艦これif  ~ポンタローバージョン~   作:ポンタロー

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第十章 引っ越し

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 私がこっちに来てちょうど一月半が経過。

提督室にて、私、翔鶴、瑞鶴、大淀の四人が集まり、苦渋の表情を浮かべる。

ついに恐れていた事態が起こってしまった。

 資材が……尽きた。

 資材ゼロ。つまり、今、艦娘達が積んでいる分の資材がなくなったら、私達は終わり。

 私達は、ついにそういう状況にまで追い込まれた。

 敵の資材を奪おうにも、とてもそんな余裕などない。

 今、艦娘達が積んでいる分で一か八かの賭けに出て、もし失敗しようものなら……その時こそ、本当に終わりだ。

「……申し訳ありません、提督。わたしが大破さえしなければ」

「いいえ、翔鶴。その件に関しては、アンタが謝る必要はないわ。何一つね。けど、困ったわね」

 提督室に重苦しい空気が立ち込める。

「他の前進基地はあらかた回ったのよね?」

「……はい。とりあえず、わたし達の知る限りの前進基地は全て回りました」

なるほど。本国からの支援は一切期待できないとして……

資材を直接掘りおこすなんてのも、もちろん却下だ。となると……

「食糧の方は?」

「はい。食糧の方は、まだわずかですが余裕があります。ですが……」

 大淀が言いよどむ。

「それも遅かれ早かれってとこね。まあ、食糧に関しては、周りが海なんだから魚でも釣るか、果物でも取って食べるとして……」

 問題はやはり資材か。これがないとどうにもできないし。

「アタシ達、もうお終いなのかな……」

 瑞鶴が暗い顔でポツリと呟く。

「まだ結論を出すのは早いわ。翔鶴、とりあえず今まで回った前進基地に印を付けてくれる?」

 そう言って、私は目の前にある地図を示す。

「はい……」

 私の言葉に、翔鶴は一つ頷き、印を付け始めた。

 ふむふむ。確かにほとんどの前進基地は回り尽くしたみたいね。

 こうなると完全に手詰まり……んっ?

「あれ? ちょっと待って、翔鶴。この海域にある前進基地には、まだ行ってないの?」

 そういって私は、地図のある部分を指差す。

「提督、この海域に前進基地はありませんよ。ねえ、瑞鶴?」

「うん。そんなとこにはないわよ。行ったことも聞いたこともないもん」

「あるわよ。だって……」

 そこで私は言葉に詰まった。

 だって、何? 私は何でこの場所に前進基地があることを知っているの?

 ……分からない。

 けど、確かにあそこには前進基地がある。間違いなく。

 よし! 何で私がそんなことを知っているのかは後回しだ。まずは、するべきことをしなくちゃ。

 前回は隠れ家周辺の海域で派手に戦っちゃったし、敵にここが見つかるのも時間の問題かもだし。となれば……

「翔鶴、この隠れ家は放棄するわ。みんなに伝えて。引越しよ!」

 

 

 

 翌日、私達は大移動を開始した。目的地の海域はさほど離れてはいない。

 ありったけの食糧を持ち出し、私達は目的地に向かう。

 ……と言っても、私は艦娘じゃないので、瑞鶴にお姫様抱っこされての移動なんだけど……

 

「嘘……」

 目の前に広がる光景を見て、翔鶴は呟いた。

 私達が目指した海域にある前進基地。

 私の予想通り、確かにここには前進基地があった。

 そう。翔鶴達、艦娘の知らない、私だけが知っていた前進基地が。

「ほら、翔鶴、何ボサッとしてんの。さっさと中に入るわよ」

 呆然としている翔鶴を促し中へ。

 そこには、前のボロボロだった隠れ家とは違い、シェルター状に造られた前進基地で、綺麗に整備された設備があった。入渠ドック、工廠ドック、それらもきちんと整備され、大量の資材も積まれている。

「見て見て、電! 資材がこぉんなにあるわよ!」

「すごいのです! 高速修復材がいっぱいなのです!」

 雷電姉妹がキャッキャ嬉しそうに飛び跳ねている。

「すごい……こんなにたくさんのボーキサイト見たの久しぶり……」

 その横では、山と詰まれたボーキサイトを前にして立ち尽くすづほの姿。

 まあ無理もないか。今まで資材で大分苦労したからね。

「はいはい、みんな~。はしゃぐのは、とりあえず荷物の片付けが済んでからにして。居住区画はそっちだから~。金剛、榛名、引率よろしくね~」

 そう言って、私は居住区画へと続く通路を指差す。

「ねえねえ、お姉ちゃん。部屋割りは?」

 雷が興奮気味に尋ねてきた。

「部屋なら有り余ってるから、好きなところ選んでいいわよ。けど、ちゃんとネームプレートは付けときなさい。誰の部屋か分からなくなるから」

「は~い!」

「雷ちゃん、待ってなのです!」

 嬉しそうに駆け出す雷電姉妹。

 やれやれ。ああいうところはまだお子ちゃまね。

「翔鶴、瑞鶴、大淀。アンタ達は、私に付いてきて。先に司令部に案内するわ」

 

 私は三人を伴って司令部を目指す。

「あの、提督……」

「何、翔鶴?」

「何故このような場所を知っておられるのですか?」

「そうそう。こんないいトコ知ってるなら、もっと早く教えてくれればいいのに。そうすれば資材の心配だってしなくてよかったのにさ」

「そう言われても、とっくに回ってるとばかり思ってたからね」

「回るどころか、わたし達はここに前進基地があることも知りませんでした。この辺りの海域にある前進基地は全て掌握していたと思ったのですが……」

「まあ、見落としくらいあるわよ。なにせこの前進基地は……」

 ザザッ……ザーー……

 そこで私の頭にノイズが走る。

 やっぱりおかしい。何故、翔鶴達の知らない前進基地を私が知っているの?

 ザザ……ザザザ……ザザ、ザーー……

 そこで、ノイズがさらにひどくなる。

 ああ、そうか。翔鶴達が知らないのも無理ないんだ。だってこの前進基地は……

「……っと! ちょっと、有希乃!」

「えっ!」

 私は、瑞鶴の大声で我に返った。

 あれほどひどく頭を駆け巡っていたノイズは、今は綺麗さっぱり消えている。

「何? どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃないわよ! 急に立ち止まったらビックリするでしょうが!」

「えっ? あっ! ゴメン。こっちよ」

 私は、まだ混乱する頭を何度も振って、先へと進んだ。

 

 結局、私は三人に、ここを前の着任地だと説明した。

 というより、自分でもよく自分の状況が分かっていないので、こう説明するしかなかった。

 新しい司令部で、一通り今後の方針について話し合った私達は、みんなにそのことを伝えるべく、居住ブロックへと向かった。

「だ~か~ら~、……は雷達と一緒に寝るの! 邪魔しないで!」

「なのです!」

「何言ってるデスカ! ……はワタシ達と一緒に寝るデスネ!」

「そうですそうです!」

「あの。づほも……と一緒に寝たい」

「まっ! ダメよ、づほちゃん! づほちゃんは、わたしと一緒!」

 などと、みんなの声が聞こえてくる。

 どうやら何かモメているみたい。

「ちょっと、アンタ達! 何やってんの!」

「あっ! お姉ちゃん! いいところに来たわ!」

 と、私を見つけた雷達がトコトコと寄ってきた。

「何よ? まだ部屋割り決まってないわけ? 部屋ならいくらでもあるんだから、モメてないでさっさと――」

「ううん。自分達の部屋はもう決まってるの」

「はっ? じゃあ、何でモメてるわけ?」

「決まってるじゃない! お姉ちゃんがどこで寝るかを決めてるのよ!」

「へっ?」

「そうなのです。お姉ちゃんは、電達と一緒の部屋で寝るって言ってるのに、みんなが反対するのです」

「何言ってるデスカ! 有希乃は、ワタシ達と一緒に寝るって決まってるデスネ!」

「そうです! 榛名達と一緒に寝るんです!」

「あ、あの……づほも有希乃と一緒に……」

「づほちゃん、ダメ! あんな女と一緒に寝るなんて! 変な病気でもうつったらどうするの!」

 何? 何で当事者の私を外して、私の寝場所でモメてるわけ?

 っていうか、大井! アンタ今、サラッとひどいこと言ったわね!

「クスッ。提督、大人気ですね」

「いや、翔鶴。そんな微笑ましそうに笑ってる場合じゃ――」

「ストーーップ!」

 収拾のつかなくなっていたみんなを、瑞鶴が一言で黙らせる。

「まったく。有希乃はアンタ達の所有物じゃないのよ! そんな勝手に話を進めるんじゃないの!」

 おおっ、偉いぞ瑞鶴。アンタ今、良いこと言った。

 前回の艦隊決戦以降、随分と丸くなったじゃないの。

「それにね、有希乃はもうアタシや翔鶴姉の部屋で寝るって決まってるの。だから、アンタ達がいくら議論しても無駄よ」

『ふざけないで(なのです)!』

 大音量でみんなの声がハモる。

「まったく。あとから来たくせに図々しいのよ!」

「まったくなのです!」

「ヘイ、瑞鶴~。抜け駆けはよくナイネ~!」

「勝手は榛名が許しません!」

「あの……づほも有希乃と一緒に寝たい……」

「ダメよ、づほちゃん! あんな女と一緒に寝たら、妊娠しちゃうわ!」

 そして、再び修羅場に突入。

 もうツッコむのも疲れるけど、大井、私は女よ。

「ねえ、みんな。ちょっと落ち着いて。冷静に――」

『有希乃(提督)(お姉ちゃん)はちょっと黙ってて(なのです)!』

ヒエー! 何で私が怒られるの~!

 

 紆余曲折の末、とりあえず(完全に私を抜きにして話し合われた結果)私は一人部屋ということで落ち着いた。

 そこに、曜日ごとに違う子が寝に来るみたい。

 な、なんかこの言い方だと、私が愛人囲ってるみたいだけど……

 で、とりあえず揉め事も済んだので、みんなに今後の活動方針を伝えたところで……さて、次はどうしよう。

 一通り伝えるべきことは伝え終えたし、今日は哨戒の子以外、自由ってとこにするか。

 そこで私はみんなを見渡す。

 そういえば、ずっと張り詰めたままの状況が続いて、ろくに気を休める暇もなかったわね……よし!

「みんな! これから女子会をするわよ!」

 私の言葉に、みんなが「女子会って何?」みたいな顔をする。

「ねえ、お姉ちゃん。女子会って――」

「まあ、待ちなさい。言いたいことは分かるわ。要はね、これまでずっと緊迫した場面ばかりで、みんな気疲れしているだろうから、ちょっと骨休めしようって言ってるの。平たく言えば宴会ね」

『宴会!』

 全員が顔を輝かせる。

「宴会ってあの宴会?」

「ちょっと瑞鶴、近いっての! どの宴会かは知らないけど、多分その宴会よ」

「提督、この状況下であまり騒ぐのはどうかと――」

「大丈夫よ。この居住ブロックには多目的ホールがあるの。そこなら防音設備も完璧よ」

「しかし……」

「気が進まないなら、哨戒に回ってもいいわよ。アンタの分のお酒は、私が代わりに呑んどいてあげる」

「お酒! お酒があるのですか!」

「え、ええ、まあ。この前進基地の食糧庫には、食糧もお酒もたっぷりあるからね」

「やります!」

「ねえねえ、お姉ちゃん。宴会って何? 雷達、宴会なんてしたことない」

「え、宴会でも分からないか。要は、呑んで食べて騒ぐパーティーをしようってことよ」

「パーティー! パーティーだって、電!」

「はわわ! 楽しみなのです~!」

「ヘイ、提督~! ワインはあるデスカ~!」

「ワインも確かあったような……」

「コングラチュレイショーーン!」

「お酒……榛名、感激です!」

「そ、そう。呑むのはいいけどほどほどにね」

 チョイチョイ。

 そこで誰かが、私の服の裾を引っ張った。

「ねえ、有希乃。づほも女子会やりたい」

「何言ってんの! アンタももちろん参加に決まってるでしょ!」

「でも、づほ、これから哨戒……」

「ああ、なるほど。じゃあ、これからこの前進基地の周囲に、今から私が渡すお守りを設置してきなさい。哨戒には出なくていい」

「ほんと!」

「ほんとほんと」

「やった~! 有希乃、大好き!」

 づほが、喜んでピョンピョン飛び跳ねる。

「大井、アンタはどうすんの?」

「何言ってるの! 参加に決まってるでしょ! づほちゃんの行くところ、常にこの大井ありよ!」

「あっそ。まあそう言うと思ってたけどね。じゃあ、アンタもお守りの設置手伝ってあげなさい」

「言われなくても」

 はいはい。そうですか。

「みんな~! それじゃあ、早速準備に取り掛かるわよ~! 開始はヒトハチマルマルだからね~! それじゃ、解散!」

 

 そして時刻は、ヒトハチマルマル。

 私の目の前には、艦娘達と大量の料理につまみ(具体的にはおでんや牛缶、漬物におにぎり、巻き寿司、いなりずしなど)、そして酒が並んでいた。

「え~、それじゃ女子会を始めるわよ! まあ、あんまりくどくど喋るのもめんどくさいし、せっかくのお料理が冷めちゃうんで、とっとと始めちゃいます。みんな、今日は楽しんでね! かんぱ~~い!」

『かんぱ~い(なのです~)!』

 全員がコップ、もしくはおちょこを掲げ(金剛のみワイングラス)各々、周りの者達と杯をぶつけ合う。

 私も、近くにいた翔鶴や瑞鶴とコップをぶつけ、お酒に口を付けた。

 クゥ~。沁みる~。

「ところで提督、女子会というのは、他に何をするのですか?」

「えっ? そ、そうねぇ……」

 翔鶴に尋ねられて、私は少し思案する。

 実は、私も女子会するの初めてなのよね(まあ正確に言うと、したことあるかもしれないけど記憶がない)。

 知識はあるけど実戦したことないから……え~と、とりあえず私の知る限りでは……

「そうね~、やっぱり定番なのはコイバナかしらね」

「はあ……こいばなですか……。初めて聞く言葉ですね」

「まっ、そりゃそうでしょ。平たく言えば、恋愛話ってことよ」

『恋愛!』

 そこで、各々自由に呑んでいた艦娘達が、一斉にこちらを振り向く。

「提督! 提督は恋をしたことがあるのですか?」

 その中でも一際目を輝かせたのは翔鶴だった。

 少女のように目をキラキラさせた翔鶴が、私に思い切り顔を近づけて尋ねてくる。

「ちょっと、翔鶴! 近いわよ!」

「そんなこと今はどうでもいいんです! それより提督、どうなんですか?」

 他の面々も興味津々とばかりに聞き耳を立てている。

 ううっ……どうしよう。偉そうにコイバナとか言ったけど、実は私、恋愛なんてしたことないし。

 でも、こんなに目をキラキラさせてる翔鶴の前で、恋愛経験なんてありませんなんて言えない。

「そ、そうね。まあ、そこそこは……」

「あるんですね!」

 だから、何でそんなに興味津々なのよ!

「ああ、いいなぁ。わたしも恋愛してみたかったなぁ」

 翔鶴が遠い目をしてしみじみと呟く。

 よく見ると、周りにいる艦娘達も同様だった。

「で、で、相手はどんな人だったデスカー?」

 私に飛びついて、そう尋ねてきたのは金剛。

 すでにかなり酒が入っているのか、顔が真っ赤だ。っていうか、ちょっと酒くさい。

「ちょっと、金剛! 苦しいってば! 榛名! 金剛を離すのてつだ――」

「へっ? てーとく、はりゅなににゃにか?」

 榛名に支援を求めるも、榛名はすでに出来上がって、酒の入った一升瓶をラッパ飲みしている。チッ! どいつもこいつも。

 大和と陸奥は……うおっ! 一升瓶片手に呑み比べしてるし。

「川内、神通と二人でデュエット行きます!」

 川内は川内で、恥ずかしがってる神通を引き摺って歌い始めてるし。

「ねえねえ、お姉ちゃん! どうして雷達はお酒じゃなくて牛乳なの!」

「ズルイのです!」

 孤立無援の私に、今度は雷と電が文句を言ってきた。

「ア、アンタ達はまだ子供でしょうが!」

「違うもん! 雷達は、立派な一人前のレディーなんだから。ね、電?」

「はいなのです。電達だけ仲間はずれはひどいのです!」

 レ、レディーにもまだお酒は早いと思うんだけどな。

「ま、まあ、落ち着いて。ほら、島風を見てみなさい。島風も牛乳を――」

 と思ったら、島風は睦月と共に、すでにさも当然の如くおちょこを持って、高雄姉妹と呑んでるし。

 コラ、利根と筑摩も煽ってないで止めなさいよ。元教官でしょ。

 羽黒は……駄目だ。すでに酔い潰れてる。

「ねえねえ、お姉ちゃん! 雷達もお酒飲みたい~!」

「なのです~」

「……ハア。分かった。ちょっとだけよ」

「「わ~い(なのです)!」」

 そう言って、スキップしながらおちょこを取りに行く二人。やれやれ。

「あの、有希乃……。づほね、また卵焼き作ったの。食べて」

 と言って、今度はづほが自慢の卵焼きを私の口に押し込んだ。

 いつもと違って、えらく強引だ。

 おいしい。間違いなくおいしいんだけど……息ができない。

「づほ、ちょっと待って!」

「何? ひょっとしておいしくない?」

「いやいや。いつもどおりちゃんとおいしいんだけど、アンタ、ひょっとして酔ってる?」

「……うん。ちょっとだけ」

 づほがはにかんだように笑う。その仕草は、ほんのり赤くなった顔と相まって、妙に色っぽかった。

「……ハア。アンタもか。まあいいわ。今日は無礼講だし――」

「提督! 聞いてますか!」

 そこで、再び翔鶴が身を乗り出してくる。

「はいはい。聞いてる聞いてる。で、何の話だったっけ?」

「有希乃の恋のお相手はどんな人だったのかって話デスネー」

 うっ、それか! え~と……

「まあ……普通の人、かしらね」

「普通? 普通とはどのように普通なのですか?」

「えっ? え~、普通は普通よ。目立った特長のない、優しいだけが取り柄みたいな男」

 ということにしておこう。変に設定付けるとボロが出るし。

「で、で、どこまでヤッたデスカ?」

「ブッ!」

 金剛のストレートな問いかけに、私は思わず飲んでいた酒を噴き出した。

「ヤ、ヤッたとは?」

「ノンノン。とぼけなくてもいいデスネー。その男とは、どこまで進んでたデスカー?」

 そ、そんなこと言われても……

「チューとかしたデスカー?」

「チュー! チューとは、もしや接吻ですか!」

 そこで再び翔鶴カットイン。

 ああ、誰か助けて……

「っていうかさぁ、アンタ達だって、恋愛くらいしたことあるでしょうが」

『ありません(デスネ)!』

 そこで、またもみんなの声が見事にハモる。

「提督、わたし達は艦娘ですよ。戦いに明け暮れる毎日で、恋愛する余裕なんてあるはずないじゃないですか!」

「そ、そうなの? けど、例えば前の提督とかと……」

『ないない。ありえない(デスネー)』

 そこで再びみんなが大合唱。

「今だから言えますケド、前の提督はかなり気持ち悪かったデスネー」

「そうそう。太ってたし、眼鏡だったし、汗臭かったし。正直、上官じゃなかったら口も利かなかったわ。ね、電?」

「なのです」

「えと、づほもあんまり好きじゃなかったなー。お風呂覗かれたことあるし」

「フン、あんなブタ。見るのも嫌だったわ。男なんて、みんな死んじゃえばいいのよ」

 と周りから響く罵声の嵐。

「翔鶴は?」

「はい。ないですね」

 と、笑顔でバッサリ。

 もしも~し、ここは艦これの世界じゃないんですか~?

「ハア……まあいいわ。とりあえず――」

「で、で、有希乃は、そのお相手とチュッチュしたデスカ?」

 ……振り出しに戻った。

「……それについてはノーコメントで」

『え~~~~!』

 みんなから不満が漏れる。

「え~じゃない。そういうことは、あんまり人前で言うものじゃありません。それに――」

「何言ってんの! 有希乃とチューしていいのはアタシだけよ!」

 はっ?

 そこでいきなり叫ぶように声が割って入る。

「まったく。どいつもこいつも。有希乃はね! アタシのなの! だから、有希乃とチューしていいのアタシだけなのよ!」

 声の主は瑞鶴だった。

 この子、一人だけやけに大人しいと思ってたら、思いっきり出来上がってるし。

「こら、金剛。そこはアタシの席よ。アンタ、邪魔!」

 そう言って、私にしがみついていた金剛を無理やりひっぺがす。

「ねえ、有希乃。チューしよ♡」

 ようやく解放された私だったけど、ホッとしたのも束の間、今度は瑞鶴が私に抱き付いてきた。

「ちょっと瑞鶴、アンタ、酔っ払――んんっ!」

 不意に、柔らかな感触が私の唇に触れる。なっ!

「んちゅ……ちゅぷ……ちゅぅぅ」

 すると次に、口の中に湿った何かが入ってきた。

 わ、私、瑞鶴とキスしてる。しかも、しかも……

「くちゅ……んちゅぅぅ……」

 頭が痺れて動けない私。

 周りのみんなは、真っ赤になって顔を逸らし――てはいなかった。じっとこちらを凝視している。

 私の口内に入った何かは、そのまましばらく、私の口内を楽しむかのように暴れまわり……やがて、離れた。

「な、ななな……瑞鶴、アンタ……」

 唇を離した瑞鶴が、妖艶に微笑む。

「クスッ。みんな~、今の見たぁ? 有希乃はね、ア・タ・シのなんだから、手ぇ出しちゃダメよ~。い~い?」

『よくない(なのです)!』

 もう何度目か、みんなの声がハモる。

「ズルイズルイ! 雷もお姉ちゃんとチューしたい~!」

「電の本気を見るのです!」

 と雷電姉妹が。

「あの、づほも有希乃とチューしたいな……」

「ダメよ、づほちゃん! そいつとキスするくらいなら私と。ちょっとアンタ、もしわたしのづほちゃんに手ぇ出したら、六十一センチ四連装(酸素)魚雷で暁の水平線までぶっ飛ばすからね!」

 と、づほと大井が。

「みなさん、甘いデスネー。次に有希乃の唇を奪うのは、ワタシデース!」

「はるにゃ、全力でまいりまふ!」

 と、金剛、榛名姉妹が。

 っていうか、周りのみんなが一斉に私へと迫ってくる。

 逃げなきゃ……あっ、無理だ。瑞鶴が抱きついてて動けない。

「ちょっ! 翔鶴、助け――」

「ん~~♡」

 って、翔鶴はすでに唇を突き出してるし。

「み、みんな、ちょっと待ちなさい! これは命令よ! 少し落ちつ……キャァァァ!」

 

 ううっ、ひどいメにあったわ……

 艦隊の全員に襲われた私は、ひどい有様で一人泣き崩れた。

 ううっ、もうお嫁にいけない……

 みんな盛大に酔っ払って、気持ち良さそうに寝息を立てている。

 翔鶴なんて一升瓶抱えて寝ちゃってるし。

 こら雷、パンツ見えてるわよ。

 ハア……今、敵が襲ってきたら、間違いなく全滅ね。

 でもまあ、みんな楽しんでくれたみたいで何よりだわ。

 気持ちが張り詰めたまんまじゃ、いつか緊張の糸が切れてしまうもの。

 私は、みんなの安らかな寝顔を見ながら、散らかったゴミの片付けを始めた。

「手伝うわ」

 突然の声に、私は慌てて後ろを振り向く。

「瑞鶴、起きてたの?」

「うん。ついさっきね。片付けるんでしょ? 手伝うわ」

「ありがと……」

 そう言って、二人並んで片付けを始める。

「ねえ、有希乃……」

「んっ? 何?」

「ありがとね」

「何が?」

「女子会。みんなすごく楽しそうだった。アタシ、こんなに笑ったの、多分生まれて初めてよ」

「そっか。ならよかった」

 私の心がじんわりと温かくなる。

「また、したいね」

「できるわよ、きっと」

「うん……」

 それから私達は、ただ黙々と辺りに散らばったゴミを片付けた。

 

 

 

 

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