Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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狂い酒(通算28話)

 

「━━ーーーー━━━━ッ!!」

「ッッッ!!!」

 

 紫の鎧が吠え、白の巨躯がそれに眼光で応える。

 互いの武器と武器がぶつかり合い、鍔迫り合いが起こる前に夜空に火花が散る。

 紫の鎧が大剣を叩き付ければ、白の巨躯が双剣で防いですかさず蹴りを叩き込む。そうなれば次に紫の鎧が脚を掴んでへし折ろうとして、白の巨躯がもう片方の足を振り上げて爪先で紫の鎧の顎を蹴り上げる。

 そして両者距離を取り、少しするとまた絶え間なく死闘の繰り返し。

 己の身を犠牲にしてまで相手を塵に変えようとする気概。その戦いに憎悪も名誉も微塵もありはし無い。

 これが彼ら『狂戦士』同士の戦い。ただ暴れ、潰し、殺すことに酩酊した人外共の狂乱である。

 ナミブ砂漠の聖杯戦争における初めのサーヴァントが召喚された日時とほぼ同時刻から、彼らは数日来に渡って殺し合っていた。

 狂戦士故に尋常に名乗ることもなく。狂戦士故にどれだけの卑怯も許し合って。

 ただ己の全身を使って敵を抹殺するのみ。

 彼らにとって、ただ何も考えずに殺し合うというのは甘美な時間だったのかもしれない。

 だからもしそんな時間に横槍を入れる者が居た場合、彼らの狂乱度は更に増して怒り狂ってしまうことだろう。

 といっても、進んで狂戦士同士の戦いに横槍を入れる恐れ知らずなど早々に居やしないだろうが。

 

 ーー文字通り横槍を投げ入れた槍兵を除けば。

 

 

「ッ!!」

 

 狂戦士達の内、紫の鎧の方が先に危機に気が付いて上半身を背面に仰け反らせる。

 するとすぐに地面に対してU字型に海老反った紫の鎧の狂戦士の腹の上を通り抜けるようにして何かが疾走し、次の攻撃を繰り出そうとしていた白い狂戦士の額へと直撃したかのように思われた。

 

「がぁっ!!?」

 

 其処は流石のサーヴァントというべき、野性的直感でのみ行動している狂戦士だからというべきか。白い方の狂戦士も紫同様直前で頭を真横にずらして直撃は回避する。

 しかしそれは結局『死因』を『致命傷』に変えただけに過ぎず、その額からは投擲された何かに当たった負荷でとめどなく血流が吹き出していた。

 

「ひゅーっ。今の避けんのかよ。流石はサーヴァント。狂戦士になってもその才覚は健在かい」

 

 狂戦士達の宴に突然乱入してきた戦士は黒髪の荒々しい前髪をかき上げながら臆することなく狂戦士達へと近づいて行く。

 並々ならぬ筋肉に、束ねられても荒々しい髪。肉食獣のような目付きは見据えただけで人を殺しそうな勢いがあるが、武器を投擲したばかりの乱入者は丸腰であった。

 如何にサーヴァントといえど、伝説を残す程の徒手空拳の使い手でもない限り丸腰で同じサーヴァントの前に立つのは自殺行為に等しい。

 また相手は血も涙も理性も共にゴミ箱に捨ててきた狂戦士である。

 武器が無い、と宣言したところで一々拾わせに行ってくれるような紳士的な好意は望めないだろう。

 何しろ先に喧嘩を吹っ掛けたのは紛れもなく男の方であるのだから。

 

「ーーーー━━━━ーーー━━━━ッ!!」

 

 先に飛び出したのは紫の鎧の方の狂戦士だった。

 大剣を片手に砂漠の大地を蹴って丸腰の槍兵に向けて突進。その咆哮が意味するのは戦いを邪魔された怒りか、それとも好敵手を傷つけられたが故の苛立ちか。

 どちらにしても怨まれている方からしたらたまったものではない。話し合いの通じない狂戦士に恨まれるなど、死んでも御免蒙りたいのだから。

 

「チッ。てめぇにようはねぇんだよ。というか、うちのマスターがお前のマスター探してんだから、それまで大人しくーー」

「ー━━━ーーー━━ッ!!!」

 

 紫の鎧が大剣を振り上げ砂の大地に叩き付ける。

 途端に砂煙が視界を覆い尽くし、手応えを感じなかった狂戦士が咆哮を繰り返しながら砂煙を大剣で斬り裂く。

 大剣が風を切る轟音を鳴らし、一振りで狂戦士の視界は晴れた。その狂った双眸が見つける。

 眼前で屈むような体勢を取りながら、片手でいつの間にか手に取っていた槍らしき獲物を背後に引き絞る槍兵の姿を。

 

 曲がりくねった矛先が紫の狂戦士の顎先に突出される。

 狂戦士は紙一重で回避するも、次の瞬間その視界に映る天と地が逆転する。

 一撃必殺を狙う槍にばかり気を取られてさしもの野性的直感力でも気が付けなかったのだ。否、気がついてはいたが対応できなかったのかもしれない。

 槍兵は槍を握ったまま突出した訳ではなく、紫の狂戦士の眼下から全力で上空に放り投げたのだ。

 結果自由になった両腕で超重量の装甲を纏う紫の狂戦士の首を掴み、柔道の投げ技に近い形で地面に叩き伏せた。

 

「終いだ」

 

 急いで立ち上がろうとする紫の狂戦士であったが、その時にはもう遅い。

 空中から降下してきた獲物を掴んだ槍兵によって胸を穿たれてしまったのだから。

 此れで最初の脱落サーヴァントが決まった。その闘争を遠く離れた場所から傍観していた誰もがそう思った中、槍兵だけは顔色を途端に変えて急速に後退する。

 ランサーの表情からは一切油断が浮き出ていない。今さっき敵を倒したばかりだというのにだ。

 それはすぐ近くで待機していた白き狂戦士も同じで、紫の狂戦士よりかは理性があるのかやや落ち着いた様子で先程から傍観に徹している。

 二者の双眸が警戒を示しているのはお互いではなく、今さっき心臓を穿たれたばかりの紫の狂戦士。

 その指がピクリと動いた時には、槍兵は顔面に凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「そう来なくちゃっぁなぁ!!」

 

 立ち上がった紫の狂戦士と槍兵が動いたのはほぼ同時であった。

 紫の狂戦士は立ち上がると同時に地面に散らばっていた石を掴み、槍兵に投擲する。

 見事なホームで投擲され顔面へと迫ってくる石を回転させた獲物で弾きながら槍兵は思う。

 

 ーー重い。

 

 投擲された石は明らかに通常の投擲の威力の度を越していた。

 ただの投擲といってもサーヴァントの投擲なのだから普通と比べるのは些かおかしな話ではあるのだが、それにしても重心がズラされる程の威力をただの石が出せるとは思えない。

 狂戦士達への警戒心を強めたまま槍兵は地面に転がった石を見る。

 狂戦士によって投擲され、槍兵によって弾き返された石は未だに健在であり今はもう砂の上に返っている。

 その光景に槍兵の心に新たな疑問が生まれる。未だに健在、というのが既におかしいのだ。

 サーヴァントの膂力が投げられ、宝具によって防がれたというのに砕けもしない石とは何なのか。例え金剛石であっても槍兵は砕いてみせる自信がある。

 ならばその正体はなんだというのか。目を凝らして地面に転がった石を見据え、そして気が付く。

 

 地面に転がった石に『見たこともない赤黒い文様』が刻まれていることに。

 

 

「まさか……いや、そういう絡繰か」

 

 嫌な事実を知ってしまった。そう思いながらも槍兵はアップデートされたゲーム機を見る時の少年のような笑みが浮かべられており、次の瞬間には迷わず再度紫の狂戦士に突進していた。

 対して待ち構える狂戦士は武器を持っていない全くの空手。それまで使っていた大剣は宝具では無かったのか、いつの間にか消失していた。

 故に紫の狂戦士は丸腰。両手はフリーの状態である。

 本来であるならば自分が武器を持ち、武器無しの相手と雌雄を決するなど間違いなく自軍に軍配が上がる可能性が高くなるのだが、槍兵に油断は一切無い。

 何しろ彼は気がついてしまったからだ。相手取る紫の狂戦士のスキル、ないし宝具の特性を。

 

 あのサーヴァントが触れた物はなんであれ宝具と化す。

 

 聖杯戦争のルールすら度外視する出鱈目な能力ではあるが、出鱈目でなければ英霊として座に記録されない、というのも頷ける理論ではある。

 ともかく、紫の狂戦士の特性は先程投擲された石礫からも確認済みだ。何処にでもある石ころが紫の狂戦士が一度触れたことによってDランク相当の威力を持つ宝具と化した。

 攻撃を受けた槍兵自身がその真価を経験しているのだから間違いない。

 

「フッ!!」

 

 槍を短く持ち、腰溜めで紫の狂戦士の腹を目掛けて穿つ。

 紫の狂戦士の特性が宝具には及ばないという確証はない。下手に此方の宝具に触れられれば最悪切り札を奪われてしまうという結果に陥ってしまう結末すら有り得る。

 故に今度の一撃は顎を穿った時よりも速度が二段階は上げられており、狂戦士の胸に鋭い一撃が直撃し大きく身体が蹌踉めく。

 

「aaaaaAaaAaaaarーー━━ー━!!」

 

 それでも流石は狂戦士。槍の一撃に後退しながらも、唸り甲の奥の赤い瞳を見開かせて必死に槍を掴もうとしてくる。

 しかし槍兵の方が一枚上手だったのか、ランサーは一足早く槍を引くとその勢いで左脚で回し蹴りを繰り出し狂戦士との距離を取ろうとした━━のだがその足首が凄まじい膂力で掴まれる。

 

「ッ!?や、べ」

「AaaaaaAaaAaaaarーー━━ー━!!」

 

 振り払おうとランサーが力を込めたのも虚しく、今度はランサーの視界の天と地は逆転する。まるでぬいぐるみを振り回す子供の容量で槍兵は数度に渡って砂漠の大地に叩き付けられた。

 砂の柔らかいクッションでは身体へのダメージは少ないが、それでもサーヴァントの膂力で振り回されていたのでは体が持たなくなる。加えて相手は理性を()べて肉体強化を果たした狂戦士なのだ。

 流れを身を任せていてはサーヴァントといえどすぐに肉体に限界が来てしまう。

 

「たっ、くぅああぁぁぁぁあ!!」

 

 其処でランサーが取った行動は、投げ上げられた瞬間に槍で兜の隙間を突き刺すという至極簡単な行動。勿論サーヴァント故の並外れた精神力と技術が無ければ、全身を物のように振り回されながらの突きなど不可能に近いが、其処は槍兵の英霊の技量ならば何ら問題無い。

 鈍い音を立てて弾ける狂戦士の頭部。

 しかし、派手な音の割にランサーの手に手応えは感じられなかった。

 

 原因は曲がり捻れたランサーの槍の形状にある。

 生前、雑兵から猛者に至るまでありとあらゆる生を突き殺して来たその長く太く猛き獲物は、いつしか槍とは呼べない程に変形しきっていた。

 歪曲した形状はそれ故に生物を殺し痛め付けることに特価しているのだが、同時に本来の役割である『突き刺す』という仕事に支障を来すようになってしまったのだ。

 

 状況としては最悪なことに、今現在もランサーの一撃は獲物の特性故に必殺では無くなってしまっていた。

 曲がった矛先では狂戦士の兜を貫き切れなかったのだ。

 

「ーーaaa」

 

 狂戦士の唸りが聞こえる。

 同時にその紫の籠手が槍兵の宝具に伸びていた。

 その先に待つのは、自分の生きた証である宝具を持つサーヴァントとしてら最大の屈辱だ。

 錆びれた鉾に赤い繊維が伸び、繁殖する。

 奪われたランサーの槍はもはや彼の相棒と呼ぶにはあまりに醜悪な悪魔の武具に成り代わっていた。

 

 

 








サーヴァントのステータスをどのタイミングで載せるか迷いますね。
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