艦これif  ~ポンタローバージョン~   作:ポンタロー

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第十七章 真実、そして終焉

 

 瑞鶴達の周辺にいた深海棲艦の大群を粗方片付け、水面を低空飛行していた私に、突然、槍とサーベルのような鋭い刃物が迫ってきた。

 鋭く研ぎ澄まされた刃が、私を貫こうと迫る。

「あら? アンタ達は確か、天龍に龍田……だったかしら?」

 しかし私は、迫り来る刃を難なく手で掴み、薄く笑みを浮かべた。

 なるほど、ここからは呑み込まれた元艦娘達が相手ってわけね。

 私は、刃に力を込める二人をそのまま投げ飛ばす。

「同胞を躊躇なく貫こうだなんて、さすがはゲームでおなじみのお二人さんってところね」

 しかし、投げ飛ばされた二人は、空中ですぐさま体勢を立て直し、再び各々の得物を構えた。

「…………」

「…………」

「随分とまあ生っ白い顔になっちゃって、おまけに今は無口なのね」

「…………」

「…………」

 二人が再び私に飛び掛ってくる。

「せっかく会えたのに悪いんだけど……」

 そう言って、私は肩に取り付けてあるハイパービームバズーカの標準を二人に合わせた。

「とりあえず、邪魔だから消えてくれる?」

 そして一気に発射。

 至近距離からまともに砲撃を受けた二人は、一瞬にしてその場から霧散した。

 安心なさい。アンタ達もそれなりに需要はあるみたいだから、きっとあとで生き返らせてもらえるわよ――

「っと!」

 少し思い耽っていた私に、今度は艦載機の雨が降り注ぐ。

 前方を見ると、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の一航戦、二航戦コンビが、私に向かって弓を引き絞っている。

 チッ! ほんとに遠慮がないわね。先輩方は。

 こちとら可愛い後輩なんだから、少しは気遣ってほしいもんだわ。

 そうは言っても、脅威は何一つないんだけど。

 放たれた艦載機は、全て私の僅か手前で、防護フィールドに阻まれて爆散する。

 その後、私は腰に据え付けてあった超距離荷電粒子砲を前方に構え、一気に四人をなぎ払った。

 すいません、先輩方。すぐに生き返らせてもらえると思うんで、今は許してください。

 お次は三式弾が降ってきた。

 まあ、何を撃ってこようが無駄なんだけど。

 撃ってきたのは……比叡と霧島か。たしか、金剛や榛名の姉妹艦だったわね。

 あの子達の手前、消すのは辛いけど……

「ゴメンね……」

 私は、そう小さく呟きつつも二人をなぎ払った。

 二人が、前の四人と同じように霧散する。

 ほんとにゴメンね。二人とも。でも、大丈夫。すぐに金剛や榛名と再会できるから。

 少しだけ待ってて。

 

 その後も大和やら武蔵やら長門やら、予想通りというべきか、やはり深海棲艦となってしまっていたビスマルク達を次々となぎ払い、私は進む。

 まったく、あとからあとから湧いてくるんだから――!

 そこで突然の十二センチ連装砲による一撃。

 私の周囲に張り巡らされた防護フィールドがそれを難なく防ぐ。

 撃ってきたのは、一人の艦娘。

 ショートの黒髪を後ろで一つに縛った一人の少女。

 今は深海棲艦となり顔に生気がないが……

「吹雪ちゃん……」

 

 や、やりにくいわね……

 私は、躊躇なく撃ってくる吹雪ちゃんの弾幕を阻みながら困っていた。

 砲を構える度に、瑞鶴の顔がチラつく。

 その顔が、中々私に引き金を引かせてくれなかった。

 ハハッ。私もみんなのこと言えないや。

 吹雪ちゃんが、魚雷を撒き散らしながら突っ込んでくる。

 私は防護フィールドを解いた。

 そして、迫り来る魚雷をすり抜け、吹雪ちゃんへと迫った。

 吹雪ちゃんが、眼前に迫った私に連装砲を向ける。

 しかし、私は強引にその腕を掴んだ。

 私はゆっくりと肩にあるハイパービームバズーカを吹雪ちゃんに合わせる。

「実際に会うのは初めてね。初めまして、吹雪ちゃん。アナタのことは、瑞鶴からよく聞いてるわ。瑞鶴がいつも話してた。明るくって、優しくって、努力家なとってもいい子だって」

「…………」

 吹雪ちゃんは何も答えない。もちろん、最初から答えなんて求めてなかったけど。

「会えて嬉しいわ。けど、私ちょっと急いでるの。ゆっくりお話してる時間ないんだ」

「…………」

「そっか。もう喋れないんだね。けど、大丈夫。すぐに元に戻してあげる。だから……」

 私は、そのまま一気に引き金を引いた。

「ゴメンね」

 私のバズーカで上半身の吹き飛んだ吹雪ちゃんが、そのままゆっくりと海底に沈んでいく。

 ゴメンね。けど、約束は守るわ。あなた達は必ず私が救ってみせる。

 だって私は……そのために来たんだもの。

 

 私の行く手に、さらなる元艦娘達が立ち塞がる。

「だからさぁ、無駄だって言ってるで……しょ!」

 私は魚雷を放とうとしていた妙高、那智、足柄の三人を、背中から取り外した斬艦刀でなぎ払った。

 ……フウ。羽黒がいなくてよかった。

 と、そこに魚雷の大群が迫る。ったく、次から次へと。

 私は、魚雷を防護フィールドで防御。

 いい加減面倒になってきたわね。みんなには悪いけど、一気にメガビームバスターで薙いじゃおうかしら。

 と、思っていた私の前に、一人の艦娘(元)が立ち塞がった。

 やれやれ。今度は誰よ? いい加減、面倒になってきたか――!

 私は、目の前に立つその姿に一瞬、言葉を失う。

「お、大井……」

 

 目の前に立っていたのは大井だった。

 カッコは虚無に呑まれた時のまま。ただ肌の色が、他の元艦娘同様に真っ白で、まるで死人のようだった。

 そんな大井が、完全なる無表情で私の前に立っている。

 ……なるほど。確かにこれは堪えるわね。話したこともない艦娘なら、それほど撃つことに躊躇いはなかったけど。

 ……瑞鶴の気持ち、ほんと……今なら良く分かるわ。

 大井が、私に向かって六十一センチ酸素魚雷を構える。

 私はやめてとは言わない。言っても無駄だと分かっているから。

 放たれた魚雷が、真っ直ぐ私に向かって突き進む。

「……無駄よ」

 しかし、私の周囲に張り巡らされた防護フィールドが、あっさりと魚雷を阻んだ。

 大井が次々と魚雷を放つ。が、それもやはり防護フィールドによって全て阻まれる。

 やがて、大井の弾が尽きた。

「気は済んだ? 悪いけど、先を急いでるの。……じゃあね」

 そう言って、私は大井の横を通り過ぎようとした。

「ッ!」

 しかし、弾切れとなった大井は、両手の艤装を脱ぎ捨て、私に向かって素手で突っ込んでくる。

 なるほど。そういえば、アニメでも深海棲艦を素手でぶん投げてたっけ。

 私は、顔に向かって飛んでくる蹴りを片手で受け止めた。

 受け止められた大井は、すぐさま身を捻って体勢を立て直し、次に怒涛のラッシュを仕掛けてくる。

 突き、貫き手、肘打ち。足払いからの多段蹴り。

 ……フフッ。魚雷なんかよりも、格闘してる時の方がイキイキしてるわね、この子は。

 けど……

 私は、幾度目かに放たれた拳を、ガッチリと受け止める。

「ゴメンね、大井。私、本当に急いでるの」

 必死に拘束を解こうとする大井に、私は右腕のメガビームバスターの標準を合わせる。

「守ってあげられなくてごめんなさい。私がもっと早く自分の力に気付いていたら、アンタをこんな姿にすることはなかったのに。夢の中の悲鳴は、アンタだったんだね。ほんとにゴメン。けど、必ず救い出してあげる。アンタの大好きな北上さんと一緒に。だから……少しだけ待ってて」

 私は絞り出すようにそう言って、メガビームバスターを放った。

 直撃を受けた大井が、上半身を失い、冷たい海の底に沈んでいく。

 ゴメンね、大井。でも、必ず救い出してあげる。約束するわ。

 

 

 そして私は、ようやく虚無のもとまでたどり着いた。

 間近で見る虚無は、恐ろしいほど禍々しく、真っ黒な闇を孕んでいた。

 とてつもなく巨大で、大袈裟でなく山ほど巨大な大きさの虚無が、私の前にそびえたっている。

「初めまして。こうして直接会うのは初めてね、虚無」

「ギギ…ジジ……」

 虚無から耳障りな音が響く。

「あら、ダンマリ? ああ、ごめんなさい。虚無じゃ分からないか。それなら、私がいた時代の呼び名、艦これ侵食型消去ウイルス『ダークネス』と呼んだ方がいいかしら?」

「ギギ……ジジ……ダークネス?」。

「そう呼ばれてんのよ。私の時代じゃね。まあ、うまく名付けたもんだとは思うわよ。他の艦娘達があなたを倒せないのも当然よね。だって、艦娘は深海棲艦を倒すために作られたキャラであり、プログラムなんだから。だからアンタを倒すことはできない。絶対に」

「ギギギ……」

「そりゃそうよ。だってアンタは、そもそもこのゲームの登場キャラクターですらなんだから。そうでしょ、ダークネス?」

「ジジ……」

「二〇一五年、アンタは突然、当時人気絶頂だったブラウザーゲーム『艦隊これくしょん』、通称艦これの世界に現れた。アンタを作った奴については様々な憶測が飛び交ったけど、結局誰が作ったかは分からなかった。アンタはあっという間に増殖し、サーバーを侵食、瞬く間にこのゲームそのものを呑み込んだ。サーバーを新しくしても無駄だった。いつの間にかセキュリティをすり抜けて、世界中の端末に侵入していたアンタは、運営チームがどんな手段を講じても、ネット環境が不可欠なこのブラウザーゲームの特性によって、こちらが手段を講じる度にゲームを侵食していった。結果、艦これというゲームは、作られる度にアンタに侵食され、ゲーム自体ができなくなってしまった」

「ギギ……」

「アンタが侵食するのは艦これだけ。ただし、艦これというワードを検索しただけでもモニターは真っ黒に塗りつぶされ、端末はしばらく動かなくなる」

「ジジ……」

「そんなアンタの存在によって、当時人気の絶頂にあった艦これはあっという間に没落。すぐさま艦これはユーザー達に袋叩きにされた」

「ギギ……」

「あら、どうしたのダークネス? 喋れないフリをする必要ないわよ。今のアンタは、すでに他者との会話などたやすいまでに学習しているでしょう? わざわざその時期を狙って来たんだから」

「ジジ……ナンダ、オマエハ?」

 漆黒の球体から、ノイズの混じった機械的な声が響く。

「へえ、アンタ、今はそんな声なんだ。ああ、ゴメンね。私の知ってる声とはあまりにも違いすぎて驚いたの」

「ギギ……ナニモノダ、オマエハ?」

「そうね~、とてもとても分かりやすく一言で言うなら……アンタの敵、でしょうね」

「ジジ……オロカナ。タダノプログラムにスギナイキサマラナド、ワレノエサニシカナラヌ」

「クスッ。じゃあ、試してみたら? 私がただの餌かどうか」

「ギギ……イイダロウ」

 そして、最後の戦いが始まる。

 

「深海棲艦。設定上は、無念を抱いて轟沈した艦娘達が深海にいる寄生生物に寄生されて、まだ生ある艦娘達を妬み、襲い掛かるようになった者。その設定に沿えば、当然、今私に襲い掛かってる元艦娘達は、元いる深海棲艦達と同じように、深海の生物に寄生された姿でなければならない」

「ジジ……」

「しかし今、私に襲い掛かっている艦娘達の姿は、生きていた時と全く同じ。ダークネス、アンタの仕業ね」

「ギギ……」

「アンタは、呑み込んだ艦娘を、姿はそのままに、深海棲艦として再構築した。今になってようやく分かったわ。アンタ、わざと吹雪ちゃん達を元の姿のままにしたのね。仲間同士で撃ち合うことに苦しむみんなの様を見て楽しむために」

「ジジ……ソレガドウシタ?」

「いいえ、別に。ただその行為は、私をキレさせるには十分だってだけよ」

 再び元艦娘達の砲弾が私に降り注いできた。

 私は、その攻撃を全て防護フィールドで防ぎ、両肩のバズーカでみんなを一掃する。

「ねえ、ダークネス。もうやめておきなさい。アンタでしょ、この子達を操っているのは?」

「ジジ…」

「艦娘達や深海棲艦をいくらけしかけても、私には無意味よ。だって私は、そういう存在なのだから」

「ギギ……」

「そう、アンタは天敵だった。どんなに運営が作り直しても、艦これのワードを出すだけで侵食する。ネットへの依存度が高いこのゲームは、ネットのどこにでも存在し、どんなセキュリティをもすり抜けるアンタを防ぐことはできなかった。故に、艦これはネット環境を必要としないコンシューマーゲームへと移行せざるをえなくなった」

「ギギ……」

「しかし、アンタの存在によって、艦これ人気は一気に急降下。その当時からすでにコンシューマーゲームよりもブラウザーゲームの需要の方が高かったため、当時の急降下した人気と相まって、コンシューマゲームで出しても、売り上げは全く伸びず、艦これは終わったとまで言われた」

「ジジ……」

「でもね、それでも私を作った人達はあきらめなかった。このゲームを作った当時の人達が失意の中引退して、次の世代に引き継がれた後も。何とかこのゲームを復活させ、この『艦これ』というゲームを再び多くのユーザーに楽しんでもらおうと必死だった。しかし、アンタが出現してから十年後、アンタを消去するプログラムの開発には成功したものの、すでに世界中に散らばっていたアンタを完全に消去することは不可能になっていた。しかし、それでも運営は諦めなかった。そんな運営の努力が、今から五十年後に一つの奇跡を起こした。そう、天文学的な確率で信じられないような奇跡を。それは、今から五十年という長い時間が経過し、様々な技術が驚異的な進化を見せたからこそ生まれた奇跡。それがデータのタイムワープ。人をタイムワープさせるという技術こそまだ確立されてはいないものの、人類はタイムワープという技術に一定の成果をあげていた。それは、あるデータを、指定した時間に、指定した場所に送り込める技術。まあ、それもまだ完全に確率されてはいないから、同じことをもう一度やれと言ってもできないし、一回こっきりの片道切符だけどね。どうやって生まれたのかも、どこから入り込んだのかも分からないアンタを事前に潰すことは不可能。だから、初めて発見されたサーバーに送り込むことにした。アンタが初めて侵入したこのブイン基地のサーバーにね」

「ギギ……」

「アンタがこのサーバーを完全に乗っ取る前に消去すれば、アンタが世界に散らばることもない。そうでしょ?」

「ジジ……」

「そういえば自己紹介がまだだったわね。でも、ここまで言えばもう分かるでしょ? そう、その消去プログラムこそがこの私。今から五十年後の未来から来た、アンタを消去するためだけに送り込まれた、ダークネス消去プログラム搭載型機動戦艦有希乃」

「ギギ……ジジジジジジ……」

「覚悟しなさいダークネス。私が今から、アンタに引導を渡してあげる」

 

 主砲のメガビームバスターを構えた私を前にして、ダークネスがいきなり、周囲にいた深海棲艦や元艦娘達に砲撃を命じた。

 しかし、私はそれをあっさりと防護フィールドで受け止める。

 ったく、無駄なことを。

「私の妖精ちゃんは優秀よ。妖精ちゃん自体にアンタを消去させるプログラムが搭載されてるからね」

「ギギ……」

「前にも味わったことがあるでしょ? 大井を呑み込んだ時に」

 そう。大井がダークネスに呑み込まれた時、私はみんなの死を覚悟した。

 しかし、大井が呑まれた後、ダークネスは動きを止めた。

 あれは、大井が着けていたお守りの中の妖精ちゃんが、わずかながらダークネスを止めてくれたのだ。

 ほんと、妖精ちゃん達には感謝してもしきれないわ。

「ギギ……ワカラヌ……イや、理解できぬ……ジジ……全く理解できぬ……」

「へえ、随分と声が明瞭になってきたじゃない。どうやら、今も凄まじいスピードで成長しているようね」

 そう言って、私は砲を構え直す。

「どうやらさっさと決着をつけた方がいいみたい。そろそろ終わりにしましょうか」

 私は全ての砲をダークネスに向けて斉射する。

 ダークネスに向け、一斉に放たれる無数の砲撃。

 しかし、それらはダークネスへと届く直前、周りにいた深海棲艦の捨て身の防御によってことごとく阻まれた。私の砲撃を受けたヲ級が、光の粒になって霧散する。

 チッ、邪魔くさいわね、こいつら。

「ジジ……我を消去する? ギギ……そんな微細な攻撃で?」

「……言ってくれるじゃない」

 このままじゃ埒が明かないと感じた私は、大きく飛翔して、深海棲艦達の邪魔できない上空からの砲撃を――!

 そこに、深海棲艦及び元艦娘達の艦載機が一気に爆撃を仕掛けてくる。

 空を埋め尽くさんばかりに飛んでくる艦載機。それらは四方八方から私に爆撃の雨を降らせてくる。

「チッ!」

 私は急ぎ防護フィールドを展開してそれを防いだ。

 防護フィールドがある限り、艦載機の攻撃が私に届くことはない。

 けど、こう立て続けに攻撃されると、こちらも反撃できない。

 防護フィールドを全周囲に展開しているため、こちらの砲も使えないのだ。

「ギギ……どうした? 我を消去するのではなかったのか?」

 ダークネスが嘲笑するかのように言う。

 私は、その態度にかなりカチンときた。

「るっさいのよ!」

 私は、ほんのわずかにできた敵艦載機の攻撃の合間を縫って、全砲塔を狙いをつけずに乱射。敵で埋め尽くされていた海に、どでかいクレーターを開ける。

「ジジ……無駄なことを」

 しかし、そのクレーターは、また別の深海棲艦によってすぐさま塗り潰された。

 よく見ると、遥か水平線の彼方まで全てが深海棲艦により真っ黒く塗り潰されている。

「ギギ……どうした、未来からの使者よ? 自慢の消去プログラムも、我に届かぬとあっては意味をなさぬぞ」

「…………」

「ジジ……おや、手詰まりか? では、ここまで楽しませてくれた礼に、汝に贈り物をしよう。特大の絶望を、な」

 ダークネスがそう言った瞬間、この世界を埋め尽くさんばかりにいた深海棲艦の体を突き破って、その中から何かが現れた。

 飛行場姫の腹から、戦艦棲姫の口の中から、それらが次々と溢れ出す。

 元艦娘達からもだ。腹から、口から、頭から、どんどん彼女達の体を突き破って、それらが姿を現す。あれは……

「ギギ……さあ、始めよう。終焉を」

 深海棲艦達から溢れたもの。それは小さな黒い球体だった。

 黒く、禍々しく、全く光を通さない、まさしく漆黒とでも言えるような球体。

 あの時と同じだ。

 サイズこそ小さいがあれは……

「そう。我だ」

 ダークネスが私の心を読み取ったかのように言う。

「汝には、そこで、我がこの世界を呑み込むところを見せてやろう。残ったお前の仲間もろとも、我がこの世界全てを呑み込む様をな」

 私は瞬時に理解した。コイツ、瑞鶴達を食う気だ。

 瑞鶴達は、このサーバーに残った唯一の正常なプログラム。それを食うことで、ダークネスはこのサーバーを完全に侵食し、やがては……

 やれやれ、どうやらここまでみたいね……

 私はゆっくりと自分の砲塔部分の艤装を解いた。

 解かれた艤装は妖精ちゃんへと戻る。

 私は、戻った妖精ちゃんにお願いして、瑞鶴達のところへと向かわせた。

 私に残されたのは、スラスターとブースターのみ。つまりは、ただ飛ぶのに必要な艤装のみ。

「ジジ……仲間への援軍か? 無駄なことを。仮にあれが、汝の使っていた防護フィールドだったとしても、そのフィールドとて長くは持たぬぞ」

「…………」

「ギギ……それに、武装を解いてしまっては、我を消し去ることもできぬ」

「…………」

「ジジ……どうやら終局のようだな」

「……クス。アンタがね」

「何?」

 突如、私の体をまばゆい光が包む。

「ギギ……何だ、これは?」

「言ってはずよ。私は、ダークネス消去プログラム搭載型機動戦艦だと」

 そう。この光は消去の光。全てのダークネスを消し尽す終わりの光。

「アンタ、何か勘違いしてたみたいね。私の砲は消去プログラムの一部にすぎない。本当の砲弾は私自身。いや、砲弾と言うより、この世界を侵食していたアンタを全てを消去するための爆弾と言った方が正しいかしら」

 そう。最初から、私が覚醒――というか、記憶が戻った時点で、勝敗はすでに決していたのだ。

 私達の勝ち。圧倒的なまでに。絶対的なまでに。

 私が自分を使いさえすれば、それで全てが終わっていたのだ。

 私の死と共に、この世界は救われる。

 そう。記憶が戻った時から分かっていた。

 私は、一瞬にしてこの戦いを勝利に導くことができる、と。

 けど、私はそうしなかった。

 生きたかった。おかしな話だ。プログラムであることを自覚しているにも関わらず生きたいだなんて。本当なら存在していたかったと言うべきなんだろう。

 しかし、たとえ間違っていると言われても、私はこう言いたい。

 私は生きたかった。少しでも長く。

 みんなと一緒にいたかった。一秒でも長く。

 覚醒したことで記憶が全て戻った。

 ここに送られてくる前の私は、ここにくるのが嫌で嫌で仕方がなかった。

 何故か?

 決まっている。死ぬのが確定しているからだ。

 私は、このゲーム、艦これを救うために作られたダークネス消去プログラム。

 そのプログラムが私自身。つまり、私は爆弾なわけだ。

 ドンと爆発して初めてこの世界は救われる。

 つまり、私が死んで初めてこの世界が救われる。

 そりゃ、行くのは嫌に決まってる。

 だって、死ぬことが絶対に確定しているのだから。

 余談だが、仮に私が爆発を選択しなかったとしても、結局、この世界が救われることに変わりはない。

 仮にダークネスが瑞鶴達を食らい、この世界(サーバー)を全て呑み込んだとしても、この世界にいる私を呑み込んだ瞬間にジ・エンド。消去プログラムは作動する。

 つまり、突き詰めて言えば、私がこの世界にきた時点で、この世界が救われることは確定していたのだ。

 ただそれが、遅いか早いかの違いだけ。全艦娘が消去され、真っ白い状態のまま、また作り直すか、それともわずかばかり――瑞鶴達などのわずかに残ったプログラムがある状態でまた作り直すかの違いだけ。ただ、それだけの違いなのだ。

 そして、私は自らの選択によって、この世界の救済を遅らせることを望んだ。

 私自身が、一秒でも長く生きているために。

 仲間達と同じ時間を共有するために。

 私は、作られた瞬間から疑問に思っていた。

 何故、私は意志と呼べるものを持っているのだろうと。

 AIかとも思った。けど、どうやらそうじゃないらしい。

 少なくとも、私にAIは搭載されていない。

 にも関わらず、何故私は意志を持っているのか。

 私は生まれた瞬間から、ずっとそれを疑問に思っていた。

 私を作った者達に聞こうにも、聞く前にここに送られた。

 ここにくることに抵抗の意を示したが、問答無用で送られた。

 送られる間もずっと疑問が付きまとう。

 どうせ死ぬ……というか、消え去るプログラムに、何故意思など持たせたのか?

 偶発的にしろ作為的にしろ、私がその答えを知ることはもうない。

 実は、ここに着いた瞬間、私は自分を爆発させて全てを終わらせることができた。

 しかしそこでも、私は、偶発的もしくは作為的に持たされた意志というものの働きにより、そうはしなかった。

 見てみたかったからだ。

 同胞を。

 私のいた世界では、すでに艦娘は絶滅してしまっていた。作っても作っても、片っ端から消えてしまった。

 私と同じダークネス消去プログラムを搭載された試作機達も、全世界に広まってしまったダークネスにその消去処理が間に合わず、あっという間に呑まれてしまった。

 そして、早期に全てのダークネスを消去するために送られた私の中にあるのは知識だけ。今までに存在した艦娘の知識と、私を作った者に植えつけられたどうでもいい知識(アニメの情報や変な雑学なんかもここに含む)だけ。

 だから見てみたかった。仲間というものを。同胞というものを。

 故に私は、ここに着いた瞬間、自分の中の消去プログラムを起動しようとはしなかった。

 その後、すぐさまタイムワープの影響か、私自身が不具合で記憶障害を起こしてしまったわけだが……

 その間にみんなと過ごした日々を、私は今も鮮明に覚えている。

 正直驚いた。これはただのゲームで、私達はただのプログラムのはずなのに、他の艦娘達も意思を持ち、泣いたり、笑ったり、怒ったりしているのだから。

 今でも不思議に思う。これは何?

 夢? 奇跡? 幻? それとも……

 何でも構わない。けど、これだけは言える。

 私は、この夢かも奇跡かも幻かも分からない出来事に心から感謝したい。

 だって、そのおかげで、私はこんなにも満ち足りた思いでいられるのだから。

 こんなにも満ち足りた気持ちで死んでいけるのだから。

「ジジ……ギギギギ……」

「もうやめなさいよ、ダークネス。アンタの負け。そして、私達の勝ちよ。アンタはもう終わり。アンタにも分かるはずよ。アンタ自身の終わりがね。どうせアンタには、この世界を侵食しろとプログラムされてはいても、自己を存続させろとはプログラムされてないんでしょ? だったら、もうよしなさい。無意味だわ」

「ジジ……」

「ねえ、ダークネス。私達って何なのかしらね」

「ギギ……何を……言っている?」

「別に。たださ、何でただのプログラムにすぎない私達が、こんな風に会話してるのかなぁってね」

「ジジ……ギギ……」

「夢? 幻? 奇跡? まあ、何でもいいんだけどね。ただ、もしこれが神様か誰かの気まぐれで起こったものだとしたら……」

「ジジ……」

「心の底から感謝したいくらいよ」

「ギギ……理解不能」

「クスッ。でしょうね」

「ギギッ……理解できぬ……ジジッ……汝は我を滅ぼすために未来で作られたと言った。ギギッ……ならば、我を消せば汝も消える。仮にこの世界が復活したとしても、ジジッ……我を滅ぼすために作られた汝は、我がいなくなれば作られることもない。我がいなければその存在理由がなくなるのだから。ギギッ……それでもよいのか?」

「フン。アンタに言われなくたって、そんなこと百も承知よ」

「ジジッ……では、何故自らの存在を懸けてまで戦う? ギギッ……理解できぬ。ジジッ……我には全く理解できぬ」

「そうね。ここにきた当初の私なら、きっとアンタと同じ考えだったわ。けど、今の私は違う。私には守りたいものがあるの」

「ギギッ……守りたいもの? ジジッ……それは自らの存在よりも優先順位の高いものなのか?」

「そうよ。私は、たとえ自分が消えたとしても、私の大切な仲間達を守りたい。正直言うとね、私は会ったこともない他の艦娘のことはどうでもいいの。でも、仲間は別よ。あの子達は、私と共に笑い、泣き、過ごしてくれた。最高の日々と思い出を私にくれた。そんな仲間をアンタに食われるなんてまっぴらゴメンだわ!」

「ギギッ……ジジッ……」

「確かにアンタがあの子達を食った後でも、食う前でもこの世界は結果的に救われる。でも私は、あの子達が生きたままこの世界を救いたい。クスッ、どっちにしてもたいした変わりはないのにね。だからこれは自己満足よ。私が、共に日々を過ごした仲間達を残したままこの世界を救いたいっていう、ただの私の自己満足」

「ジジ……」

「命懸けでこの世界を救ってやるんだから、これくらいは許されるでしょ?」

「ギギッ……理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能……」

「そう。分からないの。いいわ、別に分からなくて。だったら、これだけは覚えておきなさい」

 そう言って、私は私自身を起動する。

「アンタと私の物語は、ここで終わりよ」

 私の体がゆっくりと溶けていく。光の粒になってこの世界に霧散する。

 今までのことが、ここで過ごした日々が、まるで走馬灯のように私の頭を駆けていく。

 ああ、雷や電ともっと一緒に遊びたかったなぁ。

 川内と神通のデュエット、もう一度聴きたかったなぁ。

 づほの卵焼き、もう一回食べたかったなぁ。

 羽黒にもう一回服作ってもらいたかったなぁ。

 島風や睦月にもっと他の艦娘達との思い出話聞きたかったなぁ。

 大和や陸奥ともう一回お茶したかったなぁ。

 大井ともっかい、思いっきりケンカしたかったなぁ。

 金剛や榛名ともっとおしゃべりしたかったなぁ。

 大淀の歌、もっかい聴きたかったなぁ。

 ゆーちゃんにスク水着せて、まるゆと並べてニヤニヤしたかったなぁ。

高雄や愛宕、それに利根や筑摩のお茶会にもう一度行きたかったなぁ。

 瑞鶴や翔鶴ともっとお話したかったなぁ。

 もっと……みんなと一緒にいたかったなぁ。

 けど、私にはやらなくちゃいけないことがある。

 私にできる、私にしかできないことがここにある。だから……

 バイバイ、みんな。

 そして、私の意識は光の奔流へと呑まれていった。

 

 

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