生きる負けフラグと相成りまして   作:菊池 徳野

3 / 9
2評価をいただいてしまったので、少し書き方を工夫してみました。
試行錯誤するのは楽しかったのですが、その為に投稿が遅くなり申し訳ございませんでした。

桐条先輩は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。


第一試合 対大型シャドウ

草木も眠る丑三つ時、もとい魑魅魍魎の跋扈する影時間。調子が良いからと付き合ったのが運の尽きだったか、今日も元気に真田君と共に夜間パトロールという名の散策中である。

調子がいいとはいえ、長いこと活動していれば疲労が溜まってくる。かれこれ体感で3時間程シャドウの掃討作業を続けている気がする。桐条さんに影時間はおよそ1時間だと聞いたけれど、絶対嘘だ。

 

 

「その角にシャドウの影が見えるね。真田君、注意して」

「了解だ」

「ほんとにこれで最後だから。俺のペルソナ燃費悪いんだから止めにしようね!」

 

 

何度も強く念を押す。しつこく感じるかもしれないがこれで三度目のやり取りなのだからしつこくもなる。

初めて夜の散策を一緒にした日から、真田君は遠慮をやめ、バトルジャンキーのあだ名通りのアクションを取るようになった。

この執拗なシャドウ狩りもその一つである。

 

 

「俺から仕掛けて注意を引くから真田君はその隙にやっちゃって」

「任せろ」

「それじゃあ、行きます!」

 

 

疲れているからと戦闘を長引かせても変わらないのでさっくりと倒してしまうことにする。

助走をつけて、シャドウに視認されたと同時に跳んでシャドウを飛び越える。降り立つ前にダーツを投げて牽制し、着地と同時に腰の小太刀を抜いて突貫。

 

よしっ!今だ!

 

相手の警戒がこちらに向いている間に後ろから真田君がシャドウを正確に捉え殴り抜く。その勢いのままに中に浮いたシャドウに追撃の小太刀を一閃し、フィニッシュ。

消えていくシャドウを尻目に、足下に転がっているダーツを回収する。

流石に数をこなしてきたこともあって動きがかなりスムーズになってきた。とはいえそろそろ足元が覚束無くなってきて立ち眩みのようになっている。少し無理をしすぎたかもしれない。

 

 

「随分あっさりだな。味気ない。もう少し手応えのある相手でもいいんだが…」

「やめて」

 

 

このバトルジャンキーを誰か止めてくれ。

これで明日疲労と筋肉痛で動けなくなるなんて事になったら、桐条さんに言い付けてやる。きっと彼女なら喜んで真田君の押さえつけに協力してくれる事だろう。一月もいれば力関係なんて透けてみえるのだ。

 

 

「明日もあるし、そろそろ探索を引き上げようよ」

 

 

だが最後の注意くらいはしておこうと、身体も悲鳴をあげているのでさっさと帰りたい、という本音をオブラートに包んで言葉に乗せる。

もしこれでNOと言われた場合、さっさと一人で帰るつもりだ。目眩がするレベルの疲労なんて普通じゃない。

 

それでも悩んでいる真田君に呆れながら周囲に目をやると、巨大な発光する塔が目に入った。

夜の姿の学校、たしかタルタロスって言ってたっけ。その姿もこの位置からならよく見える。満月である事も相まってその姿は幻想的で、現実味のない物に見える。それを不気味だとも思ったけれど、つい目が離せなくなる。

 

心がざわつく。

そういや、俺が倒れてたのってあそこの近くだったんだっけ。

 

 

「…それもそうだな。なら帰るとするか」

 

 

ぼんやりとそんなことを考えていたら真田君は結論が出たのか帰る事にしたらしい。桐条さんに連絡を入れ始めた真田くんの姿に安堵の息がもれる。

――良かった、やっとこれで帰れる。

 

そこで気を抜いたのが悪かったのか。振り向いたから良かったのか。

巨大な影が真田君の後ろに佇んでいるのが目に飛び込んできた。

咄嗟に真田君をシャドウから引き離そうと手を伸ばし、ありったけの声量で叫ぶ。

 

 

「真田君!後ろ!」

 

 

木を叩いた時のような音が響くと目の前で真田君が弾き飛ばされた。空しく空をつかむ右手を見て情けなさが沸いてくるが、今はそんな場合ではない。

ザ・ニンジャの索敵に引掛からなかったのか!?

 

 

「くっ、何てでかさだ。さっき倒したやつの5倍はあるぞ!」

「何嬉しそうにしてるのさ!一旦退くよ!」

 

 

幸い真田君は無事だったようでのんきなことを言っているが、そんな場合じゃない事くらいわかってほしい。

もうやだこのバトルジャンキー。

 

 

「真田君達はあんな大きさのシャドウと戦ったことは?」

「初めてだ。帰ったら美鶴のやつ驚くぞ!」

 

 

なんでこんなに元気がいいのか、腕があらぬ方向に曲がっている人間の台詞ではない。というかあの一瞬で咄嗟に腕で身体を庇ってたのか。凄い反射神経だな、流石スポーツマン。

しかし腕は使いものにならないくらい悲惨な事になっており、戦闘に参加するのは無理だ。つまり戦えるのは俺しかいない。

 

 

「桐条さんに連絡しないと。あいつの注意を引いてるからお願い!」

 

 

状況を理解するや否や小太刀片手に敵に吶喊する。真田君への注意を反らして時間を稼ぐ。時間を稼げれば撤退でき次第桐条さんが対策を講じてくれることだろう。

少し違うが、ここは俺に任せて先に行け!というやつである。

 

 

「鬼さんこちら!」

 

 

うぞうぞと蠢く触手を躱し、顔とおぼしき仮面に斬りかかるが触手の持った剣で弾かれ、お返しと言わんばかりに此方に斬りかかってくる。複数の変則的な太刀筋を見極めきれず、致命的ではないものの肩や脇腹に何発かもらってしまう。

どうやら見た目は最近狩っていたシャドウによく似ているが、明らかに強く、動きも段違いである。

牽制とばかりにダーツを投げるが、刺さっても意に介さずに突っ込んでくる様からちまちまとした戦闘はできなさそうである。

 

 

「うっそ、ダメージ通ってないの!?」

 

 

大きく飛び退く事で回避をし、距離をとる。まずは機動力を削ぐところから勝負!

 

 

「食らえ『忍法クモ糸縛り』!」

 

 

何処からともなく縄を取り出して、しゅるしゅるとまるで蛇のように大型シャドウを雁字搦めに縛り付ける。

シャドウも縄を切ろうと手に持った剣を振り回そうとするが、そうは問屋が卸さない。物理が効きにくい相手には魔法が効くと相場が決まっている。

疲労か体力の限界か、ガンガンと警鐘を鳴らす頭を振って、無理やり次のアクションに移る。やるなら短期決戦しかない。

 

 

「派手に燃えろ!『灼熱地獄』!」

 

 

口から火球を吐き出して縄に引火させる。会心の一撃。手応えありだ。

縄を介して燃え移った炎がシャドウの身体を焼き尽くさんと威勢よく燃える。ゴムの焦げるような異臭が周囲に漂っていてシャドウは熱さからかのたうち回るように暴れている。うまくいった。

撤退戦のつもりだったがこれはあれだ。「別に倒してしまっても構わんのだろう?」という奴だ。格好よく決められたのではなかろうか。

なんて、きりきりと痛む頭のことをまぎらわす為にできるだけ別の事を考える。

 

瞬間、目の前が炎で埋め尽くされた。

 

火球。俺がさっき放った物の何倍もの規模の火球が俺めがけて飛んできていた。

あれは食らえばよくても瀕死は免れない。

その場から飛び退く事ができたのは殆ど奇跡だった。いや、本能的な行動だったのかもしれない。

全身のバネを最大限活用して大きく跳ねる。直撃はしなかったものの、着弾直前に飛び退いたので足に多少の火傷が出来ていた。身体はまだ動くが、機動力は落ちた。正直まずい。

驚きのままに視線を向けると、先程までのたうち回っていたシャドウはいつの間にか此方に視線を向けまるで嘲笑うかのようにその身体を揺らしていた。騙された。

 

嘆いていても現実は非情である。

技を使いすぎたのが原因か頭痛が酷いことになってきていて目の奥がちかちかと白く明滅している。

元々余力がない状態で短期決戦を想定していたのでこれ以上戦闘を続ける余裕なんてあるわけない。対して敵はまだ余力がありそうでやる気も十分ときている。これ以上は戦えない。

 

 

「連絡がついた!一度寮まで退くぞ!」

「っ!了解!」

 

 

天はまだ見放していなかったらしい。真田君の言葉に、これ幸いと撤退行動に移る。

『クモ糸縛り』と火傷のおかけでシャドウの動きが鈍くなっている今、撤退するなら絶好のチャンス。前を走る真田君の背中を追うように足を動かす。

 

時折飛んでくる火球を避けながらも追ってくるシャドウから逃げ続け、飛び込むように寮に入り、その場にへたりこむ。

肩で息をするように呼吸するが、呼吸音に異音がまじる。どうやら喉も焼けているらしい。

だが生き延びた。その事実を確認して気を抜いたのがまずかった。

桐条さんと真田くんが何か言っているのを聞きながら、ぷつんとテレビの電源が落ちるように俺はその場で意識を手放した。

 

 

 

 

 

目を覚ますと知らないベッドの上に寝かされていた。

ぼんやりとした頭の中で冷静な部分が叫んでいる。このパターンつい最近味わった事のある奴だ。…ということはまた病院に逆戻りしたらしい。

視線をさ迷わせるとベッド脇に腕にギプスを嵌めた真田君が座っていた。

 

 

「…ゃあー、さ、だくん」

「無理に声出さなくて良い。ほら、飲め」

 

 

声をかけようと口を開くが、どうにも声が掠れていて喋りづらくうまく話せない。見かねた真田君が枕元に置いてあった水差しを取って手渡してくれた。ありがたい。

身体を起こして水を飲んでいると、あの後、俺が意識を失ってからどうなったのかを聞かせてくれた。

曰く、あの日入寮してきた新入生が速攻で倒したとのこと。

マジかよ、あいつ滅茶苦茶強かったのに、どんな奴だよ新入生。え?入院中?怪我はしてないけど初めてかつ突発的にペルソナを使って精神的な疲労が出た?そっか、やっぱり大変だったんだ。

喉が痛かったので相槌もそこそこに最低限の事しか言えなかったけど、要点と思われる聞きたいことは聞けたと思う。それにしても意識不明の状態が続いてるって大丈夫なんだろうか。俺も今しがた目を覚ましましたばかりだから何とも言えないが、やはり心配だ。

 

それから暫くの間お互い無言だった。俺は喉の痛みと話題の無さから。真田君はたぶん、罪悪感からだったんだと思う。

 

 

「無理させて悪かった」

 

 

沈黙を破ったのは真田君の方だった。謝罪の意図は、まぁ言葉の通りだろう。

俺の制止を聞かず無理に戦闘して、疲れてボロボロの状態で強敵からの奇襲、更に自分は即座に負傷して戦力外。下手したら二人とも死んでいても不思議ではない状況だった。それで自分を責めているのだろう、それ故の謝罪。

たぶん、その事を俺が責めても真田君は何も言わず謝罪してくれる事だろう。だが――、

 

 

「仕方なかった。って事でいいじゃない」

「え…」

 

 

許す理由は色々ある。過ぎたことを責めても仕方ないだとか、死ななかっただけよかったとか。

だけど一番の理由は、今責めてしまったら真田君はもっと無茶をしてしまうんじゃないかとそう思ったからだ。

 

 

「だから仕方なかったんだよ。お互い無事…ではないけど死んでないんだから儲けものだよ」

「そんなものか?」

「そんなものだよ」

 

 

後輩に全部任せちゃったのは流石に情けないけれど。

そう言って笑ってみせると真田君も少し笑ってくれた。その時にはもう、先程までの暗い雰囲気はなくなっていた。

 

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

化け物に襲われて大怪我を負って、しまいには病院に逆戻りという散々な結果だったけどこうして笑えているなら問題ないかな。

 

鹿島忍 17歳。

この世界に来て、初めて友達ができました。

 

 

 

 

 

「…あのシャドウ、再戦できないものか」

「ほんとやめて」

 

 

反省はしてくれたものの、どうやら俺の災難は暫く続きそうである。

なお、その後倒れたという後輩の見舞いに行ったところ女の子だった事に驚いて変な声をあげてしまい、看護婦さんに怒られたという事を追記しておく。

 

 

 

第一試合 鹿島忍 vs 大型シャドウ「マジシャン」

鹿島忍の逃走により決着

勝者 マジシャン(決まり手 アギダイン)

 

勝ちはまだ遠い。

 




ということでいきなりの本編開始でございます。

前話からこの話まで、色々と考えたのですが戦闘とイベントがないと花がないという理由で三話ほど没になりました。遅れた理由その二ですね。
前書きでも書いた通り文章量や書き方を変えてみましたがいかがでしょうか。何かご意見、感想等あれば一言でもいいのでよろしくお願いします。

また、お気に入りが二桁に到達したのでとてもモチベーションが上がっております。ありがとうございます。

次回は女主人公の話と学校での鹿島くんの話の2つがメインになるんじゃないかと思います。
ハム子の名前どうしようか。




『影時間』
一日の終わりと始まりの狭間にある隠れた時間。シャドウ達の作り出す四次元的異相とかなんとか難しい説明のついて回る時間帯。
ペルソナ使いとシャドウ、シャドウの支配下にあるものしか生物は活動できない。
謎時空。

『俺に任せて先に行け』
死亡フラグである。

『倒してしまっても構わんのだろう?』
死亡フラグその二である。

『大型シャドウ』
満月の夜に現れる強いシャドウ。
タロットカードをモチーフにしており、一体目の呼称は「マジシャン」である。
なおこのマジシャン、見た目が最初に出てくる雑魚敵の「臆病のマーヤ」によく似ており出番も少ないことから印象がとても薄い。(が、鹿島くんでは勝てない)

『忍法 クモ糸縛り』
ザ・ニンジャの使う忍法。ロープで敵を縛り上げ身動きを封じる技。原作ではブロッケンJr.が掛かり、苦戦を強いられていた。
ペルソナ的にはスピードダウンのデバフ技「スクンダ」のようなものと捉えていただければ問題ない。

『灼熱地獄』
アギラオ。ただし魔法は口から出る。

『新入生』
P3Pでのプレイヤーこと女主人公である。正しくは転入生。
名前がプレイヤー個人でバラバラのためネットでは『公子』や『ハム子』と呼ばれる事が多い。『主人公子』が元ネタである。
また、男主人公の場合は『ハム太郎』と呼ぶ場合があるが、その見た目故に圧倒的に『鬼太郎』と呼ばれることの方が多い。
どうでもいい。

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