本作は谷川ニコ先生の傑作ギャグ漫画・通称『わたモテ』こと『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』のキャラをお借りして、かつてスーパーファミコンにて発売されたチュンソフト様の名作サウンドノベルゲーム『弟切草』のパロディをやるというコンセプトにて書かせていただいたものとなります。
このあとがきでは作中の諸々の元ネタや裏設定、if展開などについて書いてみようと思いますが、クロスオーバー先のゲームのネタバレも含まれますのでご注意ください。
■クロスオーバー先のゲームについて
本作のクロス先は表題にもある『弟切草』というスーパーファミコン用ソフトでして、こちらは〈サウンドノベル〉というジャンルにおける草分け的存在として一九九二年にチュンソフト様より発売されました(のちにプレイステーション用ソフトとしてリメイク版の『弟切草 蘇生篇』が出たりも)。
いつだったか私はこのゲームのことを発売前に雑誌で知り、以来とても気になっていました。ゲームで小説を楽しむという一風変わったそのシステムにおおいに興味を惹かれたのです。そうしてしばらくしたころ、遠方に住む伯母のもとへ会いにいく機会があったのですが、そこで立ち寄ったデパートのゲーム売り場にて伯母がなにかゲームを買ってくれると言うので、私はガラスケースに展示されていた弟切草を見てすぐさまそれをねだらせていただきました。ちなみに一緒にいた私の兄のほうは当時発売されたばかりの『ドラゴンクエストⅤ』を買ってもらっていたような気がします。
そうして自宅に帰ってきた私は兄とゲーム機を取り合いながらも弟切草のプレイを開始することになったのですが、これは当時の私にとってなんとも恐ろしく、そして楽しい作品でした。おどろおどろしいグラフィック、ドキッとさせられる効果音の使い方、そして秀逸な楽曲の数々が当時の私をすっかりゲームの中の世界へと引きずり込んでしまいました。ミイラが登場するシーンに初めて遭遇したときは驚きのあまりゲーム機に足が当たってバグらせてしまったものです。ちなみにあのミイラ、ゲームの中では顔の半分だけしか表示されていませんでしたが、開発当時にスタッフの一人としてあそこのシーンを担当なさっていたグラフィッカーさんの話によると、もともとちゃんと顔の全体を描いていたものの容量の都合で半分に削ってしまわれたのだとか。
このゲームはスタートからクリアまで大体一~二時間ほどで済む内容なんですが、主人公が自身の行動を選択肢の中から選ぶ機会がいくつも設けられておりそこから分岐して色んなシナリオへと進んでいくというユニークなシステムになっていましたので、このゲームを熱心に遊んでいた当時の私はまだ見ぬシナリオを求めて繰り返しプレイしていたものです。そうしたこともあり本作第一話のラストは分岐を意識した締めくくりかたにしてみました。CやDの選択肢を選んでしまった場合、果たしてなにが起こるのか……。
■構成について
本作は弟切草の数あるシナリオのうち超能力をテーマにした「シャドウ編」を主軸にしているのですが、以下の各シナリオからも様々な要素を取り入れています。
▽火傷編
扉の隙間からこっそり覗く智子/電気ショックの罠/動けず天井を仰ぐ小宮山さんを尻目に弟を連れていこうとする智子/花の声を聞くことができるエピローグの智子
▽ライラック編
姉が幽霊/ひんやり冷たい幽霊智子の肌/智子が恋をし、想い人を幽霊にしてでも共に暮らしたいと願う/想い人と結婚しようとするミイラ/主人公の亡き父の存在
▽ぼくの海編
水槽の智貴(ゲームでもヒロインがドボンされて生死の境を彷徨うハメに)/水槽の動物(ゲームのほうだとワンコが一匹沈んでるだけですが、本作では智子が森のフレンズたちをペットにしたくて片っ端から手にかけていった結果あのような悲惨なことに)/弟に病的な執着をみせるお姉ちゃん
▽怪魚編
描写は省きましたが生前の智子が怪しい儀式に手を染めたのは、このシナリオに出てくる〈悪魔の書〉という、父の遺した本を見つけたことが発端ということにしています。ゲームでもナオミがこれを用いて弟の
▽モンスター一家編
終盤にてひとりでに鞘から抜けて智子にトドメを刺した剣はこのシナリオに登場する切り札的存在で、モンスターたちを瞬殺できるリーサルウェポン。
▽食欲の権化編
鎧にされたもこパパ
▽ピンクのしおり編
小宮山さんの存在そのものがピンクのしおり状態なんですが、ホテルやベッドネーム・コミィなどのネタはここから拝借してます。ちなみにベッドネーム云々は元ネタだとヒロイン・奈美の名にちなんで〈ナミィ〉というものが使われてましたが、カップルがその手の宿泊施設へとチェックインする際に時としてこのような偽名を用いることがあるのだそうな。あと些細なことですがホテル名はスーパーファミコン版だと〈弟切草館〉、プレイステーション版だと〈弟切荘〉となってます。
■小ネタについて
▽小宮山さんの後輩の女子
ちょこちょこ存在を匂わせていた子で、これはわたモテ本編に登場する小宮山さんの後輩にして恋のライバルである美少女・
▽ミイラが着ていたウエディングドレス
これはもこママが使っていたお古を智子が引っぱりだしてきたものです。
▽巨大水槽
原作ゲームでは玄関ホールに設置されていたもので、シナリオによっては中身がガソリンだったり硫酸だったりする場合も。本作では智子が自室(開かずの間)へとテレポートさせています。屋敷から人の気配が消えて以来、庭の弟切草畑には様々ないきものたちが足を踏み入れてきたのですが、智子は彼らを気まぐれに捕まえてはその霊魂を取り出すべく溺死させてきました。そのための道具として昆虫や小動物には風呂場の湯舟を、大きな動物には水槽を用いていたというわけです。動物好きの智子はとりわけ猫がお気に入りなんですが、山奥にはノラ猫なんて生息していないのでその埋め合わせとして自ら猫になりきっていたようです。
▽車
七二年に当時三十歳のもこパパが妻の初出産記念に購入した思い出の品としています。ナンバーの由来は千葉ロッテの鉄腕投手・小宮山悟選手の背番号〈14〉に加えて、件の投手の姓(こみやま→こみ→53)から。ゲームのほうでは謎の赤いクラシックカーだったんですが、本作では七一年式のフォルクスワーゲン1302S(通称スーパービートル)としています。
▽ゴンゲ
エピローグに出てくる小宮山さん一家の愛車の名前はゲームに出てくる〈怪魚〉というキャラの「ゴンゲ~」という鳴き声が元ネタ。本作では怪魚くんの出番がなかったのでせめて声だけでもと盛り込んでみました。
▽ヘビ・オオカミ・スズメバチ
弟切草における三大屋外エンカウントエネミーたち。ゲームでは序盤で屋敷に入ろうかどうか迷う主人公たちを追い込むために登場。ヘビは屋敷の中でも時折出現することがあるので、小宮山さんが電撃でダウンした際、智子が去り際に部屋の中へ群れを放つ展開も考えていました。
▽流星群
作中の九二年の夏は実際にペルセウス座流星群が例年にないほどの大きな規模で観測されたそうなので、それを話に取り入れています。
▽お風呂で絶叫する小宮山さん
もちろん千葉ロッテの八木沢監督のこと。ちょっと浦安鉄筋家族風味。ペナントレース開幕以来、監督の采配に不満を抱きつつも球団愛からその私情を抑えていた小宮山さんでしたが、突然の肉体的苦痛にさらされて場違いな本音が飛び出した模様。
▽小宮山さんたちが観戦した試合
実際に九二年の八月八日にマリンスタジアムでおこなわれた西武対ロッテ戦。動員三万九千人の大盛況な試合だったそうな。ちなみにロッテ側の先発は小宮山投手。なお試合結果は……。そしてこの年のペナントレースにおけるロッテの最終的な成績は……。
▽モツ煮
小宮山さんが球場でモツ煮を買いがてら天気予報名人の店主*1に今晩の天気を予想してもらっていて、ラストシーンで「おじさんの天気予報、当たったなぁ」と感心するくだりをどこかに仕込みたかったのですが結局できずじまいでした。
▽漫画
もこママの能力を知った小宮山さんが引き合いに出したのは『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の主人公が持つ超能力のこと。作中の九二年は丁度第四部の連載が始まってしばらくしたころなので、小宮山さんはこれのリアルタイム読者であるとしてます。
▽謎の花かんむり少女、エピローグの弟切草畑の声
これらについてはもっとも想像の余地を残しておきたい部分でしたので作中での説明をあえて省いています。ですので読者諸氏におかれましてはぜひご自身なりの解釈をなさっていただけますと幸いです。
■もこママについて
智子の母(以下、ママ)についてもある程度設定を考えていまして、それはこんな感じです。
本物の超能力少女として新聞に載ったこともあるママはしかし、人々から奇異の目で見られたり他人の心の中が読めるせいですっかり人間嫌いになっていました。ですが高校生のときに、駆け出しの超能力研究家であった青年(以下、パパ)と出会い彼の研究に協力するうちそのまっすぐな人柄にいつしか惹かれるようになり、やがて二人は結ばれます。
暴走気味だったヤングママの超能力もパパが考案した制御訓練のおかげですっかり落ち着き、意図せず他人の心の声が聞こえてしまう苦しみからも解放されます。おかげで苦痛だった人ごみが平気になり、パパと一緒に東京オリンピックを見に行ったりもしました。
パパが鎧の中に封じ込められてしまうようなことがなければ智子は適切な制御訓練を受けることができ、結果として力の暴走も抑えられ、大好きな弟と暮らせていたはずなので、パパの実質的な死こそがファミリー崩壊の原因ということになります。研究者ではないママでは娘を訓練しようにも付け焼き刃なことしかしてあげられなかったようです。
■悪魔の書について
生前の智子が弟を呼び寄せるために用いた儀式は、父の遺した〈悪魔の書〉という本に載っていたものであるというのは前に述べた通りですがこちらについてもう少し説明をば。智子がこの儀式のことを知るまでには以下のようないきさつがありました。
学校にも行かず日がな自宅にこもりっきりの智子は暇で仕方がない。そんな彼女はやがて父の蔵書に手を伸ばし、有り余る時間を使って片っ端から読み漁っていました。父の書斎には蔵書に限らず研究資料の類も沢山ありましたので、これらにも一通り目を通していった智子はやがて知識だけなら一端の研究家に匹敵するほどとなったのですが、さりとてその知識を母の望み通り己の超能力の封印に役立てようという気はさらさらありません。それどころかこの力をもっともっと伸ばしてやろうと考えているほどでした。
そんな智子はあるとき父の手記の中でほんの少し言及されていた〈悪魔の書〉なるものに興味を抱きます。父曰く古今東西の魔術・妖術の中でもとりわけ危険なものが記されたそれは、邪教・悪魔崇拝・土着の呪術文化といった分野に関する自身の研究成果を取りまとめたものだという。
こんな本があるとは初耳だ。いったいどこにあるのか。いまやすっかり父の蔵書の内訳を知る智子でしたが件の私家版は見かけたことがありません。もしや屋敷のどこかに隠されているのではと、そう睨んだ智子は捜索を開始します。
だからといってほうぼう駆けずり回るような真似はせず、智子が選んだのは自らの直感力を用いたもの探し。複数枚のカードを屋敷の間取りに見立て、そのひとつひとつに対して己の勘を働かせていくという調べ方でした。これによって本らしきものがあるかどうかを各部屋ごとに探っていくつもりだったのですが、しかし結局この方法は空振りに終わります。調査の結果、屋敷の中で本の類が置かれているのは自分の部屋と父の書斎、そして母の寝室のみであると判明したのですが、このうちあまり出入りすることのなかった母の寝室へとこっそり忍び込み直接その目で確かめてはみたものの、あるのは日記帳やアルバムに趣味の書籍と私用のノートぐらいなのでした。
が、しかし。もしかして……と考えた智子は天井に目を向けます。この屋敷には屋根裏部屋が存在していたのですが、先のカード占いで反応しなかったはずのそこがやけに気になってきたのです。そうしてすっと浮きあがった智子はそのまま壁をすり抜けて天井裏へ移動します。
お母さんがなにか仕掛けをしている。屋根裏へと入っていく際、妙な抵抗を感じた智子はそこに母の思惑があることを見て取りました。これはひょっとしてひょっとするかもしれないと、力を強めた智子が室内全体に感覚を張り巡らせます。
これに違いない。部屋の隅へ隠すようにして置かれていた小さな金庫を見つけた智子は、この中にこそ目当ての本が隠されているのだと確信します。果たしてそれはありました。智子がアポート能力によって金庫の中身を取り出してみたところ、いくつかの資料とともに〈悪魔の書〉が見つかったのです。智子の父は生前、この恐るべき本が誰の手にも渡らないようにと自身の妻に託していたのでした。
そしてこれこそがのちに智子を死に至らしめる原因となってしまい……。
■if展開について
構想していたものの没にした展開のひとつに智子と智貴の結婚式というものがありまして、これは作中で結局出せなかった一階のダンスホール(若りしころのパパママが描かれた大きな絵画が飾ってある)にて挙式の真似事をするというものでした。
立会人代わりのミイラが見守る中、花嫁衣装の智子が椅子に縛られた弟に「ほら、姉ちゃんきれいだろ……? これ、お母さんのドレスなんだ」と語る場面がありまして、そのまま死の接吻(魂を抜く即死技)をしようと迫ったところ、車に乗った小宮山さんがホールの窓を突き破ってカチコミをかけるという流れになります。
車はママの力で超強化されていて智子の直接的な攻撃にもなんとか耐えうるスーパーカーと化しているんですが最終的に大破させられることに。しかしパパの無敵剣を装備した小宮山さんによって智子はようやく退治され智貴も無事救出されるという流れになります。
*
ここから先の展開もあらすじ形式にて書いてみます。
燃え盛る屋敷の中でどうにか脱出口を見つけた琴美たち。しかし智貴は姉の遺体であるミイラだけでもこの館から持ち出したい一心で、先に脱出を果たした琴美の制止を振り切り、「必ず戻ってきますから」と言い残して再び屋敷の中へと姿を消してしまう。智貴はここに来てようやく幼いころの記憶をすべて取り戻したものだからいても立ってもいられなくなったようだ。
しかし待てども一向に避難場所へ戻ってこない彼に不安を募らせる琴美。降りしきる大雨をものともせず激しく燃え続ける屋敷であったから、とうとう建物すべてが炎に包まれ、そして焼け落ちていくその光景に、智貴の生存が絶望的であると悟った琴美は慟哭する。
そうしてどれだけの時間が経ったのか、極度の疲労と精神的ショックで気絶していた琴美はふと目を覚ます。時刻は明け方で遠くの空に明るみが見られ、いつのまにか雨はすっかりあがっていた。鎮火したもののすっかり黒焦げになっていた屋敷の残骸の上をふらふらと歩く琴美。
いるはずのない生存者を放心状態で探し続ける彼女はしかし、残骸の中になにか人間のような黒焦げの塊が同じく黒焦げの車椅子に座っていたのを発見する。もしやと思い近寄ってみればそれはどうやら智子のミイラのようだった。だけどもミイラは自身の膝元にある塊のようなものを抱き込むようにしてうずくまっていた。焦げた毛布に包まれたやけに大きなその塊が気になって、琴美は毛布を剥ぎ取ってみる。するとそこには智貴の無事な姿があったものだから仰天せずにはいられなかった。
炎上する屋敷の中でやっと姉の遺体のもとまでたどりついたものの、力尽きてミイラの膝元にすがりつくような姿勢のまま気絶してしまった智貴。そんな彼をどうやらミイラが不思議な力で守ってやっていたらしい。彼の無事を見届けたように、炭となったミイラはボロボロと崩れ落ちてしまった。
やがて琴美の膝の上で目を覚ました智貴は、夢を見ていたことを語る。それは幼い姉が彼に別れを告げるという内容だった。幼い姉は自身の気持ちを打ち明けていく。弟が家を出ていってから今までずっと苦しかったこと。いつしか自分の中に制御できない怪物のような心が芽生え、それに支配されてしまったこと。そして今、それからようやく解き放たれたことを。お嫁さんになってあげられなくてごめんねと、お姉ちゃんがいなくても泣いちゃダメだよと、最後にそう言い残して姉は去っていったという。そう淡々と語る智貴ではあったけれど彼の声はもはや震えを隠しきれなくなっていた。とうとう嗚咽を漏らして泣いてしまった彼の頭をそっと優しく撫でてあげる琴美。家を出てからずっと泣くのを我慢していた彼だったから、今だけはこれまでの分までうんと泣いていいんだよと慰めてやる。
やがて朝日が山の稜線から差し込み、琴美たちのいる辺り一帯を照らす。そこで二人は気づいた。庭に広がっていた花々がいつのまにか弟切草ではなくなっていたことを。その代わりに紫のライラックの花が辺り一面に広がっていたことを。
「ライラックの花言葉……」
花々を見た琴美がふと呟く。その言葉の続きを口にすべきかためらったものの、知りたがった智貴のために再び口をひらいた。
「花言葉はね……初恋の、痛み…………」【終】
という感じの、原作ゲームにおける「ライラック編」をもとにした結末なんかも考えたりしていました。
■没になったエンディング案について
小宮山さんと智貴の物語はあのような形で結末を迎えましたが、あちらとはまた異なる結末もいくつか考えていました。
ひとつは、もこママの介抱によって一命を取りとめた小宮山さんがそのまま恐れをなして車で一人逃げ帰ってしまった場合の結末。智貴は殺されてしまい成仏できぬ霊となってあの館で智子とずっと暮らし続けることになるんですが、智貴を見捨ててしまったことを激しく後悔する小宮山さんが屋敷近くの丘の上(原作ゲームにもちょこっと出てきます)に智貴のお墓を作り、以後毎年夏に必ずお参りしにいくようになったというもの。ずっと独身を貫く小宮山さんが、丘の上から見える屋敷を眺めつつ「きっとあの家族は今もあそこで一緒に暮らしているのだ」的な感じで物思いに耽るという寂しい終わり方です。
もうひとつは、小宮山さんが智貴と一緒に日記部屋の窓から無事脱出できた場合の結末。自爆する機会を逸した智子は館が焼失したあとも現世に留まるんですが、すでにその力の大半を喪失していました。人間の姿を保つことすらできなくなった智子は人魂のような姿(モブサイコのエクボ的なのをご想像ください)となり、脱出後の小宮山さんたちにこっそりくっつく形で下山します。そうして以後は自由奔放な浮遊霊として智貴の家に住み着くようになるという終わり方です(こちらの結末では智貴が記憶を完全に取り戻すことができなかったため姉との思い出は朧げなまま)。
■エスパー琴美(没案からつながる続編案)
前述の没エンディング案に登場するエクボな智子は、持前の超能力はすっかり弱体化したもののそれでも悪戯的なことをするぐらいはできるため、智貴が小宮山さんと会うたびその力で度々二人の仲を邪魔したりします。そんな智子を疎ましく思いつつも妙に憎めないでいる小宮山さんでしたが、ひょんなことから二人の距離が大きく縮まることに。
幽霊らしく一応は人に憑依できなくもない人魂智子でしたが、余程条件が揃わなければ実現できないはずのそれがなぜか小宮山さん相手だと労せずしてできそうだということに気づきます。「魂がよごれる!」などとほざき、大嫌いな小宮山さんの体に憑依するだなんて頼まれても嫌だと思う智子ではありましたが、肉体があるからこそできる諸々の楽しみ(特にハンバーガーとテレビゲームと性行為に興味津々)を味わいたくて、結局なんのかの言い訳しつつその体を乗っ取ろうと試みます。しかし憑依自体はできるものの小宮山さんの心が非常に強いために体や意識の主導権を奪うことができずその結果は中途半端なものにしかなりませんでした。
しかしここで不思議なことが。すっかり弱体化していたはずの智子の超能力が、小宮山さんの体に宿っているときに限りある程度のレベルまで復活したのです。それがどういう理由によるものなのか知る由もない二人でしたが、ともあれ智子をその身に憑依させることで小宮山さんは超能力を使えるようになりました。
密かに憧れていた超能力者になれたことを喜ぶ一方、力に溺れて智子のようになってしまってはいけないと己を戒める小宮山さんでしたが、そんな彼女を智子がそそのかします。我慢なんてしなくていい、好き放題やっちゃえばいい、選ばれた人間である超能力者にはその権利があるのだと、そう言って異能の力を存分に振るうよう勧めます。智子自身、幼少期からずっと母親にそこの辺りを抑圧されてきたので、せっかくの力をわざわざ自制するような考え方には我慢がならないようです。
そうした智子の誘いにあっさり乗せられてしまった小宮山さんは「じゃ、じゃあちょっとだけ……」と、諸々の能力の扱い方についてレクチャーしてもらうことに。智子の補助を受けつつ超常現象を発現させていく自分に小宮山さんはすっかり興奮してしまいます。
いまや彼女はエスパー琴美。テレキネシスなぞ朝飯前で、空を飛ぶのも自由自在。壁のすり抜けは勿論のこと瞬間移動すらもできてしまう。全盛期の智子の力とは比ぶべくもないけれど、それでも小宮山さんにしてみればものすごいことでした。
透視はできるのかと小宮山さんが問えば、そんなの簡単だと答える智子が早速そのやり方を教えます。すると小宮山さん、なにを思ったのか急にテレポーテーションをおこないます。転移した先は大学の体育館のそば。そこにはこれから始まる部活の準備をしていたユニフォーム姿の智貴がいました。そうして小宮山さんはなに食わぬ顔で彼に声をかけるのですが、そこで彼女はなにかを見通そうと目を凝らし始めます。
「やめろ──! このド変態がッ!」
叫ぶ智子が咄嗟に憑依を解いてしまいました。小宮山さんが透視能力を悪用して智貴のナニナニを見ようとしていたことを察したからです。コイツに力を好き放題使わせるとロクなことにならないと、智子はこの一件以降すっかり警戒するように。
それでも時折あれこれ交換条件を付けては小宮山さんの要請に応じてあげることもあり、以後は二人でひとつの凸凹エスパーコンビとして色んな事件に首を突っ込んでいくのですが、智子としてもこうした活動を通して世の中を見て回るのは楽しかったようで、相方とのエスパー稼業がまんざらでもなくなっていきます。超能力に限らず時には智子の生前培ってきた父親ゆずりの知識が小宮山さんの役に立つこともあり、それは常識では考えられない不可能犯罪や怪事件と遭遇した際に力を発揮するのでした。そうしてかつての仇敵と奇妙な協力関係を築いた小宮山さんは、お義母さんの形見でもあるスーパーおんぼろマシン・ゴンゲカーを乗り回す超能力お姉さんとして一部の人々のあいだで有名になっていったのかもしれません。
ちなみに小宮山さんがエスパー稼業を始める気になったのは、大学で起きたある事件を解決したことがきっかけ。この事件を起こしたのは井口さんだったのですが、長年恋焦がれてきた相手がいつのまにかメガネの変な先輩と一足跳びで親密になってしまったことを悲観しての犯行でした。この事件は早々にかたがついたため大事に至らずに済んだのですが、以降小宮山さんは井口さんとも接点を持つようになっていきます。
*
この続編案『エスパー琴美』の幕開けとなる事件のあらましはこうです。
小宮山さんの通う大学で上演されることとなった舞台〈シンデレット〉。これに智貴が出演することを知った小宮山さんは、ぜひとも劇を成功させねばという思いから裏方での参加を希望し、小道具班へと加えてもらうことに。しかし本番当日、どんなアクシデントも防げるようにと超能力全開で劇のなりゆきを見守っていた小宮山さんの頭に突然『死ネ!』というくぐもった声が響きます。劇場にいる誰かから放たれた強い思念を小宮山さんの脳が無意識にキャッチしたのです。
「えっ、うそっ、ホンモノっ!?」
受け取った思念には発信者が今抱いているであろう『思惑』──それも殺意と呼べるほどのものが含まれていたため、小宮山さんはこれから何が起こるのかを直感します。井口さんと共にダブルキャストとして主役のシンデレットを演じていた
「ちょっと紗弥加ー! 死んだフリ死んだフリ!」
一体なにをふざけているのかと慌てた監督が舞台袖から指示を飛ばしたため、紗弥加は困惑しつつもそのまま倒れ込む演技をし、劇は無事幕を下ろすことに。しかしそれから間もなくナイフが本物であったことが出演者ならびにスタッフへと知れ渡り、その後の公演は急遽中止される運びとなります。一体誰がナイフをすり替えたのか。そのチャンスがあったのは誰なのか。あ、なんかあの人っぽい。ほらあれ、臨時で入った助っ人の……。これ、もしかして小宮山さんの仕業なんじゃ……? 次から次に出てくる状況証拠の数々はそのいずれもが小宮山さんの犯行を裏付けるものばかりでした。舞台稽古中に紗弥加が意図せずして智貴にがっつりとキスをかましてしまう事故があった際、半狂乱となった小宮山さんが騒ぎを起こしていただけにあの人ならやりかねないと思われてしまいます。んなバカな。私じゃない。犯人はあのとき聞こえた声の主に違いない。誰かが私をはめようとしてるんだ。そう確信すれども周囲からはすっかり犯人扱いで、状況は悪化する一方。自分を信じてくれる智貴の存在だけが救いだけれどもこのままじゃいられないと、超能力を駆使した小宮山さんの独自調査が始まります。
この事件の山場についても場面の抜粋という形で書いてみます。小宮山さんを窮地に追いやった今回の出来事が実は主演女優である井口さんによって仕組まれていたのだと判明したところから。
「紗弥加さえいなかったら、智貴くんは先輩より私を選んでくれたはずなんです……。でも紗弥加のせいで……ぜんぶ、ぜんぶあの子が台無しにっ……!」
愚鈍な親友への積もり積もったその恨み節が、朱里の口調を自然と芝居じみたものにする。衣装を身にまとい、無人の観客席に向けてステージ上で台詞を発する彼女の姿は本職の舞台女優さながらであった。
「あの子、いつからあんなふうになっちゃったんだろう……。紗弥加ってほんとバカだから余計なことばかりして……。そのせいで先輩に智貴くんのこと、取られちゃうんだもんなぁ……。それなのにあの子、『もっといい彼氏見つけなよ』って……。いい加減にしてほしかった。お願いだからもう私の人生から消えてよって、そう思っちゃいました……」
おのが親友を亡きものにせんとし、更にその罪を恋敵に着せるという一世一代の犯罪計画は琴美の活躍によって事なきを得たものの、朱里の内に秘められた情念の疼きはいまなお彼女を悶えさせる。ポッと出の琴美に最愛の人をまんまと奪われてしまったのは、すべて思慮の浅い親友のおせっかいが招いたこと。そうした被害者意識に朱里は取りつかれていた。
「ズルいですよ先輩……。なんで全部わかっちゃうんですか? どうして私の邪魔ばっかりするんですか……?」
エスパーと化した琴美の前ではいかなる知能犯であっても一切の隠しごとができない。そしてまた、口封じのための暴力も通用しない。智子ゆずりの超能力によってその企みをすべて暴かれた朱里には逆上して襲いかかることすら許されず、うなだれたまま自身の無力さをなげくことしかできなかった。
「邪魔する人はみんないなくなっちゃえばいいんです……。紗弥加も先輩もいなくなれば、智貴くんだってきっと……私のことを……」
顔を上げた朱里がつぶやくが、それはすがるような思いで自身に言い聞かせているようにも、あるいは自棄となって露悪的なうわごとを口にしているだけのようにも見える。彼女の濡れそぼつ瞳には底なしの暗黒が宿ったままであった──。
という感じの犯人自白パートがあったわけなんですが、実際のところ井口さんが犯行を決意したのはキス事故のときだったりします。折しも失恋のショックで相当に心が弱っていた井口さんでしたが、追い打ちをかけるように紗弥加が人の気持ちを逆撫でするような言動を繰り返したことで精神状態が悪化。親友への怒りが限界を超えて絶望へと転じます。そこへトドメとばかりに不幸なハプニングが重なった瞬間、「あっ殺さなきゃ」という考えに囚われてしまいます。紗弥加に詰め寄るやべー奴状態の小宮山さんがスタッフに取り押さえられ連行されていくのを見届けた時点で井口さんは早くも計画の全体像を具体的に思いついており、実行に向けてすみやかに動き出すのでした。
ともあれ山場のあと井口さんは紗弥加のもとへ向かい、自分が真犯人であることを明かします。そのうえでこれから自首するつもりであることも告げます。これは付き添いの小宮山さんも納得ずくのことでしたが、しかしそんな井口さんを紗弥加は強く引き留めます。悪いことなんて何も起きていない、だから朱里は悪くないんだよと、震える声でそう言い張るのです。そしてまた、どうか親友を許してあげてほしいと小宮山さんへ涙ながらに懇願します。
ですが犠牲者が出なかったとはいえ殺人予備罪ほか諸々の罪に問われそうな井口さんの扱いに小宮山さんは悩みます。犯人をどうとっちめてやろうかと思っていたものの真相を知ったことで井口さんへの同情が生まれた小宮山さんでしたから、命を狙われていた紗弥加自身がこれほどまでに庇い立てるのなら不問にしてあげてもいいような気がしてきたのですがそうもいきません。この事件は紗弥加が無傷で済んでいたことから大学側も警察への通報を保留していたためひとまず学内調査という形で委員会が内々に真相の究明をおこなっていたのですが、彼らもまた小宮山さんへ嫌疑を向けていたからです。井口さんのほうもこの期に及んで罪から逃れるつもりはなく、自首するのだと言って譲りません。
「私がしたことちゃんとわかってるの? 許す許さないの話で済むと思ってる紗弥加は本当にバカだね」
「わたしバカだもん、朱里の言ってること全然わかんないよ!」
井口さんと紗弥加は互いに退かず口論となり、しまいにはつかみあいのケンカへと発展。しかし最終的に紗弥加が押し切る形となり、事件は彼女自らがスケープゴートに徹して事態の収拾を図ることで落着を迎えます。当然紗弥加はいろんなところから怒られる羽目になるんですが、己の独善的なおせっかいやデリカシーのなさが親友を追い詰めてしまったのだと自覚した彼女にとってこれはせめてもの償いのつもりなのでした。
しかしどんな事情があったにせよ一線を越えてしまった井口さんでしたから、もはや紗弥加と元の鞘へ収まることはありませんでした。紗弥加がどう庇おうとも井口さん自身が己の仕出かしたことを許せなかったからです。
「紗弥加、今までありがとう。紗弥加は昔からずっと私の味方でいてくれたんだよね。なのに私、そんなことも忘れてたみたい。私にはもう紗弥加の友達でいる資格なんてないんだ。だから……」
一方的に別れを告げる己の態度が親友を更に傷つけるのだとわかっていてもけじめをつけずにはいられない井口さんでしたが、こうでもしないと罪悪感に押しつぶされてしまいそうだからという事情もあったりします。親友との関係に限界を感じたというのも正直なところであり、殺意を抱いてしまうほどに己を苛んだ紗弥加のこれまでの所業を水に流すこともできない井口さんにとって、かつて自分を支えてくれた愛すべき人はもはや距離を置くしかない存在となってしまったのでした。
そうして井口さんの気持ちの整理がついた頃、彼女は小宮山さんへ感謝の気持ちを伝えます。もし本当に紗弥加を殺してしまっていたら自分は死ぬほど後悔していたに違いない。そうならずに済んだのは小宮山さんが不思議な力で紗弥加を咄嗟に守ってくれたから。道を踏み外してしまった自分を力ずくで止めてくれた先輩には返しきれない恩ができた。そのようなことを語る井口さんはしかし、小宮山さんを陥れようとしたことへの負い目を感じてもいるよう。どう償えばいいのか、何が償いになるのか、それをこれからずっと考え続けなくちゃいけない。簡単に許されていいなんて思えないし、今回のことを一生背負っていくつもりなのだと口にする彼女は、本来与えられていたはずの刑罰を回避したことでかえって苦しんでいるようにも見えました。
言葉を続ける井口さんは事件当時の心境についても打ち明けます。紗弥加が助かってしまい目論見が崩れたものの、それでも当初の計画通り恋敵へと罪を被せるべく暗躍していた井口さんでしたが、あるときを境に全てが虚しくなったとのこと。それは小宮山さんが周囲から疑われる中にあってただひとり智貴だけが潔白を信じ続けたため。周到に用意されたカバーストーリーや状況証拠にも決して揺らぐことのない智貴の一途さを目の当たりにするうち、己の企みが最初から無意味であったことを井口さんは理解させられたのです。そんな智貴だからこそ決して私を許しはしないだろうと、井口さんは付け加えます。憎き邪魔者たちを消し去ってしまえば想い人の心が自分に向けられるはずだという短絡的で妄想じみた考えに取りつかれて凶行に手を染めてしまったことを智貴に知られたらどうなるか。真犯人への強い憤りを滲ませていた智貴でしたから、計画への暗い熱意を失って以降の井口さんは真相の発覚をひどく恐れるようになりました。周囲からいわれのない非難を受ける小宮山さんのためにも早々に自首すべきだと思いはすれど、なまじ完全犯罪を目指し手を尽くしていたためにこのまま黙っていればバレることはまずないという状況ができあがっていたこともあり結局は保身に走ってしまいます。しかし相手はエスパー琴美。超常の力によってあらゆる想定外が押し寄せた結果、己の犯行を完膚無きまでに暴かれるという形で観念せざるを得なくなります。
事件ののち、智貴とキャンパスですれちがったり講義室で同席するときも合わせる顔がなくて極力身をひそめたり遠ざかるようになった井口さんは日々いたたまれない気持ちで過ごしており、近頃では自主退学すら考えているとのことでした。そんな井口さんの心の内を知った小宮山さんが諭します。犯した罪を心から反省している井口さんを小宮山さんが許している以上、智貴としても井口さんを今更責める気などないのだということ。むしろ彼は今回の事件が自分のせいで起きてしまったのだと捉えており心苦しく感じてすらいること。長く親交のあった井口さんから受けてきた数々の親切を智貴は忘れておらず、それだけに井口さんには立ち直ってほしいと思っていること。これまで井口さんが智貴を避け続けてきたため伝えられないでいた彼のこうした本心を、小宮山さんはこれを機会にと語って聞かせます。
「ああ……やっぱりいい人だなぁ……」
小宮山さんの話を聞き終えた井口さんが溜息まじりにつぶやいたその言葉には、彼女の胸に去来する様々な思いがこめられているようでした。
そんなこんなで事件は幕を閉じますが、さて人魂智子は一連の騒動をどう見ていたかというと、実は初めから井口さんの不審な動向に気が付いていたのです。最初のうちは「なにしてんだコイツ?」ぐらいの気持ちでその密かな行動を覗き見ていた智子でしたが、どうも殺人計画の仕込みをしているらしいと見抜き、更には小宮山さんに罪を着せようとしていることもなんとなく察します。「こりゃおもしれーもんが見れるぞ」とワクワクした智子はそのままことの成り行きを傍観することに。そのせいで色んな人が苦しんだり困ったりした訳ですが、智子のこうした悪意を知った小宮山さんは呆れ果てると共に怒りを覚えます。
「おまえなー、知ってたんなら最初っから教えろよ! マジで死人が出てたらどうするつもりだったんだ!?」
「だから力貸してやったろー? 私の超能力がなかったらこみさん今頃ブタ箱行きだったかもなー」
悪びれることもない智子が「私に感謝しろよな」などとほざくので、小宮山さんは「こンのクソ悪霊……!」と歯ぎしりせずにはいられません。そうして「あーおもしろかった~。フヒヒヒッ」と煽るように言い放つ智子が高笑いを残して飛び去っていきます。
(くそが──!! そのうち絶対成仏させてやるからな──!!)
やり場のない怒りで顔を真っ赤にし、心の中で吼える小宮山さん。幽霊相手では腹が立っても手を出せないからその悔しさはひとしおです。自分と智貴につきまとう人魂智子が油断のならない相手なのだということを改めて思い知る小宮山さんは前途多難を予感しますが、敵とも味方ともつかない性悪幽霊との奇妙な日々はまだ始まったばかりなのでした。【エスパー琴美シリーズ①『首切りシンデレット』より】
なお、エスパールートに進まない本筋ルートの場合は智貴の入院がより長引く影響で彼はシンデレットへ参加させられずに済み、それゆえ事件の発生自体が回避されることになります。
*
『エスパー琴美』の最終回的なものも考えていました。小宮山さんが大学卒業を間近に控えた時期の話になりますが、このころの智子はややもすると意識がぼんやりしがちに。近頃やたらと眠気に襲われるものだから、幽霊だから睡眠なんて必要ないはずなのにと智子自身も妙に思います。そんな中であるときいつものように一仕事終えたエスパー琴美が憑依を解こうとしたのですが、どういうわけか智子が体内から出ていかなくなってしまいます。心の中で呼びかけてみても返事はなく、それどころかそのまま自分の中で智子の気配が消えてしまったような感覚が小宮山さんにはありました。小宮山さんが一時期模索していた智子の成仏の条件とは「弟が姉との記憶を完全に取り戻すこと」だったのですが、それがついぞ叶わないまま転生の準備が始まったため、智子は小宮山さんの中に埋没していったという訳です。
いつもケンカしてばかりいた智子だったけれど、いなくなるとなんだか寂しい小宮山さん。姉の霊を疎ましがっていた智貴だって顔には出さないけれど胸にぽっかり穴が空いたよう。突然訪れた智子との別れを惜しむ二人でしたが、いやおうなくエスパー稼業を引退した小宮山さんは大学を卒業していきます。そうしてのちに最愛の人と結婚した小宮山さんは一人の女の子を産むことになり……という感じで、本編とはまた違った道筋をたどりながらエピローグに繋がっていくというお話でした。
■本作品の成り立ちについて
この作品を書き始める少し前の話ですが、『スウィートホーム』というかつてファミコンにて発売されたハウスホラーもののゲームがありまして、これとわたモテとを組み合わせた二次創作小説を書いたことがありました。しかしこの作品は舞台となる呪いの館へと主人公たちがやってくるまでの導入部のみを描いた短篇であり、ハウスホラーものとしてはなんとも中途半端な感が否めませんでした。そのため改めて同じ方向性でわたモテ小説を書いてみたいということで、子供のころに出会った印象深いハウスホラー作品である『弟切草』のパロディをやろうと思い立ち執筆に至った次第です。
ちなみに本作はその昔に作者が温めていたものの結局没になった『帰ってきた智くん』という別にホラーでもなんでもない作品案が下敷きになってたりします。この没案の概要としては、小三のころに他所の家に預けられていた智貴が中三になってまた黒木家で暮らすことになったので、嬉しいながらもおっかなびっくりな智子が弟に幻滅されないよう奔走するというもの。
姉弟は長らく手紙や写真を送り合って交流してきたのですが、成長していく弟の姿を写真で見るうちいつしか智子は彼を異性として意識するようになってしまっていたという感じなので、弟が実際に帰ってきた当初はめちゃんこ緊張することに。ただ、それまでの文通の中で智子は自分を良く見せたいあまりホラ話を度々披露してしまっていたので、現実の姉と会ってその虚飾が次々と剥がれ落ちていくのを目の当たりにした智貴が度々困惑。
かねてゆうちゃんに弟の写真を見せては「これ私の彼氏」とホラを吹いていた智子でしたが、弟を連れて久方ぶりの故郷を色々案内してやっていた際にゆうちゃんと出くわし、すったもんだの末に結局そのことが弟にバレてしまい益々二人のあいだに微妙な空気が流れます。智子の方も弟が幼いころのように自分を無条件に慕ってくれるものと都合良く期待していたフシがあったので、それに沿わない智貴の無愛想な態度に段々と苛立ち始め……。
そんなこんなで同居を始めた二人はやがて衝突するようになっていくんですが、そうした軋轢の末に智子が「お前なんか弟じゃねえ、出てけ!」と暴言を吐いたため、そんな姉に失望した弟が同居をとりやめにすると言い出し荷物をまとめて育ての親のところへ戻ることに。せいせいしたぜと毒づく智子だったけど、そのうち幼いころの智貴が家を出て行ったときの悲しみが蘇ってきたものだから大急ぎで弟を追いかけていって胸の内を曝け出し涙ながらに「一緒に暮らしたい」と本心を訴えます。
そんな智子の懇願を受けた智貴は前途多難を予感しながらもこの難儀な姉と一緒に暮らすことを決意し、いつまでもベソをかいてる姉を促して一緒に黒木家へと引き返していくんですが、本当は智貴もお姉ちゃんと一緒に暮らせる日を夢見ていて、だけどもそれは言葉に出さなかった……という感じで終わるお話でした。
結局小宮山さんを交えて弟切草の世界と融合させていく過程でほぼ別物になりましたが、こんな感じのお話を下敷きに本作を書かせていただいた次第です。
*
『カエッテキタトモクン』のこぼれ話については以上となります。最後まで読んでくださりありがとうございました。