木組みの家と石畳が広がる街。そこに二人の少年がやってきた。
日本であるにもかかわらず西洋風の街並みで、多くの兎が闊歩している。ちょっと日本国内とは思えない風景でも、この二人にとっては気にするほどの事ではない。
「うへぇ~、ホントに日本の街並みとは思えないなぁ」
「確かにな。道を間違って迷子になるなよ? 信彦」
「大丈夫だって! それより早く行こう、シグナル!」
この町の高校に特待生として通う事になった信彦と呼ばれた少年と、どこか人間離れした容姿をしたシグナルと呼ばれた少年は荷物を持って初めて来る街に足を踏み入れた。向かう先は、二人共既に頭に叩き込んでいる。
「近くにある喫茶店が目印だったよね?」
「ああ。だけどその前に僕が働く事になる別の喫茶店に挨拶しに行くのが先だからな?」
久々に見る国外を思わせる街並みに二人は胸を躍らせていた。
信彦はごく普通の服装をしているが、シグナルは少し違う。服装は年相応の物を着ているが、やや大きめの帽子をかぶっており、瞳の色も日本人というより外国人のような・・・というより人間離れした紫色の瞳を持っていた。
そうこうしているうちに二人は最初の目的地に到着した。看板には英語でこう書かれている。
Rabbit house
「ラビットハウス・・・店内に兎がいたりして」
「さすがにないと思うけどなぁ」
シグナルの呟きにツッコみつつ、信彦がラビットハウスの扉をあけた。すると・・・。
「いらっしゃいませ」
「「・・・ホントにいた」」
店員らしき少女(どんなに高く見ても中学生くらい)がそう言って出迎えてくれた。が、二人が気になったのはその事ではない。少女の頭上に乗っている白い毛玉のような物。微妙に動いているようだから本物だろう。多少違和感があるが、おそらく『アンゴラうさぎ』と呼ばれる品種ではないかと二人はあたりを付けた。
二人の視線に気づいたのか、少女は頭に乗っているうさぎを撫でながら紹介する。
「この子が気になりますか? この子はティッピーです。一応うさぎです」
「そ、そうなんだ。じゃなくて、初めまして。じいちゃん・・・音井信之介に紹介されてここに挨拶に来たんだけど、何か聞いてない? あ、俺は音井信彦。で、こっちは兄貴のシグナル」
「初めまして、シグナルです。ここのマスター・・・
「あ、あなたが父が言ってた方ですね。香風タカヒロは私の父で、私は娘の香風
少女がチノと名乗った瞬間――
「マスターはわしじゃよ」
「「!?」」
妙にダンディな声が二人の耳に届いた。
「い、今の声は!?」
「男の人の声だったけど、え? まさか・・・」
二人は周囲を見回し、声の発生源を探す。そして結果的に少女の頭に載っているうさぎに視線が集まった。
「私の腹話術です」
「「はい?」」
少女はお盆で口元を隠しながらそんな事を言われて二人そろって間の抜けた声を出す。いくら腹話術が得意でもこんな少女が男性の声を出せると言ってもちょっと納得できない。
「私、腹話術得意なんです」
「でも・・・」
「気にしないでください。時折ビックリするお客さんもいますから」
「そ、そうなんだ・・・」
「まぁ、気にするなっていうなら・・・(お化けとかばけもんの類じゃないよな?)」
少女の妙な迫力に負けて二人はとりあえず白旗をあげるが、一抹の不安を抱えるシグナルだった。
「とりあえず父の所に案内します」
そう言って少女――チノに案内されて、二人はラビットハウスの奥に向かうために扉を開けた。
そしてちょうどその時。
「やぁ、チノ・・・て、誰だお前ら!?」
「うぇっ!?」
チノと色違いの制服を着た少女が出てきたと思ったら突然銃を構えた。これに信彦は驚いたがシグナルは落ち着いて対処する。
「
「な! い、いつの間に!?」
彼女の持っているのはモデルガンだったらしい。少女がそれを構えた瞬間シグナルは素早く銃をつかみ銃口を上に向けた。
「リゼさん、そろそろそういう物騒なもの持ってくる癖は直した方がいいです。あと、こちらのお二人のうち一人はここでバイトする人ですよ。あ、こちらはウチのバイトのリゼさんです」
「「えっ?」」
淡々とチノはそう話すが信彦とシグナルは聞き捨てならない言葉を聞いた事もあり、変な声を出してしまう。色違いとはいえ、確かにチノと同じ制服を着ているが。
「そ、そうだったのか!? すまなかった。しかしお前はいったい・・・それに今の身のこなし、まさかCQCに精通している軍の関係者なのか?」
「しぃきゅうしぃ?」
「軍隊や警察で言う近接戦闘の事だ。さすがに信彦は知らないだろ。しかしなんでそんな専門用語を・・・」
突然の出来事が連続で続いたためか信彦は思考停止してしまったが、シグナルは違ったようだ。銃を構えた相手が女性ではあったが、瞬時に判断して銃のみをつかみあげた。
普通なら腕を捻りあげて完全に武器を取り落とさせそうなものだが、シグナルはそれが出来ない・・・というよりなるべく女性に対してそういう事をしたくない。その話に関しては別の機会にする。
「あの、そろそろ」
「おっとそうだな。この娘、大丈夫なんだよな?」
「大丈夫です。リゼさん、父にこの方達を紹介するので、少しの間お店の方をお願いします」
「あ、ああ」
「悪く思わないで上げてくださいね。たまについて行けない時も疲れる時もありますけど」
「ま、その辺は後で聞くからいいけど」
「(イケメン好きの爆弾魔なあいつよりはマシかな)」
慣れているのかチノはリゼと呼ばれた少女にそう言って信彦――とある知り合いの娘を思い出していた――とシグナルを促し、再び案内するのであった。
「初めまして。君がシグナル君か。信彦君は音井教授のお孫さんだったね。よろしく」
「初めまして」
「よろしくお願いします。タカヒロさんはじいちゃんを知ってるんですか?」
タカヒロの部屋に入り、チノが店に戻ってから自己紹介をした。信彦は祖父と知り合いである事にちょっとした疑問をもっていた。明らかに年の差がありすぎる。
「父の知り合いでね。何年か前に私も会った事がある。しかしシグナル君は本当に
「あはは。よく言われます」
「
二人の会話に信彦も加わる。その後はちょっとした世間話と確認を済ませて店の方に二人は戻っていった。
店内に戻ってみるとちょうど最後のお客さんが帰った後だったようだ。少しのつもりが結構長く話し込んでいたらしい。
「あ、えっとシグナルに信彦だったか? さっきはホントにすまなかった。父が元軍人でいろいろ影響を受けちゃってて・・・でも私は普通の女子高生だ。
「へぇ~。そうだったんだ。でもあれくらい僕にとっては大した事じゃないさ。もう聞いてるかもしれないけど、僕はシグナル。明日からここで働くんだ。よろしくな」
「俺は音井信彦。こっちの高校に特待生として入学するんだ。よろしく」
「信彦さんは高校に通うために来たんですか?」
自己紹介を交えながら二人の事や自分達の事を教えあった。
「じゃあ信彦は私の後輩になるのか」
「リゼ、じゃなくてリゼ先輩って呼んだ方がいい?」
「いや、そのままでいいよ。気楽に名前で呼び合うっていうのも悪くないし・・・」
「シグナルさん、明日からよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。よろしくな」
リゼは信彦が入学する高校の先輩らしい。シグナルもチノと改めて挨拶し、彼女の頭をついなでてしまった。ちなみにティッピーはテーブルの上に下りてそんな子供たちの会話を聞いているように見える。
「むう。私は子供じゃありません」
「あっとごめん。つい、ね」
「つい、じゃないです。ここでは私が先輩なんですよ。明日からビシバシいきます」
「ふっふ~ん、望むところさ」
「む~・・・。そう言えば、シグナルさんと信彦さんは兄弟なんですよね?」
「ん? うん」
そんな二人の会話を聞いた信彦はシグナルに耳打ちする。
「タカヒロさんはもう知ってるし、同じ職場で働くんだから二人には話してもいいんじゃないかな?」
「まぁ、そうだな。この二人ならあちこちに吹聴したりしなさそうだし、多分すぐバレそうだし。口外しないようお願いしとけば」
「「何のことです(だ)?」」
「え~っと、二人には先に教えとこうかと思ってね」
何か重要は話を切り出してくる気配を感じ取ったチノとリゼだが、次に出てくる言葉は二人を困惑させるのに十分だった。
「僕自身の事なんだけどさ、名前は正式に言うと<
「「え?」」
シグナルが改めて自己紹介をする。頭を下げた拍子で帽子が落ちてしまった。そこからばらりと長い――人間にはありえない
そんなシグナルの姿を見ても二人はポカンと口を開けていた。と、リゼはすぐに何かを考える。
「ロボットさん、なんですか? ホ、ホントに? ていうか私、そういうのはただの噂話でしか聞いたことないです!」
「シグナル・・・ロボットで音井・・・あ!」
チノが少々興奮気味にそう言い、リゼが何か思い出したかのように声を上げた。
「シグナルに音井と言ったらあれだ! 何年か前に『音井ファミリー』って銘打って科学誌に載ってなかったか? それにあの時一緒に写ってた子供ってもしかして?」
「え、雑誌に載ったの知ってるの?」
「雑誌に載るほどの有名人!?」
「有名人って程でもないんだけど・・・」
チノが驚くのも無理はないだろう。
約四年ほど前。シグナルは兄と位置付けられる兄弟機と共に雑誌の取材を音井家の面々と受けたことがある。その雑誌には信彦もちゃっかり一緒に写っており、実際に本屋で並んでいた英語版の雑誌も購入してある。出版社から送られてきた日本語版の雑誌と共に今も大事に保管している。
だが今のところ公式にシグナルが発表されたのはその一回限りだ。そう考えるとリゼの記憶力はかなりのものである。
「たしか中学生になったばかりくらいの頃、親父が珍しく買った科学誌を見せてもらったことがあったんだ」
「あれ以来取材とかは受けてなかったんだけどよく憶えてるな。あ、そうそう。二人にお願いがあるんだけど、出来るだけ僕がロボットだって言う事は伏せててほしいんだ」
「どうしてですか?」
「そりゃそうだろう。人間形態ロボットはとんでもない科学技術の集大成だ。バレたら後々面倒な騒動に巻き込まれる可能性もある。それにシグナルがその事を私達に明かしてくれたって言う事は、私達をある程度信用してくれたんだろ?」
「まぁね。僕が作られた街じゃ普通に受け入れられたけど、他の所じゃどうなるかわからないから」
「そうなんですか」
実際、雑誌が出版された直後にシグナルともう一体の
それに社会に出て働いているロボットなど片手で事足りるほどしか存在していない。そもそも世界中を探しても人間形態ロボットは絶対数が少なすぎる。ましてや、普通の人間と変わらない受け答えをするロボットを報道の矢面になど立たされたらどれほどの騒ぎになるか。
「今日は挨拶しに来ただけだからそろそろ行くよ。遅くなる前に僕達の住む家に行かないと」
「大きい荷物とかはまだ来てないけど地図でしかこの街の事は知らないからね」
「そうですね。ちょっと長くお話ししすぎました」
春先と言う事もあり、日が出ていても少々冷える季節。早めに下宿する借家に向かいたい。
「シグナルがここで働くならまた話は聞ける、か。信彦はここで働かないのか?」
「それはもっとあっちこっち見て回ってから決めるつもりだよ」
「そうか。まぁ納得するまで考えるといい。道に迷わないようにな」
「また明日です」
二人に別れを告げ、信彦とシグナルはラビットハウスを後にした。
ラビットハウスを出てから十数分。
「あったあった。目印の『和風喫茶
「看板、右側から読むんだな。ここだけやたら和風を強調してるみたいで逆に浮いてるような気がするけど」
案外ラビットハウスから遠くないところにあったその目印になる喫茶店のすぐ近く。そこに三年間二人が生活する事になる借家がある。
しかしその前に、喫茶店の隣にある少々古い家の前で立ち尽くしている金髪の少女がいた。それに気が付いた二人は一瞬顔を見合わせ、とりあえず近づいてみる。少女が何か怯えているような言葉を発しているようだが・・・。
「な、なんで今日に限って私の家の前にいるのよ! ど、どいて! そこどきなさいよ!」
「え~っと・・・」
「(何となく親近感を感じるのはなんでだろ)」
その家の入口付近に何やら目つきの悪いうさぎが鎮座していた。なにやら少女はうさぎに対して尋常じゃない程怯えた態度を見せている。
そんな彼女を見てどこか他人事じゃないようにシグナルは感じた。
とりあえずうさぎが邪魔しているようなので、信彦がそのうさぎをひょいっと持ち上げて明後日の方向へ放してやる。
「あ・・・」
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます! よかった、やっと家に入れる」
そう言って少女はあからさまに胸をなでおろす。
「そこまで君はうさぎが苦手なの・・・?」
「う、ええ。昔ちょっと」
「四方八方三百六十度全周囲うさぎがいっぱいいるのに、しかもそこまで怖がっててよくこの街で生活出来るなぁ」
「あはは、ずっとこの街で生活していますから。あ、あの、それより、先ほどはありがとうございました」
「いや、別に大したことしてないから。本当に」
信彦にきっちりと頭を下げた。
彼女は『
シグナルはおろか信彦も特に何かやったという感じはしなかったので断ったのだがどうしてもと聞かず、信彦もこんな時に頑固さを発揮して遠慮しての繰り返しである。若干ヒートアップし始めてきた。
「二人ともその辺にしたらどうだ? いつまでたっても終わらないぞ」
「「だってこの人が引かないから!」」
「とりあえず僕達の住む家はすぐそこなんだからその話は後でいいんじゃないか・・・?」
初対面同士ではあっても、ハモれる程仲が良くなったというべきか? ひとまずその場はそれで落ち着いた。というのも、
「え、ここから近いんですか? ていけない、特売が終わっちゃう! ごめんなさい、この話はまた今度!」
そう言い残し、シグナルも目を見張るほど凄まじい勢いで家に入ったと思ったらすぐに出てきて走り去ってしまった。
「トッカリタウンでも個性的な人や友達がいたけどさ」
「何となく信彦の言いたい事はわかるけど、ひとまず家に入ろう」
「そだね」
どんな所にも
そんな失礼な事を思いながらシャロ――彼女の家の真正面にある自分達が住む事になる家に入って行った。
翌日。
信彦は食事をしながら、シグナルと今日の予定を話し合った。
「シグナルは早速ラビットハウスだよね?」
「そうなるな。信彦は街の散策か?」
「ついでにバイトも決められればいいなぁと思ってる」
「そっか。荷物は夕方くらいにならないと来ないしな」
大まかな予定を立てた所でシグナルはラビットハウスへ。信彦は散策兼買い物をしに行くことを早々に決めるも、まだ早い時間なのでシグナルも信彦と共に周囲を散策する事にした。
意外と施設が充実しているこの木組みの街。あちこちに看板がぶら下がっているがそれぞれ色が異なっており、その色に応じた店を構えているという。
そんな風景を楽しみながら二人は広い公園にたどり着いた。
うさぎが沢山群がるその公園で二人は謎の行動をとっている少女を見かける。
「おいで~、おいで~」
「「・・・・・・」」
「ゆ~らゆ~ら」
目の前にいる少女の行動に二人そろって固まってしまった。
「なぁ信彦」
「なに、シグナル?」
「うさぎってようかん食うのか?」
「俺は聞いたことないけど」
和服を着た、見た目はいかにも『大和撫子』といっても過言ではない少女がなぜか野良うさぎにようかんを食べさせようとしていた。
「う~ん、食べないわねぇ。うちの子は食べるのに」
「「食うの!?」」
「あら?」
「「あ・・・」」
思わずツッコみを入れてしまった二人の声に少女が反応した。
ばっちり目が合ってしまったのでスルーするのも申し訳ないと思った二人は少女に話しかけるのであった。
「うさぎって草食じゃなかったっけ?」
「(ツッコむ所がそこなのか、信彦・・・?)」
「ん~、うちで飼ってるあんこは食べるわよ?(ウサギじゃなくて男の子が二人も食いついちゃった♪)」
「ようかんを食うのかうさぎ。てか見た事ないからどんなうさぎかわからんがあんことやらよ」
「見に来る?」
「う~~ん」
少女の唐突でマイペースな提案に頭を悩ませる信彦。シグナルはというと腕時計をみて・・・。
「あっと、僕はそろそろ行かないと」
「え、もうそんな時間なの?」
「ああ。そんじゃな、信彦」
「あ、ちょっとシグナル!」
バイト開始の時間が迫っていたため、シグナルは戦線離脱と言わんばかりにその場を離れていった。
そんなシグナルの後姿を見ながら信彦も戦略的撤退を決める。
「えっと、悪いけど俺この街に昨日来たばかりでさ、バイト探しもしなきゃならないから遠慮しておくよ」
「あら、アルバイトさんなら随時募集中よ?」
「え?」
その一言でふと気づく。
少女の格好は明らかに和服だ。そして家の近くに・・・。
「ひょっとして、『甘兎庵』っていう店?」
「・・・エスパー?」
「いや違うから。近所に凄く印象的な和風喫茶店があってそれで覚えていただけだから」
「まぁ!」
少女は目を輝かせて手をポン、と合わせた。少女がずずい、と信彦に寄ってきたので若干後ずさってしまう。
結局彼女の押しに押される形で信彦は甘兎庵に向かう事になった。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。わたしは
「音井信彦。この街にある高校の特待生として通う事になって来たんだ」
「あらそうなの? 私の幼馴染でお隣さんの娘も特待生制度を利用して入学したんだけど、ひょっとしたらいいお友達になるかも」
「そうなんだ。ん?」
甘兎庵のお隣さん、と聞いて信彦は昨日会ったシャロという少女を思い出す。
「その娘ってひょっとして桐間紗路って言ったりしない?」
「あら、知ってるの?」
「昨日、その娘が家の前でうさぎに怯えてた」
「あらあら♪」
そんな話をしながら二人は甘兎庵に向かって歩いて行った。
「いらっしゃいませ。お客様は一名様でよろしかったでしょうか?」
「いや一緒に来たよね? 千夜はお店の人なんだから数に入らないよね?」
「ナイスツッコミ!」
「・・・はぁ」
甘兎庵。店内は木造で建てられてるからか和風の雰囲気はある。しかし特に畳椅子はなく、お座敷があるわけでもない。それでも初めて入ったからか何となく懐かしい空間が出来ているように思えた。
もっとも、千夜のボケでそれをものの見事にぶち壊されたが。
そして最も異彩を放っているのが・・・。
「これ、置物?」
店の中央に何故か鎮座しているうさぎの存在だった。
「この子が
「うわぁ、ホントに食べてる」
千夜が差し出したようかんをもしゃもしゃと食べていた。
小さな王冠をかぶり、あんこ自身があまり身動きをしないため少々シュールな光景だ。
「はい、こちらがメニューよ」
「あ、ありがと」
信彦はいつの間にか千夜のペースにはまってしまった。せっかくだからと思い何か軽く食べていこうと思ったのだが・・・。
「ねぇ、千夜」
「何?」
「なに、この、ゲームに出てきそうな必殺技だかアイテムみたいな品物」
「ふふ、私の趣味はメニューに名前を付ける事なの♪」
「・・・(もはや何も言うまい)」
ある意味いい趣味している。間違いなく初めてきたお客は戸惑うだろう。
なにせメニュー名が・・・
『煌めく三宝珠』
『雪原の赤宝石』
『海に映る月と星々』
『姫君の宝石箱』
『フローズン・エバーグリーン』
等々・・・。
少なくとも信彦には何の事だかさっぱりわからないモノだらけだった。
「これ、お客さん戸惑うんじゃ?」
「あ、初めてのお客様にはこっちの指南書を出しているわ」
「それ先に出そうよ!?」
「うふふ、信彦君ってノリがいいのね♪」
そんな信彦と千夜が漫才もどきをしている一方。
「これがシグナルさんが着る制服です。父が夜のバータイムに来ている制服なんですが」
「ありがとう、チノ」
ラビットハウス開店前の時間。
シグナルはチノから早速制服一式を手渡され、更衣室で着替えてきた。チノが言うように喫茶店というよりバーで働いていると言った方が説得力がある服装だ。
開店前の準備と開店後の役割についてお手本を見せてもらいつつざっと説明を聞き、シグナルはそれを忠実に再現する形で。チノが踏み台を必要とする所や、重い荷物を持つ所はさすがに再現しないが。
「シグナルさんが力持ちで助かります」
「力仕事ならどんとこい、てね」
チノの知る由ではないが、店内の荷物はおろか以前に防火シャッターを無理やりこじ開けたり高所から飛び降りても姿勢を制御していれば難なく着地出来る(さすがに限度はあるが)。むしろ軽食ではあるものの調理やコーヒーの淹れ方のような繊細な作業や感覚が必要――ロボットにも五感がある――とするものの方が『学習、経験する』という意味で時間がかかったりするので、今の所は力仕事以外学習中である。
店の札を『Open』にしてしばらく、一人の少女がラビットハウスを訪れた。
「うっさぎ、うっさぎ♪」
「「いらっしゃいませ」」
その少女、『
こうして二人は新しい生活を始める事になる。その後も個性豊かな人達と出会い、得難い経験をしていくのはまた別な話。
とりあえずふと思いついたので書いてみました。最も続きを書くのは難しいと判断したので短編という形です。
ごちうさはアニメ第二期終了後にその存在を某動画サイトで知り、原作を読んでアニメを一から見てのめりこんだものです。二次小説を読んでいていろんな絡みを見ながら書いてみようかと思ったものの、連載は無理だと判断して短編に・・・(;´・ω・)
ほんの少しでも楽しんでいただけたら幸いです。