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ナミブ砂漠。暗黒要塞エンリルより少し離れた地。
この場には今現在3人の人影があり、つい先程その3人の会話は終えられたばかりである。
その中の1人。肩に辛うじて槍だとわかる鉄の塊を担いだ大男は、あまり納得がいっていない顔色で自慢の顎髭を撫でていた。
「へぇ。聖杯戦争の監督役を、サーヴァントがねぇ」
そんなランサーの訝しげな視線を送られて対するのは異様に露出度の高い白き修道服の女であり、彼女また大男と同じくしてサーヴァントと呼ばれる高上の使い魔である。
但し彼女はただのサーヴァントではなく、通常の聖杯戦争ではまず呼ばれることのないクラスのサーヴァント。聖杯戦争におけるイレギュラーを解決し、正しく聖杯戦争を運営する為の裁定者。即ち、ルーラーのサーヴァントである。
彼女は既に背後にて腕時計を確認するサイドテールの少女に自分の真名を明かしており、その名はマルタというが目の前の槍使いに其処まで明かすつもりは毛頭無いだろう。
彼に対しては何となく、思い付きで行動をしてはいけない気がしてならない。そんな持ってもいない直感スキルが働いているような気がしてならなかったのだ。
「信じてもらわなくても構いませんが」
「そう邪険にすんなよ。最初は疑って悪かった。でも、もう疑っちゃいねぇさ。アンタがサーヴァントなのは間違いねぇしな」
戦いにしか興味の無さそうな槍兵がやけに物分りが良いのは、恐らく令呪を使われたからだろう。
ルーラーのサーヴァントはその役割上、他のサーヴァントに対する絶対命令権を2画ずつ有している。つまりは聖杯戦争のマスターが持つ令呪と同じものだ。
つい先程、マルタの背後に立っている少女をランサーが襲おうとした際に令呪を使われ、信じないとは言えない状況が自動的に作られてしまっていた。
「しかし、ルーラーさんよ。アンタ自身も何で自分が召喚されたか、その訳が判ってねぇんだろ?その、なんだ?いれぎゅらーってやつの正体が」
「……恥ずかしながら」
ランサーに指摘されて恥ずかしそうに頬を染めるマルタ。そんな姿を彼女の背後で庇われるように立っているカグヤは、竜を殴った女が何を猫被っているんだと内心嘆息しながら見据えていた。
勿論、ルーラーの真名を知らないランサーは正か相手がある意味有名な聖女とは知らず、面倒臭そうに耳を穿りながらふと気が付いたように背後に振り返って指を差した。
「そのいれぎゅらーって、もしかしてあいつらのことなんじゃねぇの?」
ランサーが指差した方向。
通常の視力で目視すればただ単に夜の砂漠が続いているだけの光景が広がっているのだが、サーヴァントの視力を持ってすれば判る。
その先で強大な魔力のぶつかり合い。狂戦士と狂戦士の死闘が繰り広げられていることを。
「俺も訊きたかったんだ。狂戦士が2体召喚されるなんて普通じゃねぇよな?その理由もわかんねぇのか?」
内心はランサーにとって狂戦士が2体召喚された理由などどうでも良いのだが、頭の中に響くマスターの念話が理由を尋ねろとしつこいので仕方なくマルタに質問する。
しかしマルタはその問いに明確な答えを口にする訳でもなく、申し訳なさそうに首を横に振るのみだった。
「面目しようもございません。どうやら私自身の召喚にも不具合が生じているようでして……此度の聖杯戦争のルールすら正確に掴めていないのです」
「おいおい、それでホントに監督役が務まるのかよ……まぁ、そんならいいや」
本当にマスターの命令があったから訊いただけだったのだろう。マルタが本当に何も知らないのだと確認すると、それっきりランサーは槍を肩に担いで突然準備運動をし始めた。
それも特殊なものではなく、脚を伸ばしたり、腕を伸ばしたり、一般的な準備運動だ。
「じゃ、まぁアンタはアンタで理由が判ったら他のサーヴァント連中にも説明してやるってことで。俺らは別に普通に聖杯戦争しててもいいんだよな?」
「え?あ、はっはい。今のところ聖杯戦争の中断はありません」
「そいつはよかった」
マルタの言葉を聞き、準備運動を終えたランサーがニカッと少年のように笑う。
何事かと身構えたマルタの視界は、狂戦士達の攻防が続く戦場へと突出したランサーの脚力の元に、一瞬にして砂埃が舞い散り埋め尽くされたのだった。
「げほっげほっ……!!な、なんなのよアイツ!!行くなら行くっていいなさいよね!!」
ランサーが居なくなった後。すぐに地が出て腹立たしそうに地団駄を踏むマルタ。
その背後にいたカグヤはというと、ランサーが射出した衝撃で地面にぽっかりと空いた小規模のクレーターを覗き込んでいた。
「相当強いんだろうなぁ……」
ぽつりと呟いた少女の言葉にマルタの耳が動く。
振り返って目にしても、やはりマルタには信じられない。
それはルーラーとして呼び出されてしまったサーヴァントとしての性質上、判明してしまうある事実が起因である。
魔導を知っていながら人外の存在たるサーヴァントを前にして恐れない器量。また聖杯戦争が開催される地だと知っていながら夜の砂漠を独りで歩く無謀。
やはり判らない。自分の疑問でも頭がいっぱいなのに、マルタの頭はパンク仕掛けだった。
「はぁ……壬生カグヤさんって言ったかしら?貴女、やっぱり相当な人よね」
「そうですか?」
声を掛ければ、蠍の尻尾を掴みながら当然のように返事を返してくれる少女。
蠍を掴んだその右手には、今現在このタイミングでこの土地に赴いた魔術師の殆どが有している筈のあるものが刻まれていなかった。
それを再度確認して、マルタはどうしようもない疑問に襲われながら肩を落としたのだった。
「貴女、本当に『マスター』じゃないのね」
サーヴァントを前にして恐れない。
聖杯戦争を知っている魔術師である。
聖杯戦争に勝利するのが目的である。
それらの要因を持っていながら、壬生カグヤという女は『聖杯戦争に参加するマスター』ではなかったのだ。
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ナミブ砂漠。暗黒要塞エンリル付近ーー上空。
轟音が風を切る。
斬撃の如き風が、遥か下方の地上の砂粒さえも撒き散らしながら一直線に駆け抜ける。
空を切り、一直線に飛び抜け、音が鳴るのは既にその本体が疾走した後だ。
ではその本体とは何なのか。
地上から見れば輝かしくも眩き黄金の流星。
同じ高さから目にしても光をも越える速度を捉えられるものはそれこそサーヴァントでも難しい所業だろう。
正体を知っている者。そんな人物が居たとすれば、それは風を切る張本人のみ。
後部座席で悲鳴を上げる主など知らん顔で高笑いを続ける仁王立ちの男のみである。
「フハハハハハハハハハッ!!速い!!速いな!!噂には聞いていたが、これ程までとはな!!もっと速く借りればよかったなぁっ!!なぁマスター!!」
自分で運転しているというのにまるで初めて操縦しているかのように興奮気味に話す上半身半裸の男。
その男こそが、この黄金の舟を操るサーヴァントなのだから。
といっても、4つの車輪を持つ
溢れ出す魔力を神気に換えて、ただただ一直線に光線を空に描く星の舟。
その姿は誰が見ても見間違える筈も無く現代文明の力によって生み出された産物ではなく、神代の異物だと理解できる。
ならば星の舟を操るサーヴァントとはやはり騎兵のクラスのサーヴァントであろうか。
誰もがそう推測するのだろうが、唯一正体を知る人物は後部席でガタガタ震えながら自身のサーヴァントに苦情を訴える。
「うわぁぁあああぁぁぁああぁぁぁ!!!!?ふっ、ふっ、ふざけんなっ!!ふざけんなよアサシンんんんんんんんんんんっ!!!しぬしぬしぬしぬしぬぅ!!!」
聡明な魔術師とは呼べない、取り乱した態度も無理も無い。光の速さで走る乗り物になど人類は未だ到達していないのだから、初体験は皆こんなものだ。
最も、同じ初体験を自称しながら己の宝具の速度に高笑いを続けるサーヴァントは別なのだが。
「まぁそう言うなって!!ほれ、もう目の前だ!!一気に突っ込むぞぉ!!!」
黄金の舟が突き進む空の道の果にあるのは、無数の柱によって建造された巨大な黒き要塞。
暗殺者らしからぬ宝具を多用する謎のサーヴァントと、やや臆病者気味のマスターは、今聖杯戦争の舞台へと突入しようとしていた。
○次回の投稿は4月23日です。