Fate/ragnarok Change   作:フーリン式

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第マイナス9夜「壬生カグヤ④」

 

 現代魔術論科の学生寮の自室内。カーペットを敷いた床の上で日本人らしく正座をしながら少女が荷造りをしている。

 女性が引くには些か大き過ぎるキャリーバックも、女性が使うからこそ大きなものでなければいけないというか。勿論、壬生カグヤは紛れも無くうら若き乙女であるため、海外生活を送るにあたって必需品など入用な物が沢山ある。

 それ以上にキャリーバックの体積を取っているものが何かと言えば、一概に聖杯戦争で使うであろう魔術道具の数々だ。

 

 

「……赤鉢の針って何処にやったかしら……」

 

 

 棚やらを開いては閉じ、見つければキャリーバックの中に詰めてまた新しい捜し物を始める。

 そんな面倒臭さと懐かしさを同時に感じさせる作業も、半ば終わりかけていた。

 今日に限っては同室の友人も何やら用事があるとか外に出払っており助けを求められない。

 日本の実家では完全にお嬢様として育てられてきたカグヤは、本人が嫌がっても身の回りのことは使用人達がやってくれていた。なのでやろうと思っても、どうしても気が抜けて放っておいてしまう点がいくつか存在してしまうのだ。

 例えば、物の整理整頓であるとか。

 中にはそこいらの魔術師が知れば卒倒ものの年代物の備品とかもこの部屋には転がっているのだが、杜撰な管理をなされているが為に主人であるカグヤも把握できていない始末。同室の友人の人間性が良いからこそ何も問題は起きていないが、この部屋に転がってる物はほぼほぼ盗まれても言い訳できない状況下にあるのだ。

 

 

「ん、あったあった」

 

 

 二段ベッドの下。普段は見ないような暗がりに、探し物である極東の精霊の針が入った瓶を見つけた。

 別段使う宛もないのだが、あちらの魔術師に売れば物珍しがって路銀にでも変えてくれるだろう。

 そう思って気紛れで探していたのが、どうやらカグヤにとって吉と出たようだ。

 

 

「あっ」

 

 

 ベットの下に転がっていた瓶の手前に、何やら見覚えのある雑誌が置かれている。

 引き出すと同時に散乱する埃に多少咳き込みながらも、雑誌の表面にこべりついた埃も片手で払う。

 友人のではない、ということは自分の物になる。

 はて、こんなものをいつ貰ったのかと首を傾げ、記憶を辿ると確かに思い当たる節はあった。

 誰が読むのかと思うような〈オカルト雑誌〉。

 そうだ、これは。

 

 ――壬生カグヤが恋人から貰った誕生日プレゼントだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ミス!!ミス・壬生!!いらして!?いるのでしょう!!」

 

 

 雑誌を抱いて思い出に浸ろうとしたカグヤの心情を邪魔するように、扉を少々強めにノックしながら叫ぶ女の声が室内にも反響する。

 この声。豪気な口調。心当たりが無いと言うと、自分は大嘘つきになるんだろうなぁ、とカグヤは表面上は鉄仮面のまま内心苦笑する。 

 しばらし顎に手を当てて考えるような仕草をしたあと、やがて思いついたように1人、人差し指を上げたりしてから外で待ち構えているだろう淑女に声を返す。

 

 

「いません。お帰り下さい」

 

 

 カグヤの要求を聞き入れずに勢い良く外側に開かれる扉。

 廊下には何人かの見物客が立っており、注目されるのが嫌いなカグヤは僅かに目を細める。

 最も、扉に掛けた鍵を物ともせずに姿を見せた淑女は、そんな観客のことなど気にもせずに悠然と佇んでいるのだが。

 

 

「……よろしくて?」

 

 

 気品溢れる佇まい。

 金髪の縦ロールも、青いドレスも、全てが合わさって彼女という芸術品を彩る為の宝石に過ぎない。そう言われても遜色ない気品と、そして気高さを持った女性であった。

 喋り方からして、振る舞いからして、見た目からして、何処からどうみても分かりやすいお嬢様。

 社交界に出れば男女問わず目を引いてしまう美貌の持ち主が、今壬生カグヤという少女1人に視線を送っている。 それも生易しいものではない。

 明確な敵意と敬意を隠そうともしない、戦士の眼光。

 

 

「……エーデルフェルトさん……」

 

 

 突然入り込んで来た女は、壬生カグヤの知り合いであった。

 

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 フィンランドに居を構える宝石魔術の大家、エーデルフェルト家の現当主。別名、地上で最も美しいハイエナ。

 その名にそぐわぬ美貌と優雅さ、そして魔術師らしい探究心を持った、数年前の主席候補生、であったとカグヤは聞いていた。実際誰が主席をとったなどはカグヤには興味のない話だ。

 

 そんな人間が自分の目の前に居る。自分の部屋を尋ねてきている。

 そこいらの魔術師であれば緊張と警戒で胃に穴が無数に開きそうな状況ではあるが、面識のあるカグヤは床に座ったま毅然とした態度を保っていた。

 優美さだけで語るのであれば、カグヤもエーデルフェルトの御令嬢に負けないものを備え持っている。

 

 

「何の御用ですか?」

 

「フッ。貴女が旅に出ると風の噂で耳にしてこうして」

 

「帰って下さい」

 

「……えっ」

 

「帰って下さい。荷造りで忙しいので」

 

 

 傍から見ている観客達からしたらさぞ奇妙な光景だっただろう。

 その異名は故郷のフィンランドだけには留まらず、ロンドン時計塔の魔術協会にまで広がったあの美しきハイエナ。最高の才能と懸命な努力の末に世界からの祝福を受けたあのルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが、たかが極東の田舎魔術師にあしらわれている。

 さも、興味もなさそうな表情で。

 

 

「あな、あなた」

 

「……あ、エーデルフェルトさん。宝石幾つか売ってくれませんか?私どうにもちまちました魔術は苦手で」

 

 

 ルヴィアの屈辱など全く気がついてない様子で交渉に乗り出したカグヤの前に勢い良く淑女が座る。少々荒っぽい座り方であったが、それでも身なりのおかげで見るものには気品を感じさせる。

 何を羞恥に感じたのかはカグヤには全く解らなかったが、それからのルヴィアの表情は常に悔しそうで、それでいて声の大きさは他の者に会話の内容を聞かれないように最小限のものに自ら制限されいた。

 

 

「先程の狼藉は見過ごします。ええ見過ごしますとも。可愛い後輩の未来の為ですもの。

 それでも、私にはそんなことを差し置いて貴女に聞いて置かなければいけないことがあるのです」

 

 

 徐々に〈エーデルフェルト〉としての表情に変わった淑女の姿を見て、カグヤもまた魔術師として頷く。答えれるならば答えようと、同じエルメロイ教室に通う生徒として。

 それを確認してから、ルヴィアは重く溜め込んだものを吐き出すように言葉を並べる。

 

 

「――貴女、聖杯戦争に参加するんですって?」

 

 

 耳元で囁かれた言葉に、カグヤは若干迷いながらも頷いた。

 何しろ、本来であるならばこの目の前にいる淑女。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが今回のアフリカにおける聖杯戦争に参加する手筈だったそうだ。

 それが、他でもない彼女の講師。ロードエルメロイ二世によって極東の田舎魔術師に参加権を奪われた。

 魔術世界における価値あるものなら何でも標的にしてきた美しきハイエナが、奪う前にその権利を横取りされたとあってはその先は誰しも予想するのは容易い。

 実際、偶然今の会話を耳にしてしまった生徒達の数人も、今から魔術戦が始まるのではないかと期待と不安を顕にしていた。

 

 しかし、彼女としては珍しいことに、エーデルフェルトの御令嬢は怒鳴ることなく、後輩に対して1つ溜息をつくだけであった。

 

 

「全く、貴女ときたらもう。もう少し先輩に対する敬意とか、遠慮とかありませんの?」

 

「……ああ。ごめんなさい」

 

 

 漸く気が付いたように頭を下げるカグヤに、ルヴィアはこれまた彼女としては珍しいことに、まるで幼子でも見るような慈愛に満ちた苦笑を浮かべている。

 暫くして、可憐な衣服の裾から宝石を幾つか取り出すとカグヤの手にしっかりと握らせる。角ばった宝石が肉に入って内出血を起こしてしまいそうな程に、強く、強く。

 

 

「私はミス遠坂のように貧乏性ではありませんので代金はいりません。選別として取っておきなさい」

 

「……助かります」

 

 

 今度はカグヤが珍しい表情を浮かべていた。人からの純粋な好意というものに、あまり慣れていないのだろう。その頬は少しだけ赤らんでいる。

 そんなカグヤの頬を手の甲で優しく撫でて、ルヴィアが微笑を浮かべる。

 

 

「魔術師ですから、死んだら其処までですけど。必ず帰ってきなさいな。死んでも帰ってきなさい?」

 

「それはつまり……アンデットになって帰ってこいと?」

 

「……相変わらず極東のユーモアは悪趣味ですこと」

 

 

 などと談笑している内に、普段も騒がしい現代魔術論科の学生寮に、更に騒がしい足音が響き渡る。

 足音の主は段々声量を増す怒鳴り声と共にカグヤの部屋に接近してきており、談笑していた二人には姿が現れるよりも前にその正体が露見していた。

 

 

「カグヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あんた、また私の財布取ったでしょ!!」

 

 

 現れた女性はルヴィアとまた違ったタイプではあったが同レベルの美女であった。

 ルヴィアの青を対象として、赤を基本とした服装。しかし服装は魔術師のイメージとは少し違った現代の若者の落ち着いた雰囲気である。

 わざわざ説明しなくても、カグヤは今日この女性と一度出会っている。

 つい癖で『瞬間的に認識障害の魔術』と『すり』を行ってしまったが。

 

 遠坂凛。

 ルヴィアと同じく、時計塔の新生代トップレベルの実力にして、非常に稀有な才能である五大元素の使い手。通称五大元素使い( アベレージ・ワン)

 西欧社会である時計塔で極東出身という不利要素をものともしない、図太い女性。それが同じ極東人であるカグヤの見解だ。

 

 

「あっ、お返しします」

 

 

 遠坂凛(かのじょ)が来たことで、実際には遠坂凛とルヴィアが揃ったことで、面倒な事態に陥ることを予想したカグヤはえらくあっさり財布を返却しようとした。

 しかしカグヤの掌に置かれた財布は持ち主である遠坂凛の手元には戻らず、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトによって何故か没収されている。

 

 

「……あの。エーデルフェルトさん。それ、返してくれないかしら?」

 

 

 冷笑と共に手を伸ばす遠坂凛を片手であしらって、ルヴィアは口元に手を当てながら高笑いする。

 

 

「あーらっ。ごめんあそばせっ。でも私、先程可愛い後輩に宝石をあげて金欠ですの。ええまぁ、それでも割りと有り余る財があるのですけど、おぉっと!ごめんなさい!!貧乏性なミス遠坂の前で軽々しく金欠なんて言わないほうがいいですわね!!」

 

「うるっさいわね!!いいからそれ返しなさいよ!!こら!!ルヴィアァ!!」

 

 

 キャットファイトならまだいいが、タイガーファイトが近くで行われては流石のカグヤも敵わない。

 取り敢えず必要なものを纏めてキャリーバックに詰めると、同居人への書き置きだけ部屋に残して、壬生カグヤは半年間だけなれど住み慣れた部屋に別れを告げてその場を後にした。

 

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