~~~~~~地球連邦軍極東方面軍・伊豆基地~~~~~~
「――それでね、明日水鳥島演習場で試作機同士で模擬戦をやることになったの。だから今晩中のフィッティング、お願いできる?」
「了解!」
基地内の自動通路を二人の男女が利用している。
対異星人用人型機動兵器開発計画実戦部隊――通称SRXチームメインパイロットのリュウセイ・ダテと、メンバーの一人であるアヤ・コバヤシだ。
二人は基地内のある一室へと入る。
室内にはバイザーで目を覆った女性や、金髪の男性が二名、静かに席に座っている男性が一名、リュウセイを視界に入れて顔をほころばせるメガネの少女が一名――そして、壁際に独り直立不動で居る青年がいる。
「リュウセイ」
「ラトゥーニ? おま、カイ少佐と月に行ってるんじゃなかったのか?」
「さっき、試作機と一緒に戻ってきたの」
「試作機? じゃあ、俺の模擬戦の相手って……」
「ラトゥーニだ」
リュウセイは目の前の少女――ラトゥーニ・スゥボータが、先ほどまでアヤから軽く説明を受けていた試作機同士の模擬戦の相手だと確信する。
その確信は直後、厳格な男性――カイ・キタムラの声で肯定される。
「機体の慣らしと解析に関しては、我が特殊戦技教導隊のなかではナンバーワンだからな」
「ナンバーワンって言っても、今の教導隊は少佐とラトゥーニ――それと、そこで突っ立ってるフウトだけでしょ?」
リュウセイはカイのナンバーワンという言葉に、所属人数の少なさという現実でツッコミを入れる。
それもそのはず、カイが立ち上げた特殊戦技教導隊はあくまでも新生のもの。
元々あった教導隊はかなり前に解散され、メンバーも事情様々で半分がDC戦争時に連邦の敵側へと回った。
現在の所属員はカイとラトゥーニ、そしてずっと壁際で直立不動の姿勢を保ち続けている青年――フウト・アンヨウジの三名だけである。
「失敬ですがダテ少尉、人数が私たちしか居ないのはまだまだ新生特殊戦技教導隊の認知度が足りないからであります」
「……まぁ、それもそうなんだがな。メンバーは現在募集中だ、どうだライディース少尉?」
「ハハハ、折角のお誘いはありがたいのですが、SRXチームにはまだまだお守が必要な奴がいますので」
カイに名指しで勧誘された金髪の男性――ライディース・F・ブランシュタインはニヒルな笑みを浮かべ、断りの言葉を入れる。
なおしっかりと視線は、お守が必要な奴――リュウセイに向けられている。
「なっ、それって俺のことかよ!」
「ハッ、自覚はあるようだな?」
「チエッ……フン!」
すねるリュウセイ。
そんな彼の姿を見ながら、メガネをかけた金髪の男性――ロバート・H・オオミヤは少々笑みをこぼす。
リュウセイと個人的な親交がある彼としては、友人の元気な姿を見られることは大変好ましいのだ。
「なんにせよ、いいマッチメイクだ。データ収集の方も期待していいだろう?」
「ああ! 任せてくれロブ!」
「リュウセイ、明日の話だが、私とアヤは基地に残る」
ガタリと立ち上がり、リュウセイに話を振るのはバイザーで目を覆ったSRXチームのリーダーであるヴィレッタ・バディム。
基地に残るのはアヤの父――ケンゾウ・コバヤシという研究者を手伝う必要があるためである。
「――それともう一つ、明日の結果次第では、訓練メニューの追加を行うわよ」
「うえぇ、そりゃあないぜヴィレッタ隊長……」
「そう思うのであれば、良い結果を少しでも残せるようにイメージトレーニングを行うべきだと思いますが。もしくはコックピット内で一晩明かすとか」
「お前みたいなことをできるか!」
リュウセイの悲鳴にあきれた声でアドバイスを入れるフウト。
フウトにとっては至極普通のことをアドバイスしたはずだが、それを一蹴されてしまったことにより彼の表情は何とも言えない悲しみを湛えたものとなった。
――だがリュウセイの拒絶は正しい。フウトのイメージトレーニングはとても長く、数時間同じ姿勢で行われることもあるのだから、もはや精神修行の一環である。
コックピット内で一晩を過ごすのも同様、フウトの場合は寝る以外に脳内シミュレーションを含んでいるのだから、肉体派のリュウセイにとっては少々ハードすぎるのだ。
「フウト」
「……はい、何でしょうラトゥーニ……さん」
「黙ってて」
「……はっ」
しかしこのフウトという男、ラトゥーニよりも一回り以上年上ではあるものの、教導隊参入時期が彼女より少しだけ遅いという理由でラトゥーニに頭が上がらない。
今この瞬間も、ラトゥーニの眼光で居心地が悪そうな表情に変わったのを見て、室内の一同はどこかフウトに対して同情を覚えた。
「――そういやフウト、お前なんでずっと立ってるんだ?」
「いえ……大したことではないんですが……ラトゥーニ、さんから、『残念ながらあなたの座る席はないから立ってて』……と、言われまして」
「……なぁ、俺と座る場所半分こするか?」
「……いえ、ラトゥーニ、さんの表情が般若のように変わるので遠慮いたします」
***
翌日、地球連邦軍が所有する伊豆近辺の地である水鳥島演習場では、人型のロボットがスタンバイを済ませていた。
その機体の名は【アルブレード】。
リュウセイ達SRXチームが搭乗する機体の中にあるR-1というSRX計画最初の完成機体、その運用データを流用しつつコストを抑えた試作品である。
≪どうだリュウセイ、アルブレードの乗り心地は?≫
<やっぱ、R-1よりは軽いな。いや、心もとないってわけじゃないけどさ>
≪フルスペックでR-1を量産してみろ。運用以前にコスト面で落選物だ≫
<そりゃあそうだ! で、ラトゥーニは?>
回線を通して、指令室のロバートとアルブレードコックピットのリュウセイが会話をする。
試作機の大元に普段から乗っているリュウセイとしては当然アルブレードの動きは軽く思える。
なにせR-1に内蔵されているシステムや、飛行形態への変形機構をオミットしているのだから、軽くならなければ奇妙なものである。
≪彼女はもうすぐ来る≫
ロバートの言葉に反応するかのように、アルブレード内部で機体接近を示す通知が鳴る。
朝日の向こう側から飛んでくるのは――青い機体。
機体の姿を認識したリュウセイはコックピット内でぽつりとつぶやく。
「ビルトファルケン……射撃戦、空中戦仕様の機体。だが――対策は練ってきたぜ!」
≪では二人とも、ラウンドスタートだ≫
「了解! 遠慮はいらねぇぞラトゥーニ!」
ビルトファルケンが演習指定ゾーンに入った瞬間、カイから模擬戦開始の指示が飛ぶ。
リュウセイは先手必勝とばかりに、アルブレードの武装であるG・レールガンを連射する。
だが、ラトゥーニの駆るビルトファルケンは弾幕を空中で難なく避ける。
「こっちこそ……ッ!」
対してラトゥーニは武装のオクスタンライフルを連射。
そのうちの一発がレールガンにヒットし、ペイントがベタリと広がる――武装大破の扱いだ。
リュウセイは大破したレールガンを捨て、トンファーの打突部分が刃となった武装――ブレードトンファーを取り出す。
「――何とか、この武装の間合いに持ち込まないとな!」
そうは言うものの、ラトゥーニの空中からの射撃はだんだんと苛烈さを増していく。
射撃武器がすでに大破してしまったゆえに防戦一方どころか、逃走一方状態へと追い込まれているリュウセイ。
――しかし、彼には秘策があった。
「――よし、今だ!」
ラトゥーニが連射をやめ、ロックオン状態に移行した隙を見計らって、リュウセイはブレードトンファーの片割れをビルトファルケンに向かって投げつける。
彼女がひるみ、動きを鈍らせた隙にリュウセイは大破してほおり捨てたレールガンを拾い、こちらも投擲。
二度の奇行によって完全に動きを止められたラトゥーニは、直後突撃してくるアルブレードに気付いても反応が間に合わない。
アルブレードは突撃相手のビルトファルケン共々地面に落下。
強い衝撃に一時的に意識を飛ばしかけたラトゥーニが目を開けると、ビルトファルケンのマウントポジションをとったアルブレードが、残ったブレードトンファーを突き付けている姿をそこに見た。
秘策ここに成り――リュウセイの勝利だ。
≪一本取ったぜラトゥーニ!≫
<あんなモーションパターンがあるなんて……>
≪へっへ、驚いただろう?≫
{バカモン! 新型機の備品をなんだと思っている!}
自慢気な顔をするリュウセイの表情は、カイの怒号により一瞬で冷や汗ものになる。
それもそうだ、新型機の稼働テストである以上、多少の無理はするものだとしても、リュウセイのモーションはあまりにも突飛すぎた。
武装を投げつけるなどという手段はそうそう取ってはならないのだ。
{帰還したらレールガンとトンファーの整備をお前がやれ、いいな!}
≪う……はい!≫
「まったく……よくもまぁあんなことを思いつくもんだ」
「そうですか? 自分もあの手段は一度は考案しましたが――まぁ、成功率の低さと、お叱りを受けるだろうなということで即座に却下しましたけれど」
「まぁ、確かに驚きはするし、問題でもあるが。出たとこ勝負に強いのはリュウセイの長所だからなぁ」
「案ずるより産むが易し。ということでしょうか」
「あー、それは少し違う意味だと思うが……」
ライディース、フウト、ロバートの三人はリュウセイの戦術について感想を言い合う。
成功率の低い戦術を行っても大体成功して帰ってくるあたり、リュウセイの運の強さがうかがい知れる。
≪さて、現時点での機体の感想を聞こうかリュウセイ≫
<あー、テスラドライブとキャノンを追加するんだろう? いいバランスになると思うよ>
≪ふむ……エルシュナイデの方向性は間違っていないのか……≫
リュウセイの感想を受け、考え込み始めようとしたロバート。
しかしそのタイミングでアラートが鳴る――敵襲の証だ。
「六時の方向、八時の方向よりアンノウン各四機!」
「防空圏内だぞ!? S-AWACSや伊豆の方からの連絡はないのか!」
「ありません! レーダーに突如反応が!」
オペレーターの言葉を聞き、カイは出撃のために移動を始める。
「模擬戦は中止! 伊豆に救援要請、俺の機体を回せ!」
「お供します少佐、数はある方がいいです」
「よかろう、フウトも出撃させる!」
「はっ!」
――大規模な戦いの火蓋は落とされることとなった。