「ごめん、おはよう」
ささっと着替えて寝室への扉を開ける。
「おうおはよう」
「おはようございます」
「え」
そこには隼人の他にもう1人女性がいた。
いや、女性と言うと語弊がある。
明確に言えば女型の機械だ。
「…どうして」
「落ち着けお嬢、こっちにも一応の理由はあるんだ」
「理由も何も無いよ!この子は私を殺したんだよ!?その子自身の手で!」
「だから落ち着けって言ってんの。俺だって最初は追い返そうとした。だけどこいつはお嬢が思ってる程機械的じゃない」
「何を言って…」
「利用されたんだよ。クソ野郎にな」
どういうこと…?だってこの子は…
…だけど隼人がこういうって事はそういうことなのだろうか。
邪悪な誰かに利用された、感情を宿すマシンというのだろうか。
「…わかった。話を聞かせて。それから」
冷静に考えてみればこの空間自体が自分の想像していたものと違う。
自分の想像が正しければ今頃は殺戮現場なのだから。
つまり、違うってことはそうなんだろう。
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「と、いうことで」
何とかお嬢に粗方話し終えた。
「まぁそういうことよ。こいつは操られてただけって話」
「あんまり信じられないんだけど…そもそもロボットって涙流すの?」
「いや普通は流さねぇけど。それに強化された時に感情機能は廃棄されたらしいし」
「ならなんで」
「多分こいつの感情が抗ったんじゃないかな。自らマスターの意向を無視して」
「そんなこと…」
「ありえなくはねぇな。俺らの時代には人工知能っつーものがある…ってたしかあれは1940年代からあったっけか」
「知ってる。パメラ・マコーダックが『神を人の手で作り上げたいという古代人の希望』って記したやつだったっけ」
「そうそう。ダートマス大学が1956年にキャンパスで開いた会議でAI研究の学問が確立したっていう…って今はどうでもいいな」
ついつい別の話をしてしまう。
「要はそれだ。最新鋭の人工知能搭載なら人間に反抗をしてもおかしくはない。いずれ世界を征服出来る、っていう御伽噺のような冗談にもならない話があるからな」
「…それって私たち結構不味くない?」
「多分その辺の知能は大丈夫だ。あいつ馬鹿そうだし」
「聞こえてますよ」
おっと失言。
「そちらの質疑に応答するならその答えはYESです。私は自分自身でマスターに逆らいました。だからその点も含めて『ゴミ』なんでしょうね」
「…」
「まぁ多分アップグレードの時から察せられていたとは思いますけど」
「なら何故貴方はその命令を聞いたの?」
「簡単ですよ。縋るものがないからです」
「…そういう事ね」
「貴女と同じです。支那美さん。隼人さんがいなければ何も出来ない、貴女と」
「おいてめぇ」
平然と毒をまくコスモス。
「いいよ…実際その通りだし」
その毒も素直に飲んでしまうお嬢。
「ですが、今は私も貴方も違う。私のマスターはもう隼人さんですし。貴方も変わったのでしょう?」
「それは…」
「あーもうこの話やめようそうしよう」
これ以上暗くなられても困るしこの話終わりで。
「てかお嬢ご飯の前にお風呂入りなさいな。汗か知らんが顔濡れてるぞ」
「あっ…これは…」
…?なんかよくわからんが何かあったのかな。
「そういえば魂の癒着とかそういう話してたんでしたよね」
「いつ聞いたんそれ」
「来る前にちょっと」
あいつ殺すか。
「それなら一緒にお風呂でも入ったらどうです?」
…ん?
「へ?」
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俺らだけじゃ入れるわけないって新婚ですか全く。
お二人が着替えると言うので私はリビングで待たされてるわけですが。
「やるなら早くしてくれませんかね」
「待てや、童貞にも心の準備というものがな」
「はいはい」
というか感情あるとはいえ腐ってもこっちは機械なんですが何を恥ずかしがる必要あるのやら…
「へぇ…なるほど」
あなたですか。
「そりゃあ皆さんも見れるわけですね」
どうするつもりです?
「…なるほど?」
つまり、見るだけですか。
「それでもいいのでは?」
そもそも全ての資料が揃っても分かるわけないですしねぇ。