ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

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長くなったので分割投稿してみました。

でも、話の区切り上次の話と統合するやもしれません。した場合はごめんなさい。

十二月が師走とは言いますが、忙しいです本当に。更新の方はボチボチしていきますのでよろしくお願いします。

そして、感想もこのところ落ち着いて着たので、数が少なければそろそろ感想返しも再開しようかなとか思ったり、まぁこちらの方は時間があればの話ですが……。

プロット上では後、三四話で完結予定。分割しなければと言う前提でが入りますが……。こればっかりは文字数なので……。

最近めっきり寒くなりましたので皆さんもご自愛ください。


第九話

竜が飛び交う戦場を駆けるは黒髪の青年を先頭にした悪魔の軍、各自思い思いの得物を片手にある者は矢を放ち、ある者は槍を振り回し、またある者は西洋剣を一閃する。その勢いは落ちることなく、ただ軍団は敵の本拠地オルレアンに向かって足を進める。

 

しかし、それもやはりオルレアンに近づくにつれ多くなる竜により、そのスピードを徐々に落とすことになる。切っても切っても減らない竜にどこからか常に飛んでくるブレスに、急降下からの鋭い爪。そんな猛攻の中では進めるものも進めない。

 

――っち。

 

小さな舌打ちが漏れた。初めから分かってはいたがここまで竜の数が多いとやっかいだ。先ほどから殴って地に沈める行為を何度繰り返したか分からない。何度も何度も繰り返したのだが、それでも空に浮かぶ数は減ったように見えず、襲って来る火の息や鋭利な爪が減っているようには感じなかった。寧ろ、一歩足を進める度にその量は増えているようにも感じられた。

 

――こういう時はどうするべきか……

 

戦場は既に乱戦、俺たちの後ろに続くフランス正規軍そして、立香達カルデアのサーヴァント達も竜との戦闘は始まっており、あちこちで戦火が上がっていた。

 

「隊長!副隊長!」

 

色々な怒号が飛び交う中、俺と副隊長を呼ぶ声が聞こえた。

 

「この竜は我々が引き受けます。道を開きますので、隊長たちはオルレアンを、敵の本拠地を目指して下さい! お前ら、隊長たちの道を開くぞ! 埒が明かないなら、埒を明けろ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

そして響き渡る叫び声と怒号。

 

その声を聞きながら俺の横で剣を振るう副隊長と目を合わせる。

 

そして、どちらともなく同時に小さく頷く。

 

――信用に値する部下たちが引き受けると言ったんだ。それを疑う余地はない。

 

「お前ら、隊長からの命令だ! 道を開け! 竜の相手を務めよ! 悪魔の軍の底力見せてやれ!」

 

俺の叫び声に対して、

 

『『『『Oui, mon.sieur(了解しました)!!!』』』』

 

統一感のある返事を返した部下たちは得物を持つ手の動きを更に早めた。

 

――分かっている。あぁ、もちろん分かっている。

 

これだけの数がいる竜の足止めなんて、俺たちの隊の人数ではいくら彼らが強いとはいえ、厳しいことくらい。

 

でも、彼らは任せてほしいと言った。その言葉がどういう意味を持つのか分かっていないはずはない。戦場に誰よりも長くいた彼らなら誰よりもその意味を理解しているはずだ。

 

その彼らが任せてほしいと言ったのだ。彼らがそう言うのならそう言うことだろう。

 

「お前ら、戦場で最強は人間でも、竜でもなく、悪魔であることを見せつけてやれ!」

 

副隊長の声が飛び、竜の包囲網に薄いところが出来た。

 

「お前ら、命令は忘れるな!」

 

『『『『Oui, mon.sieur(了解しました)!!!』』』』

 

竜の間を縫うようにして、前に進む。後ろは振り返らない。それが俺に出来るせめてものことだった。

 

「隊長、副隊長、ご武運を……!」

 

背中に掛けられた声に応える変わりにその踏み出す足を強めた。

 

オルレアン最終決戦第一戦 悪魔の軍VSワイバーン 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体……」

 

竜の群れを抜けるとその先にはまた別の敵がいた。深紫の体色に何とも言えない化け物の様な体。見たこともないその化け物を形容するならば、ヒトデと蛸を混ぜ合わせたような奇妙な生物が群れを成していた。

 

「お待ちしておりましたよ。皆さん」

 

形容しがたい化け物のような生物の前に立つのは数日前に見た顔が一つ。

 

黒と言うには濁り過ぎた色の髪。そして、飛び出さんばかりに出っ張った瞳は濁った深淵をそのものを現していた。その瞳には狂気の二文字がありありと浮かんでいた。

 

彼はその手に分厚い本を持っていた。

 

「お前は……」

 

「またお会いできましたね。来ると思っていましたよ」

 

どこかで見た様な面影の残る顔で彼は笑う。それはそうだ。彼は俺たちがよく知る人物の未来の姿。かのオルレアン開放大戦でともに肩を並べ、ジャンヌの処刑騒動で力を貸してくれた大貴族、ジル・ド・レェ卿なのだから。

 

「しかし、聞いてはいましたが、本当にあの竜の群れをこれだけ早い時間で抜けてくるとは……。貴方の部下たちは、どうやら多少の神秘が宿っているらしい……。いや、貴方をよく見てみると、貴方よりも寧ろ宝具やサーヴァントに近いようですね」

 

憤怒と嫉妬が混じり合ったような声を出し、彼は笑う。その顔色に清廉潔白、純白の騎士と呼ばれたジル・ド・レェ卿の面影はどこにもなかった。純白の騎士ジル・ド・レェ卿とキャスターと呼ばれたジル・ド・レェ卿は救国の聖女ジャンヌと竜の魔女ジャンヌダルクオルタの関係性と同じだった。

 

キャスターはジル・ド・レェ卿であると同時にジル・ド・レェ卿ではない。

 

「何を言っているんだ……? 頭が狂ってんじゃねぇか?」

 

そんなキャスターに副隊長が言葉を吐き捨てる。

 

「狂っている……? 何を今さら……! それに、貴方は分からなくてもそこの隊長さんは分かっておられるようですがね!」

 

そして、また一つキャスターは高笑いを上げる。

 

――気に障る笑い方だ。

 

イラつく気持ちを抑えながら口を開く。

 

「それで、次はお前が俺たちの相手ということか?」

 

「えぇ、その通りです! このキャスター、ジル・ド・レェがお相手いたします! 聖女の前には誰一人として向かわせません!」

 

キャスターは狂った笑い声を上げると、

 

「さぁ、お前たち奴らを蹂躙するのだ!」

 

その叫び声とともにキャスターの周りにいた化け物がこちらに向かってくる。十中八九そうだとは思っていたが、あの蛸ともヒトデとも言い難い謎の化け物はキャスターの手下なようだった。

 

「とりあえず、奴らを抑えるぞ!」

 

「了解しました! 隊長!」

 

俺たちの役目は戦場を一番早く駆け抜けることだ。俺と副隊長だけではこの数はどうにもならないかもしれないが、フランス正規軍が来てくれれば、後はその後ろにいる俺たちの切り札、カルデアの立香達が来てくれれば状況はどうにでもなる。

 

最悪、カルデア組さえ、オルレアンに突入してくれればどうにかなるはずだ。

 

「全軍、突撃せよ!」

 

そんな時だった。ふいにそんな声が聞こえて来た。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

そして、俺たちの後ろから大量の足音と叫び声が聞こえてきたと思ったら、鈍色の鎧に身を包んだ兵士たちが大量の化け物とぶつかり合う。

 

「君には悪いが、アイツだけは私たちが相手しなければ気が済まないのでね。ここは譲って貰ってもいいか?」

 

そして、俺の横に現れたのは黒髪のフランス人。フランス人特有の白い肌に、フランス正規軍を示す鈍色の鎧。清廉潔白にして、純白の騎士、フランス正規軍総大将ジル・ド・レェ卿だ。

 

「お前ら、かの悪魔の軍はあの竜の軍勢を前に道を開いた! 悪魔ですら、道を開けたのだ! これが聖女の加護がある人間ならどうか? 道を開くだけではなく、奴らを滅ぼせるに違いない! 決して引くな! 決して恐れるな! 人間であるのならその生を捨てよ! 今こそ、聖女に恩を返えす時だと心得よ!」

 

『『『『『『『『Oui, mon.sieur(了解しました)!!!』』』』』

 

ジル・ド・レェ卿はそう号令を飛ばすと、

 

「道は開く、後は任せた」

 

こちらを見ずにそう口を開き、小さく微笑んだ。

 

「お前は! オマエはオマエはオマエは!!!!!」

 

「……今は何も語るべきことはない。とりあえず、死んでくれ!」

 

「どうして! どうして! どうして! どうしてッ!!!!!! オマエが私を否定する! 聖女の味方の私を! 聖女を裏切ったフランスに復讐する私を!」

 

「私にはお前が何を言っているのか、そしてどうしてそうなっているのか分からないし、理解しようとも思わない! ただ、敵として! 聖女の敵として死んでもらうまでだ!」

 

ジル・ド・レェ卿は剣を抜き、キャスターに向かって走り出す。既にキャスターの方はジル・ド・レェ卿にしか眼中にないらしく、俺たちの方には見向きもしない。

 

「ジル・ド・レェ卿、ここは任せました」

 

俺のその言葉に、

 

「あぁ、任せたまえ」

 

彼はそう言ってこちらも見ずに笑うのだった。

 

オルレアン最終決戦第二戦 フランス正規軍VS海魔 

              純白の騎士ジル・ド・レェVSキャスタージル・ド・レェ 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつはワイバーンの群れの奥からやって来た。漆黒の巨体に全てを飲み込む大きな口。絶望を体現したようなその巨体はゆっくりとワイバーンの群れを押しのけ地上に現れる。まるで、フランス軍尾最後尾を行く立香達が現れたことを予測していたかのようなタイミングだった。

 

その邪悪なる巨竜の名は――ファヴニール。

 

フランスを破壊する竜の群れの親玉であり、邪悪なる竜だった。

 

かの巨竜の前に一人の大男が立つ。白銀の長髪を風に靡かせ、右手には剣を持つ。その瞳には正義の二文字が見て取れた。誰がどう見ても彼は騎士だった。

 

「ここは俺に任せて、先に行ってほしい。ファヴニールの相手は俺にしか出来ないだろう」

 

後ろに立つ仲間たちに、彼は言う。

 

この竜を倒すことが自らの役目であり、このフランスに来た意味だと彼は理解していた。

 

彼の言葉に仲間は何か言いたげな様子だったのだが、彼の真剣な表情と、周りの大量のワイバーン相手に道を開くための戦闘をしている悪魔の軍を見て何も言えなくなったのか、各自思い思いに彼を励ますと、魔の軍が切り開いた道を走り去った。

 

――まさか、三度顔を合わせるとは……。

 

まるで予想もしていなかった展開だった。

 

「ファヴニール! 邪悪なる竜よ! 俺はここに居る! ジークフリートはここに居るぞ!」

 

その背中を見送ったあと、彼は――ジークフリートは巨竜に向かって名乗りを上げる。

 

「再び貴様を黄昏に叩き込む。我が正義、我が信念に誓って――!!」

 

思えば幾重もの壁を突き破りここまでたどり着いた。そして、こうして三度この邪竜と顔を合わることになった。

 

そして思う。あの時の勝利を思い出して、思う。

 

――あれは勝利して当然の戦いではなく、幾重の敗北からわずかな勝を拾い上げるような戦いだった。

 

「勝率は低い……。しかし、負けられないな」

 

自分を信じてくれた仲間の為にも、そして世界の為にも。

 

ジークフリートは騎士であるのと同時に正義の味方だった。

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

巨竜は宿敵を見つけると大きな口を開けて、降下してくる。

 

「慎重に策せ、大胆に動け、広い範囲で物事を見ろ、深く一点に集中しろ。海のように、空のように、光のように、闇のように、矛盾する二つの行動をとれ。さすればあの巨竜の首をとれるだろう」

 

その呟きは誰に対する言葉だったのか……。

 

今ここに三度目の決戦が始まる。

 

オルレアン最終決戦第三戦 ジークフリートVS邪竜ファヴニール 開戦

                 

 


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