Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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翡翠の流星(通算20話)

 

「ルー……ラー……?」

 

 曖昧に言葉を返して、聞き覚えのないクラスに珈琲を煎れたカップ片手に首を傾げるカグヤ。

 自身のクラス名を口にしたマルタもまたカグヤの反応に無理もないと苦笑を浮かべ、ゆっくりと己について説明し始めた。

 

「本来、ルーラー━━裁定者のクラスのサーヴァントは通常の聖杯戦争では呼ばれることはありません。ルーラーとは『人間の監督役では収集の付かない問題』が起きた場合のみ、聖杯自体に召喚されるサーヴァントなのですから」

「聖杯本体から?」

 

 先程とは反対方向に首を傾げたカグヤにルーラー━━英霊・マルタは静かに頷き、ふと視線を背後に移す。同時に伸ばされた右手が指していたのはもう目の先にある、此度の聖杯戦争の舞台の黒き要塞だ。

 

「暗黒要塞エンリル。古き神の名を冠する、あの魔城、いえ『魔の都市』の地下に在る聖杯によって私は現世に召喚されました。あるイレギュラーを解決する為に」

「……それは、私に話しても大丈夫なこと?」

 

 話を聞く限り、どうやらルーラーというクラスのサーヴァントは聖杯戦争に直接参加するサーヴァントではないらしく、その立ち位置は審判に近しい。

 英霊通しのバトルロワイヤルが謳い文句である聖杯戦争において審判が居るなど、記憶を辿ってもやはり聞いたことが無かったが、それでもカグヤには目の前の女性が嘘を言っているようにも思えない。故に審判役としては御法度の筈の『一方への力添え』にならないかどうか問いてみたのだが、マルタは首を振って不要な心配だと告げる。

 

「別段秘密にすべき事柄でもありませんので。ご厚意、痛み入ります」

 

 慎み深く頭を下げる姿は、ただそれだけで場が静粛で雅な空気に包まれる。豪華絢爛な宮殿の中、というよりかは静寂に包まれた教会の中。

 其処まで頭の中に思い浮かべて、カグヤは気が付く。

 【マルタ】という真名。その名が指す英霊の逸話を。

 

 

 世界的に有名な聖母の姉であり、彼女自身もまた信仰深き聖女である。生前は救世主と共に人々を救い、救世主の死後もまた変わらない信仰心で人々を導いた。

 それだけならば彼女はよく聞く聖女として語られるだけの存在なのだが、マルタと呼ばれる女の逸話の真骨頂は別にある。

 何と彼女は聖女でありながら、人々を脅かす悪竜を鎮めたという伝説が残っているのだ。それも並の駄竜(デミ・ドラゴン)などではなく、リヴァイアサンの子、強固な竜鱗を持つタラスクをである。

 

「あぁ……マルタさん。マルタさんね」

「えっ!?わ、私をご存知なんですか……?」

 

 納得したように手を鳴らしたカグヤにマルタは嬉しそうに身を乗り出す。

 

「素手でドラゴン倒したヤンキー聖女」

「え"っ!!?なんで知ってんのよアンターーあっ……いっいえ。倒してませんよ?教えを説いただけですので。断じて素手でなんか倒してませんので、ええ」

 

 あからさまに取り乱すマルタとは対照的に、カグヤは何処までも落ち着いた様子で珈琲を啜っている。

 そんなカグヤに対してマルタの方が先に不信感を抱いてしまって、少しの静寂が場を包み、再び口を開いたのは珈琲カップを地面に置いたカグヤだった。

 

「で、ルーラーさんは何で砂漠で倒れていたんですか

?サーヴァントが気候に影響されるなんて聞いたことがないんですが」

「あぁ……その、お恥ずかしいのですが……」

 

 本当に恥ずかしそうにマルタはもじもじと身体をくねらせ、やがて観念したかのように太腿の間に両手を突っ込んで顔を伏せながら白状する。

 

「どうやら……聖杯との接続が切れてしまったようでして……魔力不足で……」

「聖杯と?何で?」

「それは、私にも。恐らく今回のイレギュラーが関係してるかと」

 

 マルタの言葉にカグヤの胸の内の疑問が再びその密度を増す。

 不可解な単語が含まれていたからだ。

 

「イレギュラー?」

 

 確か、マルタはルーラーのサーヴァントは通常の聖杯戦争では召喚されないと言っていた。

 裁定者が召喚されるのは人間の監督役でも収集が付かないような問題が起きた場合。

 ならばマルタが召喚された時点で逆算からしてある事実が浮き彫りになる。

 

「何か問題、起きたんですね?」

 

 こればかりはカグヤも興味を示さずにはいられない。聖杯戦争の1人の参加者として、きちんと身を乗り出して、しかしいつも通りの無表情でマルタの顔を凝視する。

 

「えっ、えぇっと……うぅん……」

 

 対するマルタは立場上口にするのを躊躇っている様子だったが、暫くすると決心がついたような、諦めたかのように溜息を吐いて肩を落とす。

 

「……一宿一飯とは言えなくても、倒れていたところを助けて頂いた御恩もあります。判りました。ルーラーのサーヴァントとしては些かルール的に疑念が残る行為ではありますが、私の独断でお教えします」

 

 どちらにしても後で参加者全員に使い魔を送るつもりだしたしね、と後付してからマルタは姿勢を正す。

 その視線は真正面からカグヤに向いており、力強い熱が込められていた。

 

「実はーー」

 

 

 

 

 

 

○ 

 

 砂塵が舞う。

 と大袈裟な言い方をするまでもない、ほんの些細な砂粒の上昇。

 それが今、先手必勝と叫んで大地を蹴り上げたアサシンによって、魔剣士の顔面に襲い掛かる。

 

「む」

 

 当然、こんなものは英霊であるサーヴァント相手には目くらましにもなりはしない。目に入ったところで痛くも痒くも無い。

 勿論、先手を仕掛けたアサシンの狙いは巻き上げた砂塵そのものにはなく、実際はその先。

 砂塵に被せるようにして振り上げた『黄金の棍棒』による打撃にあった。

 

「おっらぁっ!!」

「ッ!!」

 

 十分な勢いで振り上げられた棍棒の一撃を、魔剣士は上半身を仰け反らせて回避する。

 昼間。此処より少し離れた場所で二刃を扱う女剣士と相対したときは反撃もせずその一撃を受け止めた彼が、今はその涼やかな顔に僅かな驚きを交えて回避を取らされている。

 魔剣士自身、本能的に回避をとってしまった自分の行動は驚くべき事態であり、すぐに自分の行動は正しかったと理解することになる。

 理由は目の前を通り過ぎた、敵の持つ黄金の棍棒だ。

 赤い宝石に人間の四肢を象った金属など、様々な装飾が施された、客観的に見て悪趣味極まりないその棍棒からは並々ならない魔力が放出されている。

 恐らく持ち主の意図的な計略によって付与された効果ではないのだろう。

 我が身を襲ったあの黄金の棍棒からは何処か怨念染みた『悪意』を感じる。それも比喩ではなく本物の怨念による力だと、魔剣士は腰に下げた魔剣の柄を握りしめながら推察していた。

 いきなりの攻撃に正直驚いた。それが魔剣士の本音である。

 しかし同時に、愚かである、そういった感情も敵に向けていたのだった。

 敵の棍棒が当たるこの距離は、反して棍棒よりも長い得物である魔剣士の魔剣の間合いでも当然ある。

 

 剣を抜く前に魔剣士は暫し、ほんの瞬きの間のみ物思いに耽る。

 此度の聖杯戦争において我が身を呼び出した主には、『相応と認める相手にのみその魔剣を開帳せよ』と命じられた。

 その結果、魔剣士は悪いと思いながらも女剣士の前では魔剣を抜けなかったのだ。実際、彼自信、彼女に実力不足だと伝えたのも事実。

 ならば目の前の相手はどうだと魔剣士は静謐な面持ちのまま碧眼を向ける。

 鮫歯を剥き出して心底楽しそうに卑怯に走る。その行いは残念ながら戦士としてあまり関心できたものではない。

 しかし、強い。同時に魔剣士の直感がそう告げていた。

 幾千、幾万の敵と対峙してきた勇者の勘が告げているのだ。

 『この男は油断してはならない敵だ』と。

 

「すぅ……はぁ」

 

 短い呼吸。魔剣士が息を吐き出した時には、既に絢爛たる緑光が辺り一面を包み込んでいた。

 鞘から引き抜いただけで大気中の魔力が呼応して震え上がる。

 それもその筈。魔剣士が手にする魔剣こそは、正しく神代において実際に生きていた幻想達を斬り伏せた伝説の魔剣なのだから。

 元は北欧神話の主神の持ち物とされ、やがてヴォルスンガ族のシグムントによって引き抜かれた。神々の加護を受けたこの魔剣の力により、シグムントは数々の戦に勝利したといわれるが、とある不祥事が発覚したことをきっかけに主神によって一度砕かれてしまう。

 シグムントは妻に「その剣から新たな剣が生まれるだろう」と遺言を残し、この世を去る。

 やがて再び鍛えあげられた魔剣はシグムントの息子の手に渡り、名を変えたという。

 その刃は川面の羊毛を絡めることなく切り裂き、黄金の床を砕き、恐ろしき悪竜の鱗すらも難なく突き抜けた。

 そう、この魔剣こそ彼の騎士王の聖剣と対を成す神々の魔剣。

 

 

「【砕かれし(ドラゴマル)━━()

 

 

 今、神代において竜殺しを実現させた伝説の一撃が顕現する。

 

 

 

破滅の魔剣(グラム)】ッ!!!」

 

 

 ━━その夜。

 

 ナミブ砂漠において前代未聞の緑色の膨大な光が、闇夜を染め上げた。

 

 

  







次回の投稿は4月4日予定です!
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