艦これif  ~ポンタローバージョン~   作:ポンタロー

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第十二章 ヤキモチ

 私は目の前で震えている二人に向かって言った。

「提督、お知り合いですか?」

「いや、直接会ったことはないけど知ってる。こっちの白いスク水を着てる方が三式潜航輸送艇まるゆ。そんでこっちのがろーちゃん。どっちもアンタ達と同じ艦娘よ。それも潜水艦のね」

『潜水艦!』

 みんなの声が見事にハモる。

「二人とも、もう怯えなくていいわ。立てる?」

 私の言葉に、二人はまだ少し震えつつも、ゆっくりと立ち上がった。

「ア、アナタは誰ですか? どうしてまるゆのこと、知ってるですか?」

 まるゆが震えながら運貨筒を構えて言った。

「私? 私はこの艦隊の提督よ」

「提督! じゃあ、隊長ですか!」

 隊長? ああ、確か陸軍で造られたまるゆは、そういう呼び方してたっけ。

「まあそんなとこ。で、アンタ達は何でこんなところにいるの?」

「ま、まるゆ、陸軍からブイン基地へ派遣されてきたのですが、途中で沈んじゃって……」

「…………」

 まあ、潜水艦なんだから沈むのが当たり前なんだけど、この子の場合は溺れたってことなんだろう。

「そこを、ここにいるゆーちゃんに助けてもらって、ずっとここに隠れてたです」

「ずっとって……何でまた?」

「こ、この辺には深海棲艦がうようよいるから動けなかったです」

「ああ、なるほど。で、ろーちゃんも一緒に隠れてたと」

「ゆー、ろーちゃんなんて名前じゃないです。ゆーはU―511.だからゆー」

 ろーちゃんが無愛想な声で言う。

「提督、誰かとお間違えなのでは?」

「いやいや。この子はろーちゃんよ。今はゆーちゃんだけど、ろーちゃんになるの」

『…………』

 みんなが可哀想な者を見るような視線を向ける。

「……翔鶴よ、提督はちと疲れておるのではないか?」

「ええ、そうみたいね」

「いやいや。私は正常よ。何も間違ったことは言ってないわ。この子は、今はゆーちゃんだけど、後々ろーちゃんになるの。えーと、そう! 響みたいな感じよ。響だって、ヴェールヌイになったでしょ?」

「何言ってるの、お姉ちゃん?」

「響ちゃんはずっと響ちゃんなのです」

「…………」

 あ~、そうか。ここでは響、改二にならなかったのか。

「と、とにかくこの子はろーちゃんなのよ。とりあえずスク水を着させましょう。話はそれからよ。色はもちろん紺色で」

「スク水って何?」

「そこのもぐらことまるゆが着てるやつよ」

「まるゆ、もぐらじゃないのです!」

「ああ、そうだった。ゴメンゴメン」

「全く、失礼しちゃうのです。もぐもぐもぐ」

 もぐもぐ言ってるじゃん。

「まるゆの着てるやつ、着るんですか?」

「そっ。紺色のやつをね。それでこんがりと日に焼ければ、アンタは立派なろーちゃんよ」

「……ヤッ! です」

 ろーちゃんがプイッとそっぽを向く。

「ええ! ど、どうして?」

「だって、恥ずかしいもん……」

 そう言って、色白なほっぺを朱に染めて顔を伏せるろーちゃん。クゥー、可愛すぎる。

「で、でもろーちゃん、これ着てこんがり焼けないとろーちゃんになれないのよ」

「別になれなくてもいいです。ゆーはゆーです」

「そ、そんな……確かに今の姿も可愛いけど、私はスク水着てこんがり焼けたろーちゃんの方が――」

「そこまでじゃ提督」

 そこで、利根がガシッと肩を掴む。

「嫌がるものを無理やり着させるわけにもいかんじゃろ」

「いやいや、でも、スク水着てニッコリ笑うろーちゃんに私は激萌え――」

「瑞鶴よ、どうやら提督は少しお疲れのようじゃ。筑摩と一緒に向こうへ連れていけ。この二人の面倒は吾輩達が見る」

「了解」

「分かりました、利根姉さん」

 そう言って、二人は私を引き摺っていく。

「いやいや、私は何も間違ったことは言ってないって! 離して! 離してよぉぉぉぉ!」

 

 

 

「う~~~~~~~~~~~ん」

「…………」

 まるゆとろーちゃんを発見した次の日、提督室で私は考えていた。とてもとても深く考え込んでいた。

「翔鶴、これはとてもとてもゆゆしき事態よ。このままでは、私が精神破綻を起こしてしまうほどにね」

「……何がでしょうか? わたしにはとてもそうは見えませんが」

「ろーちゃんがスク水を着たがらないのよ! これはどう考えても、この艦隊始まって以来の非常事態でしょうが!」

「…………」

 翔鶴があからさまな侮蔑の視線を向けてくる。

「スクール水着を着る着ないが艦隊に影響を及ぼすとは思えませんが? ていうか、ろーちゃんではなくゆーさんですよ。本人がそう言っています」

「それはいいの。私の中ではろーちゃんだから」

「いえ、提督が良くてもゆーさんは良くないと思いますが」

「彼女は潜水艦なのよ! あんな重そうな服着てたら潜れないじゃない!」

「わたしの話はスルーですか。そうですか。本人が着たくないと言っているのですから仕方ないと思いますが」

「今のは建前よ! 本当は私がろーちゃんのスク水姿を見たいだけなの! それくらい察しなさいよ!」

「……それを察してしまうようなら、わたしもおしまいですね」

「何か言った?」

「いいえ、何も」

「ていうか翔鶴、ひょっとして機嫌悪い?」

「……まあ、良くはありませんね」

「何かあったの?」

「……鈍感な提督には何を言っても無駄なので言いません」

「何よそれ。しかし困ったわ。何であんなにスク水を嫌がるのかしら?」

「それは、提督が昨日からずっとスクール水着持って、ゆーさんを追い掛け回したからでしょう」

「うっ! そのせいで、利根にろーちゃんの半径三メートル以内に近づくの禁止されたしね」

「当然です。彼女とまるゆさんを見つけてから早三日。その間、ずっとスクール水着を持ってゆーさんを追い掛け回していたんですから。最後の方なんて、泣きながらまるゆさんにしがみついていたじゃないですか」

「う~ん。悪いことしちゃったわ。私はただ、ろーちゃんのスク水姿を見てニヤニヤしたいだけなのに」

「そんなことを言っているから接近を禁止されるのですよ、変態」

「……翔鶴、サラッと提督を変態に置き換えるのはやめなさい」

「お断りします。わたしは変態に対してきちんと変態と言える立派な正規空母ですから」

「…………。しかし参ったわ。どうすればろーちゃんにスク水を着せることができるのかしら?」

「……諦めるという選択肢はないのですね」

「あったらこんなに悩んでるわけないでしょ」

「さも当然のように言うのはやめてください、変態」

「う~ん、どうしたものか……おおっ! 良いこと思いついたわ!」

「悪いことの間違いでしょう、変態」

「艦娘全員にスクール水着の着用を義務付ければいいのよ!」

「…………」

「そうすれば、ろーちゃんも恥ずかしがったりしないわ。だって、みんな着てるんだもの」

「…………」

「とりあえず羽黒に言って、全員分のスク水を用意させましょう。色は紺と白の二種類から自由に選べるようにして――」

 パン!

 そこで、翔鶴が私のおでこに何かを叩きつける。

「さあ変態、本日目を通していただきたい書類はこちらです。そろそろ寝言戯言はおやめいただいて、執務に専念していただかないと」

「翔鶴、アンタ、だんだん私に対して遠慮がなくなってきてない?」

「変態に払う敬意はありませんので」

「フン。いいわよ。分かったわよ。でも見てなさい。いつか私は、ろーちゃんにスク水を着せてみせるわ」

 

 う~む。

 翔鶴と別れ、食事をとるために食堂へと向かっていた私は、未だにどうすればゆーちゃんにスク水を着せることができるのかについて考えていた。

 う~ん。どうしよう? 泣いて土下座しても着てくれそうにないし……いっそ物で釣ることも視野に入れて……

 食堂に到着した私は、金剛から食事を受け取って席へと向かう。

 う~ん。物で釣るとなると餌は何にしようか……

 そんなことを考えながら歩いていると瑞鶴を発見。私は瑞鶴の向かいの席に座ろうとした。

 すると、私を見つけた瑞鶴が、私が向かいに座るやいなや席を立ち、場所を移す。

「あれ? 瑞鶴、どうしたの?」

「…………」

 と聞いてみたものの、瑞鶴は私を無視して他の席へ。

 ど、どうしたのかしら? なんか随分と機嫌が悪いみたいだけど……

 まあ、虫の居所が悪い時は誰にだってあるし、今はそっとしておこう。

 そう考えた私は、次に見つけた雷電姉妹の近くへと腰を下ろす。

「…………」

「…………」

 すると、雷電姉妹までもが席を立ち、瑞鶴の近くへと移動した。

 ら、雷達までどうしちゃったの?

 仕方なしに私は、次に見つけたづほとおまけ(大井)の近くへと腰を下ろ――す前に、づほまでもが席を立ち、やはり瑞鶴や雷達の近くへと移動した。

「ちょっ! どうしたのよ、アンタ達!」

 ようやく異変に気づいた私は、四人+おまけに声をかける。

 しかし、みんなジト目で私を睨んだ後、やはり無言で食事を再開した。

 ただ一人、おまけ(大井)だけが勝ち誇った顔でニヤニヤしている。クッ、憎たらしいわね。

「ねえアンタ達、ひょっとして私のこと避けてる?」

『…………』

 しかし、やはり返事はなし。

「私、何かした?」

「……フン。自分の胸に聞いてみなさいよ」

 ぶっきらぼうにそう言ったのは瑞鶴だった。私を見つめるその瞳は限りなく冷たい。

 ちょっと前まではあんなに仲良かったのに。一体どうしちゃったの?

「お姉ちゃんは、もう雷達のことなんかどうでもいいんでしょ」

「全部お姉ちゃんが悪いのです」

「……プイ」

 そう言って、雷も電もづほも(大井はいつも通りだけど)私から顔を背ける。

 い、一体どうしたっていうのよ~~!

 

 ……瑞鶴、雷電に加え、づほにまでハブられ、そっぽ向かれた私は、まだ誰もきていなかったので、食堂の隅で一人、ぼっち飯。

 ううっ……みんなどうしたっていうのよ。ちょっと前まではあんなに慕ってくれてたのに。

 今日のメニューは、金剛特製英国風スパイシーカレー。そっか、今日は金曜日か……

 ヒュールリーとあるはずもない隙間風を吹かせながら、私はカレーを一口口へと運ぶ。

 あら金剛、今日のカレーは少し塩辛いわよ。ううっ……

「なんじゃ提督、こんなところに一人で」

 泣きながらカレーを食べる私に声をかける者がいる。

「利根?」

「なんでこんなところでポツンと飯を食っておるのじゃ? みんなと一緒に食えばよかろう」

「利根、アンタ、私に話しかけてくれてるの?」

「はあ? 何を言うておるのじゃ? 変な物でも食ったのか?」

「うっ……ううっ……」

 涙が溢れてくる。

「利根ぇぇぇ!」

 気が付くと、私は利根を力いっぱい抱きしめていた。

「な、なんじゃいきなり! これ提督! 放さんか!」

「ううっ、利根ぇ……私の味方はアンタだけよぉ」

「だから、何を訳の分からぬことを――」

 ガシャン!

 そこで、いきなり何かが床に落ちたような音が響いた。

「と、利根姉さん……」

 気が付くと、利根と同じくカレーを持ってこちらにきていた筑摩が、食器を床に落とし、青ざめた顔でこちらを見ている。

「そ、そんな……利根姉さんと提督がそんな関係だったなんて!」

「ち、違うぞ筑摩! これは提督が勝手に……」

「わ、わたしというものがありながら……利根姉さん、ヒドイ!」

 と言って、筑摩が泣きながら食堂を去っていく。

「ど、どうしてこうなってしまうのじゃ……」

 呆然とする利根。しかし私は、そんな利根をギュッと抱きしめて放さなかった。

「ううっ、聞いてよ利根ぇ……」

「いや、吾輩もそれどころでは……」

「あら提督、どうなさったんですか?」

「うふふ、二人で抱き合って怪しいんだぁ~」

 そこに高雄姉妹がやってきた。

「おお! 高雄、愛宕、ちょうど良いところに。提督を引き剥がしてくれ。このままでは身動きが取れん」

「はいはい」

 そう言って、愛宕がニッコリ笑って、やんわりと私を引き剥がす。

「はいはい、離れましょうね~。いい子いい子~」

 愛宕が優しく頭を撫でてくる。撫でられると、また泣けてくる。

「ううっ、愛宕~」

「よしよし。もう大丈夫ですからね~」

「しかし、これは何事ですか?」

「さっき筑摩ちゃんが、食堂から泣いて出て行ったわよ~」

「それが吾輩にもさっぱり分からんのじゃ。一人で飯を食っておったから声をかけたのじゃが、その途端に泣いて抱きつかれた。どうやらよほどのことがあったらしい」

「なるほど」

「すまんが高雄、割れた食器の後片付けを頼めるか。吾輩は筑摩の誤解を解かねばならぬ。愛宕はそこで泣いておる提督の子守を」

「分かりました」

「了解~」

 手早く指示して、利根が食堂を出て行った。

「じゃあ高雄ちゃん、食器お願いね~。わたしは提督の面倒見てるから~」

「分かったわ」

 そう言って、愛宕が私を優しく抱きしめた。

 愛宕のどでかい胸に顔を埋める私。ちょっと息苦しいけど、柔らかくて良い匂いがして気持ち良い。

「もう大丈夫よ~。それより何があったの~?」

「ううっ、実は……」

 

 少し落ち着いた私は、椅子に座って、事の顛末を二人に話した。

「……というわけなの」

「「…………」」

 私の話を聞いた二人が、神妙な顔で黙り込む。

「あの子達、ちょっと前まではあんなに私を慕ってくれてたのに。一体どうしたのかしら……」

「決まってるじゃない」

 ポヨン。

 その声と同時に、私の頭に極上の弾力を持ったでっかいゴム鞠みたいな物が乗っかってくる。

 陸奥だった。隣には大和もいる。

「決まってるって、何が?」

「鈍いわねぇ。瑞鶴達は焼きもち焼いてるのよ」

「焼きもち? あの子達が?」

「そっ。だってアナタ、このところろーちゃんろーちゃんって、ずっとスクール水着を持ってゆーちゃんを追い掛け回してたじゃない。それであの子達にあんまり構ってあげてなかったでしょ。だから、あの子達は妬いてるの」

「焼きもち……」

「アナタは提督なのですから、ごく一部の者だけに過剰に世話を焼いてはいけないということです」

「大和……」

「でもあの子達、可愛いじゃない。ほんと、随分と慕われたものね、て・い・と・く♪」

 そうか。そうだったんだ。みんなもっと私に構ってほしかったのね!

「分かったわ。今、あの子達に必要なのは、愛なのね!」

「「「「はっ?」」」」

「ちょっと行ってくる!」

 自分なりの答えを見つけた私は、大急ぎで瑞鶴達のいるテーブルへと向かった。

 私を見つけた瑞鶴、雷電、づほ+おまけ(大井)がジト目で私を見る。

「何しにきたのよ、変態?」

「瑞鶴、ゴメンねぇぇぇ!」

 私は、ジト目で睨んでくるみんなに怯むことなく、瑞鶴を抱きしめた。

「えっ! ちょっ! 何! えええぇぇ!」

 慌てたのは瑞鶴だ。顔を真っ赤にして、手足をバタバタさせている。

「ちょ、ちょっと! どうしたのよ、急に!」

「ゴメンね、瑞鶴。別にアンタ達をないがしろにしてたわけじゃないの。ただちょっと、潜水艦のろーちゃ……じゃなかった、ゆーちゃんがきて舞い上がってしまっただけなの。私はいつでもアンタ達のことを想っているわ。だって私、アンタ達のこと愛してるもの」

「あ、あ、愛してるって……」

「瑞鶴、私、アンタのこと愛してるわ」

「ゆ、有希乃が、ア、アタシを愛して……」

「ねえ瑞鶴、私のこと許してくれる?」

「そ、それはまあ、もちろん許すけど……けど、有希乃がアタシを愛し……キュウ~~」

 そこで瑞鶴が、頭から湯気を出して気を失った。

「あれ? 瑞鶴? 瑞鶴ってば!」

 揺すぶってみても起きない。

 まあ、幸せそうな顔してるから大丈夫でしょ。

「フンだ。怒ってるのは瑞鶴さんだけじゃないんだから。ね、電?」

「そうなのです。電達もプンスカ中なのです!」

 そう言って、雷電姉妹が可愛く頬を膨らませる。

「ア、アンタ達~!」

 私は、今度は雷電姉妹を抱きしめる。

「ゴメンね~。私はアンタ達も大好きよ~」

 私は、そう言って二人のほっぺに軽くチュー。

 すると二人は、瑞鶴と同じように、顔を真っ赤にして頭から湯気を出し始めた。

「ううっ……し、仕方ないわねぇ。雷は一人前のレディーだから、今回だけは許してあげるわ」

「い、電、頭がボゥっとするのです~」

 二人の体から徐々に力が抜けていく。

 チョンチョン。

 そこで私の肩を突く者がいた。

 振り返ると、づほが何かを訴えるような眼差しでこちらを見つめている。

「有希乃、づほもづほも。づほも怒ってる」

 両手を広げて、抱っこしてアピールをするづほ。

 私は、そんなづほがたまらなく愛おしくなって、すぐさまづほを抱きしめた。

「ゴメンね、づほ。私、アンタのことも超愛してるわ」

「……うん。づほも有希乃のこと大好き♡」

 づほの私を抱きしめる腕に力がこもる。

 そしてその隣では……大井が血の涙を流しながらハンカチを噛んでいた。フフン、いい気味だわ。

 けどよかった。どうやら一件落着みたい。

 

 すっかり骨抜きになってしまった四人の面倒を高雄達に任せ、私は提督室へと戻っていた。

 よかった。みんなと仲直りできて。

 私は上機嫌で廊下を歩く。

 おっ! すぐ前方に、一人でポツンと椅子に座って、何かを飲んでいるろー……じゃなくてゆーちゃんの姿があった。私の目がキランと光る。

「フフフ、見つけたわよ、ゆーちゃん」

 私は、悪の女幹部みたいな笑みを浮かべて、ゆーちゃんの前に立ち塞がった。

「ヒッ!」

 私を見たゆーちゃんが、体を強張らせる。

 しかし、それもほんの一瞬。次の瞬間には、逃げ出そうと立ち上がる。

「逃がすか!」

 私は、脇を抜けようとしたゆーちゃんを後ろから抱きしめ、そのままの体勢でゆーちゃんの座っていた椅子に腰を下ろした。

「は、放し――!」

 大声を上げて暴れようとするゆーちゃんの口に、私はある物を突っ込む。

 すると……

「はふぅぅぅぅ」

 ゆーちゃんが幸せそうな表情を浮かべて、体から力を抜いた。

 私がゆーちゃんの口に突っ込んだのは、大和が作った特製マカロン。さっき食堂で、夜食にでも食べてくださいと渡されたのだ。

 さすがは大和。この艦隊屈指の嫁適性を持つ艦娘。その大和が作った極上マカロンに、ゆーちゃんはたちまち虜になってしまったようだ。

「こ、こんなんじゃゆーは……」

「も一つ食べる?」

「食べる」

 ゆーちゃんの口に次のマカロンを投入。

 ゆーちゃんは、それをまたも嬉しそうに頬張った。

「ゆーに何か用ですか?」

「そんなに警戒しないでよ。ちょっと話があるだけ」

「ゆーにはないです」

「マカロンまだあるわよ」

「……それを食べてる間は話を聞いてもいいです」

 そう言って、ゆーちゃんは私の持っていたマカロンにかぶりついた。

「ねえ、ゆーちゃん。ゆーちゃんはまるゆを助けて、ずっとここに隠れてたのよね?」

「はい」

「ゆーちゃんはどんな目的があってこの海域にいたの?」

「…………」

「ゴメンなさい。言いたくなければ――」

「ビスマルク姉さん達を探してました」

「…………」

「ゆーは、ビスマルク姉さんやオイゲンさん達と一緒に深海棲艦と戦ってました。けど、その途中で散り散りになっちゃって、通信もできなくなってしまいました……」

「……そう」

「みんなを探してた時にまるゆを見つけて助けました。それからあまりにも敵が多かったから、しばらくここに隠れることにしました。まるゆ面白いです。潜航できない潜水艦なんて初めて会いました」

「…………」

 ま、まあ、陸軍が造った潜水艦だしね。

「ねえ、ゆーちゃん……」

「何ですか?」

「ゆーちゃんはさ、これからどうするの?」

「まるゆも仲間に会えて安心したし、明日にでもまた姉さん達を探しにいきます」

「そっか……その……今の私達の状況について、誰かから何か聞いてる?」

「何も。誰も何も教えてくれませんでした」

「そう……」

 よし、と私は心の中でガッツポーズを決めた。

 その理由は二つ。一つは、これでゆーちゃんをこの隠れ家に引き止めやすくなったこと。

 もし仮にゆーちゃんが、この世界の状況を知ってしまったら、姉や仲間を想うあまり、すぐにでもここを飛び出していきかねない。

 私は、大井や瑞鶴などの経験から、それを本能的に感じていた。

 二つ目は、私は極力、ゆーちゃんの仲間の探索にこの艦隊から人手を出したくなかったということ。

 正直なところ、すでに情勢が明らかに不利なこの状況で、私は可能な限りみんなを戦わせたくはなかった。

 もちろんこの二つの理由の中には、誰かを隠れ家から出して、敵にここの場所を知られることを避けたいという理由も含まれている。

 現在の我が艦隊は、いざ戦わなければならない時に、資材不足でそれもままならなかった前の隠れ家の時とは違い、資材、食糧ともに十分な量を確保している。

 つまり、危険を冒してまで深海棲艦から資材を強奪する理由も、極論を言えば、みんなを海に出す必要すらないのだ。

 故に、ゆーちゃんの仲間探しに協力してこの隠れ家を発見される、もしくは、戦闘により誰かを失うということだけは避けたかった。

 無論、万が一ここを発見された時のことも想定して、哨戒はさせている。

 本当は、前に設置した妖精ちゃんレーダーだけでそれができればよかったが、残念ながら二十四時間体制でそれを行うと、私の方が持たない。

 故に、最低限の哨戒はさせているし、万が一の時はもちろん戦う。

 しかし結論として、こちらの方から敵に捕捉されるような事態は避けたかった。

「ねえ、ゆーちゃん……」

「ん?」

「お姉ちゃん探しに行くのは、もう少し待ってくれない?」

「何でですか?」

「今、この辺の海域には敵がウヨウヨいるわ。私達がどれだけ頑張っても太刀打ちできないほどのね。ゆーちゃんだってそれは分かってるでしょ?」

「…………」

「ゆーちゃんのお姉ちゃん達のことは私だって心配よ。けどね、今行くのはやめた方がいいわ」

「でも、それじゃ姉さん達が……」

「……大丈夫よ。ゆーちゃんのお姉ちゃん達は強いんでしょ?」

「すごく強いです。特にビスマルク姉さんは、戦艦なのに魚雷も撃てます」

「そう。ならさ、敵がこの海域から引いていくまで、もうちょっと待ちましょうよ。敵さえいなくなったから、私達もゆーちゃんのお姉ちゃん探しに協力するから」

「……ん」

 ゆーちゃんは渋々といった感じで頷いた。

 その悲しげな表情を見た私は、内心で自分を嘲笑う。

 本当は探索に協力する気なんてないくせに、と。

 そう。敵が引いていくことなどありはしない。そんなことは百も承知。

 今の私達にできることは、ただ息を潜めてひっそりと生き延びていくことだけ。

 無論、まだ生きている艦娘がいるならば助けたいという気持ちはある。

 しかし、それでも私は嘘を吐いた。

 誰に非難されても構わない。軽蔑されても構わない。

 たとえ臆病者と言われようと、それでも私は今の生活を守る。今のみんなとの暮らしを守る。

 絶対に誰も死なせたりなんかしない。

「あ、そろそろ時間です」

 そう言って、ゆーちゃんが立ち上がる。

「時間? 何の?」

「まるゆの特訓の時間です」

 

 まるゆの特訓を見学するために、ゆーちゃんと一緒に格納庫にきてみたんだけど……あれ? なんかみんないる。

 っていうか何? なんかみんな、必死に口を手で塞いでるし。

「瑞鶴、こんなところで何してるの?」

 私は一番近くいた瑞鶴に声をかけてみた。

 しかし瑞鶴は、私に視線を向けたものの、口を手で押さえたまま声は出さずに、ただ片手で海を指差す。

「?」

 不思議に思いつつも、とりあえず私は視線を瑞鶴の指差す方へ。すると――

 何あれ? 白いスク水を着た誰かが、下半身だけを水面から出して、足をバタバタさせてる。どうやら海に潜ろうとしているみたい。

 運貨筒と書かれた丸い物体が近くに浮かんでいるところを見るに、どうやらまるゆみたいだけど、どんなに足をバタつかせても潜ることができずに、ただひたすらに空中で足をバタバタさせている。

「…………」

 ど、どう見てもドザエモンにしか見えない。犬神家か!

 しかし……

「ププッ……」

 私は思わず口を押さえた。

 どうやらみんなも、あのまるゆの姿を見て笑いを堪えていたらしい。た、確かにこれは……

「プハーー!」

 しばらくその状態を続けた後、まるゆは限界とばかりに水面から顔を出した。

「どうですか? まるゆ、ちゃんと潜れるのです」

 と、まるゆが誇らしげに言う。も、もうダメ……

『アハハハハハハハハハハ!』

 みんなが一斉に吹き出した。もちろん私もだ。

「え? え? どうしてみんな笑うですか? 何か面白いことあったですか?」

 どうやら本人は、ちゃんと潜水できていたつもりらしい。

「ま、まるゆ、言い辛いんだけど……プクク、アンタ、潜水できてないわよ」

「ええ! そ、そんなことないです! まるゆはちゃんと潜水できてたです!」

「ま、まあ、上半身は確かに潜ってたけど……」

 こ、困ったな。お腹が痛くてうまく説明できない。

「まるゆ、グッジョブです」

 そう言って親指を立てたのは、まさかのゆーちゃんだった。

「でも、まだ足りないです。もっともっと深く潜りましょう」

 真面目な顔でそう言って、海へと入る。

「はいです。今日もご指導よろしくお願いしますです、ゆーコーチ」

 ゆーコーチとな!

「ゆ、ゆーちゃん! ちょっとちょっと!」

 私はコソコソとゆーちゃんを手招き。

「ねえ、ゆーちゃん。ひょっとして、まるゆとの特訓って、いつもこんな感じなの?」

「はい。ゆーがまるゆに潜水を教える代わりに、まるゆはゆーに日本語を教えます」

「そ、そうなんだ……」

「今日は大分いい感じでした」

「いやでも、あれを潜水とはさすがに――」

「それ以上言わないでください。まるゆ、頑張ってます。頑張ってる人を笑ったらダメです」

『はい。すいませんでした……』

 正論を言われ、私も他の笑っていたみんなも素直に謝った。

「よろしい。じゃあまるゆ、今日の特訓を始めます」

「はいです。ゆーコーチ」

「それじゃ、まずは一緒に潜ってみましょう」

「はいです」

 そう言って潜水開始のはずが、やはりというか、水面から姿を消したのはゆーちゃんだけで、まるゆはまたもドザエモン状態。

 そして、みんながまたも口を押さえる。

「「プハッ!」」

 しばらくして、二人が水面から顔を出した。

「どうでしたか、ゆーコーチ?」

「大分いいです。でも、もっともっと努力が必要です。頑張りましょう」

「はいです。ゆーコーチ」

 そして、またしばらくの間、先ほどと全く同じような状態が続いた。

 う~ん。このまま口を出さずに見てようかと思ったけど、放っておいたらいつまでもこのままだろうし……仕方ない。

「え~、二人ともちょっといい?」

 私は、何度目か水面から顔を出した二人に声をかけた。

「何ですか? 変態」

「何ですか? 変態隊長」

「うぐっ! そ、それはもういいから。ねえまるゆ、潜るのが苦手なら、もっと高いところから潜ってみたら?」

「えっ? 高いところからですか?」

「そっ。その方が勢いもつくし、深く潜れると思うけど」

「ど、どうしましょう、ゆーコーチ?」

「ん。試してみる価値はあります。変態、偉いです」

「偉いです。変態隊長」

「だから、それはもういいってば」

 ということで、海に入ってから潜水するのではなく、地上の高いところから潜水開始。

 したものの……

「プハッ!」

 結果は失敗。どうしてもすぐに下半身だけ浮き上がってきてしまう。う~ん、ダメか。

「じゃあさ、運貨筒に資材を詰め込んで重りにしたらどうかな?」

 ということで、早速その計画を実戦に。運貨筒にたっぷりと資材を詰め込んだまるゆが、勢いよく海へと飛び込む。

『…………』

 一同が静かに見守る中、飛び込んでから約七分が経過。

 しかし、まるゆが浮かび上がってくる気配はない。

「おおっ! 成功じゃない?」

 私は思わず手を叩く。

 チョンチョン。

 しかし、そんな私の肩を陸奥が突いた。

「何よ、陸奥?」

「ねえ提督、すごく今さらだけど一ついい?」

「だから何よ?」

「運貨筒に資材を詰めて潜るのはいいとして、それって浮き上がってこれるの?」

「あっ!」

「今さらだけど、潜るのと沈むのは違うわよ」

「まるゆ!」

 陸奥の言葉を聞いたゆーちゃんが、慌てて海に飛び込んだ。

 

「……ケホッケホッ。し、死ぬか思ったです」

 数分後、ゆーちゃんに救出されたまるゆが、荒く息をしながらそうこぼす。

 う~ん。これもダメか。

「ここまでやって潜れないとなると、あとはもう泳ぐしかないわね」

「そんな! まるゆ潜水艦なのに!」

「あのね、無理に潜ろうとしてさっきみたいに沈んだら元も子もないでしょ」

「ですが提督、仮に泳いで出撃するにしろ、まるゆは武装しておりませんよ?」

 翔鶴が私に言う。

「そうなのよね。まあ本来は資材輸送用の艦娘だから、それも当然といえば当然なんだけど」

「けど、資材を積んだら沈むのよね?」

「そうなのよ、瑞鶴。となると……」

「薬状に加工した資材であれば問題ないのでは?」

 そう言ったのは大和だった。

「先ほどは加工前の資材だったから沈んでしまったのです。ですが、加工した薬状の物ならば……」

「なるほど。それなら軽いしいけるかもね」

 ということで、早速試してみることに。

 薬状の資材を詰め込んだ運貨筒をお腹に括りつけたまるゆが、バタ足で泳ぎだす。

 ど、どうでもいいけど何でビート板を使ってるんだろう? まあ、泳ぎやすいんならいいけど。

 しかし……

「プクク……」

 やはりというか、超遅い。下手をすると普通に歩くのより遅い。

 おまけに、またみんなが口を押さえてるし。

「しかしゆーちゃん、よくあのまるゆを連れて、敵から逃げられたわね。ここにくるまで敵とは遭遇しなかったの?」

「何度もしました。けど大丈夫。まるゆといると弾に当たりません」

「へっ?」

「まるゆといるとちっとも被弾しません。むしろ、敵の放った魚雷が別の敵に当たったりします。そのおかげで逃げ切れました」

「…………」

 な、なるほど。さすがは(ゲーム上では)唯一、近代化改修(合成)で運を上げることのできる艦娘ってとこかしら。

「まあとりあえず、まるゆは泳いで出撃ってことで」

 そう言って、私は特訓を切り上げさせた。

 本当はこんな特訓など必要ないのだ。

 だって、私達はもう極力、戦闘はしないのだから。

 

 まるゆ達に特訓を切り上げさせた私は、寝室へと帰ってきていた。

 フウ~、今日はいろいろあって疲れたわね~。

 さっさと着替えて寝るとする――コンコン。

 と思ったら。誰かきたみたい。

「どうぞ」

「失礼します」

 招く私の声に反応して中に入ってきたのは、寝巻きを着た翔鶴だった。

「あら翔鶴、どうしたの?」

「…………」

 尋ねる私に、翔鶴はずっとこちらを見つめたまま黙っている。

「何よ? 私の着替えが見たいの?」

「……ゆーさんとまるゆさんの今後について、少しお話があります」

 その言葉に、私は内心でクスリと笑う。さすが私の秘書艦。

「まるゆについては、元々私達と合流するつもりだったらしいから、このままここに着任。ゆーちゃんについては、さっき本人と少し話したけど、この付近から深海棲艦が引き上げるまでここに留まるってことで話がついたわ」

「……そうですか」

 翔鶴が少し顔を伏せてそう呟いた。分かっているのだろう。私の心の内が。

「あの子に余計な状況説明をしなかったのはいい判断だったわね」

「というより、どう説明していいか分からなかったので、提督に判断を一任しただけですよ」

「クス。なるほど。とにかくそういうわけよ」

「了解しました」

 しかし、話が終わったにも関わらず、翔鶴に部屋を出る気配がない。

「? まだ何かあるの?」

「…………」

「私の言葉に、翔鶴は少し頬を染めて、顔を背けた。

「翔鶴?」

「…………」

 どうしたのかしら? 何か顔がどんどん赤くなってるけど……

「きょ……」

「きょ?」

「今日はここで寝ます!」

 と言って、いきなり翔鶴が私のベッドに潜り込む。

「ど、どうしたのよ、急に?」

「ど、どうしたもこうしたもありません! 今日はわたしが提督と一緒に就寝する番です!」

「そ、それは、確かにそうだけど……」

 そう、新しい隠れ家に移ってからというもの、毎日誰かしらが私のところに添い寝にくる。

 一応、(私のところに添い寝にくる艦娘達同士の間で)ローテーションのようなものがあるらしく、確かに今日は翔鶴の番だった。

 しかし実のところ、これまで一度も、翔鶴は私と一緒に眠ったことがない。

 ローテーションで翔鶴に割り当てられた日は、翔鶴が、たまにはゆっくり一人で眠りたい時もあるだろうと私に配慮してくれた添い寝お休み日なのだ。

 というかそれ以前に、一人で眠ることのできない瑞鶴を置いてくることができないという点からも、翔鶴が私と一緒に寝ることはないんだけど。

 そんな翔鶴が、今日に限って私と一緒に寝ると言う。これは一体……

「あの~、翔鶴さん?」

「何ですか! わたしはもう寝るところです!」

「いや、一緒に寝るのはいいんだけどさ、瑞鶴はどうすんのよ」

「ご心配なく。ちゃんと瑞鶴を寝かしつけてからきましたので」

「そ、そうなんだ……」

 翔鶴の勢いに圧倒されつつも、とりあえず私は、着替えてベッドの中へと入る。

 ベッドの中に入ろうとした私のために、翔鶴が少し移動してスペースを空ける。

 ベッドの中は、すでに翔鶴の体温で少し暖かくなっていた。

「明かり消しても大丈夫?」

「どうぞ。わたしも暗くしないと眠れませんから」

 翔鶴の許可を取って明かりを消す(ちなみに雷電姉妹が添い寝にきた時は、明かりはそのまま)。

 月明かりが差し込む中、暗闇に目が慣れてくると、いつの間にか、翔鶴がじっと私の顔を見つめていた。

「何よ? 私の顔に何か付いてる?」

「ええ。付いています」

「えっ? 嘘! どこ? 何が付いてんの? ひょっとして虫?」

「目と鼻と口が」

「子供か、アンタは!」

 私は、どっと疲れて息を吐いた。

「提督……」

「今度は何よ?」

「手を出してください」

「はあ? 何でよ?」

「いいから」

 私は、戸惑いつつも右手を毛布から出す。

「それをわたしの頭に置いてください」

「?」

 言われるまま、手を翔鶴の頭の上へ。

「それを左右に動かしてください」

 言われた通りにすると、まあ当然だけど、私が翔鶴の頭を撫でるような形になる。

「何よ、翔鶴。アンタ、頭を撫でてほしかったの?」

「いけませんか?」

「いや、いけなくはないけど……」

「提督、わたしは秘書艦です」

「そ、そうね」

「はっきり言って、他の艦娘よりも頑張っています。色々と」

「そ、そうかもね……」

「にも関わらず、提督はわたしへの労いの気持ちが薄いと思います」

「…………」

 ほんと、どうしちゃったのかしら?

「きょ、今日は食堂で、怒っている瑞鶴達を抱きしめたと聞きました」

「あ、ああ……うん。そうね」

「怒っているのが瑞鶴達だけとは限らないではないですか」

「…………」

「ちゃ、ちゃんと怒っている艦娘全員をケアしなくてはいけないと思います」

「…………」

「怒っているのが分かりやすく態度に出る艦娘ばかりではないのですから」

 どうやら、自分も怒っているからもっと構え、と言ってるらしい。

 私は内心で大きくため息を吐いた。

「やれやれ、意外と子供っぽいのね、翔鶴は」

「何とでも言ってください。ほら、手が止まっていますよ」

 翔鶴に言われ、私はナデナデを再会する。

「これでご満足?」

「まだです。日頃の労いも込めて、もっと撫でてください」

「はいはい」

 私に頭を撫でられた翔鶴が、気持ち良さそうに目を細める。

「提督は頭を撫でるのがお上手ですね」

「そう? 自分じゃ分からないけど」

「わたし、気持ちよすぎてだんだん眠く――」

 バタン!

 そこでいきなり寝室のドアが開いた。

「有希乃~、ぐすっ」

 ドアから、パジャマ姿で半泣き状態の瑞鶴が入ってくる。

「ず、瑞鶴! どうしたの?」

「ひっく、トイレ行きたくなって目が覚めたら、翔鶴姉がいないの~」

「…………」

「いくら待っても帰ってこなくってぇ。どうしよ~、ぐすっ」

「…………」

 瑞鶴が、涙声で目元をゴシゴシと拭う。

 どう対処していいか分からず固まる私。

 チラリと視線を翔鶴に向けると、翔鶴も困り顔。

 しかし、涙を拭い終わり、顔を上げた瑞鶴が、その視界に翔鶴を捉えた瞬間、瑞鶴の表情が一変した。

「しょ、翔鶴姉! 何でここにいんの?」

「え、え~と、その、ちょっと明日のことで打ち合わせが……」

「こんな時間に? パジャマ着て? ベッドの中で?」

「きょ、今日はわたしが提督と眠る番だから……」

「そんなこと言って、いつもは一緒に寝ないじゃない!」

「だから、たまにはいいかな~って」

 ガミガミガミガミ。

 話し合いはエスカレートし、ついには怒鳴り合いに。しかも私を挟み込んだ形で。

 あのさ~、どうでもいいけど、いい加減寝かせてくれない?

 

 

 

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