Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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鉄の国の女(通算25話)

 

 ナミブ砂漠東方。ある荒廃した街。

 

 

 一個の集落として存在していたその街は、砂漠の上に建つには相応しくない近代的建築物を多く陳列させいて、かつては注目を集めたこともあったが今となってはその面影も殆ど残っていない。

 何の前触れもなく、誰の悪意も関係なく起こった天災が街を襲い、近代文明を砂嵐が溶かしたのだ。

 数十年の時が経て人一人住まなくなったその街にはただ砂に塗れた建築物のみが残っている。

 数年後には人為的に措置による完全な取り壊しが決定しており、近隣住民達からも残していても邪魔になるだけだと苦情が殺到していたのだが、今この瞬間、街は確かに復興を果たしていた。

 といっても砂塵に呑み込まれたかつての住人達が帰って来たわけではない。

 

 街に灯るのは幾つかの強い光。街の地面を揺らすのは無数の微かな足音。そうして街を闊歩するのは、闇夜に紛れる為に黒を基調とした軍服を装備する兵士達である。

 

『ーー西地区、適正個体確認できません。魔力反応も皆無です』

 

 

 

 荒廃した街を探索する部隊長からの報告を受け、この街の何処かに居を構える大本は無線機越しに次の支持を出す。

 

「構わず探索を続けろ。別部隊の報告を受け次第、此方からも報告する。万が一敵を見つけた場合は深追いはするな。サーヴァントは勿論のこと、奇想天外な魔術師共が相手でも今の我等では苦戦を強いることになるだろう。聖杯戦争前にそれは避けたい」

 

 美しい声でありながら、芯の通った威厳ある女の声。

 首領の命令に無線機越しの小隊長は肯定で返すと直ぐ様無線を切って探索を続けた。

 対して命令を下した女はというと、マナーなどクソ喰らえといった様子でテーブルの上に両脚を乗せると、疲れ切った表情で葉巻から煙を吸い込んだ。

 次に煙が彼女の口から吐き出されると、窓を開けていないせいもあって暗い室内の中が一気に煙に包まれる。女の他にも幾人か軍人らしき人影は室内に点在していたのだが、その誰もが彼女の行動に意を返すことなく黙って待機を続けている。

 この室内で葉巻を吹かした女の他に動いている者が居るとすればそれは眼鏡を掛けた秘書風の女だけであり、今も給仕に勤しんで珈琲を淹れている。

 

「ランサーの報告によれば、狂戦士が2体出たそうだな」

 

 葉巻を吹かしていた女が無線機を置いて口を開いた。部屋に点在する軍人達にとって彼女の行動は自分達に声を掛けたということであり、その中の初老の男性が一歩前に出て報告書らしき紙の束を読み上げる。

 

「はっ。ランサーの報告によりますと、要塞付近にてバーサーカーらしきクラス不明のサーヴァント2体が交戦中。付近にマスターらしき人影も無し。どちらも真名の手掛かりになりそうな目立った箇所は見受けられないとのことです」

「宝具の使用の有無は?」

「双方、此方が発見した段階では使用しておりません」

 

 部下の報告に女はふむと顎を擦り、その後椅子の背もたれに沈み込む。その頭に思い浮かべられているのは現在の聖杯戦争の状況だ。

 今回の聖杯戦争が正常のものでないことぐらい、参加者であれば誰もが理解している。

 またランサーのマスターたる彼女においては、今回のナミブ砂漠における聖杯戦争が冬木の聖杯戦争の構造を一部模倣されて作られたものだということも理解していた。何故なら、立場上彼女がそれを知るのが同義であるから。

 かつて鉄の国に属していた組織。今では国家とは深い関係は無いものの、独自の宗教団体のように暗躍するある軍事集団。

 彼女の軍服の肩には空へ飛び立とうと両翼を広げる鳥の紋章と、漢字の『卍』に似た紋章が刻まれている。

 秘書を含めた彼女の部下の軍人達も皆同様であり、『彼女達が何処の組織の人間』なのかは自明の理というやつだ。

 

「冬木における第三次聖杯戦争のあと、ユグドミレニアにいっぱい食わされた我等が聖杯戦争の舞台に参加するまでにまさかこれ程の時間が掛かろうとはな」

 

 昔を懐かしむかのような口振りでありながらその実全く笑顔という表情を見せない上司を前に、初老の軍人はやや柔らかな表情で首を横に振る。

 

「此処まで来るのに相当なイレギュラーが起こりましたからな……」

「イレギュラー、か」

 

 確かに、かつての鉄の国にとって想定外の事態は幾度も起きた。

 結局結末を有耶無耶なまま、聖杯を奪取されて終了した第三次聖杯戦争。

 更にその後祖国が第二次世界大戦にて実質敗北。

 その後国の立て直しもままならぬまま、魔術世界では各地で冬木の聖杯戦争を元にした亜種聖杯戦争が多発。共謀を口にしていながら裏切りを行ったあのダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの仕業だと気が付いた時には、かつての首相は怒りに震えたと聞いている。

 結局のところ諦めてしまった我が国は、鉄の国の鉄の軍隊を非道の元として国から解離させた。

 しかし、行き場を失ったとしても元第三帝国の使命が変わる訳ではない。

 彼らが追い求めるのは聖杯の獲得。それにおける世界の確変。

 冬木の聖杯戦争の後、幾度か亜種聖杯戦争に参加し、勝利を飾った結末もあったが賞品はどれもがまともな聖杯(もの)ではなく、彼らの旅が終わることはなかった。

 今回のナミブ砂漠の聖杯戦争もそう。

 女指揮官ーーソフィーアもまた、亜種聖杯戦争に参加すべしと命令された軍人崩れの一人だった。

 本国に居る老害共はもはや聖杯を追い求めるだけのただの亡者と化しており、ソフィーアもまた中途半端に聖杯なんて願望器の奇跡を信じてしまっているから今この場にいる。

 もしかすれば変えてくれるかもしれないという、淡い願い。

 彼女と同じく軍人であった父や祖父の願い。鉄の国がこの世界を手中に収めるという御伽話。

 馬鹿げていると理解しながらそれでもソフィーアが歩みを止めなかったのは、彼女もまた亡者と化していたからかもしれない。

 

「こんな事なら、私がドルギスタン殿の代わりに日本の聖杯戦争に参加しておくんだったな。あっちの方がよっぽど楽そうだ」

 

 彼女が語るのは数年前に起きた、極東における四度目の聖杯戦争の話だ。

 といっても開催された地は冬木ではなく、どこぞの田舎町だったらしい。

 『サンジェルマン伯爵』を名乗る魔術師の時計塔への宣戦布告を初めとして行われたその聖杯戦争は、結局誰が勝者なのかよく判らないまま結末を迎えたとの報告があった。この現代に神話の爪痕を色濃く地上に残し、戦争に関係の無い人々も合わせて生存者はほぼ皆無。

 その中には、ソフィーアと同じく亜種聖杯戦争に参加せよとの命令を受けたある老齢の戦士も含まれていたのだ。

 

「不吉なことを言わないでください少佐。ドルギスタン殿は」

「判っている。彼は我らの為に命を落としたのだ。笑いものにする気は無いさ」

 

 初老の軍人の戒めの言葉もあって、ソフィーアは再び椅子の上で姿勢を正して気を引き締める。

 ガルム・ドルギスタンというかつての老齢の軍人は失敗したが、自分はそうならない。その為に大金を叩いて強力な英霊を召喚したのだ。

 この国に潜入させた兵の数も多数。本国も此度のナミブ砂漠の聖杯戦争にはそれなりに本気ということらしい。

 ソフィーアは自尊心の高い優れた女指揮官である。

 つまり彼女は、勝ち目のある戦しかしない。

 

「さて、小隊長からの連絡を受ければ愈々我らも要塞の中に進行する。敵は万夫不当の英霊。奇想天外の魔術師共。理解不能の未明領域であるだろうが、別段恐れることは無い。我等が成すべきことは、ただ一つだ」

 

 ソフィーアの言葉を前にして室内の軍人達の背筋が伸びる。

 その姿は正しく統率された軍隊そのもの。

 筆頭であるソフィーアが一度命令を下せば、彼らは手足となってあらゆる場所に趣き、精錬された技術力で神代の英雄であろうと屠ってみせる。それだけの意気込みと覇気がこの空間には立ち込めていた。

 

「黄金の盃を我らが総統閣下の元に。ハイル━━」

 

 元へ。そう口にしようとワイングラスを侍らかすような形で右手を伸ばした瞬間、脳内に騒がしい声が響き渡る。

 それは2体のバーサーカーを逐一報告し続けている彼女のサーヴァントからの念話であり、情報を完全に理解すると彼女の表情にもまたサーヴァントと同じ同様が現れていた。

 

「何?……ルーラーのサーヴァント……だと?」

 

 

 

 







○次回の投稿は4月16日です。
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