平凡な男と白髪の少女   作:ふれあすたー

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貴方、私

「なぁ、今から行く白石第二工場跡地ってのはどんな所なんだ?」

「聞いて名の通り、ただの跡地さ。まぁ建物はある程度残ってはいたけどな」

「…そこに初代がいたってのか?」

「昔な。今は知らん…っと着いた」

車で約20分程、街の端っこに位置するこの工場はお世辞にも大きな工場とは言えなかった。そして何より建物自体の損傷も激しかったのだ。

「過去にここでは大きな爆発事故があったんだよ。そのせいで工場は潰れた。がしかしこんな所に金を割く理由もないってんで建物の取り壊し自体はなくなったんだ」

「…原因は?」

「ガスがどうやら漏れていたらしいが…真相は分かりかねるな。そもそもガス工場だったかすら怪しいからな」

確かに周りも見てみてもガスタンクらしきものは何も無かった。爆発で消し飛んだ、というのもあるだろうがどちらにしろガス工場ならもう少しはタンクがあったであろう区画があってもいいと思うのだが。

「ここが入口だ」

重々しく、錆びた扉が行く手を塞いでいた。多分、この先に何かがあるはず。

「開けるぞ」

「あぁ」

ゆっくりと錆び付いた扉を開ける。

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中は思ったより綺麗であった。

外観とは似合わず、また人が出入りしてるであろう痕跡もある。

「確実に誰かいるな」

蜘蛛の巣があちこちに張られていてなんとも気味が悪い。薄暗さがまた雰囲気を出す。

「…この奥、だな」

何者かの気配を感じた。遠くはない。むしろ近い。

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに居たのは鎖で拘束されたシナであった。

「シナ!」

すぐさま俺はシナの元へと走っていく。

「シナ!起きろ!」

「……ぅ…ん…」

良かった…なんとか息はあるようだ。

早めにこの拘束を…

「…!危ねぇ!」

突然の言葉に思わず身体が動く。

天井から何者かが降ってきた。

「…よくもまぁのこのこと…怖くないのかい?」

「さぁな。怖くないかもな」

「それは何故?」

「シナの為に決まってるだろ」

「…やっぱり、そうなると思ってたよ」

そいつは分かっていたかのように笑い始める。

「…で?助ける為の障害が発生したみたいだけど…君はどう対処するのかな?」

「殺す。それ一択だ」

「逃げるって選択肢も与えようか?」

「いると思ってるか?」

「まぁいらないとは思っていたけどね」

影魔はこちらにゆっくり身体を向ける。

「さぁ、最終決戦と行こうじゃないか。隼人、水原」

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「そらぁ!」

「遅い遅い」

「ふんっ!」

「やる気ある?」

先程からこの調子だ。先生と俺が連携を取り隙なくきっちり攻めている、はずだった。

それを影魔はまるで赤子を相手しているかのように捌いていく。

「…なんで手を出さないのか、教えてあげようか?」

「…なんだと?」

「簡単に殺しちゃうとつまらないからだよ。まだお姫様も起きてないことだし…ね?」

くすくすと面白そうに影魔は話を続ける。

「貴様ァ!」

「おっと怖い怖い…余計火をつけちゃったかな?」

先生が綺麗なコンビネーションを決めにいくがそれすらも全て避けられる。

「でも二対一ってのも不利だしつまらないよね?だから…」

「…!先生!避けろ!」

今まで避け続けてきた影魔は突如先生の方に拳を突き出す。

その拳は見事にみぞおちを狙っていた。

「がっ…!」

殴られた先生はそのままシナの方へと吹き飛ばされる。

「先生!」

「ま、こういう訳で。これで正々堂々のタイマンになったね」

「…てめぇ」

「怖い顔しないでよ。僕は君と話したいんだ」

影魔はニコニコとした顔でこちらに近づいてくる。

「…僕はね、最初は君達を見ているのが楽しかった。柄にもなく『もしかしたら殺さない方がいいのかもしれない』と思うほどにはね。だからこそ手出しはしなかった。だけど上はそれを許すわけがない…それは分かるよね?」

「…あぁ」

「僕は必死に抗ったよ。君達の邪魔をするものを何とかして処理するためにね。そしてそれは成功していた」

最初はね。と付け加えた。

「いつしか連中が牙を向ける対象は彼女から僕へと変化していった。それでも折れはしなかった。平和が保たれるならそれでね」

「ならば…」

「とある日、僕に警告が届いた。『これ以上の邪魔をするならお前の大切な物を破壊する』とね」

「…!未来の連中か!」

「気になってたでしょ?なんで初代がずっとここで隠居生活なんか送ってたのか」

気にはなっていた。組織の連中のトップならば別にわざわざこんな所に来る必要などない。どこの時代であれ研究所にでもいればいい話だ。

「…追放か?」

「具体的には消去の方が近いかもね。全てを無かったことにする、多分こっちの方が正しいかも」

「…シナ関係か」

「その通り。全ては支那美…いや、刈谷家全体が関わってる。その全ての始まりが初代って訳さ

そうだね、これは所謂

 

 

 

 

 

 

『刈谷家の呪い』

 

 

 

 

ってやつかもね」

「刈谷家の…呪い…」

確かにこれは呪いのようなものなのかもしれない。この輪廻の理もきっとその呪いの一つなのだろうか。

「話を戻すね。僕の大切なもの、それは考えるまでもなく君達だ。凄い脅しなもんだよね。君達を守れば君達は組織に殺される、そんなアホらしい事があってたまるかと思ったよ」

「…でもやりかねない」

「あぁ。それこそいつでも殺す気でいただろうさ。そしてその時この僕は思った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの二人を引き裂いた時、一体どんな絶望をするのかな、とね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

そうか…そもそもの大前提が間違っていたのか…!

「テメェ…別時間軸の影魔だな…!」

「大正解。少々こっちの世界の僕は抵抗が酷かったけど何とか黙らせることが出来たし正直自由に動き放題だったよ」

ならば…俺の知ってる影魔はもう…

「…殺す」

懐からダイナマイトを取り出した。

「…へぇ、そんなものどこで」

「入ってすぐ。なんか置いてあった」

「そんなものでどうするとでも?」

「お前は例え人間を凌駕した力があっても肉体は所詮人間だ。例えダイナマイトでさえも爆発に巻き込まれればただでは済まない」

「…それは直撃した場合だ。巻き込まれた程度じゃ死にはしない。それに君はそれでハッピーエンドを迎えられるとも思えない」

「そうだな、試してみようか?」

ダイナマイトに火をつける。導火線はジリジリと短くなっていった。

「…!?正気かよっ!」

影魔は逃げの一手を繰り出す。当たり前だ。死の危険を感じる目の前で悠々と突っ立ってるバカはどこにもいない。だから。

「よいしょお!」

ダイナマイトを逃げるであろう先に思いっきり投げる。どうやら予想は半ば的中していたようだ。

「クソっ…!」

だがあまり効果はないようだ。強いて言うなら環境破壊効果が見込めたくらいだろう。

「危ない…こんなもんいきなり投げつけるとはね…」

「俺はいつでも本気だぞ?それに本命はこれじゃない」

どうやら秘策は使わざるを得ないらしい。それでも爆発で殺せるとわかっただけでも儲けものだ。

「先生!もう大丈夫か!」

「あぁ!拘束も解いた!」

「…!いつの間に…!」

「なぁ影魔よ、お前は一つ大事な事を見逃してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつ、誰がハッピーエンドを望んだ?

 

 

 

 

 

 

「…な…に……?」

「俺が望むのはいつでもシナの存命であり幸せだ。それ以外はいらない」

…まぁ、これで終わりは寂しいといえば寂しいけど…仕方が無いよな。

「先生!行くぞ!」

「あぁ!」

先生は一枚の札を取り出し、構える。その札はいつぞやの不思議な出来事の時に貰った代物だ。そしてこの札の効力も本当のようだ。先生とシナの周りには肉眼でもわかる、結界が張られていた。

「さて影魔、終いだ」

「なっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如大きな爆発により耳をつんざかれる。

いや、その例えはもうおかしいか。

そもそも耳なんか使い物にもならなくなった。

それどころか身体全てが吹き飛んでいたのだから。

…せめてあと一度だけでも、シナと────

________________

「なぁ、話ってなんだよ」

「…俺は捨て身の一撃をする。だからお前にはやってほしいことがある」

「捨て身ってお前…」

「…本気だ。嘘はついていない」

「…プランは?」

「簡単だよ。あいつが出てきて交戦した時に思いっきりシナの方までぶっ飛ばされてくれ。そうしたらタイマンになるから奴と話を試みてみる」

「…どうやら計画内容もぶっ飛んでるらしいな」

「結構本気なんだがな…まぁ後は話してる隙にシナの拘束を解いてくれ。多分壁寄りで拘束されてるはずだから楽ではあると思う」

「そこまで分かるのか?」

「予想さ、ただのな。だがそれでもこれは必ず当たっているはずだ。それは自信を持って言える」

「…そうかい。それならなんも言わんよ」

「最後に合図を出す。その時にこの札を構えてくれ」

「これは…?」

「それを見た奴曰く、結界が張れるそうだ。異世界の住人が作ったものだしある程度なら耐えられると思う」

「具体的に何をするんだ?」

「…多分だけどガスはこの地下にあると踏んでいる。だからこそダイナマイトで床に穴を開けてそこから出てきたガスでドカンだ。部屋中に舞えばどこからでも殺害可能だ」

「…結界の効果範囲は?」

「多分使用者の周り」

「じゃあお前は…」

「…さぁ。多分死ぬかもな」

「死ぬって…」

「だけどこうでもしないと勝ち目がない。誰かがやるしかないんだ。俺がやるさ」

「でもお前が死んだら…!」

「んまぁそうね…シナのアフターケアはお願いするわ。教師やろ?」

「そういう問題じゃ…」

「……出来れば眠ったまま、このまま俺の存在は夢だと思わせたいのよ。俺は元よりここの住人じゃねぇから。見ていたのは全て夢だったんだって」

「…いいのか…?それでも…」

「後悔はないよ」

「………わかった。呑もう」

「…助かるわ」

________________

全てが終わった。

今までのは全て夢だったのではないか。

俺らは気が付くと車に乗り込み走行を開始していた。

「……こんなんで、よかったのか…」

悔やみきれないところは沢山あった。

だがそれも、全てあの男のせいで吹き飛んだ。

「…ん…?あれ……?」

後部座席からは少女の声が聞こえた。

「…起きたか」

「先…生?」

「あぁ俺だ。気分はどうだ?」

「…ちょっと身体は痛いですけど…大丈夫そうです」

「…そうか、よかった」

こんなんで怪我負わせてたらあいつにどやされちまうからな。

「…あの…隼人は…?」

「…………………」

「…え…?そんな………嘘、ですよね…?」

「……夢のまま、終わらせたかったんだとよ」

おっと、これは言わない方がよかったかもしれない。失敗失敗。

「…なん…で………」

少女は段々涙声となり、泣きじゃくっていた。

「…はぁ、何がアフターケアよろしくじゃ…お前がいてこそなのにな…」

俺は小声でそう零した。

________________

「……………」

「…ご飯、出来ましたよ」

「……いらない」

「と、言われましてもね。貴方ずっと引きこもってばかりじゃないですか」

「いらないったらいらないの!」

「…わかりましたよ。じゃあこっち置いとくんで食べたくなったら言ってください」

コスモスはゆっくりと扉を閉めた。

分かってる。コスモスに八つ当たりなんかしても隼人は帰って来ない事ぐらい。

だけど自分に言い聞かせても自制することが出来ない、それ程までに私は隼人の事が好きだったのだ。

「…どうして……」

隼人は私の為に自爆をしたらしい。あの御札を私に使った、と先生から聞いた。

納得など、行く訳もなかった。

隼人がいなければこんな世界なんている価値もない。

だけど命を捨てるということは隼人の命も無駄にする、という事だ。

この葛藤に駆られ私はいつまで経っても誰を許すことも出来ず、また自分自身を許せず、そして自殺をすることすら出来ないのだ。

こんなもの、ただの生地獄に過ぎない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、こんにちわ」

突如聞こえる声に驚き、振り向く。

そこには帽子を被った男が立っていた。

「貴方…どこから…」

「僕がどこから入ったかなんてどうでもいいじゃない。重要なのは僕が誰であるか、でしょ?」

それはその通りだ。侵入方法など聞いたところで対策なんてできない。実際リビングにはコスモスがいるから直接この部屋に入ってくるしかない。だがベランダの鍵は閉まりっぱだし音も立てていないようだ。そんなものの原理を聞くよりか正体を聞いた方が早い。

「僕は郵便屋と呼ばれている。いつ、どこで、いかなる世界や時空にも郵便物を届けるのが僕の仕事さ」

「…そんな郵便屋がなんの用?」

「いや何、お困り事でもあったのかと思って立ち寄らせてもらったのさ」

「…ないよ、別に」

「まぁ隼人君の事なのは分かりきっているんだがね」

どうやらこの男は私をいらつかせに来たらしい。

「で?どうするの?」

「…何が?」

「僕はさっきも言った通りどこにでも郵便物を届けられるって言ったろ?」

「それがなんだって…」

「別次元の隼人君に手紙が送れるってことだよ」

…!

「これをどう捉えるかは君次第だけど…どう?話理解した?」

「…ちょっと待ってて」

「はいはーい」

________________

「ふむふむ、こんなんでいいのかい?」

「…これしかないよ」

「そっか、まぁ君の自由意志だし僕に口出しは無用だ」

男はカバンに手紙を仕舞う。

「それじゃ、これは届けさせてもらうね」

「…すぐ届く?」

「まぁ時はいくらでも超えられるしすぐにでもって感じかな」

「そう…お願いね」

「はいよー無事届けるよ」

男はそう言ってどこかへと消えていった。

「…これも、輪廻の理として回り続けるのかな」

きっと、いや、これは分かりきっている。

この世界は失敗したのだ。

________________

このお手紙を見ているあなたへ

これを見ているということは無事にあなたの元へ届いたのでしょう

突然届いたこのお手紙、あなたはさぞかし困惑していると思います

私の名はきっと分からないと思うのであえて名乗りません

だけどこれから書く事を必ず守ってください

これを見た日、必ずあなたは家に真っ直ぐ帰ってください

例え気になるものがあったとしても、です

あなたはよからぬ事に巻き込まれ、必ず不幸になります

唐突なこの内容に信用出来ぬ部分も多々あることかと思います

ですが、全ての本当のことなのです

信じられないとは思います

ですが信じてもらう他ありません

あなたに、明日、これから先の未来もずっと健康で過ごせるよう願っています

親愛なるあなたの相棒より




これが果たしてハッピーエンドか、それは貴方次第です

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