英霊同士の戦闘が1番の肝になる聖杯戦争において、どのサーヴァントを使役するかは、他の何よりも重要視しなければならない課題である。

 その為、より良いサーヴァントを召喚する為に魔術師達が自身のコネやら財産やらを使って用意するのが、聖遺物。

 例えば、かつて多くの騎士を従えた騎士王の魔法の鞘であったり。

 世界最古の文明を収めた古代王の蔵の鍵であったり。

 北に名高いの不死身の竜殺しの背に貼り付いた菩薩樹の葉であったり。

 つまりは英雄縁の品を使えば、目当ての英雄が呼び出しやすくなるというシステムだ。

 勿論、ハーギンだって聖杯戦争に参加する以前からこのシステムは知っていたし、参加するにあたって実行もした。

 使えば必ず強力なサーヴァントが出現すると信頼できると古物商に念を押されて買った、2つの金の盃。

 古物商が言うには強力な『槍使い』が現れる筈とのお墨付きだったのだが、実際現れたのは全身を金属の装飾品で彩ったやや小柄な悪人顔の男。

 ハーギンも呼び出されたのが槍使いであったならば検討がついていたのだ。

 太陽神の息子であり、彼の雷神に認められた施しの大英雄。誰にも傷を付けられない黄金の鎧を纏い、雷撃を放つ大槍を奮う勇猛な戦士。

 実際そのような人物と肩を並べて戦えることに心震わせていたのだが、しかし呼び出されたサーヴァントを何度見ても槍は持っていないし仰々しい黄金の鎧も身に着けていない。

 聖遺物を売ってきた古物商に騙されたのではないか。そう懸念してどんどん難しい顔になっていくハーギンの額に、突然突き刺すような鈍痛が走り、その身体が大きく後ろに倒れ込む。

 

「ひぎゃぁっ!?」

「むっずかしぃ顔して俺を放っておくなよぉ。そういうの嫌いなんだよぉ〜〜、楽しいことしようぜ楽しいこと」

「お、お前、自分のマスターを何だと……!?」

 

 危うく怒りと勢いで令呪を使いそうになるのを必死に抑えながら、ハーギンは涙目でケタケタと笑う自身のサーヴァントを睨む。 

 令呪を1画消費してぶん殴ってやってもバチは当たらないのではないか。額から全身に広がる激しい痛みに動転していた気は、しかし突然何かに気が付いたかのようにテントの遥か遠くを見据えたアサシンの姿に正気を取り戻すこととなる。

 

「……へっ。おいおい、こいつはやべぇ。移動だマスター。早く此処を離れた方がいい。やべぇのが来る」

「ッ!敵襲か!?」

「わっかんねぇが……たぶん昼間他のサーヴァントと殺り合ってた奴だ」

 

 ハーギンは己のサーヴァントの正体を正しく把握していない。なのでどういう原理かは定かではないが、彼のアサシンにはどうやら気配感知スキルにも似た能力を所持しているようで、昼間も一度このように何者かの気配を察知して要塞への侵入の日を改めるように進言してきた。

 確かにアサシンの言った通り、その後昼間に一度戦闘が起こったらしく、騒ぎの収まった現場に行くと傭兵達のテントが在った場所には巨大なクレーターが作成されていた。

 濃密な魔力の痕跡も残っていた為、その荒々しい戦闘跡地がサーヴァント同士のぶつかり合いによって出来たと言う事実を知るのは容易であった。

 つまり何が言いたいかというと、前例がある為今回のアサシンの勘も馬鹿にはできない。

 

「どうする?今ならまだ逃げるのも間に合うぜ?」

 

 不敵に笑い、『まだ逃げられる』など言う物言いは何とも英雄らしくない。

 それでこそアサシンのクラスには相応しいのかもしれないし、此処で逃げるのは恐らく恥じることでは無いのだろう。

 魔術師とは決して泥臭い死合をする者ではない。

 戦う時は徹底的な準備の元、圧倒的な力で相手を蹂躙する。完璧主義な父にはそう教えられたし、自分自身もそう思っていた。

 ーーしかし、

 

「おいおいおいマスター。どんどん近付いてくるぜ?決めるならさっさとーーっ。ハハハッ、んだよその顔」

 

 振り返りハーギンと視線が合ったアサシンがまた何とも愉快気な、鮫歯をむき出しにして嗤っている

 何がそんなに面白いのか。

 首を傾げかけていたハーギンの顔にアサシンは人差し指を向けていた。

 

「マスターっ。アンタ今、『滾ってる顔』してんぜ?」

 

 

 言葉にされてから、ハーギンもまた、自分の顔がぎこちない笑みに変わっていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 超跳躍からの、超降下。成る程傭兵達の住処にクレーターが作られていたのはそういう理由だったのかと感心するハーギンの前に、銀の来訪者は現れる。

 一目、目にしただけで魔術師のハーギンには判る。一度(ひとたび)英霊と契約しマスターとなった者ならば、他のサーヴァントのステータスを読み取る為の透視力を授けられる。英霊を招いた聖杯から与えられる、マスターならではの特殊能力だ。

 宝具やスキルを除いた簡単なものだけではあるが、サーヴァントのある程度の得手不得手を知ることができる力で見て、来訪者のサーヴァントは余りに強力に過ぎた。

 全ての能力値が最高水準に近しい。しかも全身を駆け巡っている魔力量も多大で、彼のサーヴァントがどれだけ優秀なマスターであるか窺える。

 ハーギンのアサシンも大概高水準のサーヴァントではあるのだが、それでも目の前の魔剣士ーー恐らく、いや確実に〈セイバー〉であろうサーヴァントは比べるのも馬鹿らしい力を有している。

 二重の意味で、観るだけで心が震えるのだ。

 

「驚愕、だな」

 

 突然現れた白銀の騎士は吟遊詩人のような澄んだ声色で最初に、言葉とは裏腹に表情を一切変化させずにそう口にすると続けて言葉を紡ぐ。

 

「まさか真っ向から出迎えて貰えるとは思っていなかった」

 

 間違いなく、白銀の騎士の言葉は未だ一流の魔術師ならぬハーギンに向けられており、あまりの威圧感に少年は背筋が思わず固まってしまう。

 白銀の騎士自身は威圧するつもりなど微塵も無かったのだろう。威圧的なのは天性なもので、常に無表情ながら彼自身からは悪意という者は一切感じなかった。

 しかし、それでも現代の人間が対面するにはあまりに静謐過ぎる偉容。

 緊張で破裂寸前な程激しく鼓動を続ける心臓に合わせて小刻み震えるハーギンであったが、そんな背中を彼のサーヴァントが引っ叩き、代わりに前に出る。

 

「まるで逃げた欲しかったみたいな言い方だな、おい。てめぇ何処のぼんぼんだよおい。名前と出身言えやコラ」

 

 白銀の騎士に比べて自身のサーヴァントはどうにも親しみやすいというかなんというか。どうにも英雄というより、英雄の物語の序盤に倒される小物臭がしてならない。例えるのなら路地裏のチンピラ達の大将が良いところだ。

 そんなことを考えているうちにハーギンの緊張も幾分か解け、鼓動は鳴り止まないものの十分に落ち着くとアサシンの後ろから声を発した。

 

「な、何用だ。僕、わっ私達と戦うつもりで来たのか?」

 

 ハーギンの声は緊張が形となって出ていたが、白銀の騎士は嘲笑を良しとせず笑わず首を横に振るのみ。むしろアサシンの方が笑いを堪えていたのがハーギンにとっては不服であった。

 

「否定する。私はーー」

 

 よく見ると白銀の騎士は登場の仕方さえ派手だったものの、アサシンと対峙していながら剣さえ抜いていない。

 アサシンを嘗めていると、そんな考えを持っているような人物とも思えずハーギンが注意深く観察していると、ふと此方に向けられた視線に気が付く。

 視線の正体はアサシンであり、不敵な笑みを浮かべた彼の笑顔を見てハーギンの背筋にゾクリとした悪寒が駆け上がる。短い付き合いながらもアサシンがそのような顔をする時、『大いなる自信から大失敗を起こす』とハーギンは既に理解していたからだ。

 止めようとハーギンが伸ばした手を振り払い、アサシンは片足を振り上げたかと思うと、話を切り出そうとした魔剣士に向けてーー全力で砂を蹴り上げたのだった。

 

「先手必勝ぉっ!!!!」

 

 




次回の投稿は4月1日予定です。エイプリルフールなので遅れても許してくださいお願いします。
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