艦これif  ~ポンタローバージョン~   作:ポンタロー

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第十一章 平穏 その一

 ……よし! こっちも異常なしっと。

 新しい提督室で、隠れ家周辺に設置したレーダー(というか妖精ちゃん入りのお守り)にリンクを繋ぎ、敵艦の有無を確認した私は、ゆっくりと息を吐いた。

 ここに移ってから一週間、もちろん哨戒などもさせているが、今のところ深海棲艦が現れる気配はない。

 私達に訪れた一時の安寧といったところか。

 こっちに引っ越してきてから、みんなの表情が生き生きとしているのがはっきりと分かる。

 深海棲艦の襲来がないことももちろんあるだろうが、一番の理由は資材や物資の枯渇状況におわれて苦労する日々から解放されたことだろう。特に資材では随分と苦労したからね。

 この元前進基地に備蓄されていた資材や物資はかなり大量で、深海棲艦の撃滅を目的としていない私達にとっては、そうそう使いきれる量ではなかった。

 食糧なども大量にあり、保存状態も良好(冷蔵施設や冷凍施設などの完備が大きい)。

 隠れ家としては申し分なしだ。

 防音機能が高い点も素晴らしい。

 シェルター状に建設されているこの隠れ家は、基地としての強固な防御力と同時に、万全の防音設備も備えていた。

 つまり、少々騒いだところで、音が外に漏れたりはしないということだ。

 ここならしばらくは――バタン!

 そこで突然ドアが開き、陸奥が入ってきた。

「提督、大変よ!」

 大変と言いながらも、陸奥に焦った様子は見られない。

 それどころかどこか楽しげだった。

 どうやら敵の襲来ってわけじゃないみたいだけど……

「ど、どうしたの、急に?」

「大変なのよ! とにかく一緒に来て!」

 そう言って、陸奥が私の腕を掴み、どこかに引き摺っていく。

「な、何なのよ? ひょっとしてケンカ?」

「違うわよ。いや、違わないこともないのかしら? いいから黙ってついてきて」

 そう言われて、私はズルズルと陸奥に引き摺られていく。

 どうやら多目的ホールの方に向かっているみたいだけど……

 あれ? なんかみんな揃ってる。

 到着した多目的ホールには、すでに我が艦隊のほとんどが集結していた。

 ど、どうしたんだろ? ひょっとして誰かの誕生日とか? 照明が暗いからよくは見えないけど、なんか多目的ホールがえらく派手に飾り付けられてるみたい……

 状況がさっぱり分からない私は、そのまま陸奥に引き摺られ、多目的ホールの一角に設置されている椅子に押し込まれた。

「ちょ、ちょっと陸奥! 一体何が――」

 パン! パン! パン!

 私の声を遮り、突然照明が点いて、小気味いい音が鳴る。

 明るくなった私の視界に入ってきたのは、何かのイベント会場のような光景だった。

 しばらく呆然となって何の反応もできない私。

 すると、壇上にマント(?)らしき物を着けた榛名が現れた。

「さ~て、ようやく主賓兼商品も到着したところで~、第一回、艦隊お料理ナンバーワン決定戦を始めたいと思いま~す!」

『イエ~イ!』

 パン! パン! パン!

 はっ? お料理ナンバーワン決定戦? 何それ? っていうか、アンタ達、クラッカーなんてどこから見つけてきたの?

「さてさて、ついに始まりましたお料理ナンバーワン決定戦! この大会は、古くは前鎮守府で行われておりました『鎮守府カレー大会』が元となっており、料理に自信を持つ艦娘達が、その腕を競い合い、真の艦隊お料理ナンバーワンを競い合う大会となっております!」

 は、榛名、ノリノリすぎて、ちょっとキャラが崩壊気味よ!

「大会の司会進行はこのわたし、高速戦艦榛名! そして現場実況は……」

「三度の飯より夜戦好きの艦隊ナンバーワンアイドル軽巡洋艦川内! そして解説が……」

「見ている方が面白そうだから、今回は解説に回った陸奥よ~」

「で、お送りします! さて、それでは早速出場する選手達をご紹介しましょう! エントリーナンバー一番! 嫁力高しの最強戦艦! 艦隊の最終兵器、大和さん!」

「優勝商品目指して推して参ります!」

 や、大和まで……っていうか、優勝じゃなくて、優勝商品が目当てなんだ……

「続いてエントリーナンバー二番! 英国帰りは伊達じゃない! 英国仕込みの腕で優勝を狙う高速戦艦、金剛お姉様です!」

「優勝商品をゲットするのは、ワッタシデ~ス!」

 こ、金剛、アンタもか……

「続いてエントリーナンバー三番! 実は密かにダークホース! 見た目は大和撫子だけど、料理の腕はどうなんだ? 正規空母の翔鶴さんです!」

「クスッ。優勝には興味ありませんが、優勝商品は、このわたしがいただきます!」

 しょ、翔鶴も~! っていうか、みんながそこまで欲しがる優勝商品ってなんなんだろう?

「続いてエントリーナンバー四番! 卵焼きを作らせたら艦隊一! 卵をこよなく愛するたべりゅ教の教祖、軽空母の瑞鳳ちゃん!」

「あ、あの……づほ、頑張ります!」

 づ、づほまでも……

「ああ、づほちゃん! こんな大会になんか出ちゃダメ! 確かにづほちゃんの作る卵焼きは絶品だけど、もし優勝しちゃったら……チッ! こうなったら、こんな大会、わたしの六十一センチ四連装(酸素)魚雷で――ムゴゴ!」

 いきなり現れた大井が、やはりいきなり現れた高尾と愛宕(どちらも何故か黒いサングラスを着用)に口を押さえられ、どこかに引き摺られていく。な、なんだったのかしら……

「続きましてエントリーナンバー五番、お使い(遠征)させたら艦隊一、前回の鎮守府カレー大会優勝者、今回もわたしに任せておけばいいのよと意気込む、艦隊のマスコット、雷さんと電さんです!」

「優勝は雷達で決まりなんだから! ねっ、電?」

「はいなのです。優勝商品は電達のものなのです!」

 あ、あの子達まで……

「最後はエントリーナンバー六番! お嫁さんにしたい艦娘ナンバーワンは伊達じゃない! 料理も裁縫もお手の物! 重巡洋艦羽黒さん!」

「あ、あの、ごめんなさ……じゃなかった、が、頑張ります! ゆ、優勝商品も頂きます!」

 ま、まさか羽黒まで参戦とは……でもほんと、みんながそんなに目の色変えるほどの優勝商品ってなんなんだろう?

「え~、ちなみに今ここにいらっしゃらない瑞鶴さんは、ちょうど哨戒任務と重なってしまい、不参加となっております。いや~、この優勝商品であれば、真っ先にエントリーしてきそうな瑞鶴さんでしたが、哨戒任務が重なってしまうとは不運ですね~。いやしかし、正規空母が哨戒任務だなんて何やら作為めいたものを感じてしまいますが……その辺のところどうなんでしょうか? 解説の陸奥さん」

「任務の割り当てとイベントの時間を決めたのは翔鶴さんって話よ~。多分瑞鶴さんは、このイベントのこと自体知らないんじゃないかしら~」

 ああ、だから瑞鶴はいないのね。

「なるほど。何やら選手間同士で早くもきな臭いものを感じますが……いない人のことを考えてもしょうがないので、早速始めましょう。ルールはいたってシンプル。制限時間の三十分以内に、食糧保管庫から持ってきたこちらの食材を自由に使って、各自、自慢の料理を作っていただきます。そして、それを……」

 榛名の視線が私に向く。

「我が艦隊の提督であり、今大会の審査員兼商品でもある有希乃提督に評価していただきま~す!」

 ああ、私、審査員として呼ばれたのね。納得。

 あれ? けど、審査員兼商品って……

「ねえ、榛名。アンタさっき、私を審査員兼商品って――」

「そして、皆様すでにご承知かと思いますが、栄えある優勝者には~、な、なんと、有希乃提督を二十四時間好きにしていい権利が与えられま~す!」

『イエーーーーイ!』

 はあ~~~~?

「この権利を使えば、大好きな提督になんだってできちゃいます。普段は言えない、あんなコトやこんなコトまで。昼間はゆっくりお出かけして、夜は二人っきりで……キャッ! 榛名ったら、なんてはしたないこと考えているのかしら」

 榛名が、一人で顔を赤くして体をくねらせている。

「ちょっと榛名! いきなり何言ってんの! そんなの私聞いてな――」

 ドサッ!

 立ち上がって抗議しようとした私の肩に、突然強い力が加わり、私は椅子に押し戻される。

「はぁ~い。商品は動かな~い♡」

「む、陸奥、アンタまで……」

「いいじゃない、ちょっとぐらい。これくらいの娯楽は必要よ」

「そ、それはそうかもだけど……」

「クスッ。分かったらそこでじっとしててね。審査の時は解いてあげるから♡」

 解いてって……ハッ!

 い、いつの間にか私、椅子に縛り付けられてる! 陸奥、恐ろしい子!

「さ~て、それでは張り切って……」

「第一回艦隊お料理王ナンバーワン決定戦スタートォ!」

 

 そんなこんなで三十分後……

 カンカンカン!

「しゅう~りょぉ~!」

 榛名が鐘を数度叩き、調理時間が終わったことを知らせる。

 そして川内が、選手達が作った料理を、私の前にあるテーブルへと持ってきた。

 食欲をそそる香りが私の鼻腔を擽る。

 作る過程を全て見ていたので、ハズレなし、オチなし、ドボンなし。

 とりあえず、どれを食べても失神KOってことはなさそうだ。

「それでは審査に移りたいと思います。まずはエントリーナンバー一番、大和選手のお料理から! 大和選手、お料理の説明をお願いします!」

「はい。わたしの作った料理は、牛肉の大和煮をふんだんに使った、大和特製おでんです!」

 なるほど。牛肉、卵、大根といった定番の(牛肉はちょっと違うかもだけど)おでんが、私の食欲を刺激する。そ、そういえば私、朝から何も食べてないんだった。

 陸奥に拘束を解いてもらい、いざ試食へ。

 こ、これは……おでんの種に甘辛い出汁がほどよくからみ、絶妙なハーモニー奏でている。この短時間でこれだけ味をしみこませるとは。

「文句なくおいしいわ」

『オオォーーーー!』

 私の評価に、会場中が色めきたつ。

「おーっとぉーー、一品目から、提督のおいしいが飛び出しましたぁーー! 大和選手! まずは高評価獲得です!」

 大和が嬉しそうにはにかみながらペコリとお辞儀をする。

「さてさてお次は、エントリーナンバー二番、金剛お姉様の料理です!」

 榛名の言葉を合図に、川内が金剛の料理を私の前に差し出した。

「金剛お姉様、料理の説明をお願いします」

「イエース! ワタシが作ったのは、本場英国仕込みのフィッシュアンドチップスデース!」

 フィッシュアンドチップス。カラリと揚げた白身魚のフライに棒状のフライドポテトを添えた英国のソウルフード。カレーと同じく、その店によって様々なレシピがある。なるほど、金剛らしいチョイスかもしれないわね。

「それでは提督、審査をお願いします」

 榛名に言われて、私は綺麗に色づいた魚のフライを口に運ぶ。

 おおっ、これは!

 サクサクのフライにこのソースが見事にマッチして、なんとも言えぬ味わい深さを出している。

「これも、すごくおいしいわ」

『オオォーー!』

「な、なんとぉ! またしても提督のおいしいが出ましたぁ! どうやらこれは、相当ハイレベルな戦いとなりそうです!」

「フフン。当然ネ。有希乃を一日独占してチュッチュするのは、ワッタシデース!」

 金剛が勝ち誇ったように笑う。

 いや、別に優勝とは言ってないんだけどね。

 っていうか、それ以前に、私にそっちのケはないからね。

「審査を続けまーす! 続きましては、エントリーナンバー三番、翔鶴選手のお料理です!」

 川内によって、私の前に翔鶴の料理が差し出される。こ、これは……

「翔鶴選手、料理の説明をお願いします」

「はい。今回わたしが作った料理は、ずばり肉じゃがです!」

 そう。翔鶴の作った料理は、和食の定番肉じゃが。

 牛肉、玉ねぎ、ジャガイモといった定番の食材を用いた、どこか懐かしさを感じさせる家庭の味。

「そ、それではいただくわね」

 私は、ゆっくりとジャガイモに箸を入れる。

 おおっ、この箸の通り具合、しっかりと中まで火が通ってる証拠だ。

 やるわね、翔鶴。

 ほっこりとしたジャガイモを口に含む。

 す、素晴らしい。この口の中でほろりと溶ける柔らかさ。

 この短時間にして、しっかりとしみ込んだ上品な味付け。文句のつけようがない。

「これは……素晴らしいわ」

『オオォォォーーーー!』

「な、な~んと、ここで提督から素晴らしいのコメントが出ました~! これは翔鶴選手が一歩リードか~!」

 榛名の言葉を受けて、翔鶴が上品に笑う。

「クスッ。五航戦翔鶴、やりました! これで提督はわたしの物です!」

 いや、それはちょっと違うんじゃないかな。っていうか、それはさすがに勘弁してください。

「ケッ! な~にがやりましたよ。肉じゃがといえばこのわたし、大井でしょうが! 勝手に人の得意料理をパクってんじゃないわ――ムググ」

 どこかでウチの艦隊の重雷装巡洋艦の声が聞こえたような気がしたけど……ま、いいか。気にするのはやめにしよう。

「さてさて、続きましては、エントリーナンバー四番、瑞鳳選手の料理です!」

 づほの料理が私の前に出される。

 それは、私が予想した通りの料理だった。

「それでは瑞鳳選手、料理の説明を」

「えと、づほ、真・卵焼きを作りました」

 真とな! な、なるほど、料理大会にいつもの卵焼きを出してくるとは思っていなかったけど、真・卵焼きとは。

 フフフ、面白くなってきたじゃないの。

 見た目はいつもの卵焼き。果たしてその実態は……

 私は、ゆっくりと卵焼きを一口サイズに切って、口へと運ぶ。

 こ、これは!

 確かに今までの卵焼きとは違う! あのふんわりとしたカステラを思わせる卵焼きでも、ご飯に良く合う塩気の強い卵焼きでもない!

 丁寧に作られた出汁の旨味が存分に活きる、こ、この味は……

「づほ、これって……」

「うん。出汁巻き卵作ってみた」

 そう言って、づほが恥ずかしそうに笑う。

 な、なるほど、出汁巻き卵の味もさることながら、あのはにかんだ極上の微笑み。たべりゅ教信者の気持ちがよく分かるわ。

「うん、素晴らしい。完璧よ」

『ウオオォォォ!』

「な、なんとここで、素晴らしいに完璧が付いた~! これはもう勝負は決まったか~!」

「やった♪ 有希乃と一日ずっと一緒!」

 づほが、嬉しそうにその場でピョンピョン飛び跳ねる。

 いやいや、これはすごいわ。毎日でも食べたいくらいだもん。

「これを超える料理は現れるのでしょうか~! 残りは二品、どんどんいきましょう~! 続きましては~、エントリーナンバー五番、雷電選手の料理です!」

「名前をまとめないで(なのです)!」

 もはやお約束になりつつある展開から、私の前に料理が出された。

 なるほど、雷と電は王道できたか。

「それでは雷電選手! 料理の説明をお願いします!」

「だから、名前をまとめないでって言ってるのに! ……まあいいわ。雷達が作ったのは――」

「第六駆逐隊特製カレー改なのです!」

 声高らかに料理の説明をしようとした雷の間に、電が割って入る。

「ちょっと電! 雷のセリフを取らないでよ! わたしに任せておけばいいの!」

「雷ちゃんばっかりズルイのです! たまには電だって本気を見せたいのです!」

「ま、まあまあお二人とも落ち着いて。では、早速審査をお願いします!」

 なるほど。改を付けるということは、前に食べた第六駆逐隊特製カレーとはどこか違うようね。

 さ~て、どこに違いが……、こ、これは!

 え~と、どこが違うのかな?

 前に食べたのとそんなに変わらないような気がするんだけど……

 いや、確かにおいしいはおいしいんだけど、改とかって言われちゃうと……

 でも、あんなに自信満々に腰に手を当てている二人に、どの辺が改なのかなんて聞けない。

 ど、どうしよう……

「こ、これもすごくおいしいわ。さすがに改と名付けるだけあるわね。やるじゃない、見事よ、二人とも」

『オオォォーー!』

 秘技、とりあえず曖昧に褒めておこう作戦、発動。

「なんと、提督の評価に見事が付きました! 勝負は完全に混戦状態! 果たして誰が優勝するのか~!」

 私の言葉に、雷と電が大きく(ペッタンコな)胸を張る。

「当然よ。なんてったって、今回は中辛にしたんだから! ねっ、電!」

「はいなのです! 大人の辛さなのです!」

 ああ、なるほど。改って中辛のことだったんだ。

 そういえば、確かに前のよりも少しだけ辛かったような……

「さあ、審査も残すところあと一人となりました! 果たして優勝するのはどの艦娘なのか? 最後に控えますは、お嫁さんにしたい艦娘ナンバーワン! エントリーナンバー六番、羽黒選手です!」

 テンションマックスな榛名の声と共に、最後の料理が私の前に出される。

「それでは羽黒選手、料理の説明をお願いします」

「はい。わたしが作ったのは、『足柄姉さん直伝、どんな男もイチコロ炊き込みご飯』です!」

 そう、私の前に出された最後の料理は、人参、牛蒡、牛肉などの具材をご飯と一緒に炊き上げた、炊き込みご飯だった。

 一目見れば分かる(ていうか、作る過程をずっと見てたから当然だけど)。これはうまい。間違いなくうまい。

 なるほど、さすがはお嫁さんにしたい艦娘ナンバーワン。定番故に、如実に腕の差が出る料理を選んだわね。それにしても……

 この食欲をそそる香り。なんともおいしそうだ。よし、それでは早速――

「待ってください!」

 料理を口に運ぼうとした私を、羽黒が止める。

「まだ仕上げが残っています!」

 なぬ! これで完成じゃないの!

「最後に足柄姉さん直伝の薬味を混ぜて完成なんです」

 そう言って羽黒は、白い布で覆われたトレイを持って、私のところまでくる。

 な、なるほど。足柄も(鎮守府カレー大会でこそ後れを取ったけど)料理は得意そうだったからね。これは楽しみだわ。

 私の近くまできた羽黒が、勢いよく白い布を取った。

「ええっ!」

 私は、トレイに載せられた食材(?)を見て、思わず声を上げる。

 その中にあったのは……

「は、羽黒さん……そ、それは一体……」

「はい♪ 滋養強壮に良いとされる、スッポン、ヤモリ、マムシなど、この隠れ家近辺で取れる食材です!」

 と、羽黒がニッコリ笑って報告。先ほどまで盛り上がっていた会場が、一瞬にしてお通夜状態へと突入する。いや、そんなにこやかに言われても……

「足柄姉さんは、生前よく言ってました。『羽黒、わたしはついに、男を簡単に落とす方法を見つけたわ! それはズバリ、既成事実よ! ×××(良い子に聞かせてはいけない言葉)して既成事実さえ作ってしまえば、どんな男もイチコロ♡ それでも抵抗する(もしくは金で片をつけようとする)男がいたら、そいつを死ぬまで追いかけ回して、そいつの人生をメチャクチャにしてやりなさい!』と」

「…………」

『…………』

 私及び会場、完全に沈黙。

「その時、足柄姉さんが教えてくれたのがこの炊き込みご飯なんです。正直わたしには、姉さんの言ってることが半分も分かりませんでしたが、この炊き込みご飯を食べさせれば、どんな相手もイチコロだということだけは分かりました。そんな姉さん直伝の炊き込みご飯は、滋養強壮に良いとされるこれらの食材を、薬味として混ぜ込むこと完成するんです!」

 そう断言した羽黒が、持ってきたスッポンやらヤモリやらをどでかい擂り鉢に入れて豪快に粉砕し始めた。

 ゴシャ! メキョ! ゴキョ! グシャ!

 あまり聞きたくない音が辺りに響く。

 電辺りは、もはや直視できずに泣いていた。

「は、羽黒さん、足柄のお姉さんは、スッポンを甲羅ごと砕きなさいって言ったのかな?」と聞いてみたかったが、完全に目がイってしまった羽黒にそれを聞くことはできなかった。

 そして数分後、粉砕された食材(?)達が、(どういうわけか)粉末状になって、擂り鉢の中に残る。な、なんだ、あの色は……

 羽黒がニコニコしながら、それを炊き込みご飯の中に混ぜ込もうとする。

「は、羽黒、できれば私、薬味はなしの方が……」

「司令官さん、何をおっしゃっているんですか! これを入れてこそ、この炊き込みご飯は最もおいしくなるんです!」

 と言って、あっさりとその薬味を炊き込みご飯の中に投下。

 すると、先ほどまであんなにおいしそうだった炊き込みご飯が、瞬く間に形容しがたい色へと変わっていく。こ、これは確かに、どんな男も一殺(イチコロ)でしょうね。

「よし、完成! 司令官さん、冷めないうちにどうぞ!」

 羽黒が、無邪気な笑みを浮かべて、私に炊き込みご飯の入った茶碗を差し出す。

 足柄直伝の薬味とやらがたっぷりと入ったその炊き込みご飯が、凄まじい悪臭を放ち、私の前に鎮座する。

 羽黒の顔に悪意のようなものは一切見当たらない。きっと、この状態こそが一番おいしいと信じているのだろう。そこで私は考える。

 確か、アニメで神回と評される(というか私が勝手にそう思ってる)あのカレー大会のあとは、余ったカレーをみんなに振る舞うというシーンがあった。

 ということは、このイベント終了後も、余った料理を他の艦娘達が食べる可能性が高い。

 つまり、この炊き込みご飯をみんなが食べる可能性があるのだ。

 炊き込みご飯自体は間違いなくおいしいだろう。

 しかし、そこにあの薬味が投下された瞬間、この会場は、阿鼻叫喚の坩堝と化す。それだけは避けなければ。

 ゲームオーバーの理由が、羽黒の料理を食べて壊滅ってのだけは避けたい。

 幸い、この薬味が投下されたのは私の茶碗にだけ。余ったご飯の入っているおひつ自体には、まだ薬味は投下されていない。

 となれば、私にできることはただ一つ

「駄目よ、羽黒。これでは駄目」

「ええっ! そ、そんな……やっぱり、わたしの作った料理なんて食べたくないですか?」

 羽黒が目をウルウルさせて私を見る。

「ち、違うわ。そうじゃないの。薬味の量が足りないって言ってるだけ。私はね、薬味をたっぷりと入れる派よ。その薬味、全て私のお茶碗に入れなさい」

 さっきと言ってることが違うというツッコミはやめていただきたい。

 提督には、たとえ死ぬと分かっていてもやらなければならない時があるのです(電風に)。

 フッ、まさかこの私が、こんな形で体を張ることになるとはね。

 私の言葉を聞いた羽黒が、嬉々として残った薬味を全て私のお茶碗へと投下する。

 うっ! お茶碗から放たれていた悪臭が、一際強烈に。

 羽黒以外の子達は、みんな、私の意図に気付いたのだろう。目にうっすらと涙を浮かべながら、「提督、ご武運を」的な視線を向けている。

 フッ、アンタ達、あとは任せたわよ。

「司令官さん、できました!」

 さあ、逝こう。これが私の戦争だ。

 私は、さっきよりも一段とえらい色へと変わった炊き込みご飯のお茶碗を掴み、「有希乃、逝って参ります」と言って、一気に口の中へとかきこんだ。

 うぷっ!

 口の中で、私の貧困なボキャブラリーではとても言い表せない複雑な味(もちろん悪い意味で)が広がる。

「どうです、司令官さん? おいしいですか? これで司令官さんも、わたしにイチコロですか?」

 羽黒が目を輝かせて尋ねてくる。

 正直、こんなものを食わせておいて、その質問を投げかけてくる羽黒に軽く殺意を覚えたが、私は何とか堪えた。

 落ち着け、落ち着きなさい私。この子は何も悪くないわ。

 羽黒が、わざとこんな嫌味な質問をしてくるような子だと思う?

 きっとこの子は、これが間違いなくおいしいと思っているのよ。

 だって、今は亡き愛する姉が教えてくれた料理だもの。

 ここでまずいなんて言ってみなさい。間違いなく羽黒の心に一生消えない傷を残すわよ。

 他の艦娘達が、無言で私に敬礼している。

 あっ、マズイ! ちょっと意識が遠のいてきた。

 ゴメンね、羽黒。どうやら、アンタの質問には答えてあげられそうにないわ。

 私の意識が徐々に闇に呑まれていく。

 でもね、羽黒……

 もしヴァルハラで、三度の飯より戦闘が好きそうなアンタのお姉さんに会ったら……

 私、一発ブン殴らせてもらうわね。

 

 

 ワオーン。

 遠吠えが聞こえる……ここは……どこ?

 確か私は、羽黒の料理を食べて……

 気が付くと、私は不思議な場所にいた。

 空が…赤い。前方は野原。後方は川。そして、その周りには何もなし。

 ただそこに、犬か何かの遠吠えだけが響いている。

 私は一体……

 その遠吠えに引き寄せられるかのように歩き出す私。

 徐々にその遠吠えは大きくなっていき、やがてその先に見えたのは……

 そこにいたのは一匹の獣だった。四本足で立ち、その足元は無数の骸骨で埋まっている。

 どうやらこの獣が、骸骨を踏みしめて吠えていたようだ。

 私には、最初それが狼に見えた。いやでも、よく見るとあれは……

 よく目を凝らして見てみると、狼に見えたそれは、羽黒の姉、妙高型重巡洋艦の三番艦足柄だった。足柄が四つん這いになって吠えていたのだ。

 かつて、英国から飢えた狼と呼ばれた艦娘。その足柄が、今は髪はボサボサ、体には何かの葉っぱのようなものを巻きつけて、私の目の前で吠えている。

「ワオ~んっ?」

 どうやら私に気付いたようだ。四足歩行でこちらへとやってくる。

「へえ、アナタが次の獲物ってわけね」

 そう言って、足柄が肉食獣のような笑みを浮かべる。

 私は、足元に転がってきた骸骨の一つを指差して口を開いた。

「これ、全部アンタがやったの?」

「そうよ。ボコボコにして、ぐちゃぐちゃにして、ひねり潰してやったわ。でも、ここの連中は歯ごたえがなくて困ってたのよね。その点、アナタは少しは楽しめそう。ウフフ……」

 足柄が涎でも垂らしそうな顔で笑う。

 どうやら次の獲物を私に決めたようだ。

「……やるってんなら相手になるわよ。私もアンタには個人的に恨みがあるしね」

「恨み? わたしを恨んでる奴なんて星の数ほどいるけれど、アナタとは初対面のはずよ」

「ええ、その通り。私達は初対面。けど、こっちにはアンタを一発ブン殴らなきゃならない理由があるの」

「あらそう。まあいいわ。好戦的な相手大いに結構。それでこそ狩りは面白い」

 足柄が地を這うようにして襲い掛かってくる。

 飛び掛るようにして繰り出される手刀。

 しかし、私はそれを難なく見切り、そのまま足柄の腹にレバーブローを叩き込んだ。

 手ごたえアリ。

 直撃を受けた足柄が、警戒するように距離を取って、態勢を立て直す。

「へえ、思ったよりもやるじゃない。ちょっと油断したわ」

「一瞬の油断が死を招く。アンタのいた艦隊では、そんなことも教えてもらえなかったの? 飢えた狼さん」

「……フン。言ってくれるじゃない。なら、わたしの本気を見せてあげる」

 足柄が、いきなり四足歩行モードから二足歩行モードへと移行する。

 そして、自由になった両手を軽く握ったり開いたりした後、ゆっくりと呼吸を整え、両手の手首の部分を合わせて、それを腰だめに構え、ゆっくりと腰を落とした。

 何あれ? 何の構え?

 足柄の両手に徐々に気のようなものが溜まっていく。

 それはどんどん大きくなり……

「食らえ! ××××波!」

 足柄の叫びと共に、私に向けて放たれた。

 ちょっ! 何それ? そんなのアリ! っていうか、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

「ハッ!」

 何か強い衝撃のようなものを受けて、私は目を覚ました。

 私、一体……

「司令官さん! 大丈夫ですか!」

 視界いっぱいに、泣き腫らして目の赤い羽黒が映る。

 そうだ。私、確か羽黒の作った炊き込みご飯を食べて……

 頭の中が徐々に明瞭になっていく。

 フッ、どうやら私、死に損なったみたいね。

「提督~、大丈夫~?」

 甘い響きの混じった声が、私のすぐ傍で聞こえる。

「陸奥、私、どうなったの?」

「とりあえず心配停止状態だったのを、わたしが蘇生させたの。気功を使ってね」

 と言ってウインク一つ。

 き、気功って……相変わらずミステリアスな娘だわ。

「ごめんなさい! 司令官さん、ごめんなさい!」

 羽黒が、大粒の涙をポロポロとこぼしながら謝ってくる。

「ごめんなさい! まさか、わたしの作った料理がそこまでまずかったなんて……」

「ああ……」

 どうしよう。どうやら私が、あまりの料理のまずさにこうなったと思っているようだ。

 まあ、それは間違いではないんだけど……

 ここでそうはっきり言ってしまうと、羽黒、間違いなくヘコンじゃうよなぁ。

 仕方ない。

「ち、違うのよ、羽黒。アンタは何か勘違いしているわ」

「ひっく……ぐすっ……えっ?」

「アンタの料理がまずかったわけじゃないわ。むしろ逆よ。アンタの料理があまりにもおいしかったから、私はこうなったの」

 ああ、なんて仲間想いの私。まさに提督の鑑。

「そ、そうなんですか?」

「そうよ。さすがアンタのお姉さん直伝の料理だわ」

「じゃ、じゃあ、あの炊き込みご飯、おいしかったですか?」

「ええ、もちろん。最高だったわ。でも、あの薬味を作るのはもうやめておきなさい。あまりのおいしさに、みんなが私みたいになったら、介抱する子がいなくなるでしょ?」

「あ……はいっ!」

 羽黒が笑顔に戻り、目に溜まった涙を拭う。

 その隙に、私は榛名とアイコンタクトを開始。「話を合わせて。これは命令よ」と伝える。

 うまく伝わったのか、榛名が小さく頷いた。

「お、おおっと~! どうやら、羽黒選手の作った炊き込みご飯のおいしさに、提督は一時、意識を失ってしまったようです! それにしても、思わず失神してしまうほどのおいしさとは……これはもう、優勝は決まったも同然かぁ~~!」

 周りの艦娘達が目を潤ませて、私に尊敬の眼差しを向ける。

 フッ、みんな。私、頑張ったよ。

「さてさて、無事(?)全ての審査が終わり、残すは結果発表だけとなりました! それでは、優勝者を提督自ら発表していただきましょう!」

「へっ?」

 私は、思わずポカンとなる。

 そっか。私、審査員だったんだ。

「さあ、優勝して、一日中提督とあま~い時間を過ごす艦娘は誰になるのか~~!」

 ハッ! そうだ!

 そこで私は重大なことに気付く。

 優勝した艦娘と一日ずっと一緒にいる。それ自体は別に悪くない。

 だって、現状だって似たようなものだし、寝る時だって毎晩誰かが添い寝にくるし。

 でも、この状況は……

 七人の選手が、固唾を呑んで私の言葉を待っている。

 私はみんなの料理を賞賛した。(羽黒を除いては)心からその料理をおいしいと思った。

 正直、甲乙つけがたい勝負だったのは間違いない。みんなも誰が優勝してもおかしくないと思っているだろう。

 だが、この状況で誰か一人を選ぶということは、私に、この中の誰と一日一緒にいたいか聞いているのと同じではないだろうか。

 そして、それはすなわち、この中の誰が一番好きですかと聞いているのと同義である。

 つまり、誰を選んでも角が立つ可能性があるのだ。

 そう考えると、私は容易に結論を出すことができなかった。

 となると……

「よし! 決めたわ! この勝負、引きわ――」

「みんな~、ちなみにこの勝負に引き分けなんてものはないから安心してね~! ウチの提督は、そんな盛り上がらないオチをつけたりなんかしないわ~!」

 先手を打って、陸奥が割って入る。チッ! ならば……

「ああ、ごめんなさい。実はまだ、羽黒の料理のおいしさに頭がぼうっと――」

「してても、誰が優勝かぐらいは答えられますよね♪」

 と、今度は榛名が逃げ道を塞ぐ。クソッ、どいつもこいつも……

「あっ! しまった! 実は、翔鶴に渡された書類を処理するの忘れ――」

「大丈夫ですよ、提督。ちゃんと大淀に処理させましたから♡」

 しょ、翔鶴、お前もか……

 みんなの視線が、一斉に私へと集まる。

 ううっ、もはや完全に孤立無援状態。どうしたら……ガチャン!

 そこで、多目的ホール内の照明が一気に落ちた。

 当然辺りは真っ暗。

 えっ? えっ? どうしたの? まさか、敵襲!

 会場は騒然。当然だ。

 急いで妖精ちゃんにリンクを繋ぐも、周囲に敵影はなし。

 哨戒に出ている瑞鶴からは何もないし(あったら、一人司令部に残っているらしい大淀が何か言ってくるだろうし)、それじゃあ一体……

 私が考え込んでいると、不意に私を浮遊感が襲う。どうやら誰かに抱えられたらしい。

 ガチャン!

 そこで多目的ホールに照明が戻った。

 いつの間にか、私は誰かに抱えられ、多目的ホールの出口にいる。

「フフフ。アタシを除け者にして、有希乃を独り占めしようなんていい度胸してるじゃない」

 私を抱えた人物。それは瑞鶴だった。

 しかし、何故か今は、目に蝶を模った仮面を着けている。

「あ、あれはまさか……」

 雷が芝居がかった仕草で驚愕を露わにする。

「雷ちゃん、あれが誰だか知っているのですか?」

 全員の視線が雷へと注がれた。

「あれは……あれは伝説の艦娘、甲板仮面よ!」

『甲板仮面!』

 みんなの声がハモる。いやいや、どう見たって瑞鶴じゃん。

「そう。胸に飛行甲板を装備した伝説の艦娘。その防御力たるや絶大で、胸に砲弾を受けても傷一つ負わないと聞くわ。そして、なんとビックリ、ブリッジして艦載機に着艦をさせるという、艦娘一恥ずかしい着艦を行う艦娘としても有名で――」

「コラそこぉ! 勝手に設定作るんじゃない! 誰が甲板仮面よ! っていうか、アンタと電だけには言われたくないわ!」

 瑞鶴が仮面を取って怒鳴る。

「全く、哨戒から帰ってきてみれば、こんな楽しそうな大会やって、おまけに商品は有希乃ですって! 翔鶴姉、アタシを哨戒に出したのはこのためだったのね!」

「フッ、どうやら気付いてしまったようね……」

 翔鶴が悪の女幹部のような笑みを浮かべる。

「そうよ。わたしは提督の唇を奪ったアナタが羨ましかったの。だから、今度はわたしの番。この大会で優勝して、提督と二人っきりで……ポッ」

 ポッて何~~~~!

「フッ、甘いわね翔鶴姉。いくら翔鶴姉でも、有希乃は渡さない! 有希乃はアタシがいただいていくわ!」

 そう言って、瑞鶴が踵を返す。

「みんな! 瑞鶴が逃げるわ! 追撃開始よ!」

 それを、あとからみんなが物凄い目をして追ってきた。

 あの~、皆さん、盛り上がってるところ悪いんだけど、私の意思とかってないの?

 

 瑞鶴に抱えられた私が連れてこられたのは、隠れ家から少し離れた丘の上だった。

 そこからは、どこまでも広い海と水平線が見渡せる。風がとても心地いい。

 隠れ家の方からは、まだ翔鶴達の声が聞こえる。きっとまだ私達を探しているのだろう。

「ったく、何やってんのよアンタは!」

 下ろされて早々に、瑞鶴に怒られた。

「わ、私は何もしてないわよ。ただ、いつの間にかあのイベントに強制参加させられてただけ」

「ほんとでしょうね?」

「ほんとほんと」

 瑞鶴が、しばらくの間、探るような視線で私をじっと見つめた後、プイッと顔を背ける。

「……フン。ああいうことをアタシ抜きでするんじゃないわよ」

「えっ? 何か言った?」

「別に何も」

 そう言って、やっぱり瑞鶴はそっぽを向いたまま答えた。

 けれど、しばらくの後、不意に表情を緩める。

「風が気持ちいいね」

「うん」

 もうすぐ日が沈む。その光景は、私に何とも言えぬノスタルジーを巻き起こした。

「楽しいね」

「えっ?」

「ここでの生活。ほら、アタシ達って艦娘だからさ、基本的に戦闘ばかりじゃない。だからさ、こんな楽しい時間を過ごせるなんて思ってもみなかった」

「…………」

「いつまでもこんな時間が続けばいいね」

「……そうね」

 瑞鶴にそう答え、私は感慨に耽る彼女と共に、沈み行く夕日をいつまでも見つめ続けた。

 

 夕日が完全に沈んだ頃、私と瑞鶴は二人で隠れ家に戻ってきた。

 さて、そろそろ騒ぎも収まったか――

「あ~! こんなところにいた~!」

「ようやく見つけたのです!」

 そこで早速雷電姉妹に見つかってしまう。

 思わず身構えてしまう私。すると、瑞鶴が雷電姉妹の前に立ち塞がった。

「ちょっとアンタ達、有希乃はアタシのだって言――」

「それどころじゃないわよ」

「いいから早くきてくださいなのです」

 と言って、雷と電が私と瑞鶴の手を掴んで、どこかに引っ張っていく。

 訳も分からず連れてこられたのは、使っていない倉庫だった。

 その前には、すでにみんなが集まっている。

「あ、提督! よかった!」

 私を見つけた翔鶴が、安堵の息を吐いた。

「どうしたのよみんな? こんなところで」

「それが……」

「どうやら何者かがこの隠れ家に潜り込んだようなのじゃ」

 翔鶴のあとを次いで、利根が説明する。

 思わず顔を見合わせる私と瑞鶴。

「何者かって誰よ?」

「それが分からんからこうしておるんじゃろうが」

「なるほど。で、中に入らなかったわけ?」

「どうやら、中から施錠されているらしく、わたし達にはどうすることもできないんです」

「そうなんだ。仕方ない。雷、アンタの主砲でこの扉壊しちゃって」

「えっ! いいの、お姉ちゃん?」

「提督、いくらなんでもそれは……」

「だいじょぶだって。この倉庫の強度なら、雷の主砲撃ったくらいじゃ、扉吹き飛ばすのがせいぜいだから。雷、安心して撃ちなさい」

「う、うん……」

 みんなが離れたのを確認して、雷がおっかなびっくりとといった感じで十四センチ連装砲を構える。

「みんな~、一応耳は塞いどきなさいよ~。それじゃあ雷、よろしく」

「は~い」

 ドゴン!

 けたたましい爆裂音が耳に襲い掛かる。

 そして、大きな煙をあげながら、扉は跡形もなく吹き飛んだ。

「さて、それじゃ中に入るわよ。みんな、一応気は抜かないで。機銃を積んでる者は構えておきなさい。一応ね」

 機銃を構えた睦月と島風を先頭に、私達は真っ暗な倉庫の中を進んでいく。

 照明係は電だ。だだっ広い倉庫には、たくさんの棚が置いてあり、それらには大量の工具などが並べられている。

 思ったより広いわね。仕方ない手分けしてさが――ゴソゴソ!

 その時、すぐ前方で何かが動いた。

 私達はすぐさま物音の元へと向かう。

 足音から察するに人数は二人。

 その二人は、ドンドン倉庫の奥へと逃げていき、やがて壁へと突き当たった。

「さ~て、追い詰めたわよ~」

 私の声に、二人がビクリと体を震わせる。

「電、明かりを」

「はいなのです」

 電が照明を二人に向ける。

 そこから現れたのは……

「ろっ!」

『ろ?』

「ろーちゃんとまるゆじゃない!」

 

 

 

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