トライアングル・パイロット   作:次郎鉄拳

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第一話A~三人目の銅色~

~~~~~~潜水艦キラーホエール~~~~~~

 

夜、DC残党軍の一派において指揮官である男――アーチボルド・グリムズは、一室でアッサムティーを淹れていた。

 

 

「補給先でこんなに良い茶葉が手に入るとは思いませんでしたよ」

「――ですが、超機人は確保することが叶いませんでした」

「心配いりませんよ、ちゃぁんと……後はつけさせていますから」

 

 

苦々しいと言わんばかりの声音で、アーチボルドの言葉に返す男――ユウキ・ジェグナンの視線はアーチボルドではなく、彼が淹れている紅茶に向けられている。

生粋の紅茶好きでもあるユウキにとって、上官への報告やらその他諸々も重要だが、それ以上に紅茶の品質などの方が大事なのだろう。

 

なお、一番ユウキが一番気になっているのは――時期外れのアッサムティーを飲んでいることである。

アーチボルドは貴族出身、紅茶の知識はそれなりにあることを彼は知っている。

ゆえに気になった。上官からの誘いを断りつつ、ユウキは質問をぶつけた。

 

 

「――それで、なぜこのような時期にアッサムティーを?」

「好きなんですよ――この、色が」

「……色?」

「ええ、血みたいで、いい色でしょう?」

 

 

このアーチボルドという男、物腰や口調は紳士のそれではあるが、あくまでもガワがいいだけであって、その実はただの猟奇的な外道そのもの。

彼の言葉を聞いた、テーブル脇に立ち続けるユウキの顔は無理やり押さえつけているものの、口の端からアーチボルドへの嫌悪感がにじみ出ている。

――ユウキは正義感が強い男なのだ、それは当然彼と反りが合わないだろう。

 

直後――コンコン。というノックがドアから聞こえてくる。

ボタンを入力すれば即座に開くドアを使用しているものの、最低限のマナーということでDC残党軍だろうと、地球連邦軍だろうと、入室前にドアをノックすることがまかり通っている。

 

 

「どうぞ」

「失礼します」

「――ようこそ! クエルボ・セロ博士!」

 

 

扉があき、入ってきたのは一人の男性と、男性の後ろにパイロットスーツ姿の少女一人、少年二人。

クエルボ博士と呼ばれたのは先頭の男性である。

 

 

「その後ろにいるのが補充用員ですか」

「ええ、そうです」

 

 

クエルボは体をずらし、三人の若者たちをアーチボルドの視線にさらす。

三人の姿勢や視線は様々で、少女は緊張をありありとうかべつつ姿勢をキチンと正している。

少年の片割れはまるで上官のアーチボルドに興味を示していないかのように視線や姿勢を脱力しているように崩している。

もう片割れは三人の中で唯一緊張も見せず、一切崩れの無いお手本のような姿勢を見せている――が、その視線はアーチボルドに向けられているかのようでその実は少女に向けられている。わざわざアーチボルドと少女の位置が並ぶような場所に自身を置き、少女を見つめる行為を不自然に見せていないあたり、どうしたって確信犯である。

 

 

「自分は、ゼオラ・シュバイツァー曹長であります! 以後よろしくお願いいたします!」

「自分は、アラド・バランガ……以下同文であります」

「……ぁん?」

 

 

怪訝な声を漏らすアーチボルド。

紳士然らしくない声が出たのは単純な話、アラドという少年の態度がどう見ても軍人や軍所属者らしくないものだったからである。

もちろん、アラドの態度に異議を唱えようとした存在はいる――ゼオラと名乗った少女だ。

だが彼女の行動は、残った少年が綺麗な敬礼をしつつアラドと自身の間に割り込んだことで未然に防がれる形となった。

 

 

「自分、ウルヴ・コントゥーサと申します。アラド・バランガと同じくで以下同文にあります――アラド、敬礼くらいはしてほしいかな」

「あー、はいはい……」

「ゼオラも、上官の前だから怒っちゃダメ。君のかわいい顔が台無しになっちゃうだろう?」

「うぅ……しょうがないわね。アラド、ウルヴの顔に免じて今は赦してあげる」

 

 

ウルヴと名乗る少年にたしなめられ、渋々とやる気のない敬礼をするアラド。

ゼオラに【キラキラ】と擬音がつきそうなほどいい笑顔を向けながら彼は敬礼を続行しているのだから、どこか狂気を感じなくもない。

すっかりアーチボルドは彼らの空気に呑まれてしまった。

 

 

「……まぁいいでしょう、しかし補充要員がこんな子供だったとは」

「ッ!? お言葉ですが、自分とアラド曹長、ウルヴ曹長は【スクール】の出身であります!」

「ほう……?」

 

 

スクールという言葉に興味を示すアーチボルド。

平和な世界であれば、スクールと聞いてもただの教育機関としか考えないだろうが、この世界においてスクールという名前は大きくその存在意味が異なっている。

 

 

「スクールといえば、確か地球連邦軍の特殊パイロット実験場――ククッ。いいえ、養成機関でしたね。なるほど、君たちの年齢には納得がいきました」

 

 

スクールについて、アーチボルドが記憶していることをつぶやくとクエルボを始めとした四人は一同に眉を顰める。

その姿を見て、さも愉快そうな笑みを漏らしながら心にもない訂正を入れるアーチボルド。

性根ねじ曲がった外道にとって、他人の不快にまみれた表情を見るのはさぞ甘露を飲むかのような心地なのだろう。

 

 

「――実戦経験こそはありませんが、訓練であれば十分に受けております!」

「……結構。ではユウキ君、彼らは君に預けます。次の作戦で性能を試しておいてください」

「…………」

 

 

アーチボルドの指示に、少しばかりユウキも眉を顰め、小さく首を縦に振る。

物扱いされることを嫌うスクールの面々の神経を逆撫でするような発言ばかり行うアーチボルドは、彼にとことん合わないものである。

 

そして、アーチボルドの発言で逆撫でされ続け、とうとう我慢の限界を超えたものがいた。

――アラドだ。

 

 

「性能……?」

「アラド!」

「このっ――ッ!」

 

 

ウルヴの制止が無ければ、きっと今にも飛び出していたであろうアラド。

その拳は固く握られ、彼の悔しさのほどがうかがえる。

 

 

「行くぞ三人とも!」

「はっ!」

「承知、行くよアラド」

 

 

ユウキはアラドとアーチボルドをこれ以上同じ空間に留めないよう、三人を連れ出す。

最後に釈然としない顔のアラドが退出したのを見送り、アーチボルドはクエルボへと問いを投げる。

 

 

「……スクールの実験体は皆死亡した。と聞きましたが――色々と、やりすぎたせいでね?」

「――ッ、そう……ですが……私たちは、スクールの解散後……遺った子供たちを引き連れてDCに行き、アースクレイドルで訓練を続けていたのです」

 

 

スクール――それは、アーチボルドが言うように、地球連邦軍にかつて存在していたパーソナルトルーパーというロボットを操縦するパイロットの特殊養成機関。

あるときから、身寄りのない孤児たちを集めて色々――薬物投与による強化措置や催眠暗示などによる精神支配など――行う人体実験場になったことで、その名は戦場の古参には悪い意味で通じている。

実験体の死亡――これは精神崩壊、訓練中の物理的な死などといった文字通りの言葉。

身寄りのない子供たちを使ったことである程度の隠ぺいは効いていたが、徐々にその所業は明らかになり各所からの非難によって、既に当機関は解散されている。

 

 

「――なるほど、それで、あれらは使い物になるんですか?」

「ブロンゾ27――ゼオラは問題ないと思われますが……ブロンゾ28――アラドは能力面や思想面で不安要素が……」

「アラド・バランガは欠陥品じゃないですか……何故連れてきたんです?」

「ブロンゾクラスのブーステッドチルドレンは、本来コンビネーション用の調整をされていますので……」

 

 

スクールにはアウルム、アルジャン、ブロンゾ、イエロ、ラトゥーニの五つのクラスが存在する。

そのうちでブロンゾクラスは二人一組の共同戦線を目的としたクラス。

アラドが欠陥品の存在だとしても、ゼオラを使用する以上は彼を連れてくるのは必然のようなものである。

なお、ブーステッドチルドレンというのはスクールの実験体の総称のようなものである。

 

 

「そうですか。では最後の……ウルヴ・コントゥーサについては?」

「ブロンゾ0――ウルヴはその……コンビネーション用のブロンゾクラスにおいては唯一例外で、相手が存在しません」

「相手が存在しない? コンビネーション用なのに一人ですか?」

「はい、彼は誰とでも組めるパイロットを目的として調整された補欠番号で。しかしながらスクール内での生き残りが彼を含めても片手で数えられる程だったので、今は同じブロンゾクラスであったゼオラ、アラドとともに行動させています」

 

 

なるほど。とアーチボルドは理解した。

彼からすれば任務を達成さえすればあとはどうでもいい。

今回の補充で不安要素はアラドだけ、しかしながら先ほどまでの様子を見る限りウルヴが主に彼の手綱を握っていることは分かった。

ならばあとは特に気にすることはない。

 

 

「――まぁ、精々頑張ってもらいましょう」

 

 

アーチボルドの特に期待をしていなさそうな声音に、クエルボは少しばかり悲しげな表情を見せる。

――元々、クエルボという男は優しいのだ。

ブロンゾ0、27、28と番号だけで呼ばれていたウルヴたちに名前を与えたのも彼である。

彼は実験体としてではなく、人として彼らを認識しているがゆえに、アーチボルドの態度はだんだんとつらく感じていた。

 

――そんなクエルボの表情を見ながら、またもや逆撫でするような言葉を選ぶアーチボルドはやはり外道としか言えないだろう。

 

クエルボは案じた。三人の少年少女たちのこの先の身を。

願わくば――死ぬことだけは無いようにしてほしいと。

 

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