ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

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色々と考えたのですが、FGO編を分けさせてもらいました。

理由としては、前作はあれで完結なので、これ以上あの作品に話を付け加えたくないという作者のわがまま。あの作品はあれでお終いです。

不定期更新になること。

前作が、十話でキリが良いのと、文字数もちょうどいいこと。

そして、この話を一応独立した話として読んで貰えるようにです。

今作でも感想をお待ちしております。感想を下さると作者が大変喜びます。


プロローグ

なぁ、少しだけ話を聞いてくれないか?

 

ある一人の男の少しだけ頭の悪い話だ。

 

……あぁ、悪い。すまん、いきなり、嘘ついてしまった。

 

“少し”ではなく、“かなり”頭の悪い話だった。

 

おっと、この流れは幾分か昔に既にやったことが在った気がするな。もし、これを読むアンタがこの流れが二回目だったのなら、悪いことをしたな。許してくれ。ちーっとばかりこちらも混乱しているんだ。

 

あぁ、そうだそうだ、まずは何より話をしないといけなかったな。

 

そこまで時間は取らせるつもりはない。何と言ってもすぐに終わる話だからな、文章に表すなら三行にも満たない話だ。とりあえず、聞いて言ってくれ、

 

『ある日死んだと思ったら、中世フランスっぽい世界にいた』

 

どうだ、短いだろう? そして、言うまでも無く頭の非常に悪い話だ。

 

――あぁ、頭が悪いのは知っているって? それは悪かったな。

 

そこの病院に行けと言っているアンタ。それは紛うことなき正解だ。俺だって突然そんな話をされたら、そいつの頭の心配をした後に、しかるべき病院を紹介する。もしも、そいつが本当に死んでいるのなら、霊媒師だって呼んでやる。

 

そもそも、なんだ。中学生の妄想でももう少しまともな話が出来るってものだ。だって、先ず出だしが、“死んだ”と思ったらって何だよ? あれか、トラックに轢かれたらそこは異世界だったと言うノリか? そんな妄想与太話、ネットを漁れば幾らでも掃いて捨てるほどあるが、それを実際に言っている奴がいたとすれば、そいつは痛い奴か少しばかり精神を病んでいる奴に違いない。

 

もしも、周りに実際にそんなことを言っている人間がいるのなら、ソイツとは距離を置くことをお勧めする。

 

でもな、事実を端的に話すとこうなるのだからしょうがない。勿論、俺だって頭の悪い話だって分かっている。でも、それが事実だ。それ以外に話しようはないし、嘘は言っていない。

 

 

まぁ、もちろんここまで話したら分かると思うが、このある男って言うのは俺のことな。

 

だから、これは俺の体験談ということになる。

 

――えっと、それも知ってたって?

 

それは悪かったな。無駄な時間を取らせた。

 

閑話休題。

 

俺の今の状況を端的に表すと、『ある日死んだと思ったら、中世フランスっぽい世界にいた』となるんだ。

 

それさえ、分かって貰えればそれでいい。とりあえず、与太話の一つとして聞いてくれ。

 

それはあの日俺が森で目を覚ました時から始まる。

 

 

 

 

――気が付くとそこは森の中だった。

 

「――は?」

 

思わず声が漏れる。そりゃそうだ、目の前が真っ白になったと思えば、これだ。声が出るのも仕方がないだろう。

 

周囲に見えるのは木、木、木。

 

生ぬるい風が木々の間から吹きこみ俺の髪を撫でる。

 

自らの恰好を確認してみる。Tシャツに短パン。そして右手にはブラックコーヒーが入ったコンビニのビニール袋。試しに右手と左手を見てみる。右手、左手ともに十本の指がある。どこにも欠けている個所はない。そして大きさも申し分ない。小さくなっていると言うこともなかった。

 

それに足の指の感覚もある。どうやら全て元通りになっているらしかった。

 

――これは一体どういうことだ。俺は死んだ。あの日、あの時、あの場所で……確かに。

 

まさかまたどこかにタイムスリップでも……。

 

そこまで俺の考えが回った時、

 

――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

そんな叫びにも似た咆哮が上から降って来た。

 

――そうそう、さきほど言い忘れたことがあったな。

 

フランスっ“ぽい”と言う言葉の意味を伝え忘れていたな。ぽいと言うのは俺が知っているフランスとは違うからだ。まぁ、こう見えても色々な深い事情があって少しばかり、中世フランスには詳しいんだが、ここは俺が知っている中世フランスとは少しばかりことなる点がある。

 

ちなみにここがフランスだということはこれのすぐ後に街を訪れると分かることになるから、置いておいてくれ。

 

木々の隙間から見えるのは空を飛ぶ、大きな生き物。

 

大きな羽を羽ばたかせて飛ぶその姿は、どこか荒々しく、どこか神秘的だった。

 

強度な鱗が体を覆い、巨大で鋭利な爪を持つ、飛行物体。その様子はどこか爬虫類を思い浮かばせる。

 

そう、俺は知らない。

 

――ドラゴンが存在するフランスなんて……。

 

空を飛ぶドラゴンは一匹だけではなかった。ドラゴンに群れをつくる習性があるのか、それともたまたま同じ行動をしていたのか謎だが、空に浮かぶその姿は一匹だけではなく、数匹が同じ方向に飛んでいくのが目に見えた。

 

ドラゴンね……。

 

とりあえず、頬をつねっておく。……痛い。

 

いかん、落ち着け。手元にあるビニールからブラックコーヒーを取り出し、開けて一口。冷たく冷えたコーヒーは苦かった。

 

しかし、死んだ人間がこうしてまだ生きているのも、可笑しな話だが、ドラゴンがいるとなると、それ以上に可笑しなことが起きているように感じてならない。いや、そもそも俺が生きていること自体が間違えなのか、心臓が動く鼓動や、脈なんてものも確かに感じるが、そんな物は全部嘘っぱちで、ここはあの世なのかもしれない。

 

いや、むしろそっちの方がしっくりくる。あの世ならば、ドラゴンやら変な空想上の生き物がいても可笑しくはないだろう。

 

――にしても、あの世と言うのは、意外と地球に近いのな。

 

この木々を見ているとドンレミの村で見慣れた木々と同じに見えるし、吹く風も、運ばれて来る花の匂いも俺が知っているままだ。

 

――ここが天国か地獄かそれは知らんが、意外にあの世と言うのは俗っぽいのかもなぁ……。

 

そんな暢気な考えを俺が浮かべていた時だった。

 

「キャアアアアアアア!」

 

悲鳴が聞こえた。

 

聞こえて来た方角は先ほどドラゴンが飛んで行った方向。

 

悲鳴、ドラゴン。この二つのヒントから導き出される答えは――

 

「――急ぐか」

 

俺は悲鳴が聞こえた方角に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴の聞こえた先には町があった。白い城壁に囲まれた町は見慣れたフランスの町であり、もう見ることが出来ないと思っていたものだった。出来ることなら郷愁にかられたいのだが、どうやらそうする暇はなさそうだ。

 

町は所々で火の手が上がっていた。モクモクと青空に登る煙があちらこちらに見える。

 

そして空には数匹のドラゴン。そして、壁の外のここまで聞こえる悲鳴と戦闘音。

 

「――っ」

 

 

どうやら予想通りただ事では無いようだ。

 

幸いに空いていた門から中に入る。町の中は、酷い有様だった。崩壊した家屋もあれば、燃えている建物もある。どこからか銃声が聞こえ、叫び声と助けを求める声が上がっていた。

 

「だ、誰か助けて!」

 

そして、子供を抱え走る母親がこちらに走ってくるのが見えた。その後ろにはドラゴン。

 

「――くっ!」

 

慌てて、何か武器になるような物はないか探す。

 

――ええいもう、とりあえずこれだ。

 

丁度右手に持っていた缶コーヒーをドラゴンに向かってぶん投げる。一口しか飲んでいないため、まだ結構な質量をもったそれは、綺麗な放物線を描きながら、

 

「ギャオ!?」

 

――すっぽりとドラゴンの口の中に納まった。

 

自分でもびっくりするような、ナイスコントロールだ。

 

某コンビニで買った120円の有名銘柄の缶コーヒーがドラゴンさんのお口に合ったのか、それとも合わなかったのか、それはドラゴンの言葉を理解できない俺には分からない。それは分からなかったが、俺が投げた缶コーヒーによって――

 

ドラゴンと目が合う。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

――ドラゴンさんの標的が俺になったのは間違いないようだ。

 

ドラゴンは咆哮を上げると、翼を羽ばたかせこちらに接近してくる。そのスピードは速い。

 

俺に敵意が向いたのは嬉しいことだが、いかんせんこちらは丸腰だ。ドラゴンのあの鋭利な牙と、大きな爪が飾り物ならいいなら、そういうことはないだろう。

 

――とりあえず!

 

横にあった廃屋から適当に木の棒を引っ張り抜く。

 

そして一閃。

 

横振りの一閃はドラゴンの頭に当たる。

 

――ボキ。

 

え……?

 

嫌な音がした。恐る恐る見てみると、俺の即席の武器は根元からぽっきりと折れていた。

 

「……嘘だろ?」

 

流石ドラゴンさんだ。防御力もさすがのもので、木の棒程度では太刀打ちできないらしい。ドラゴンはひのきの棒では倒せない。一つ勉強になったな。これは俺の実体験なのでぜひ、これを読んでいる奴らも、ドラゴンと戦う時が来たら参考にしてほしい。

 

俺の攻撃何て蚊に刺された程度の痛みもないのか、ドラゴンは大きな口を開け、こちらに噛みつこうとする。

 

その動作は速い。

 

「――っち!」

 

しかし、目で追える範囲だ。戦場を飛んでくる矢よりも遅いし、数も多くない。

 

偶然の要素が強かったにしろ、あの地獄を何度も生き残って来た俺だ、この程度躱すのに苦労はしない。

 

噛みつかれる前に半身になり、ドラゴンの軌道上から避けると、躱すついでとばかりに右手を握り、上からその頭を叩いてみる。

 

棒で殴ると棒が折れたんだ。そんな防御力をもつドラゴンを殴った所でダメージは与えられるはずもないのだが、とりあえず、次の一撃を躱すための布石になればいい。

 

俺はそんなことを思っていたのだが……。

 

――ドコォッ!!

 

そんな鈍い音を上げてドラゴンが地面に沈む。地面はへこんでいた。

 

「……は?」

 

思わず口から声が漏れる。

 

眼下には目を回して伸びているドラゴンとその下にはひび割れた地面。

 

――どういうことだ?

 

 

ドラゴンが打撃に弱かった? ――いやいや、木の棒に殴ったのにピンピンしてたんだ。その可能性は薄い。

 

たまたま急所に当たった? ――その可能性はなくもないが、急所にあたって倒れたとしても地面がへこむか?

 

この二つが違うとなると……まさか。

 

「ギャオオオオオオオ!」

 

背後から聞こえる叫び声、後ろを向けばさらに一体のドラゴンが空にいた。

 

――考えるのは後か、とりあえず今はアイツを追い払うことが先決か。

 

ドラゴンと向き合う。仲間をやられて怒っているのかどうかは分からんが、ドラゴンは二、三回大きく羽ばたくと、大きく息を吸い込んだ。

 

――え? まさか火とか吐けるのか?

 

肺が大きく膨らみ、口元にチラチラと火の粉が見えればそれはもう間違いない。奴らは火を噴く。

 

そして火なんて噴かれた日には丸焦げになること間違いなしだ。いや、丸焦げなら一回なっているんだが、二度目は勘弁だ。基本的に一度も二度も一緒と言う考えで人生生きてきたが、丸焦げは違う。

 

俺がつぶれた廃屋の下に退避しようとした時だった。

 

――シュン。

 

そんな風切り音が聞こえてきたと思えば、空に浮かぶドラゴンの頭に一本の剣が刺さっていた。

 

そして、ドサリと乾いた音を立てながら地面に落ちるドラゴン。

 

「いや、隊長! さすがな投擲です!」

 

「だから、俺は隊長じゃなくて副隊長だって言ってんだろ」

 

「で、でも、隊長が一番上じゃないですか!」

 

「お前は入ったばかりで知らないかも知れないが、俺たちの隊長は一人しかいないんだよ。そして、それは俺じゃない。俺が隊長なんて恐れ多い」

 

「で、でも、その隊長は……」

 

「それよりも、ここで終わりか?」

 

「はい、ここで終わりです」

 

そんな会話が聞こえて来た。声の方角を向けば、二人の男がこちらに歩いてくるのが目に入った。

 

「黒目黒髪、そうだな隊長はそんな容姿だったよ……」

 

「有名ですもんね黒目黒髪の悪魔って」

 

歩いてくる二人の顔が徐々に見えてくる。

 

一人の男は、若い男。まだ少年と言っても良い位の見た目だった。

 

「生きてるか? アンタ、災難だったな」

 

そして、もう一人は……。スキンヘッドに、まるで睨み付けるような目つき。そして額からは一本の切り傷が鼻の横を通り頬まで伸びていた。どこからどう見ても真面じゃない。どうみてもその筋の人間だ。普段街中で見ても絶対に関わりたくない人だった。

 

――まさか……。

 

「――た、隊長!?」

 

俺が何か言うよりも先に向こうが大声を上げた。

 

そう彼こそが俺が隊長を務めていた隊の副隊長であり、戦場で最も長い付き合いがある男だった。

 

ドラゴンがいたかと思えば、生きているはずの部下もいる。そして、俺はあの時死んだはずなのに、未だこうして動いている。

 

色々とわけの分からない状況だが、一つだけはっきりと分かることがある。

 

――缶コーヒーもったいなかったなぁ……。

 

一口飲んでしまった分、そのショックは一入だった。

 


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