夕日を見ながら、河川敷で子どもたちが白球を追いかけるのを見て、寂しさと過去の記憶が交錯する……、
野球があったから友達ができたし、何より小学生の頃は本当に楽しかった……野球というスポーツに出会えて本当に良かったと思っている。
私、川瀬涼子は野球の名門である横浜リトルで揉まれた実力と血の滲むような努力で男子に混じりながら中学の野球部でも、押しも押されぬエースピッチャーにまで上り詰めた。
しかし中学校の三年生になった今、将来の事を考えた時ふと不安な気持ちになってしまう。
「潮時かな……」
今まで私には野球しかなかった……。
でも高校野球において女は公式戦に出場する事ができないし、ましてやプロ野球選手になんて絶対なれることはない。
目標……目指すべき道を見つけられない私は人生の迷路に迷っていた。
「ん?……」
背中にコツンと小さな違和感を感じるが、一瞬でこれが野球のボールだと認識する。
「そこのお姉さん悪いけどボール取ってくれない?」
小柄な少年が私からの返球を待って両手を広げている。
「あぁ……うん……」
私は少年のグローブ目掛けて返球すると、彼の胸の辺りにキッチリと収まる。
少年は私の返球の制度に驚いたようで目をパチクリさせながら、こちらにやってくる。
「お姉さんいい球投げるね 」
「これでも中学でエースだからね」
「どうりで……壁当てだけだとつまんないし、せっかくだからキャッチボールでもしない?」
「いいわよ?」
そして少年と私のキャッチボールが始まる。
少年は大きく降りかぶって、一度胸の辺りで溜めを作り、そこで体重を乗せ、力を一気に解放。
細身な身体からは想像もできないようなスピードボールは私のグローブに吸い込まれるように収まるが、私の衝撃は収まらなかった。
「君、中学何年生!?」
「一年だけど?」
それにただ速いだけじゃない……まさに糸を引くようなキレのいい速球だ……。
しかも私が構えた場所に寸分の狂いもなく、制球されたボールを投げ続ける。
豪速球というよりは快速球で質のいい空振りが取れるストレート……。
こんなボールを中学一年生が投げているというのだから驚きだ。
「君、凄いよ!」
私の負けず嫌いが発揮され、ついつい本気で投げてしまう。
それにやっぱり野球は楽しい!
「お姉さんのボール男子顔負け てか野球相当好きでしょ? 」
「うん……でも野球辞めようかなって考えてる……」
「何で?」
「目標がないの……女はプロ野球選手にはなれないから……」
「別になれなくてもいいじゃん 目標は楽しく野球を続けるとかでいいんじゃない? お姉さんいい球放るしもったいと思うけどな」
「君、名前は?……」
「国見比呂」
「ありがとう国見君」
「お姉さんと高校で戦える事楽しみにしてるよ」
楽しく野球か……私は一番大事なことを忘れていたのかもしれない。
もう少し高校で野球を続けてみようかな……。